小学校社会科に関する研究プロジェクト

 本書は,東京学芸大学で,初等教育教員養成課程における小学校の教科に関する科目「社会科研究」を担当した(東京学芸大学小学校社会科プロジェクトチーム)教員グループの4年間にわたる共同研究(最終年度テーマ「東京学芸大学2013年度重点研究・教員養成課程における『小学校社会科』学習プログラムと教材モデルの開発」)の成果である。
 共同研究は,小学校教員をめざす学生たちが,「小学校社会科」の授業を構想するうえで必要な基本事項と,その背景となる専門的知識や最新の研究成果を紹介することを目的としておこなわれた。
 小学校社会科に関する教員養成課程のテキストは,これまでも多数出版されてきた。しかし,それらのほとんどは,社会科教育学の研究者あるいは現職の教員らによるものであり,教育学関係の分野にも配慮するものであった。一方,私たちは,これらの成果を十分に尊重しつつも,小学校社会科を構成する人文科学・社会科学の諸分野(地理学,歴史学,政治学,哲学)の研究者が,共同して「社会科」の本質に迫ろうとした点に特徴がある。  そのさいの共通認識は,まず,「教育基本法」の前文「我々日本国民は,たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに,世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである」と,同じく「教育基本法」の「教育の目標」の「生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと」「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」をふまえ,民主的・文化的な日本国家・社会の発展と,世界平和と人類の福祉向上に貢献し,郷土(地域)・国家・他国・国際社会を視野に入れた平和と発展に,社会科の立場から寄与するというものであった。
 そして.『学習指導要領』(平成20年告示)の「社会」の「目標」の「社会生活についての理解を図り,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て,国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」との項目をふまえ,日本についての理解と,国際社会で生きるための公民的資質を養うことを重視した。すなわち,私たちは,社会科の最終目標を,平和で民主的な国家,社会,国際社会の主体・形成者として必要な知識と資質を備えた「地域市民・日本市民・地球市民」の育成と考えたのである。今日,グローバル化のもと,日本諸地域で生活・生産・公共性の変容が指摘される一方,世界諸地域で紛争が続き,地球規模で資源・環境問題が深刻化するなど,問題の多様化・複雑化が進んでいる。これらの諸問題を直接・間接に取り扱う「社会科」の意義・役割はますます大きくなっている。
 人文科学・社会科学の諸分野の成果の融合から「社会科」を考える,という私たちの試みが,地域・日本・世界の平和と発展を担う「地域市民・日本市民・地球市民」を育成する小学校「社会科」の学習プログラムと教材モデルの開発に寄与するところがあれば幸いである。
 2014年3月30日
研究代表者 大石 学(歴史学教室)