行事

過去の合同ゼミナール

平成15年度東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科
合同ゼミナールについて

ワークショップ「学校教育と教科」

 

生活・技術系教育講座 木下龍

 

はじめに
 第8回合同ゼミナール2日目のメイン企画として,ワークショップ「学校教育と教科」を開催した。
 本研究科の合同ゼミナールにおいてこのようなワークショップを開くようになったのは,第3回合同ゼミナール以降においてであった。それまではシンポジウムを開催していたけれども,討論への参加者がどうしても偏ってしまったため,全員の参加しやすいワークショップを開催するようになった。農学や獣医学系の連合大学院の合同ゼミナールの多くは,学生が合宿をしながら数名の先生による講義を受けることが基本になっていると聞く。そうした状況と比較するならば,主指導教官をはじめとする所属教官と院生とが一堂に会して交流できるこのワークショップの設置は,本研究科の特色の1つともいえる。
 合同ゼミナール運営委員会では,各講座の代表者が運営委員として集い,各自がそれぞれ具体的なテーマ案を持ち寄り,ワークショップのメインテーマとサブテーマについて検討してきた。その結果,次ぎのようなメインテーマとサブテーマを設定した。



 メインテーマとその設定主旨

 合同ゼミナール運営委員会は,ワークショップのメインテーマを,「学校教育と教科」に決定した。その設定主旨は,以下の通りである。
 学校での教育活動は,教科の指導を行なう教科課程と,学級活動やクラブ活動,学校行事などを指導する教科外課程から構成される。しかしやはり教科課程が,学校教育の中核として機能してきた。
 教科とは,学校で教授される知識・技術などの教育内容をそれらの内容の特質に応じて区分し,系統化・組織化したものであり,教科課程の主たる任務は,それらの認識や技能の形成であるとされる。それぞれの教科は,一方では,科学・技術・芸術等を基礎とする諸教科の集まりであり,教科相互の関係は必ずしも論理的集合となっているとはいえない状況があるけれども,他方では,固有の価値と独自的機能をもち諸教科間での一種の関連があって教科構造を構成してきた。
 1990年代以降,「学校のスリム化」が教育改革の主要な目標となってきた。それは,2002年度からの学校週5日制の完全実施に伴う教育内容の「厳選」や学校・家庭・地域社会での教育に対する役割の明確化と連携の強化に加えて,教科の再編・統合を含む教育課程の抜本的改革をもめざすものであった。現在もその作業は文部科学省内で進行中であるとされる。また,1998・99年の学習指導要領改定によって,従来の各教科,道徳および特別活動に加えて「総合的な学習の時間」が設けられた。今次の改定は,学校週5日制の完全実施に対応するために行われたものであるとされる。しかし,教科内容と授業時数の大幅削減に加えて,個別教科の枠にとらわれない「総合的な学習の時間」が新らたに設置されたことは,既存の各教科のあり方の問い直しを迫っている。
 こうした今日の諸問題は,私たちがそれぞれ進めている研究に対して多くを問いかけている。なぜなら,私たちが学ぶ本研究科は,「広域科学としての教科教育学」の創造・発展を図り,この新しい科学の研究者の育成と,それを通じての今日の学校教育が抱えている課題の解決をめざす研究・教育を行うことを目的としているからである。
 こうした立場から,今回の合同ゼミナールでは,ワークショップのメインテーマに「学校教育と教科」を設定した。講座の枠を越えてさまざまな側面から「学校教育と教科」について率直に語り発表するなかで,自らの研究課題を本研究科の目的との関連で位置づける機会になればと考えた。

 


 討論する具体的なサブテーマ

 メインテーマのもとに,以下の4つの討論すべき具体的なサブテーマを設定した。

   
(1)

 教科における基礎・基本
 1998・99年度の学習指導要領改定により,各教科の年間授業数が大幅に削減された。この変化にともない重要な課題となるのは,各教科における教育内容である。各教科とも,少ない授業時数に迫られて学習内容を「厳選」しなければならない。子どもの諸能力の基礎となる知識の理解をいかに保障していくのかが教科指導の課題である。改めて各教科における「基礎・基本」を考える。


(2)


 教科における学びの補償
 子どもの「荒れ」や学級崩壊,不登校・いじめに加え,通常学級に在籍する障害児やLD(学習障害)児・ADHD(注意欠陥多動障害)児など特別な教育的ニーズをもつ子ども,虐待,家庭崩壊・親の養育困難などの養護問題といった,様々な困難を抱える子どもへの支援が課題とされている。公教育としての教科指導において,こうした子どもをいかに把握し,その学びをいかに補償できるであろうか。教科における学びの補償について考える。


(3)


 教科再編の是非
 教育内容の問い直しが,教科のあり方や教科の構成を見つめ直す契機となっている。1990年代の前半には,研究開発学校を中心に教科の統合・再編を図る動きが展開された。例えば,福島大学教育学部附属小学校における教科構成の見直しによる新教科「人間科」や「地球科」等の開発,宮城教育大学附属中学校における「芸術科」「生活文化科」「スポーツ科」等がある。こうした教科再編に,いかなる可能性を見出すことができるのであろうか。教科再編の是非を問う。


(4)


 教科指導における教師の役割
 1998・99年度改定の学習指導要領によって,子どもの主体的な学習・活動を重視する「総合的な学習の時間」が登場した。それにともない,教師は教え込むのではなく,「支援者」であるべきとの認識が広がりつつある。こうした状況において,教師による子どもの学習をリードするような知識や技能の伝達方法や方向づけが重要になる。知識や技能を獲得させるべき各教科における教科指導のあり方,そして教科指導における教師の役割について考える。



 実施方法

 次のような実施方法をとった。

 
1) グループ編成
 合同ゼミナール第1日目に,各サブテーマへの参加希望を聞き,それをもとにして,4つのサブテーマごとに2グループ,合計8グループを編成した。グループ編成の際には,教員を含め講座横断・学年横断(多様な見解等)を基本におこなわれた。各グループでは,司会,書記,全体会での発表者などの役割分担がなされた。
 グループ構成は以下の通りであった(敬称略)。
(1)

 教科における基礎・基本

   第1グループ: 清野辰彦,山口政之,田艶,中島剛,石井麻衣,福岡敏行(教官),加藤富美子(教官)
   第2グループ: 田中洋子,奥西麻由子,小川哲男,赤木恭子,本田貴侶(教官)
(2)  教科における学びの補償
   第3グループ: 河合隆平,猪狩恵美子,佐藤寛之,立松英子,山田裕子,小池敏英(教官),森本信也(教官)
   第4グループ: 坂本将基,相磯友子,三宅紀子,安藤美華代,籐後悦子,小林芳文(教官)
(3)  教科再編の是非
   第5グループ: 木下龍,藤井由布子,小川義和,鈴木隆弘,古田悦造(教官)
   第6グループ: 斉藤久美,葛西志保子,李賢眞,岩本泰,呉順瑛,田中喜美(教官)
(4)  教科指導における教師の役割
   第7グループ: 石川裕司,鈴木直樹,松本晴子,木村恵,佐藤千瀬,木村茂光(教官)
   第8グループ: 松崎愛,平舘善明,五島正光,川村有美,宮下治,藤巻公裕(教官),落合優(教官)
 
2)進行方法
 (1)まず合同ゼミナール運営委員会の代表者が,15分程度でメインテーマとその設定主旨について説明し,(2)その後グループごとに別れ,役割分担を決定し,2時間程度でサブテーマについて討論した。(3)まとめとして,各グループでの討論の内容を,1グループ5分間程度で全体会において発表し,若干の討議をおこなった。詳細については分科会報告を参照されたい。

平成15年度の日程について


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