Research

私たちの研究室で日々行われている研究の内容について、簡単にご説明します。

研究キーワード:準結晶、陽電子消滅法、熱電変換


準結晶とは?

 物質は原子の集まりからできています。このうち、大半の固体は、規則正しいパターンの繰り返しをもった結晶と呼ばれる構造を持っています。ふつうの物質がもつ結晶構造は、高校化学で習うような、ごく単純な対称性をもったものになっています。(体心立方・面心立方 等々)

 結晶学では、こうした結晶のもつ対称性・パターンのうち、回転対称性・並進対称性という概念を用いて結晶構造を測定・定義しています。たとえば、結晶学では電子線回折による構造の測定が行われていますが、これは結晶構造の回転対称性により回折像が決まります。
 回転対称性の基準としては、n回対称という概念がよく用いられています。これは、ある軸のまわりに何度回転させれば元の図形と合わさるか、ということを表します。簡単な例として、平面を隙間なく敷き詰めることのできる、ある1種類の図形を考えてみると、 360°/n として、n=3,4,6 の対称性しか存在し得ない(3,4,6角形でしか敷き詰められない)ことが容易にわかります。

 また、通常の結晶では、こういった回転対称性とは別の、並進対称性によって結晶が定義されています。並進対称性とは、簡単に言えば、無限に広い方眼紙の中で、1マス毎の移動を基準とした場合、あるマスを上下左右のどこに動かしても、他のマスと見分けがつかなくなることを意味します。たとえば、体心立方格子で構成された物質を考えた場合、体心立方格子を1つの構造単位として考えれば、1単位ごとに移動しても、周囲の風景はまったく変わらず、移動先にもぴったりと収まります。

 通常考えられる結晶構造では、回転対称性と並進対称性の両方を持っており、準結晶が発見される1984年までは、それが結晶学における、ある種の「常識」と言えるものでした。

 これに対し、準結晶というのは、n=5,8,10,12 の回転対称性を持ちます。これは、平面に5角形を書いてみるとわかりますが、隙間なく敷き詰められる形ではなく、そのため並進対称性を持ちません。それにもかかわらず、電子線回折等の回折像では、アモルファスのようにランダムな構造とは違い、一定の周期性を持った構造が現れます。こうした構造の違いにより、準結晶は、ふつうの結晶とも、アモルファスとも違う、新しい性質を示します。

 準結晶は、1984年にシェヒトマンによって発見されたばかりの新しい物質です。それだけに未知な部分もあり、今後も急速な発展が見込まれます。特に、ものづくりのための材料として、その特異な構造・性質を利用する方面で多大な応用が期待されます。

 私たちの研究室では、共同研究先の木村研究室で多用されているAl正20面体クラスター構造をもつ準結晶系や、同じく正20面体クラスター構造を取るβ-Boron系を主要な研究対象としています。



物性研究


陽電子消滅法を用いた物性研究

 陽電子は電子の反粒子であり、プラスの電荷をもつ素粒子です。この陽電子が電子と衝突すると、対消滅という現象が起こり、各種の保存則を満たしながら γ 線を放出します。陽電子消滅法とは、この対消滅によって放出される γ 線を検出することで、物質の構造や電子状態を調べる方法です。

 陽電子はプラスの電荷を持つことから、固体中の電子密度の低い部分(原子の抜けた空孔など)に捕捉されやすい性質を持っており、これによって対消滅までの時間が変化します。この陽電子寿命を測定することで、固体中における空孔の大きさを定性的に評価することができます。


 また、柏市の物性研究所に場所を借りて設置している低速用電子ビーム装置では、空孔濃度の情報を得ることができ、学部生も大学院生も足繁く通って測定を行っています。


熱電効果の研究

 熱電効果とは、熱エネルギーと電気エネルギーの可逆的な変換作用のことです。当研究室では、熱電効果の一つであるゼーベック効果に着目しています。ゼーベック効果とは、温度差が電圧に変換される作用のことで、熱を直接電気エネルギーへ変換する手段となります。物質に温度差を与えるだけで発電ができますから地熱や太陽熱のみならず、車や工場の排熱などのこれまで捨ててきた熱エネルギーを電気エネルギーとして再利用することが可能になります。

 当研究室では、Al系準結晶やボロン系化合物などの熱電性能の向上を東京大学の木村研究室と共同で進めており、毎年様々な組成の研究を行なっています。またその他、国立の研究機関でも新規熱電材料の研究開発に取り組んでいます。

 熱電性能の研究では、無次元熱電性能指数ZTというパラメータを測定値から算出することで熱電性能が評価されます。ZTが大きいほど熱電性能が良いとされます。そしてZTは、ゼーベック係数 S(V/K)が大きく、電気伝導率σが高く、熱伝導率κが低い物質ほど高い値を取ります(下図参照)。
 例として、当研究室で中心的に扱っている準結晶は、一般的に金属と較べて電気伝導率σは低く、熱電素子としては不利な性質を持っています。しかし、同時にAl遷移金属系準結晶では、大きなゼーベック係数 Sと小さな熱伝導率κを併せ持っています。したがってZTは大きくなると考えられます。