あるがまま…  〜森田療法的アプローチ〜


保健管理センター  浅香 真知子

 

人間関係がうまくいかない。つまらないことでクヨクヨする。ささいな身体の不調におびえる。ストレスがたまる。・・・このような神経症(≒不安障害)を治療する精神療法の一つとして「森田療法」というものがあります。

【森田療法とは】1919年に我が国の精神科医、森田正馬によって創始された神経症に対する精神療法です。その特徴は、神経症が、その人の神経質性格(内向的、自己内省的、心配性、小心、敏感、完全主義的性格等)を基盤に特有の心理的メカニズムで発症すると考えたことです。その心理的メカニズムとは精神交互作用であり、思想の矛盾といわれる不可能を可能にしようとする心の葛藤であると説明したのです。そのような背景のある神経症の治療とは、「あるがまま」とよばれる態度であり、不安や症状を排除するはからいをやめ、そのままにしておく態度を養うことです。

そのために、不安を抱えながらも生活の中で、必要なこと(なすべきこと)から行動し、建設的に生きるということを教え、実践させる治療方法です。つまり、「あるがまま」という心を育てることによって神経症をのりこえていくのが森田療法の主眼です。したがって、生き方の再教育とも呼ぶべきものでしょう。(公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団HPより)

 

今から100年近く前、皆さんのおじいさん、おばあさんよりもずっと前に生まれた日本独自の精神療法です。戦前の軍国主義時代と現代の日本人では、その精神性は大きく異なり、はたして、実際そのような考え方が今の世の中で通用するのだろうか、と思われるでしょう。ところが、この森田療法はここにきて大きく見直されているのです。メンタル不調者のリワークプログラム、育児ストレスや妊産婦のうつ、不登校・ひきこもり等々…現代社会を反映するような病態からの回復のアプローチとして応用されています。また、国際的にも評価がなされ、その本質は普遍的であり、微細な部分を時代や文化に応じたものに変化させていけば、その適応は広く、実際に効果が得られているとのことです。

 

今回、皆さんにご紹介したいのは、この森田療法の「あるがまま」という考え方です。大学時代は、自分がどういう人間で何をしたいのか、何ができるのかを自問自答する時期です。これまでの自分自身の育ちを振り返り、家族との関係や、心的外傷(トラウマ)に悩み、同世代の人間関係のなかで他者と比較し違和感を覚えたり、劣等感にとらわれることもあるでしょう。この時期に十分自己探索をすることがその後の充実した人生につながるわけですが、この葛藤にどっぷり浸かりきって身動きが取れず苦しくなるケースもあります。眠れない、胃腸の具合が悪い、動悸がする、過呼吸になる等の身体不調が続いたり、抑うつ気分、意欲低下、パニック発作等の精神症状にあらわれることもあります。真面目で純粋な性格の人、古来の日本人らしい気質の人にその傾向は強いので、きっと、苦しんでいる学生の皆さんもいると思います。

 

ここで「あるがまま」をやってみましょう。

例えば、「つらいし、しんどいし、何もしたくない」、でも、とりあえず「ごはんたべよう」「学校に行ってみよう」という行動にうつしてみるのです。理想の自分じゃないし、具合の悪さもあるけれど、でも、そのままに『あるがまま』に受け入れて動いてみよう。悩み事には答えがでないし、考えるとつらいけど、その考えを払拭しようという「はからい」をせずに、そのままの自分でいいのです。可もない、不可もない自分として『あるがまま』に生きてみましょう。

 

この考え方は、精神医学の治療法という位置づけばかりではなく、哲学的であり、ひとつの人生観という側面もあります。とくに、多感で吸収力のある青年期に、この森田療法的アプローチで、現代社会を生き抜く力・自分で自分を支える力をつけることができたら、それこそ人生の糧になります。

 

かつて、東京帝国大学の医学生であった森田青年が自らの苦悶・葛藤のなかから編み出した『あるがまま』の精神を、90年の時を経て、現代に生きる学生の皆さんが感じとり、強い力として蓄えてほしいです。









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