同窓会ニュース

No.6 (2006年9月30日発行)


今年も東京学芸大学生物科同窓会の会報をお届けする季節になりました。今期、同窓会の会員数は2069人となりました。これからも、この大きな同胞の輪を、皆さんと大切に育ててまいりましょう。なお、今回も昨年同様に東京学芸大学全国同窓会「辟雍会」(へきようかい)とのタイアップで同窓会ニュースをお届けしています。

◆平成18年度生物科同窓会総会

 本年も昨年同様、生物科同窓会総会を大学企画による11月3日(金:文化の日)のホームカミングデーに行います。当日は学園祭である「小金井祭」の期間中です。この日、旧友を誘い母校を訪れてみませんか。

生物科同窓会「企画講演」のお知らせ

 例年好評をいただいている、企画公演会を今年も同窓会総会に先立ちおこないます。本年は東京学芸大学名誉教授で、現在は社団法人日本環境教育フォーラム会長を務められている北野日出男先生に、ご講演をしていただきます。今回のテーマは先生が調査・旅行で何度か訪れたボルネオの自然です。ボルネオには4000メートル級のキナバル山がある一方で、珊瑚礁の光り輝く海もあります。そんな南の島で、先生は雌には翅がないホタル、ピンポン玉位の大きさのダンゴムシ、手のひら大のウツボカズラなど、珍しい生物に出会ってきました。今回は現地で撮られた写真と共に、熱帯雨林の自然のすばらしさを熱く語っていただきます。

平成18年度生物科同窓会総会

 日時:平成18年11月3日(金:文化の日)

 13:00〜13:45 講演 「ボルネオの旅−調査と遊びの思い出」
          講師 北野日出男 先生

 13:45〜14:15 同窓会総会 議題:同窓会運営のあり方について

 場所:S310教室 東京学芸大学(南講義棟)3階


◆同窓会員からのお便り

 昨年の生物科同窓会総会で開催した、三田雅敏先生の講演には、20数名の参加者が集まりました。この講演について、同窓生の佐藤かお理さんに、内容と感想を寄せていただきました。また、今年傘寿の祝いをされた井上勤先生の研究室を卒業した山ア仁也さんからはエッセイを寄稿してもらいました。

平成17年度東京学芸大学生物科同窓会 企画講演の感想−「ヒトデ」に学ぶ−

平成17年11月5日、生物科同窓会の企画による三田雅敏先生の講演会が開催されました。講師の三田先生は、2月にご逝去された故高城忠教授の後任として10月から学芸大学に着任されました。

この日の講演テーマは「ヒトデの卵成熟とホルモン」でした。「ウニ」は食材として巷に出回っており、また高校や大学の実習などで学習しているため親近感があります。しかし、同じ棘皮動物といっても「ヒトデ」となると、正直私にとっては苦手な生き物であり、海や水族館に行かないと遭遇することがない、遠い存在の生き物であると感じていました。三田先生はウニを始め、私たちに比較的馴染みのある生き物をいろいろな場面で登場させることで、親しみやすく、そして非常にわかりやすくお話を進めてくださいました。

三田先生のお話の中で深く印象に残った事は、「卵が成熟する時期」についてです。ウニの場合、卵巣中の卵はすでに成熟が完了していますが、ヒトデの場合は未成熟であり、ウニを用いた発生の実験のように無理やり放卵させても受精させることができない、ということでした。多くの脊椎動物もヒトデと同様に卵巣内では未成熟であり、受精前、放卵時に成熟が完了します。さらに卵の成熟過程において、ヒトは生殖腺刺激ホルモンに(GTH)よって調節されていますが、ヒトデも同様にGSS(gonad-stimulating substance)という生殖巣刺激ホルモンによって調節されているとのことでした。三田先生もおっしゃっていましたが、ウニとヒトデでは、実はヒトデの方が卵形成においてヒトに近い生き物であったということを知り、とても驚きました。この卵の成熟過程において、ヒトとヒトデとの相違点はホルモンを分泌する場所です。ヒトの場合、GTHは脳下垂体から分泌されますが、ヒトデの場合は、神経から分泌されているそうです。ヒトデの卵巣は、脚の中心を走る放射神経を軸に1対ずつ存在しています。繁殖期になると神経からGSSが分泌し、それぞれの卵巣に作用するそうです。一般に中枢や末梢からの情報を伝導する組織として知られている「神経」が、ヒトデにおいてはホルモンを分泌する器官としても働いているという意外性に驚きを隠せませんでした。

合成GSSをヒトデに投与したお話も非常に印象的で面白いものでした。三田先生は、ヒトデの研究でも、特にイトマキヒトデを用いた研究を進められています。その研究過程において、イトマキヒトデのGSSを精製し、それが24アミノ酸からなるA鎖と19アミノ酸からなるB鎖のヘテロダイマーからなるものであることを明らかにされています。これらの物質を人工的に合成し投与した結果、A鎖とB鎖単独あるいはA鎖とB鎖の混合液では放卵がみられなかったにもかかわらず、SS結合を導入し人工的に合成したGSSを投与した時のみ放卵が起きたとのことでした。A鎖とB鎖がSS結合で結びついた分子構造だけがホルモンとしての活性を持つということにとても不思議を感じました。

この講演会を通じて、メジャーなものばかりに注目するだけではなく、比較的マイナーな生物にも目を向けていく大切さを学ぶことができました。そして、研究において一般的な概念にとらわれず、1つのものを様々な方向から観察、実験していく必要性を痛感しました。生物学において様々な分野の講演を聴きに行く機会があまりなく、自分の専門分野の知識ばかりに偏りがちであった私ですが、今回の発生学の講演会に出席させていただいたことで今まで知らなかった情報を沢山得る事ができ、とても勉強になりました。そして、私にとって苦手な生き物であったヒトデを、以前より少し親近感のわく生き物へとランクアップすることができたことにおいても非常に有意義な機会となりました。この場をお借りして三田雅敏先生ならびに企画していただいた方々にお礼を申し上げます。

佐藤かお理(54期・吉野研:平成18年卒)(総合研究大学院大学博士課程在学中)


我が青春のウミホタル

ウミホタルの青い光に魅了されて18年になる。千葉で教鞭を執った10年余は、常にウミホタルとともにあった。まさに私の青春である。5年前に沖縄に転勤してからも、授業でウミホタルを使いたいと思った。まずは生息場所を探さねばと思っていたところへ思わぬ朗報があった。「泡瀬干潟で遊ぶ会」という泡瀬干潟埋め立ての反対グループが泡瀬で夜の自然観察会をしているという。しかもテーマが「ウミホタル観察会」。喜び勇んで参加した。ところがである。皆がウミホタルだと思っていた青く光る生き物はヤコウチュウだった。ヤコウチュウとウミホタルは混同されやすいが、光の量が全く違うので、一度見ればたいてい区別できる。ましてや私は何百回と見ているので、絶対に見間違うことはない。きれいだきれいだといって喜ぶ人たちの中で、これは「ウミホタルではありませんよ」とも言いづらく、しばらく私はウミホタルはいないものかとうろうろしていた。観察指導員の方が近づいてきて「どうです、泡瀬のウミホタルは」と誇らしげである。「いやあ、これはヤコウチュウだと思いますよ」とやんわりと否定しておいた。伝言ゲームのようにウミホタルではないというのが伝播し、「えっ?」という顔で皆興ざめしている。さっきまであんなに喜んでいたのに。ヤコウチュウだってきれいなんだからいいじゃないと思いつつ、なんか悪いことをしたような気持ちだった。結局この日は1匹のウミホタルも見ることができなかった。ウミホタルではなかったことにもがっかりしたが、それ以上に、自然観察指導員でもウミホタルを知らないということは、沖縄にはほとんどウミホタルはいないのではないかという不安が疲労感を募らせた。これは自分で探すしかない。だが一人ではつまらない。科学同好会を立ち上げて、生徒とともに沖縄島沿岸を一周した。毎週末の楽しみになった。

前述の「遊ぶ会」の泡瀬の観察会にはその後もう一度参加した。前回同様、ヤコウチュウをウミホタルと偽って(?)紹介していた。ウミホタルではないことを知っているはずだから今度は確信犯である。さらに、ヤコウチュウを光らせるためにそこいら中を走り回って、藻を踏みつけていた。泡瀬干潟の埋め立てに反対するのは、貴重な藻場を守るためではなかったのか。「みんなが喜んでくれればそれでいいじゃないですか」と観察指導員は言っていたが、それならなおさらヤコウチュウはヤコウチュウでいいじゃないかと憤慨した。それ以来この会には参加していない。

最近ウミホタルルシフェリンは、生化学研究において有用性が高いらしい。タンパク質を標識して標的組織などを見つけるのに利用されているようだ。私の方は沖縄で大量に生息している場所を突き止め、定点調査をしながら、ウミホタルの生態解明または発光意義の解明に向け、生徒とともに細々と研究を続けている。今後も、ウミホタルはライフワークにしていきたい。

そう、私の青春はまだ終わっていないのである。

山ア 仁也(36期・井上勤研:昭和63年卒)


◆生物科紙面同窓会

さまざまな時代に、さまざなな同窓生が生まれ、さまざまな人生を歩んでいます。近況、回想、思いなど・・生物科同窓生の「今」の声をお届けします。


【8期】

●小生74歳になりましたが現在非常勤で創価大教育で1コマ、青森大学大学院環境科学研究科で環境原論16コマ(集中)を担当しています。他に力を入れているのは(社)日本環境教育フォーラムでの環境教育や自然学校の普及、支援活動です。教師志望の後輩に期待することは「進化」を軸として自然解説が出来る力をもっともっと養っておいて欲しいということです。皆さんのご健闘を祈ります。(H.K.:昭和35年卒)

●朝河貫一研究会で社交問題を勉強してきたが、昨夏、「朝河貫一を訪ねる入来の旅」に古川清朝河貫一博士顕彰協会会長以下43名と参加し、「研究会ニュース」58号に「旅に参加して」を、今春、「同窓会ニュース」60号に「朝河貫一と『入来文書』と私を書き、7月、「『入来文書』(和文)について−所蔵本調査からの一考察−」を研究会で報告、また、文化財害虫研究所の『財団法人設立50周年誌』に「史料の生物被害防除作業を回顧して」を書いた。(M.T.:昭和35年卒)


【9期】

●今年の高校野球(夏の大会)は久しぶりの感動がビンビン伝わってきました。私も大学1年の時に確か保体科を破って優勝したのを思い出しました。でも、大学2年の時は、家庭科との1回戦で負けて涙したことも思い出します。

小金井の大学の麦畑やヒバリの声、小川のあひるやホタルブクロの花、大きな自然に恵まれた校舎はいまどうなっているのでしょう。(Y.K.:昭和36年卒)


【10期】

●大学での思いでは、草深い兵舎で勉強したこと、それから生物の実習です。ウニの発生を下田の臨海実習所で初めて観た時の感激は忘れられません。また法師温泉のランプ宿から、三国峠へ植物観察に行ったことなど、自然に直接触れて学ぶ楽しさを教わったことです。パソコンで知識を広げることも必要ですが、自然の中の動物や植物との関わりあいから学ぶことができるように、良い環境を子どもたちに残したいですね。(Y.N.:昭和37年卒)

●五月に転居しました。サーフィンのできる太東海岸やつりのできる大原まで車で十分の前方を里山に囲まれた七軒集落の静かな所です。道の先は行き止まりなので地元の人しか通らない田んぼの中です。庭で野菜作りをしたり、ホタルの里、トンボ沼など近くには自然が豊かで時間もゆったりと過ぎていくようです。

都心へは車でも電車でも4〜5時間かかりますので、何かと失礼いたします。(T.M.:昭和37年卒)


【18期】

●同窓生の皆さんこんにちは。群馬の尾瀬入り口に暮らす小林です。最近は玉原を中心として武尊山周辺の自然を観ていますが、多雪地なのにクゲヌマランやニシキウツギが育成するなど、温暖化の影響が出ています。

ところで日生教学会第82回全国大会は学大会場ですね。懐かしい岡崎先生のお名前を拝見しました。大会成功を心よりお祈りいたします。(T.K.:昭和45年卒)

●ご無沙汰しております。

現在、都立両国高校、4月に開校した附属中学、分校(定時制課定)の三つをみております。

長年、高校生とつきあってきましたが、中学生から学ぶことや高校教育について考えさせられること多く、新鮮な刺激を受けております。

授業を持たなくなって10数年になりますので、生物の勉強は怠けておりますが、洋ラン栽培でストレス解消を図っております。(T.Y.:昭和45年卒)


【19期】

●昨年あたりからツマグロヒョウモンを自宅(渋谷区)の周囲で見かけるようになりました。この蝶は暖地系の種で、院生の頃、研究室の合宿で三宅島に行き、この蝶がさかんに海岸を飛ぶのを見、狂喜して追いかけたのも今は昔。学芸大構内でも簡単に採集できます。やはり、学生時代に九州に行き、採り損なったムラサキツバメ。昨年、勤務先(千葉市幕張)の廊下で越冬後の個体を拾いました。温暖化もここまでと驚いている昨今です。(K.H.:昭和46年卒)


【26期】

●一昨年より文教大学教育学部に籍を置いています。教育実習に行った学生が、思い掛けず同窓生の話を持ち帰り,あらためて母校を意識しています。仕事では、ここ10年来の区切りを間もなく迎えようとしています。私の大学の恩師である小林弘先生が亡くなられて10年、先生が情熱を燃やし,世界に冠たる珪藻図鑑を作ろうとして未完となった遺作を、研究室の仲間(南雲,真山,長田)と引き継ぎ、やっと世に送り出す運びになりました。(M.I.:昭和53年卒)

●本州最東端東経142°岩手県宮古市立千鶏小学校。児童30人教員8人の家族的な学校です。校長室から眼下に太平洋を望み、岩礁の上ではミサゴが子育てをし岬の赤松の枝ではハヤブサが羽を休めていきます。浜辺にはハマナスヤスカシユリが見事な花を咲かせています。子どもたちを自然の中に連れ出し、いわゆる山川教師をしています。また、自然コーナーを作りその時々の生き物を紹介しています。(K.H.:昭和53年卒)


【27期】

●現在中野にある東亜学園高等学校で働いております。長年生物を教えていますが、授業の折や、生物部の活動の中で学生の頃の思い出を話したりしております。また、研究室で実際に行っていた実験をクラブでも取り入れさせていただいてます。実際は学生の頃に戻ってもう一度勉強したいことがありますが、なかなか思うようになりません。(K.M.:昭和54年卒)


【28期】

●小学校で理科専科を続けて20数年がたちました。ばかのひとつ覚えで仮説実験授業を中心に授業をしていますが、これが少しも飽きません。むしろ、楽しみが増えている感じです。

世間では、○○科学教室などの催しに大勢の子供たちが集まっていて、「理科離れなんてうそだ」という方々もおられますが、ああいう集まりには元々理科好きの子供が参加するのですから、勘違いをしてはいけません。やはり、授業で理科好きのすそ野を広げることが、技術立国日本にとって重要だと思います。

堅い話になってしまいました。個人的には毎年健康診断でチェックが入って弱っています。(S.T.:昭和55年卒)


【37期】

●個別指導塾(補習塾)で教えて4年が経ちます。社会以外の4教科を教える何でも屋で重宝されています。(S.K.:平成元年卒)

●いつも案内を送っていただきありがとうございます。昨年は理科専科でしたが、今年は10年ぶりに2年生の担任です。かわいいのですが、宇宙人的で疲れます。東京で仕事をしていた時の先輩が、教職を辞め、保谷に串焼きのお店を始めました。私もそのうち行く予定ですが、よかったら行ってみて下さい。店名:炭火串焼き処保谷串こまち、17時〜23時、火曜定休、西部池袋線保谷駅北口、徒歩2分、TEL 042-424-0238、店主:太田正実です!(J.S.:平成元年卒)


【46期】

●皆様、ご無沙汰しております。私は結婚し、1児(男の子)の母をしています。 

今は復職しているのですが毎日仕事に家事に育児に追われ、へろへろですがなんとか頑張っています。 皆様のご活躍を心よりお祈りしています。(N.S.:平成10年卒)


◆真船和夫先生を偲んで

本年2月4日、東京学芸大学名誉教授の真船和夫先生が91歳でご逝去されました。先生は昭和21年8月26日に東京学芸大学の前身である東京第二師範に採用され、以来、昭和54年4月1日に学芸大を退官するまで生物学教室にて教育研究に携われました。ここに謹んで先生のご冥福をお祈りいたします。

真船和夫先生を悼む

              自然科学教育研究所 江川多喜雄 (7期・昭和34年卒)

わたしが、真船和夫先生に初めてお会いしたのは、大学2年(1956年)の秋です。全国教育系学生ゼミナール(全教ゼミ)に参加した時です。真船先生は、理科分科会の講師をなさっておられました。当時の学生たちの研究テーマは「理科教育のミニマムエッセンシャルズ」でした。教師になろうとする学生たちに、重要な、基礎的な学習内容を明らかにし、それをどう教えるかを研究することを指導なさっていたのです。

真船先生は1954年11月28日に設立された科学教育研究協議会(科教協)の創立者の一人です。この会の委員長制が誕生した時(1965年)には、初代委員長になられました。科教協は、「すべての国民に自然科学を」をかかげ、「理科では初歩的ではあるが自然科学の基礎的な事実・法則、概念を教えよう」と、研究・運動をすすめてきました。

真船先生は、日常的に研究活動を行うために、科教協設立後すぐに生物学教育研究サークルをそしきされました(1955年)。今日、全国の各地でサークル活動が行われていますが、その先駆けとなったのです。1958年4月には『理科の指導計画』(田中実・真船和夫編、国土社)を出版しました。これは「小学校教師諸氏が、理科の指導計画を立てる参考」にと編集されたものです。教師の授業実践記録に基づいて作られました。この本の「カリキュラムの作り方」の章で真船先生は次のように述べています。

「教育内容というものはあくまで客観的真理でなければならない。自然についての客観的真理は、人類の長年にわたる自然科学的研究によって得られたものであり、その真理を子どもたちのうちに定着させていくことなしには、生活の改善も文化の創造もよりよい社会を切り開いていくこともできない。したがって、理科の教育内容のもとは自然科学の中にあるとしなければならない」。

理科の教育内容は、自然科学の基礎的な事実・法則、概念であると主張し、その指導については、次のように述べています。

「"植物は水をやらないと育たない”という事実は、植物体内における水の生理作用を知っている者にとってはあたりまえの事実である。したがって、植物生理作用の専門書には、こうした事実はことあらためて書いていない。しかし、植物生理学の領域で水の生理作用を認識されていった過程では、このようなあたりまえの事実が確実に認識されることが必要だった段階があったはずである。小学校の理科では、まずこうした段階の事実の確認からはじめなければならない。そして、こうした事実を低次法則として概念化し、より高次な法則の認識へと発展するように教材を順序づけ指導するようにしなければならない」。

教育内容の系統性と子どもたちの認識の順次制を考えた指導にしなければならないというのです。こうした考え方で、全教ゼミの学生たちを指導・助言くださっていたのだと、この本を読んで思いました。これは、科教協の研究・実践の指針になってきました。植物は光合成をして生きているということから「植物の光とり競争」の学習がさかんに主張されたときがありました。これを、真船先生は厳しく批判しました。「光とり競争では、茎の長い植物が有利である。それなら、今後、茎の長い植物だけになってしまうか。そんなことはない。植物は、それぞれが生きられる場所で生きているのだ」という内容でした。わたしたちは、その後、「植物は自分で栄養を作って生きている」を基本概念にして、光合成、植物の葉・茎や根、多様な植物の存在を学び取る内容を明らかにし、それらをとらえるのに適した教材を選定する研究・実践を進めました。

真船先生は内容と教材を明確にすることを早くから主張されていました。これは、玉田泰太朗さんが中心になって研究され「到達目標と教材」というかたちで実現しました(『教科の到達目標と指導方法の研究・理科編』到達目標研究委員会編、日本標準、1976年)。わたしもこの研究会の一員でした。

その後も、真船先生は「国民のすべてが、自然科学の成果と方法」を享受できるようにしたいと、自然科学教育を広める活動を続けられました。また、子ども向けの科学の本の研究もなさって、科学読み物をいくつもお書きになりました。これらのいくつかは国語教科書の教材にもなっています。

真船和夫先生の遺志を引き継ぎ、「理科は自然科学を教える教科」となるように、研究・運動をつづけていきます。



真船和夫先生を偲ぶ会

平成19年2月10日(土)正午より、先生を偲ぶ会の開催を予定しています。詳細は下記までお問い合わせください。

自然科学教育研究所 江川多喜雄 TEL/FAX 03-3916-3213


◆大学での出来事

4年の間、毎日通った大学も、いざ卒業してしまうと、なかなか出向く機会がない方も多いのではないでしょうか。一万本もの木々が生い茂るキャンパスへ散歩がてら出かければ、心身ともにリフレッシュされること請け合いですし、大学で開催される公開講座に出かけて、新しい知の風に触れてみるのも一考に値するでしょう。

大学では生物分野関係の公開講座を毎年幾つか開催しています。本年度は8月に「生き物の不思議実体験」と銘打った講座が3日間行われました。

24日 花のスケッチ(講師:犀川政稔)
     DNAに親しむ(講師:飯田秀利、原田和雄、鳴坂義弘)

25日 ヒトデのホルモンと卵成熟(講師:三田雅俊)
   植物の抗酸化力に迫る!〜植物が作るポリフェノールパワー(講師:中西史) 

26日 水環境の変化に応じる生物多様性の変化(講 師:真山茂樹)
身近な環境の動物の多様性を探る(講師:狩野賢司、高森久樹)

参加者は都内はもとより、遠く愛知県から来た人も2名いました。年齢層は20代〜70代までさまざまで、人数は15人と少な目でしたが、その分アットホームな雰囲気で和やかに実験観察が行われました。参加者はお互い初対面の人ばかりでしたが、3日目には連絡先を交換し合うほどの仲になっていました。

また、来年1月には学内で、日本生物教育学会第82回全国大会が開催されます。この大会は創立50周年の記念大会で、6日には行動生態学者の長谷川真理子氏らを招き「21世紀・日本の生物教育」について公開シンポジウムが、また、8日は日本分類学会連合と共催で公開シンポジウム・ワークショップ「“生物の一生=生活環”の多様性を比較しよう」が行われます(共に参加費無料)。詳しくはホームページをご覧ください。 http://www.u-gakugei.ac.jp/~bioedu82/


◆近年の同窓生の就職状況

過去3年間の生物科同窓生の卒業後の動向をみると、教員になる率が下がり、大学院へ進学する者が増えています(平成15年度は37.8%、平成17年度は30%)。企業への就職は景気の好転も影響してか、わずかながら増加し、昨年度は19%となりました。一方、就職先を明かさない同窓生も少なからずいます。今日まで学芸大は教員養成の機関大学として、多くの教員を輩出してきましたし、生物科としては生き物のよくわかる教員を輩出してきました。今後、どのように変って行くのかを見守りたいと思います。


◆卒業論文発表会・修士論文審査会(公開)のお知らせ

本紙発行時点で、まだ日程が決っていませんが、例年通りですと卒業論文発表会は、来年2月上旬となり、修士論文審査会は、その翌週となります。

両会の日時は決定され次第、同窓会ホームページにてお知らせいたします。

 

◆岡崎惠視教授 退職記念講演・記念パーティのお知らせ

1967年に生物学科の助手として赴任され、1993に教授昇任、1996年4月からは、理科教育学科へ移籍された岡崎先生が、来年3月に退職されます。本学における在職期間は40年に及びます。その間、附属小金井中学校校長、国際教育センター長を務められ、また今日まで生物科の卒論もご指導されました。先生の記念講演(最終講義)は平成19年3月3日(土)14:00より本学で開催されます。また、退職記念パーティーが同日18:00〜20:00に国分寺駅ビル内L-サロン「飛鳥」で、岡崎研究室同窓会と理科教育学教室の共催で開催されます。詳細は岡崎研究室同窓生の方、旧古谷研究室同窓生の一部の方、及び関係者には本年末にご案内が届けられます。これに関するお問い合わせは、岡崎研究室までお寄せ下さい。

 

◆会費納入等のお願い

平成17年度〜20年度の会費2500円をまだ納入されていない方は、下記郵便振替口座をご利用ください。

   口座番号: 00170-1-21830  

   加入者名: 学芸大生物科同窓会

住所変更の際には、下記(庶務・会計)までご一報ください。  


今回の紙面同窓会では、平成20年度までの会費を納めていただいた8〜10、18〜20、26〜28、36〜38、46〜48期の皆さまに原稿依頼のはがきを送りました。来年は29、30、39、40、49〜55期の皆さまに原稿を依頼する予定です。たくさんの声をお待ちしております。