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プログラミング教育0.9から1.0へ

 
プログラミング教育がやってきた

繰り下がりのある筆算に挑戦

新しい学習指導要領が何かと話題です。いくつかあるトピックの中で、「小学校でのプログラミング教育が必修化された」というのも大きなニュースの一つでしょう。

正確には、「第1章 総則」の「第3 教育課程の実施と学習評価」の「1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」の「(3) イ」に「児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」が入りました。なんだかまだるっこしいですが、問題の一つは「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力」ってなんだ? というところでしょう。

学習指導要領解説総則編には、これを「プログラミング的思考」として次のように定義しています。
 

自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力


あれ? こちらでは「コンピュータ」なんてどこにも書いていないですね。そう、プログラミング的思考は確かにコンピュータを扱う時に必要なものではありますが、基本的には論理的に考えていく力=論理的思考力の一つという位置づけなのです。論理的思考力の育成だったら、これまでも学校教育で行われていたはずですね。
 

「あれ?」なプログラミング教育


そんなプログラミング教育の導入を受けて、今、どんなことが起こっているでしょうか? 



ここぞとばかりに大々的に宣伝して、「時代に乗り遅れちゃいけない!」と焦る保護者の心をつかみ、多くの子どもを集めて大盛況な巷のプログラミング教室は一先ず置いておきましょう。学校現場を巡ってはどんなことが起こっているでしょうか?



大変、真面目に先進的な取り組みをされている先生が大勢いらっしゃいます。2017年の、特に夏以後は、そんな先生方の講演会や実践発表が目白押しです。

どこの現場でも「プログラミング教育って言われても、何をどのように行えばよいのかわからない」という悩みが渦巻いていますから、そうした機会は現場の教師の大きな助けになっています。

しかし、正直なところ、首を傾げざるを得ない実践やセミナー、講演会等もたくさんあるように感じています。公開授業を参観させていただいた後に、

「プログラミング教育ではあるかもしれないけれど、理科になっていただろうか?」

「プログラミング的思考云々の前に、体育になっていないのでは?」

「そもそも、この授業にプログラミングを取り入れる必然性はあっただろうか?」

と思ったこと、ないでしょうか?



どうして、そうした「あれ?」と思ってしまう実践が出来てしまうのでしょうか。



ICT発、も大切だけれど


今、そうした授業を実践されているのは、「ICTの猛者」とも言うべき方々がほとんどです。それは現場の先生であったり、大学の先生であったり、企業の方であったり色々なのですが、多くは元々ICTに強い方々です。そういう方にはプログラミング教育を行うにあたってのツールがいくつかあります。

まず、アンプラグドと呼ばれるコンピュータを使わないプログラミング教育環境。代表的なものに「ルビーの冒険」があります。次に、児童でも簡単にプログラミングを扱えるアプリケーション。ScratchやViscuitなどです。そして、ロボット。SpheroやLEGO WeDoなどですね。

「あれ?」と感じる授業は、どうやら「それらのツールは、どの教科のどの単元なら使えるか」という発想から考えられているように思います。言い方を変えると「プログラミングを取り入れること」に縛られているように見えるのです。

プログラミング教育0.9


「ICT発だろうと何だろうと、とにかく始めてみなくちゃ課題も見えてこない!」
「手探りでいいから、とにかくやってみないとダメだ!」

という意見があるのもわかっていますし、その必要性も認めます。何しろ始まったばかりのことですから、実践を積み重ねていくのはとても大切です。しかし、これだとプログラミング教育0.9に留まってしまうのではないでしょうか。それ以上に心配なのは、それだけで本当にプログラミング教育が広がりを見せるでしょうか。



我々は、それには懐疑的です。「熱心な人はすごく熱心にやるけれど、傍観するだけの人は『自分には関係ないね』という態度を崩さない」という、これまで学校へのICT導入で起こってきた不幸がまた繰り返されるのではないか。そんな疑念を拭い去ることができません。


 

「教科の視点」からプログラミング教育を語る


では、プログラミング教育0.9を1.0にするために必要なことは何でしょうか。我々は、「教科の視点」を持つことだと考えています。



前述の通り、プログラミング教育で育成が目指されている「プログラミング的思考」は、論理的思考力の一つです。しかし、論理的思考力の育成がこれまで学校教育で行われていなかったわけではありません。各教科の様々な場面で行われてきているはずです。



この「教科で育成したい論理的思考力」をまずきちんと捉え直しましょう。それを明らかにした上で「プログラミング的思考」と、どこで重なって、どこで重ならないのか。そのすり合わせをきちんと行いましょう、というのが我々の考えです。



プログラミング教育1.0


これはなかなか面倒な作業です。しかし、それなしに「この単元ならロボット使えそう」「この単元のこの授業ならプログラミング入れられそう」という発想で組み立てられた授業が、本当にその教科の授業として魅力的なものになるでしょうか? 

プログラミング教育のための新しい教科ができたわけではありません。各教科でプログラミング教育を行う以上、この作業は避けては通れない、避けて通ってはいけないものではないでしょうか。



このWEBサイトのミッション


我々は、この面倒な作業を成し遂げるための一つの手段として、このWEBサイトを起ち上げました。

コンテンツは、大きく分けて3つあります。

一つは、東京学芸大学附属小金井小学校の教員へのインタビュー。附属小金井小学校は、教科教育研究が非常に盛んなところで、各教科の専門家集団を自負しています。この専門家集団へのインタビューを通して「教科で育成したい論理的思考力」と「プログラミング的思考」のすり合わせを行っていきます。



もう一つは、外部の識者へのインタビュー。プログラミング教育に携わる方々に我々の考えをぶつけ、忌憚のないご意見をいただいて議論を深めていこうと考えています。



そして、授業の実践報告。すり合わせは大切ですが、ずっとすり合わせだけしていても先へは進めません。プログラミング教育の授業実践についても報告していきます。

こうしたことを重ねてプログラミング教育0.9を1.0にすることが当面の目標ですが、その先には「プログラミング教育2.0」の姿が朧気ながら見えてきました。
⇒プログラミング教育2.0への挑戦
 

 

研究代表 鈴木 秀樹

東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾幼稚舎教諭、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究センター勤務を経て2016年より現職。日本サウンドスケープ協会理事、日本感性教育学会理事。他に日本教育工学会、CIEC(コンピュータ利用教育学会)、日本国語教育学会等に所属。普段は、教科におけるICT活用やプログラミング教育を研究しているが、ライフワークは「ICTで支える感性教育」。