行事

過去の合同ゼミナール

平成14年度東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科
合同ゼミナールについて

ワークショップ「学校教育と人間形成」

 共通テーマ設定趣旨について
 合同ゼミナールでは様々なプログラムが組まれているが、ワークショップはポスター発表と並んで、重要なプログラムの一つである。
 今回のテーマ選定にあたっては、事前の運営委員会において、参加した運営委員がどんなテーマについて話し合いたいか、それぞれ具体的にテーマを持ち寄るところからスタートした。「子どもの心の『あれ』」「学級崩壊」「学力論争」「環境倫理」「ジェンダー」「男女共同参画社会」・・・。様々なテーマが提案された。しかし、一見まったく異なるテーマのようであるが、これらは学校教育の本質である「人間形成」にかかわる問題である、という運営委員会の総意を得た。そこで、共通のメインテーマとして、「学校教育と人間形成」というテーマが決定した。「学校」というと、わが国の学校教育法第一条で定められている小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校、および幼稚園を指すことが多い。今回参加するメンバーの中には、研究テーマが様々であったり、必ずしもこれら「学校」を主たる研究対象としているわけではなかったりする者もいる。しかし、「学校」をめぐっては、地域と学校との連携、生涯学習施設としての学校、そして教師の専門性に基づく自由な学校経営を主体とした学校認可更新式の公立学校である「チャータースクール」の出現など、近年の学校教育研究は、その可能性を新たな方向に広げようとしている。つまり、「学校」という従来のスタイルそのものが揺らいでいる、ともいえる。その一方で、その「学校」でおこる様々な問題を一つの「教育問題」として片付けるのではなく、その問題の特異性(singularity)を見落としてはならない、と警鐘を鳴らす研究者もいる。これは、学校をめぐる様々な問題、例えば不登校やいじめ、学級崩壊など、結果として起こる現象には共通性があっても、その問題に至る背景、原因は様々であり、決して一般化して考える問題ではない、ということである。つまり、教育には共通性と特異性があり、それらを考慮することは教育研究において重要なことである、ということである。このような状況下で、普段様々な研究テーマを持ち、直接的に学校教育を研究フィールドとする者も、間接的にしかかかわらない者も、一つの場に集合して様々な視点から教育の理想を論ずることは、重要な意味があるといえる。基調報告では、以上のような共通テーマ成立経緯と分科会で議論する上で考慮すべき点が、報告者の実際の学校教育現場での体験をもとにしながら語られた。



 分科会の各テーマ

  上述の通り、事前の運営委員会において出されたテーマを以下の4つのテーマに絞って設定された。議論のポイントと分科会報告からそのポイントを以下に記す。(詳しい討議内容は、各班の書記による報告を参照して欲しい)

   
(1)

 子どもの「心」の教育
 本テーマでは、学級崩壊、いじめ、不適応等を含め、子供の心や内面的なものに焦点をあてて議論されるのを想定して設定された。例えば、不適応等のマイナス面だけを捉えるのではなく、それを通してその後の人間形成にどのような影響を与えるか、という視点から考えていくことを想定した。また、学校や教育の枠組みだけでなく、他の機関との連携等を含め、広い視点で捉えていくことも想定した。

<分科会報告から>
  • 幼児期からの「心の育ち」が重要
  • 親の休息、親に心の余裕がないことが問題
  • 子育ての質を向上させることが重要
  • 「子どもが悪い」のか「親が悪い」のか
  • 「教師は第2の親である」という考え方のゆらぎ
  • 教師の現場での指導力不足
  • 教師は、ひとりで問題を抱え込まない
  • 道徳の授業の効果が疑問
  • スクールカウンセラーの重要性

(2)


  「学力」問題と総合的な学習
 新学習指導要領による教科学習の内容や授業時数の削減等から学力低下が問題とされている。昨年から継続された本テーマは、どのような人間が21世紀に求められるか、という点を考慮に入れながら、総合的な学習との関連で「学力」とは何か根本的に捉え直し、「学力」問題の現状と今後の課題を検討することを想定して設定された。具体的には、マスコミ報道の検証や総合的な学習の実践等を通して考えていくことを想定した。

<分科会報告から>
  • そもそも、学力とは何か(テストの点が下がっても、PCスキルなど新しくできるようになったことも多い)。
  • 「学力」と「知力」と「生きる力」
  • 「学校知」のあり方
  • 「学力」を応用する力が必要である。
  • 「学習」と動機付け

(3)


 学校で行う環境教育
 学校教育における環境教育は、旧学習指導要領下においては、『環境教育指導資料』における明示などにより、学校教育全体で推進することが促進されてきた。そして、新学習指導要領では、「総合的な学習の時間」の一テーマとして「環境」が示され、さらなる発展が期待されている。本テーマでは特に、このような背景のもと、ゴミ問題や環境保護等を含め、「環境倫理」とは何か、子供たちの「環境倫理」はどのようにして身につくのか、またそのための教育活動の場として、学校ではどのように子供たちに「環境倫理」を伝えていくか議論することを想定した。

<分科会報告から>
  • そもそも「環境」とは何か
  • 「環境倫理」をどのようにとらえるか
  • 「教える」より「体験重視」
  • 参加型の学習活動が大切である
  • 教員の「環境認識」は十分といえるか

(4)


 学校における子どもの「社会化」
 学校は理念的に、子供たちの身分や階層等の帰属的な要因に関わりなく、対等で自由な存在として学習し成長する機会を提供する制度的空間であるが、子ども自身は貴族的諸要因や生活環境の影響から自由ではない。また、様々なハンディを抱えて学校にきている子どもも少なくない。学校は子どもを社会化していることを踏まえた上で、多文化共生社会における子どもの「社会化」について議論することを想定して本テーマは設定された。例としては、「ヒデゥンカリキュラム」、ジェンダーの諸問題、共生等を考えていくことを想定した。

<分科会報告から>
  • 子どもの「社会化」をどう捉えるか。そこから、学校を見つめなおす。
  • 多様性や新自由主義フリースクール(差異を認めない教育と対極にある)
  • 社会の諸問題の影響
  • そもそも日本社会の目指す方向があいまい
  • 責任をとりたくない子の増加
  • 家庭、地域の社会教育力が低下


 ワークショップ全体を総括して

 基調報告の後、全部で8つの班に分かれ議論した。各班とも、活発な討論が展開されたようである。そこでは、まさに「連合学校教育学研究科」の「連合」のもつ意味が十分に発揮されたようで、事前の期待通り、様々なこれまでの経験、研究所産をもとに議論が展開された。
 全体を通して総括するなら述べるなら、一つ残念であったことをあったことを指摘しなければならない。ワークショップは、2日目の午前中に予定されていたが、分科会の討論が非常に活発になり、全体会の時間が少なくなってしまった、ということである。個別の討論も重要であるが、やはり全員集まっての討論の時間は、本来の合同ゼミナールの目的から考えるならば、確実に保証されなければならない時間であると思う。来年は、今年の反省を考慮し、十分な討論が行えるよう、プログラムの変更も含めて検討されたい。
 また、非常に有意義なワークショップであったと思うが、これでイベント的に終了してしまったのではもったいない気がする。このようなワークショップの機会が、合同ゼミナールだけでなく別の機会にも設定されれば、本来の「連合学校教育学研究科」のメリットを十分に発揮できるのではないだろうか。今後の検討を期待する。

平成14年度の日程について


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