論文の書き方         
       東京学芸大学 心理学科  岸 研究室
 
◎論文は研究成果を広く公表するために書く。したがって,わかりやすいこと,不明点がないこと,論理や用語が一貫していることなどが要件である。また,研究の経過をだらだらと書くのではない(研究経過報告書ではない)。興味ある結果は何か,何がわかったか,何が言えるかに焦点をおいて書く。
 
【 表題(副題があれば副題),提出年度,所属,学生番号,氏名,指導教官名 】
【 目次 : 項目まで詳細に書く。当然,頁を書く。】
 
第1章 序論
 
【1.1 はじめに 】
 ・なぜこのような研究に取り組んだかの動機,問題の背景,問題設定の理由など,テーマの周辺領域に関する事柄を記述する。
 ・研究自体と直接の関係はないが,周辺領域の内容で書きたいことがあれば書く。
 ・論文の本題への導入部分の役割を果たす。
 
【1.2 目的 】
 目的で書くべき内容は次の通りである。
 @なぜこのような研究に取り組んだかの動機,問題の背景,問題設定の理由など,このテーマを選択した理由を説明する。項目別にタイトルを付けて書くと読みやすい。
 Aテーマに関係する領域の先行研究,このテーマに直接関係する先行研究を紹介する。
  紹介は,
       ・紹介した先行研究は本テーマとどのように関係するか
       ・先行研究の概要(分量は必要に応じて調節する)
       ・先行研究の評価(本テーマにどの部分が活用でき,何が問題点か)
   について必ず書く。
  *先行研究は,わかりやすくするために,内容別(文章理解,理解と産出との関係,理解の発達など)や方法別(実験研究,調査研究など)などに分類したほうがよい。
  *重要な理論や学説(スキーマ理論,文章理解の状況モデルなど)があれば,まとめて紹介する。その際もやはり自分の研究との関係を述べる。
  *直接の先行研究については詳細に記述する。たとえば,直接の先行研究とは,追試研究の場合の対象論文,テーマ設定や方法の検討のときに参考にした論文などが該当する。
  *直接の先行研究の記述は,論文の内容がかなりわかる程度とし,必要に応じて,図表を引用する。また,その研究をどのように評価し,どの点を問題にし,今回の研究とどのようにつながるのかも記述する。
 B本研究の目的あるいは仮説を明快に,わかりやすく述べる。「どのような立場から,誰を対象に,何を,どこまで,どのような方法で明らかにするのか」が書いてあれば目的としてわかりやすい。書くときは,「したがって本研究では〜」として,どの部分が目的の中核なのかがわかるようにする。
 C仮説を書く場合には,「仮説1…」「仮説2…」のように,箇条書きで書いていく。
 D仮説から,具体的にどのような結果が出てくるかを予測したものを「作業仮説」という。
  たとえば,「仮説1によれば,A群とB群との得点を比較すると有意差が見られ,A群の方の得点が高くなるはずである」のように書いたものである。余裕があれば,この作業仮説を箇条書きで書いておくと読者に読みやすい。
 E本文中に文献を引用する場合の書き方は,次の通りである。
  *文中には,→ ”岸(1997)によれば,〜”
  *文末には → ”〜と述べている(岸,1997)。””〜であった(Kintsch,1977)。”
  *文末で複数引用→年号順にする。”〜である(Kintsch,1977;岸,1997)。”
  *著者が2人→”岸・綿井(1995)によれば”,”Mandler & Johonson(1977)では,〜”
          文末でも書き方は同じ。
  *著者が3人以上→その論文全体で初出のときは著者の姓を全員書く。文中・文末とも同じ。2回目以降の場合は,第1著者の姓のみ書き,あとは「他」「et al.」とする。たとえば,
      1回目:”岸・綿井・谷口(1985)では,〜” 2回目以降:”岸他(1985)では”
      1回目:”Millis,Diel,Birkmire & Mou(1993)では〜”
      2回目:”Millis et al.(1993)によると〜”
  *同じ年号で2つ以上の文献がある場合にはa,bのように区分する。たとえば,岸(1997a),岸(1997b)
 
第2章 本論
 
 【1. 目 的 】
  *研究の目的をわかりやすく簡潔に記述する。どのような背景で,どのような立場から,何を,どこまで明らかにし,誰を対象に,どのような方法を用いるのか,などの点について述べる。仮説があれば,それを,できれば箇条書きのかたちで明記する。
  *目的は,論文を本論から読んでも内容がわかるように書くこと。つまり,「第1章で述べたように...」のような記述は望ましくない。第1章の内容と重複しても差し支えない。ここからあらためて論文がスタートするように書く。
  *序論で述べた仮説,作業仮説をもう一度書く。
  *枚数は3枚程度。
 
【 2.方法 】
 方法は,第三者が方法の記述を読んで,全く同じ研究(実験・調査)ができるかどうかが,適否の目安となる。周囲の方に読んでもらって,その人に研究方法を説明してもらうと,良い記述かどうか,不備はあるかがすぐわかる。
 方法に書くべき内容は次の通りである。
 
  *被験者・被調査者:人数構成を年齢別,学年別,男女別などに詳しく書く。また,被験者・被調査者の背景(たとえば,IQ,テスト得点など)の中で必要なものがあれば書く。
  *実験日時,調査日時や期間,実験場所,調査場所など
  *実験計画,実験構成:要因は何か,要因は被験者間要因か被験者内要因か
   たとえば,「実験は,教授法要因(教授法A・教授法B)×指導要因(事前指導・事後指導)の2要因で,教授法要因は被験者間要因,指導要因は被験者内要因である」のように書くとわかりやすい。
  *実験装置,実験器具,
  *実験材料,実験材料の作成方法:材料とした刺激文章などの作成方法(原文は何か,どのような条件で作成したか,文章の長さ,文節数などの情報)。どのような考え方でどのように作ったかを具体的に書く。
    材料は,できるだけ全材料をこの項に載せるのが望ましいが,量が多い場合は,一部を載せて他は資料として掲載する。ただし,全材料を必ず載せること。
  *調査用紙の概念構成
  *標本抽出の方法:対象とする母集団,標本抽出の方法(無作為抽出法,層化2段抽出法など)を書く。
  *調査用紙の配布数,有効回答数,有効回答率
  *調査項目(多い場合は主要な部分を載せ,他は資料として巻末に記載する)
  *手続き:実験や調査の手順を,時間経過に沿って具体的に記述する。記述は箇条書きとする。手続きを書くときは,実験者・調査者側の視点から書く(提示する,記入させる,測定するなど)。教示は手続きの中に書いてよいが,書き方は,「・・・・」のように,実際にどのように言ったのかを書く。
  *結果の処理:raw dataに対してどのような処理をしたか,カテゴリー化した場合のカテゴリー内容,得点化した場合の方法など(〜を1点,〜を2点とした)を書く。読者に結果のまとめ方の概略がわかるように。
  *とにかく詳細に書く。
 
【 3.結果 】
 
 結果では,事実を書くのであり,解釈(考察)は書かない。基本的には「〜の結果・図表・図表の説明・図表の読み・検定結果」を書いていく。書き方は項目別に書くとわかりやすい。たとえば,「3.1 ・・・と・・・の関係について」のようにしていく。
 論文の内容によっては,「3. 結果と考察」という形で結果部分と考察部分とを一括し,その中を項目別に分けていくやり方もある。どちらでもよい。
 
(結果を書くときの注意)
  *文は過去形で書く。
  *結果は,事実やデータそのものについて書くのであって,考察や感想は書かないようにする。たとえば,「正答率が20%も良くなった」は正しくない。「30%から50%になった」,「20ポイント増加した」と書く。良くなったかどうかは考察事項であり,そうとは判断しない人がいるかもしれないのである。
  *図表を載せっぱなしにしない。図の軸や表のカテゴリー,図表中の数字などを説明する。そして,重要な点は「結果を読む」ことである。図表のどの部分に注目し,どこがポイントで,あとでどの点を考察するのかを読み手に示すように記述する。
  *図表には通し番号を必ずつける。図の番号と表の番号は別の通し番号とする(図1,図2,Figure 1,Figure 2,表1,表2,Table 1,Table 2 のように)。
  *図のタイトルは図の下に書き,表のタイトルは表の上に書くのが決まりである。
  *具体的には,まず,何に関する結果か,それは図表の何番で,図や表の軸及びカテゴリーは何を表し,表内数字や図内記号(○,●など)はなにを表し,検定の結果はどうであったか,図や表のどこに注目するか,の順に書く。
    たとえば,
    「図(表)〜は,(〜と〜の関係,〜の正答率,〜の割合 etc.)を示したものである。横軸は〜,縦軸は〜である(図の場合)。〜について〜検定を行った結果〜であった。また,〜は〜であった......。次に表〜は〜である。〜と〜との関係について〜係数を求めたところ〜であった....。」
    のように書き進めていく。
  *検定の結果や分散分析表などは明記する。
   結果の本文中に検定結果を記述する場合の書き方は次の通りである。
    t検定の場合⇒ 「t(30)=2.341,p<.05」   →(30)は自由度(df)を書く。
    χ2検定の場合⇒「χ(2,N=120)=1.563,n.s.」→2は自由度,N=120は分析に使った被験者数
    F検定の場合⇒「F(2,50)=6.31,p<.01」   →2は分子の自由度,50は分母の自由度
    分散分析の場合⇒「F(2,24)=23.77,MSe=2.72,p<.01」
                         →Fの部分はF検定と同じ。MSeは誤差(群内)の平均平方(不偏分散)。
   p<.05は「5%水準で有意差(有意な関係)あり」または「危険率5%で帰無仮説を棄却する」の意味である。n.s.はno significantの略で,「有意差(有意な関係)なし」または「帰無仮説を棄却できない」の意味である。
  *作業仮説があれば,それに対応する形で書くと分析を何のために行うかが読者にわかりやすい。
  *結果で記述しないことは考察できない。結果で記述したことは考察しなければならない。
 
【 4.考察 】
 
 考察は,結果を解釈し,そこから知見をひきだすことである。データからいえること,仮説に対する答え,先行研究との比較検討,問題点などを書く。結果と同様に項目を立てて書く方が書きやすく読みやすい。
 
 (考察の書き方)
  *考察は,結果→考察→結果→考察...と書き進める。つまり,結果を述べて「このことは...と対応する」,「これは...と考えられる」のように論を展開していく。
    具体的には,
    
    
    
 

結果の
要約 



 
 

 



 

これは〜と  
いえる(考察)



 
 

 



 

結果の
要約 



 
 

 



 

これは〜を支持 
している(考察)



 


  ・・



 
          
          
    ・・・・・ 
 

以上のことから〜
といえる(考察)



 


・・・・   のように書き進める。



 
 
  *一つ一つの結果に対する考察から,次第に個々の考察間の関係に論を拡げ,総合考察の形にまとめていく。
  *仮説があればその仮説に対して支持されたかどうかが論の中心になる。必ず書く。
  *「結果と考察」という設定にしてまとめて書いてもよいが,できるなら結果と考察とを分けて書く練習をすること。
  *言い過ぎ,書き過ぎに注意。結果には書いていないこと,単なる推測などは書かない。苦しい言い訳も見苦しい。
 
【 5.結論 】
 
 結論は,考察から言えること,仮説への答え,この研究でわかったこと,残された課題などを書く。要するに,「ここがおもしろいのです」ということを書く。箇条書きがわかりやすい。
また,長くならないように簡潔に。
 
【 6.文献 】
 
 *文献欄は,読者がその文献を直ちに探せるための情報を記述するのが基準である。
 *文献は引用文献と参考文献とに区分される。引用文献とは,本文内で内容の一部または人名を記載したものである(例:岸(1990)によれば,〜などの研究がある。 〜が示されている(Kintsch,1978;岸,1990)。のように書かれたもの)。参考文献とは研究上参照した書物,文献である。引用文献名は必ず文献欄に書く。参考文献は書かなくてもよい(論文の長さ制限次第である)。
 *文献は,オリジナルをきちんとそろえる。そして,間違いのないように書く。
 *引用文献の記載順やルールは,学会や学術雑誌ごとに異なる。ので,そこでの書き方に従う。心理学の卒業論文,修士論文の場合には,心理学研究,教育心理学研究に従う。詳細は,「心理学研究 執筆・投稿の手引き 日本心理学会 1991年度改訂版」を参照すること。
 
 <文献の配列のルール>
 *文献は,著者の姓のアルファベット順。同姓の者がいた場合には名のアルファベット順。
 *共著の場合は,第1著者の姓による。
 *同一著者が単独で発表している論文と,共著の第1著者である場合は,単独の論文を先に並べ,次に共著のものを並べる。共著は,第2著者のアルファベット順とする。それも同じなら第3著者とする。
 *著者全員(単独の場合も含む)が全く同じものは発表年の古いもの順とする。発表年も同じ場合は,a,b,などで区別する。例: 岸(1997a) 岸(1997b)
 
 <文献の書き方のルール>
 *論文の場合
  Thorndyke,P.W. 1977 Cognitive structures in comprehension and memory of
    narrative discourse. Cognitive Psychology,9,77-110.
  Garner,R.,Alexander,P.,Slater,W.,Hare,V.C.,Smith,T. & Reis,R. 1986 Children's
    knowledge of structural properties of expository text. Journal of Educational    Psychology,78,411-416.
  向後千春 1990 操作することはマニュアル文の読みを速める 教育心理学研究,38,
    330-335.
  岸  学・綿井雅康 1997 手続き的知識の説明文を書く技能の様相について 日本教育工学会論文誌,21,119-128.
 *本の場合
  南 博 1980 人間行動学  岩波書店
  Gibson,E.J. 1969 Principles of perceptual learning and development.
    New York:Appleton-Century-Crofts.
  Britton,B.K. & Black,J.B.(Eds.) 1985 Understanding expository text. New Jersey:    Lawrence Erlbaum Associates.   (編者が1人の場合は,Ed. とする)
  林 知己夫・飽戸 宏(編著) 1976 多次元尺度構成法 サイエンス社
                    (編集のみで書いていないときは,編 とする)
 
 *本の中の一部の場合
  福沢一吉 1995 記憶の喪失  高野陽太郎(編) 認知心理学2 記憶 東京大学出版会
    Pp.189-208.
  Graesser,A.C. & Goodman,S.M. 1985 Implicit knowledge,question answering, and
    the representation of expository text. In Britton,B.K. & Black,J.B.(Eds.)     Understanding expository text. New Jersey:Lawrence Erlbaum Associates.Pp.109-    171.
 
【 7.要約 】
 
 要約は,研究の目的から結論までを通してまとめたものである。ここを読めば論文の概要がわかるように「何を目的に,誰を対象に,何を,どうやったら,どうなった,何がいえる」の内容を簡潔に記述する。
 
  *分量はそれぞれの雑誌などで決められている。200字前後というケースが多い。
  *要約をどこに載せるかは,雑誌によっていろいろである。論文タイトルのすぐ後に書くタイプと最後に書くタイプとがある。最初(目次の次)に載せてもよい。
  *要約は,読者が一番最初に読むことを念頭に置いて書く。すなわち全容がわかるように。
  *枚数は2枚程度。
  *英語で書けばbetterである。挑戦してみて下さい。もちろん,フランス語,ドイツ語(ボクは読めないが)でも可である。
 
【8.資料 】
 
 *本文中に載せなかったRAW DATA,プログラム,刺激文章,図版,質問紙全体,結果のすべてなどを整理して載せておく。あとで,データを再分析することがあるので,そのときを想定して,第三者にもわかるようにしておく。
 
【9. おわりに 】
 
 *謝辞(被験者,被験児,手伝ってくれたひとなどに)を書く。
 *ここだけは,感想などを自由に書いてもよい。
 
【 その他 】
 
 *研究を実施した後,被験者の方,指導して下さった方へお礼の文書を書き,結果を報告するのが義務である。必ず行うように。また,論文ができあがったら抜き刷りやコピーを渡すことを忘れないように。
 *すべてのデータや資料は,散逸しないようきちんと保管をしておくこと。あとで再分析することがある。
 *余裕があれば,論文全体を20枚程度にまとめた縮刷版を作っておくと,世話になった方への結果の報告,他の人への説明,学会原稿の作成,受験などのときに便利である。
 
 *終了後は必ずお世話になった学校などへの結果報告及びお礼を忘れないように。後始末をしっかりと。
 
 以上,気合いをいれて1月10日までに完成させること。あとで後悔しないよう,納得がいくまで書くべし。4年生に正月はない!!!!!
 
           ***** 注意 *****
 
 この資料は,岸 研究室専用のものである。記述内容も,岸研究室FORMATであり,実験法を想定して書かれている。したがって,すべての研究に共通するわけではない。
 
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