人前での過剰な緊張について

 

【人前で過度に緊張するAさん】

Aさんはもともと内気な方でしたが、高校時代まではそれでも特別こまったと感じることはありませんでした。高校卒業後は教員をめざして大学に進学しました。

大学入学後、人前で話をしたり食事をしたりすることが苦痛に感じるようになりました。人づきあいが嫌いなわけではないのですが、学食で一緒に食事をすることを避けるようになってしまい、友人関係も疎遠となっていきました。さらに最近では授業でも指名されて発表をしたりする機会があると緊張して赤面し、手が震え、汗がひどくなってしまい、人前で恥ずかしい思いをするのではないかと感じて出席することがしだいに億劫となりました。さらに今後、教育実習で人前にたって授業をするなどということを考えるととても不安でたまらず、いっそのことこのまま大学は辞めてしまいたいと考えるようになりました。

 

人前で発表する、注目をあびるという体験はだれでも多かれ少なかれ緊張をともなうものですが、その不安緊張感が過剰となり社会生活に多大な影響が出てくる場合があります。冒頭にあげたAさんの場合はそれにあたると考えられます。

また人によっては不安緊張感そのものというよりも、それにともなう、「赤面する」「手が震えてしまう」「大量の汗をかいてしまう」「吐いてしまうのではないか」といったことに対して困っているということもあります。

このように社交的な場面、対人的な場面での過剰な不安感、緊張感をともなう不安障害のひとつに社交不安障害といわれるものがあります。(社会不安障害、社交恐怖、社会恐怖ともよばれます。Social Anxiety Disorder あるいはSocial Phobiaとよばれるものの訳です。また、Social Anxiety Disorderの頭文字をとってSADとよばれることもあります。)

 

WHOが定めている『ICD-10精神および行動の障害』では社交不安障害については以下のようにまとめられています。

『社会恐怖は青年期に好発し、比較的少人数の集団内で他の人々から注視される恐れを中核とし、社会状況を回避するようになる。他のほとんどの恐怖と異なり、社会恐怖は男女同じ程度に見られる。これらは、限定していることも(すなわち、人前での食事、あるいは人前での発言、あるいは異性と出会うこと)、あるいは拡散して家族以外のほとんどすべての社会状況を含んでいることもある。人前での嘔吐の恐れが重要なこともある。ある文化内では直接目と目が合うことが特にストレスとなることがある。社会恐怖は通常、低い自己評価と批判されることに対する恐れと関連している。赤面、手の振戦、嘔気、あるいは尿意頻回を訴えとすることもあり、時として自分の不安の二次的な発現のひとつにすぎないものを、一次的な問題と確信している。症状はパニック発作へ発展する可能性がある。回避はしばしば顕著であり、極端な場合はほとんど完全な社会的孤立にいたることがある。』

 

日本では昔から「対人恐怖症」とよばれてきた病態があり、おそらく皆さんはこちらの方が聞き慣れているかもしれません。かつては日本という文化や地域性に特有な病態と考えられており、ICD-10 の中でも「文化特異性障害」のひとつの「taijin kyofusyo」として記載されております。その後、同じような症状で悩んでいる人は必ずしも日本にかぎったことではないことがわかってきており、現在では社交不安障害と重なる部分が多い病態と考えられております。

 

人前での過度な不安緊張感をもつことを多くの人は「性格の問題」と考えていることが多く自分なりの対処で努力や工夫をしていますが、なかなかうまく抜け出せず自信喪失におちいってしまっていることも少なくありません。

状態によってはカウンセリングや薬物療法が有効なこともありますので、自分なりに不安や緊張に対しての努力や工夫をしてもなかなかうまくいっていない場合は、当センターや精神科・心療内科等の医療機関に相談してみるとよいかもしれません。

 

 

最後に社交不安障害の臨床症状の評価尺度であるLiebowits Social Anxiety Scale日本語版(LSASJ)の項目を参考に挙げておきます。ただし、思い当たることが多く苦痛を感じている場合は、自己判断だけにたよらずにかならず専門家に相談してみてください。

 

1.            人前で電話をかける

2.            少人数のグループ活動に参加する

3.            公共の場所で食事をする

4.            人と一緒に公共の場所でお酒(飲み物)を飲む

5.            権威ある人と話をする

6.            観衆の前で何か行為をしたり話をしたりする

7.            パーティーに行く

8.            人に姿を見られながら仕事(勉強)をする

9.            人に見られながら字を書く

10.       あまりよく知らない人に電話をする

11.       あまりよく知らない人達と話し合う

12.       まったく初対面の人と話し合う

13.       公衆トイレで用をたす

14.       他の人たちが着席して待っている部屋に入っていく

15.       人々の注目を浴びる

16.       会議で意見をいう

17.       試験を受ける

18.       あまりよく知らない人に不賛成であるという

19.       あまりよく知らない人と目をあわせる

20.       仲間の前で報告をする

21.       誰かを誘おうとする

22.       店に品物を返品する

23.       パーティーを主催する

24.       強引なセールスマンの誘いに抵抗する

 

参考文献

1.        ICD10 精神および行動の障害 臨床記述とガイドライン 融道男,中根允文,小宮山実

2.        対人恐怖と社会不安障害 笠原敏彦

3.        Liebowitz Social Anxiety Scale 日本語版 朝倉聡,小山司

 

 

                      保健管理センター 道明智徳




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