国内巡検の報告 ヨーロッパ地誌ゼミでは例年,数回の国内巡検を実施しています.
地理学では,野外での調査活動であるフィールドワークが重視されます.
そのため地域についての知識を増やすためだけではなく,
聞き取り調査や景観観察のためのノウハウにも精通でき,
卒業論文作成に役立つような巡検になることもめざしています.

2012年度 秋巡検(12/10/15) 『大田区の工業・住宅地域の景観を観察する』

下丸子の工場地帯  羽田空港に集合し,2010年に完成した国際線ターミナルを見学. 23区内という立地の良さから拡大・再国際化する空港の歴史や将来の展望と問題点を考えました. つぎに移動した蒲田において大田区の中心地としての機能を確認し,大田区民ホール付近では, かつてこの地にあった映画撮影所のにぎわいに思いをはせました.
 さらに,東急多摩川線に乗って住工混在地域の下丸子へ.住宅地に点在する中小工場や大規模工場, そして工場跡地に建てられたタワーマンション群を見ながら,変わりゆく市街地について考えました. 最後に田園調布に向かい,田園都市計画による整然とした街並みを歩きながら,大田区の多様な住宅地の特徴をまとめました. なお,付近を走る国分寺崖線では,学芸大近くから連続する地形を確認しました.

2012年度 春巡検(12/05/04) 『国分寺崖線の景観を観察する』

国分寺あたり  あいにくの雨の中,まず国分寺駅南口の都立殿が谷戸公園を訪ね,園内を歩きながら崖線の特徴を観察しました. そのあと国分寺駅に戻り,国分寺駅が意外に複雑な歴史をたどってきたことを確認しつつ,再び崖線に向かって進み,お鷹の道・真姿の池へ. さすが名水百選というだけあって,うっそうとした森の中は東京とは思えない静けさ. その風情を楽しみながら,国分寺跡をめざしました.
 国分寺跡と国分尼寺跡の広々とした空間で古代を考えながら,国分尼寺の近くにある塚の跡地の高台へ. はるか遠くにスカイツリーの姿を確認しながら,古代から現代の時間の流れを体感. 東京学芸大学のすぐそばで,たいへん手軽に地域の観察をすることができました.

2011年度 冬巡検(12/01/28) 『隅田川七福神をめぐりながら向島あたりを知る』

向島の隅田川堤上にて  浅草・吾妻橋のたもとに集合.アサヒビール本社とスカイツリーの巨大な風景を前にして向島へ. 牛嶋神社で牛を撫でてから,三囲神社(恵比寿,大黒神),弘福寺(布袋尊),長命寺(弁財天),向島百花園(福禄寿),白鬚神社(寿老神)をめぐりました. やや離れた多聞寺(毘沙門天)には行かず,白鬚橋を渡って浅草・今戸地区へ. 古くから皮なめし業が営まれてきた一帯には,今も製靴業者が多く立地し, 東京一の革製品製造業地帯の様子をうかがい知ることができます. 伝統的な産業と,現在の景観を見比べながら,都市産業の行方について考えました.
 さらに,今戸橋をわたり,遠く吉原の灯に思いを馳せながら,一路浅草寺へ. 英語のほかに中国語とハングルが目立つ境内に立ちつつ,国際観光地へと発展した様子を観察しました. 巡検終了後は,韓国料理で打ち上げました.

2011年度 夏巡検(11/07/16) 『東京の水の歴史を景観から読み解く』

日本橋「道路元標」  まず水道橋の「東京都水道歴史館」を訪れ,江戸から現代までの東京の上下水道の歴史について説明を受け, 整備された上下水道があったことなど,江戸の優れた水事情と江戸に住む人々と水の関わりの深さを学びました. つぎに,江戸において人と水との重要な関わりの場だった河岸の面影を求めて神田川沿いを秋葉原へ.
 途中の神田明神で,東京の下町と山の手の境目を急勾配の階段を下って体感してから, 秋葉原では,かつて陸上交通から水上交通への窓口であった掘割の跡(現在の秋葉原公園)において, 水上交通が重要な輸送手段であった事実を確認しました. さらに日本橋へと移動し,かつて日本橋に魚河岸があったことを示す記念碑と, 日本の交通の起点である道路元標のところで,日本橋が水上交通と陸上交通の結節点として栄えた歴史を考えました.

2010年度 冬巡検(11/03/08) 『西葛西のインド人集住地区と小説『青べか物語』にみる浦安』

青べかに乗って  まず西葛西では,インド人が集住するUR団地を訪問. 団地内にあるインド人経営の食料品店には,香辛料などインド人向けの食材のほか,日用品が揃えられていました. 店主によると,団地内には複数のインド人コミュニティがあり,西葛西を「ミニ・インド」と呼んでいるとのこと. カレーとナンの昼食で,たっぷりインドを感じました.
 つぎに浦安に向かい,山本周五郎の小説『青べか物語』を手がかりにした地形の観察を行いました. 旧江戸川が形成した大三角(三角州)の痕跡と,埋立で消えたかつての海岸線を護岸堤防跡から確認しました. つづいて浦安市郷土博物館を見学.船宿や豆腐屋,天ぷら屋,海苔小屋など昭和27年頃の町並が復元され,漁師町として活気に満ちていた浦安を体感しました. 実際に青べかに乗り,当時の生活の中心だった境川の雰囲気もしっかり味わいました.

2010年度 早大院生との巡検(11/01/29) 『早稲田から神田川沿いに神楽坂と東京ジャーミイ』

東京ジャーミイ  冬晴の日の午後,「地域研究U」を受講した早稲田大学大学院生の企画により,早稲田大学を起点とする巡検が行われました. まず,近隣の地形と土地利用を知るために,大学に隣接する甘泉園の美しい庭園の構図を楽しみ,そこから進んで神田川沿いを歩き, 川の南北で異なる非対称地形,攻撃斜面を利用した椿山荘の庭園を見学しました.
 さらに,神楽坂の商店街を歩き,商業機能の集積状況を知るとともに,商店街活性化のための活動にも触れることができました. かつての花街の名残をとどめる景観から,土地特有の香りを感じ取ることもできました. 続いて,代々木上原にある東京ジャーミイを訪問. 丁寧な説明を受けながら,東京におけるイスラームの人々についての知見を得ることができました. オスマン様式のモスクの美しさと,イスラームの信仰の篤さは実に印象深いものでした.

2010年度 夏巡検(10/08/06) 『池袋チャイナタウンと大久保エスニックタウンでエスニック空間を考える』

大久保エスニックタウンの中央教会  真夏の快晴の空の下,東京のエスニック空間である池袋チャイナタウンと大久保エスニックタウンを歩きました. まず西池袋では,店舗の看板に注目しながら業種や出身地の特徴を観察しました. 書店や食料品店では,商品の種類に目を向けながらエスニック集団にとっての文化について考えました. 池袋西口公園内に置かれた豊島師範学校(東京学芸大学の前身)跡地の碑をカメラに収め,大久保に向かいました.
 大久保エスニックタウンでは,まず新宿区が運営するしんじゅくプラザを訪問. 所長さんの説明によれば,多文化共生の試みが多くのヴォランティア団体の活動によって進められているとのことでした. そのあと多くの店舗が並ぶエスニックタウンの景観を観察. この地区最大級のキリスト教会・中央教会では,コリアンの人々にとって宗教だけでなく人間関係を築く場としても意義があることを知りました.

2010年度 欧研生の巡検(10/04/29) 『国分寺崖線の景観を読み解く』

殿ヶ谷戸公園  欧米研究2年生の要望により,春の穏やかな陽気の中,武蔵野台地の中央を横切る国分寺崖線をたどりました. この崖線は10mを越す比高を持ち,平坦な台地にインパクトある景観をつくっています. また,崖下には湧水があることから,国分寺や国分尼寺の建立をはじめ,古くから人々の暮らしの舞台になってきました.
 国分寺駅に集合後,まず崖線の地形を利用した都立殿ヶ谷戸公園(旧岩崎家の別邸)を訪ね,美しい庭園を楽しみました. これに続いて崖下の水路に沿ってお鷹の道を歩き,湧き水をたたえた真姿の池では都会の中の自然に感動しました. このあと貝塚の遺跡,国分寺跡と国分尼寺跡,さらには新緑のトンネルを逍遥しつつ東山道武蔵路跡まで,古代ゆかりの史跡をたどりました. 学芸大の近所で,歴史と地理の接点に触れる巡検になりました.

2009年度 夏巡検(09/07/27) 『水リサイクルセンターと水再生センターで東京の水を考える』

水再生センター  東京の下水処理の事情を知るために,東京都下水道局の施設を訪れました. まず,新宿副都心にある水リサイクルセンター。ここはビルの地下にあります. この地下に水再生センターから供給されてくる水を貯めるタンクがあり,そのコントロールがここでなされているのです. 水はそこから副都心地区の29の高層ビルに供給され,水洗トイレに使用されています. 水の再利用がきわめて高い効率でなされていることに驚かされました.
 つぎに訪れたのは北区浮間にある水再生センターです. 2001年に稼動を開始した新しい施設で,練馬や杉並など区部西部の住宅地域から出される下水の処理を行っています. 処理された水は近くを流れる新河岸川に放流されているそうです. 水の再生と再利用という資源の有効利用の現場から,持続可能な都市社会を考える巡検になりました.

2009年度 春巡検(09/05/17) 『東京都立芦花公園で東京の緑地を考える』

芦花公園  初夏のような新緑映える晴天下,明治期の文豪・徳冨蘆花が暮らした旧蘆花邸を中心とする蘆花恒春園(芦花公園)を訪れました. 蘆花は,青山から世田谷区粕谷へ引っ越してきた後の生活を『みゝずのたはごと』という随筆集の中で綴っています. この作品には,市街地の拡大とともに変わりゆく当時の農村の様子が描写されています. 鉄道が開通し東京郊外の住宅地になってゆく記述は,地理的資料としても評価されています.
 今回は,蘆花が生活していた空間を巡りつつ,蘆花公園内にある「花の丘」(花壇)をルートに加えました. そこでは地域住民が花壇の手入れを中心としたNPO活動が行われており,緑地に積極的に関わる活動についての考察を行いました.

2008年度 冬巡検(09/03/23) 『川崎コリアタウンと鶴見ブラジル人街でエスニック空間を考える』

川崎コリアタウン  川崎のコリアタウンを中心にして,鶴見の沖縄県人会館およびブラジル人街をめぐりました. 川崎・鶴見一帯では,海岸線の埋立地に日本製鉄など重工業の集積がみられます. そのため多くの労働力が必要とされ,戦前から在日コリアン,そして1990年の入管法改正以降はブラジル人が多く住む地域となっています.
 巡検当日は風が強く寒い一日でしたが,異文化を感じる店舗や景観を観察しながら楽しく巡検することができました. 写真は川崎のコリアタウンでの一枚です. コリアタウンの入口にはこのような門が設置されており,その位置を視覚的に知ることができるようになっています.

2008年度 夏巡検(08/7/27) 『川越の旧市街地で町並みの景観を考える』

川越一番街商店街  蒸し暑い真夏の午後,「観光」「まちづくり」をキーワードにして,蔵づくりの街並みを活かしたまちづくりで一定の成果をあげている川越市旧市街地を歩きました. 本川越駅に集合し,川越一番街商店街・菓子屋横丁→蔵作り資料館→川越市立博物館→喜多院→本川越駅を順にまわりました.
 見学の最重要ポイントは,蔵づくりの町並みが見事な一番街商店街です. 電線の地中化やマンホール・自販機の色彩を周囲の町並みに調和させる工夫を確認することができました. 川越名物COEDOビールやサツマイモソフトも楽しみました.  市立博物館では,学芸員の方から江戸時代以降の川越のまちづくりの歴史や,蔵づくりの町並みの形成過程などについて解説をいただきました. 喜多院に着いた時にはすでに夕暮れになっていましたが,川越で最も古い寺院の風情を楽しみ,和やかなムードで巡検を終えることができました.