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モンゴルのCDショップの様子

 モンゴリアン・ミュージック・カタログ

 モンゴルのティーンエイジャーたちが熱心に聞いている音楽は大きく分けて二つの種類があると思う。一つはアメリカの最新のポップ・ミュージック。ビルボート・ホット100のトップを飾った曲なら、たいていはモンゴルでもよく知られているようだ。もうひとつはモンゴルのポップ・ミュージック。ミュージックチャンネル、MTVのような番組がモンゴルにもあって、そこでは朝から晩まで音楽ばかり放映されている。そこでよくみかけるのはモンゴリアン・ヒップ・ホップの類いだ。もちろん、ポップス、ロック、ハードロックなど様々なジャンルが市場には揃っているのだけれど、男の子たちにはヒップ・ホップが断然人気らしい。それらに付されたものすごく長い歌詞を全部すっかり覚えてしまって、学校で歌って聞かせてくれる学生もいる。だらりと垂れた大きめのTシャツにキャップを後ろ向きに被った姿で。もう、彼はすっかりヒップ・ホップ・アーティストなのだ。一方で、ヒップ・ホップを好まないティーンズたちは、ポップスを愛し、ロックを愛している。彼ら、そして彼女らはヒップ・ホップの歌詞は言葉が美しくない、という強い信念を持っている。僕にはよく分からないのだが、スラングが目に余る、ということらしい。そして、彼らは音楽・動画サイトからお気に入りの曲を好き勝手にダウンロードし、携帯電話に保存したうえ、授業中にヘッドフォンで聞く。おいおい、今は授業中なんだけどな、と注意すると、ああそうだったんですか?というような顔をして素直に外す。ポップス・ファンにはそういう素直な学生たちが多い。

 以前、ある音楽好きの学生と放課後になって音楽の話をしたことがあった。いま、モンゴルではどんな音楽が流行っているの?と尋ねてみると、親切にいろいろと教えてくれた。これは僕が、個人的に大好きな曲ばかりなのですが、と前置きをしつつ、いくつかの曲を紹介してくれる。以下に紹介する曲はどれもモンゴリアン・ポップスだ。

 これは最高です、と彼が胸を張って薦めるのが、エイ・サウンド(A-sound)というグループの「君はどこにいるの(Chi haana baina)」。シンセサイザーのキラキラした彩りと、リード・ヴォーカリストのどこかくぐもったような歌声が、不思議な懐かしさを感じさせてくれる。けっこうなヒットソングだそうで、確かに街を歩いていると、どこからともなく聞こえてくることがある。二つ目は、ボルド(Bold)が歌う、「愛する人の手に向かって走れ(Hairtai huniihee gar luu guigeerei)」、「許してくれないか(Chi uuchilah uu)」の二曲。前者は甘いバラード、後者は軽いサウンドの印象的な仕上がりとなっているポップス。三つ目には、ザ・レモンズ(The Lemons)というグループの「愛してる(Hairtai)」という曲が挙った。ザ・レモンズはよく知られたバンドで、僕も以前からその名を知っていた。ちなみに「天気(tzag agaar)」という曲も他の学生に紹介されたことがある。シンプルなバンド編成で親しみやすい曲が多いのが特徴である。次に挙がった曲はタタルの「雨(Boroo)」という曲。この学生によれば、モンゴリアン・ヒップ・ホップの決定版、とのこと。ここに出てくる歌詞を暗唱できれば、あなたもモンゴルの若者たちと対等にポップカルチャー談義ができるのかもしれない。5つ目はカメルトロン(Camerton)というグループの「待つ(Huleelt)」。モノローグが印象的なバラード・ナンバーだ。カメルトロンのヴォーカリストは、先に書いたボルドである。ボルドはすごいんですよ、と彼は言う。

 これは感動します、と最後に紹介されたのはモンゴル演歌(ゾヒオリン・ドー)の一曲だった。ジャウフラン(Javhlan)の歌う、「母の沸かしたお茶(Eejiin chanasan tzai)」というスタンダード・ナンバー。ここで出てくる「お茶」というのはモンゴルの伝統的なミルクティーを指す。ゲルの中で沸くお茶の様子が頭に浮かび上がってくる。僕の教室の学生の中にはこのゾヒオリン・ドーの熱狂的なファンがいる。放課後に一人になっても制作を続けるような真面目な学生なのだが、そういうときのBGMは決まってゾヒオリン・ドーである。この曲について話をしているときに、ちょうど彼が横を通り、「母の沸かしたお茶」について一家言(いっかげん)あるような表情をしたので、ちょっとドキリとした。なにやらいろいろと説明をしてくれたが、早口に話していたのであまりよく分からなかった。

 最後に女性ヴォーカリストのものがないので、一曲ご紹介しておきたいと思う。キウィ(Kiwi)の「秘密の恋(Nuutshan hair)。これは僕が日本でモンゴル語を学んでいたときに教室で紹介されたもの。モンゴルに到着してみてこの話をしてみると、ほとんど誰でも知っている人気曲のようで、カラオケ店を訪れるとこれを熱唱する女性がけっこういる。

 なお、紹介した曲の邦題は僕が勝手に翻訳したもの。アルファベットの表記はキリル文字から変換したものだが、これらはすべて、インターネットで検索すればミュージック・クリップとともに視聴できる。モンゴルのポップスに興味がある人はぜひ聞いてみて下さい。

キリル文字も独特だけど、モンゴル語って不思議な響きがしますね。発音、難しそ〜。モンゴリアン・ミュージックから若者文化を感じてみてはいかが?

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桐山 岳寛
Takehiro Kiriyama
1981年生まれ。03年に東京学芸大学卒業。会社勤務を経て2011年3月より国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊プログラムでモンゴルのウランバートルにグラフィックデザイン教員として派遣されている。期間は2年間。
なお、表題の“МОНГОЛ”は「モンゴル」と読む。モンゴルではこのキリル文字が公用文字。


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