社会科地理学分野の特性を活かした道徳教材

 地理学は,自然環境・風土を基盤として展開する人間活動の場としての地域が,歴史・経済・社会・文化などの要素にいかに特徴づけられ,また他地域や世界といかに関係をもちつつ機能してきたのかを解明してきた.とくに地域生活とそれを規定する地域構成要素との関係は最も興味深い対象であり,厚い研究蓄積がある.地域の人はきわめて多様な希望をもち,時には希望の間で対立があり,地域はそれを調整し,さらに新たな地域を創造する枠組みを提示してきた.地域の人々は地域の創造に関わる権利があり,義務がある.地理学は地域生活の調整のための多様な枠組みを提示し,地域創造のための素材を提供する役割がある.
 本プロジェクトは,地理学研究の成果,いわゆる地理学の見方・考え方を活用し,中学校・道徳教育のプログラムと教材の開発を目的としている.
 中学校社会科の目標は,「公民としての基礎的教養を培い,国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことにあり,具体的には,「自由・権利と責任・義務との関係を正しく認識し,権利・義務の主体者として公正に判断しようとする態度や能力」を養うことが示されている( 中学校学習指導要領解説編,2008).中学校社会科は,人間の生き方に関する普遍的価値,あるいは個と地域・国家・世界とのかかわりに関する内容が包含され,今回のプロジェクトの対象である道徳教育の目標と重なり合っている.学習指導要領に示された「道徳」の学習内容のうち,「他の人とのかかわりに関すること」あるいは「集団や社会とのかかわりに関すること」に関して,中学校地理的分野における広義の地域学習における目標とも合致し,そこに地理学の成果を活用することが十分可能である.(2009報告書より)