「現地主義」に基づくフィールドワークの応用地理教育的研究 (はしがき)

 中等教育現場における地理履修率の低下は,学校教育現場全体の地理教育力の低下を招いているとの指摘がある。地理学の領域では,これを課題として認識し,日本地理学会をはじめとする学会レベルでの検討がなされてきた。そして,「教員養成大学は少なくとも「地理J に付随して地域調査(フィールドワーク)を必修として課すべきJ との提言もなされている(秋本ほか, 2010)。また,伊藤(2012)は,小学校社会科の地域事象の教材化に求められる教師の力量を分析し,教師に地域観察力とフィールワーク技法があることに加え,教師自らのフィールドワークでの感動,授業実践における「現地主義」への転換が重要になることを指摘している。
 本学の地理学分野・地理学教室では,設立以来,「現地主義」を掲げ,フィールドワークに力点を置いた地理学教育を実践してきた。しかし,それは学生の地理学の習得させる際の教員側の教育方針としてきたものであって,直接的に「現地主義」に立つことのできる人材の育成を意識したものではなかった。教育のためのフィールドワークは,教員の個別の授業の中で実施され,学生が経験的に学ぶことを前提としてきたものであった。
「現地主義」に立つための力量とはどのようなものであるのかを検討するためには,まず,教員が教育上実施しているフィールドワークの内容について,教員相互の参照ができることが必要である。そこで本研究は,各教員が個別に実施してきたフィールドワーク(巡検, 地域調査)を対象とし,地理的見方・考え方を成立させる基本要素をそれぞれが明らかにする。また,談話会を開いて,どのような段階を経て「現地主義J に立てるようになるのかを検討した。
 代表 中村康子