2005年10月2日 応用生態工学会第9回大会 (於:科学技術館) 

真山茂樹・加藤和弘・大森宏・清野聡子・大崎博之:珪藻を指標とした河川環境の学習プログラムSimRiverの開発


2005年5月15日 日本珪藻学会第26回大会 (於:四日市大学)

真山茂樹・渡邉篤史・鉄矢悦郎:ケイソウ展−科学と美術の連携で何が起きたか

東京学芸大学美術科のグラフィックデザイン、環境プロダクトデザイン、金属工芸の研究室との連携による展覧会を2004年12月18〜26日に開催した。会場には珪藻をモチーフとしたフェルト製の動くオブジェ、銅や鉄板による工芸品、アニメーション、モビール、3DCG、性質を擬人化した珪藻絵巻パネル、ポスターなどを展示。また、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を持ち込み観察を行った。また、珪藻の立体写真の展示、現物の珪藻土とその利用を紹介するコーナー、SimRiverの実演コーナーなどを作った。

回収したアンケートからは、ほとんどの来場者が連携の内容や質を高く評価したことがわっかった。また、再開催の希望や、他の分野間での連携を期待する感想も多くあった。また、一番印象に残ったコーナーとしては珪藻のアートプレパラートをあげたものが全体の2/3あった。来場者の半数以上は非理系と思われたが、彼らは顕微鏡にふれる機会がほとんどないため、インパクトが大きかったのであろう。珪藻については、美しい、神秘的だ、重要であることがわかった、身近な存在であることがわかったなど、来場により、最初抱いていたイメージと異なった感情や知識を得た人がほとんどであることもわかった。


2005年5月15日 日本珪藻学会第26回大会 (於:四日市大学)

渡辺剛・真山茂樹:珪藻種の干潟における分布:本邦13干潟から得た珪藻についての研究


2005年5月15日 日本珪藻学会第26回大会 (於:四日市大学)

石原悟・真山茂樹・小原裕三・大津和久・横山淳史・堀尾剛:河川の珪藻の水田除草剤感受性

水田農業を主体とする我が国において、水田用除草剤は同時期に広範囲で使用されるため水系への流出及び標的外生物に対する影響が懸念されている。化学物質の初期生態影響評価では、単細胞緑藻を用いた72時間の生長阻害試験法が用いられている。しかし、日本の河川における一次生産の主要な部分は付着珪藻であるため、現実的な評価を行うためには、農薬の付着珪藻に及ぼす影響を明らかにすることが重要であると考えられる。通常、単細胞緑藻を用いた生長阻害試験は三角フラスコ等を用いて液体培養を行い、培養72時間後の細胞数を計測することにより行われる。しかし、付着珪藻は容器壁面への付着性が強く、同様の方法を適用することは難しい。そこで、本研究では、付着珪藻の薬剤感受性検定法を検討するとともに、実際の河川に生息している珪藻の除草剤感受性評価を行った。

検定法として、96穴のマイクロプレートを試験容器として用い、試験終了後にクロロフィルaの吸収波長である680nmの吸光度を計測し細胞の増殖を測定した。その結果、再現性のある付着珪藻の薬剤感受性検定が可能となった。また、今回検討した方法を用い河川から単離した珪藻の除草剤感受性を調査したところ、採集地点により珪藻の除草剤感受性に大きな差があることが明らかになった。


2005年5月14日 日本進化原生生物学会第2回大会 (於:甲南大学)

真山茂樹:珪藻のガラス骨格の形成と系統


2005年3月28日 日本藻類学会第29回大会 (於:京都大学)

真山茂樹・平田恵理・四柳敬・Richard Jordan・出井雅彦:異なる場所で採集された羽状珪藻 Pinnularia acidojaponica および近縁種の形態変異と分子系統

本邦の固有種であるPinnularia valdetoleransおよびP. acidojaponicaは,以前は共にPinnularia braunii var. amphicephalaと同定されていた縦溝珪藻である。この2種は生育地がP. valdetoleransは強腐水域,P. acidojaponicaが強酸性域という違いこそあれ,光顕的にも電顕的にも非常に類似する形態を示すものである。強酸性水域に出現するP. acidojaponicaについては古くからさまざまな研究者が報告を行っているが,その光顕的形態は産地ごと,あるいは個体群ごとに若干ではあるが違っているように思われる。

本研究では,4地点から得たP. acidojaponicaの個体群およびP. valdetolerans の1個体群の形態を9変数について計測した。また,この2種と単系統をなす,Caloneis siliculaMayamaea atomusEolomna minimaSellaphora seminulumと共に18SrDNAに基づく分子系統樹を作成した。計測値を主成分分析した結果,P. acidojaponicaでは,各個体群は重なりを持つクラスターとして散布図上に現れた。この重なりは最も離れたクラスター間(潟沼産と御釜産)では重なりは認められないものであったが,両者での塩基配列の置換は3カ所であった。これに対し,P. valdetoleransとは17の置換が認められ,塩基配列の置換数は形態的および生態的相違を指示する結果となった。


2005年1月23日 日本生物教育学会第78回全国大会 (於:広島大学)

真山茂樹・加藤和広・大森宏・清野聡子・大崎博之:遊びながら「わかる」学びながら「かわる」−水質判定シミュレーター「SimRiver」−

理科嫌い、理科離れを示す生徒を積極的に授業に参加させるためには、彼らの心をつかむ教材の開発も必要である。このためにはゲーミングの要素を取り入れた教材開発も有効な方法と考えられる。 SimRiverは生徒が山林、畑、住宅地、人口、下水処理場そして季節という環境を自由に創造でき、その環境から採集した珪藻を基に水質を判定するシミュレーションソフトウェアである。SimRiverの環境設定マップでは、カラフルなイラストで、それぞれの流域環境条件を表すことができる。また、環境条件を設定するたびに、採集地点に出現する珪藻のプレパラートが合成表示されるが、出現する珪藻の種類数の割合や種類数は多様であるうえ、全ての個体が一括して表示されるのではなく、数十秒かけて1個体ずつ漸次表示されていく。表示にあたっては、個体同士が重ならないよう、表示場所を見つけながら配置するようプログラミングされているが、その動きが生徒を画面に注意を向ける効果を生んでいる。表示後の珪藻をデジタル図鑑を使用して分類するが、この操作は画面の珪藻写真をクリックすることで、瞬時に正誤が判定できる。この絵合わせ的操作は特に中学生に人気がある。SimRiverで登場する珪藻の総数は93種あるが、この正誤判定システムにより、誰でも簡単に同定ができる。水質判定には汚濁耐性に基づき3群にわけた珪藻を用いる識別珪藻群法を利用しているが、3つの群のプレパラート内の割合をグラフ表示できるので、指標生物の意味を学ばせることが容易である。最終的には計数票を印刷し汚濁指数を求めることになる。非進学系の高校で本教材を使用した授業をおこなったところ「いつもより授業が楽しい」「こんな授業ばかりだったら、もっと学校が楽しくなる」「いつもなら眠くなる授業が眠くならなかった」「あっとゆうまに授業が終わった」などの感想が書かれた。


2005年1月23日 日本生物教育学会第78回全国大会 (於:広島大学)

真山茂樹・黒田淳子・内田隆志・加藤和弘・大森宏:清野聡子珪藻を用いた水質判定シミュレーターを主眼に置く生物教育と現行カリキュラムとの対応

「SimRiver」は演者らが開発中の、人間活動と河川水質および珪藻の関係を学習するためのソフトウェアであり、それを単体で用いた特別授業の実践からは、水環境に対する理解や生物多様性に関する理解の増進に効果が認められている。しかし、珪藻は中学・高校の教科書に名前はでてくるものの、一般には馴染みの薄い生物であり、その属性や自然界での地位、役割、また利用についてはほとんど知られていない。通常の生物授業の年間計画の中で、SimRiverを用いた授業が唐突に行われることなく、自然な形で実施されるためには、年間授業計画の中に何らかの形で珪藻という生き物の存在や役割について、教員あるいは生徒自身がふれることができるサイドメニューを随時用意する必要があると思われる。

現行の文部科学省学習指導要領の自然環境に関する学習内容以外のどのような箇所で、どのように珪藻を扱うことができるかを示すと共に、大単元の学習指導計画の中で、どのように珪藻に関わり合いを持つことができるかを検討た結果をデジタル指導書の形で提案する。これは、HTMLおよびPDFファイルで作成したもので、従来の単元・内容、学習目標を示した指導計画欄の隣に、珪藻との関わり、補助資料、参考資料の各欄を設け、従来の学習内容とどのように珪藻が関わり合うかを簡潔に示したものである。それぞれの内容は、必要に応じて解説文、写真、図、動画のファイルへリンクしているため、初めて珪藻を扱う教員でもとまどうことなく情報を得ることができる。また、これらの文章、写真、動画等は、それぞれ「珪藻百科」「ビジュアルナレッジ」の形でも提供するものである(こちらは生徒自身が個別学習において理解を深めることを意図して制作されている)。本デジタル指導書と教材群は次のURLから閲覧できる。http://www.u-gakugei.ac.jp/~mayama/


2005年1月22日 日本生物教育学会第78回全国大会 (於:広島大学)

真山茂樹・加藤和弘・大森宏・清野聡子・大崎博之:河川の生態環境を学び考えるためのIT教材を用いた授業の改良と実践結果

演者らは人間活動と河川水質および珪藻の関係を学習するためのソフトウェア「SimRiver」を開発し、幾つかの実践例により教材および教材を用いた授業の評価をおこない、その結果を昨年度の日本生物教育学会第76回全国大会で報告した。そこでは、@学習者は授業に興味を示した、Aコンピュータ&ソフトの使用は興味喚起に効果的であった、B学習者の能動的行為が意欲や意識に強く関与した、Cソフトウェアの完成度は相当高い、というポジティブな結果と共に、Dコンピュータを使うことに対する印象づけは強いが、珪藻や河川環境に対する印象づけは弱い、というネガティブな結果も示された。これは、SimRiverを用いた授業が特別授業として単独で行われたうえ、通常使用しないパソコン室やソフトウエァを使用したため、そのこと自体に興味が向いてしまったことが一因と考えられた。

今回、SimRiverを用いる実習前に、学習者の意識を授業本来の目的へ向かわせるよう、通常の大単元の授業の流れの中でSimRiverを用いた実習が自然に行われるよう指導計画を立案した。また、単に水質判定を疑似体験するだけでなく、なぜ珪藻を用いて水質判定ができるのか、その原理を視覚的に表示できるようソフトに工夫を施した。また、実習では最初から単に自由に流域環境を設定させるのではなく、人口増加や下水処理場設定にストーリー性を導入した。その結果、前年度実施授業の調査に比べ、5段階評価において改善された結果を認めることができた。また、理解力や発展的な興味の高まりが認められた。また、感想文からは、「環境がよければ水質はよくなり、汚染された水に住めない生物も出現するようになるので、環境の保護は生物の保護にもつながっているように感じました」などのように、生徒が環境保全と生物多様性の関係を考えるようになったことが読み取れた。  


2004年10月3日 日本珪藻学会第24回研究集会 (於:富山大学)

渡辺剛・児玉庸助・真山茂樹:干潟珪藻細胞に対する低温プラズマ処理の適用

干潟で得られた珪藻試料には常に多くの砂泥が含まれる。また、干潟に出現する珪藻には、分類の際、上下両殻を同時に観察する必要のある単縦溝珪藻類や、被殻のAmphora型対称を確認する必要のある種が多く含まれる。従来の被殻のクリーニングでは、強酸や酸化剤、アルカリを含む塩素系漂白剤等が多く用いられている。しかし、これらの処理法を用いた場合、上下殻の分離や殻帯の分離、さらに殻の構成要素の破損も生じやすい。このようなの問題回避のために、紫外線照射処理法は有効とされるが、この方法は砂泥を多く含む試料や微量の試料の処理には適さない。

今回、低温プラズマ処理により干潟珪藻の被殻クリーニングを行なったところ、その有用性が認められた。観察の結果、単縦溝珪藻のPlanothidium、Achnanthidiumの種が多数出現することが確認された。これらは従来の方法で処理すると上下殻が分離するため、一方の殻のみでは無縦溝、単縦溝、もしくは双縦溝珪藻のいずれであるかが判別できなかった。しかし、低温プラズマ処理では殻の分離や破損を伴わないため、それを容易に判別できた。また、Amphora種の被殻や中心目珪藻の長鎖状の群体も観察できた。低温プラズマ処理は、干潟珪藻細胞の観察には有効な方法だと考えられる。


2004年10月3日 日本珪藻学会第24回研究集会 (於:富山大学)

河島綾子・真山茂樹:Surirella tenera f. cristata Hustedt のタイプスライドと類似種について


2004年10月3日 日本珪藻学会第24回研究集会 (於:富山大学)

真山茂樹・加藤和弘・大森宏・清野聡子:静止画情報を効果的に伝達する珪藻学習用教材「ビジュアルナレッジ」の作成

研究者が所有する画像資料には学校教育の教材となり得るものも多い。しかし、それらの多くは静止画の写真である。学習内容に対してまったく関心のない初習者に、効率よく情報伝達するためには、静止画をいかに飽きさせずに提示するかが一つの鍵となる。

今回、webブラウザのプラグインとして開発されているMacromedia社のFlashを利用し、静止画や文字を動かして提示する「珪藻と河川環境に関する教材」を作成した。本教材は5つのシリーズからなる“動く紙芝居”で、それぞれが5〜6分程度で終了する。シリーズ1〜3では中学、高校の授業内容である光合成や食物連鎖を、珪藻を主体として示したほか、珪藻の一般的属性である殻、運動、分裂、有性生殖などの内容を含む。また、シリーズ4では河川と人間生活の関係を、シリーズ5では珪藻の応用例を示した。教材を使用した生徒の聞き取り調査では「アニメで順を追って説明されるので、始めて珪藻にふれたのによくわかる」「実際の映像が見られるし、図を動かして見せてくれる部分もとてもわかりやすい」などの声が寄せられた。 


2004年9月18日 日本地質学会第111年会 (於:千葉大学)

高橋 修・真山茂樹・湯浅智子:理科総合Bにおける地学と生物を総合した教科横断的な学習プログラム


2004年9月4日 18th International Diatom Symposium (in Miedzyzdroje, Poland) 

Idei, M., Nagumo, T. and Mayama, S.: Valve morphogenesis in the pennate diatom genera Pinnularia and Caloneis 


2004年9月3日 18th International Diatom Symposium (in Miedzyzdroje, Poland) 

Watanabe, T., Hiramatsu, K. and Mayama, S.: Comparative studies on diatom assemblages from tidal flats in eastern Hokkaido and Tokyo Bay

 


2004年9月2日 2004年9月3日 18th International Diatom Symposium (in Miedzyzdroje, Poland)

Mayama, S. and M. Idei: Valve ongogeny in several naviculoid diatoms and their phylogeny

 


2004年8月20日 日本地学教育学会第58回全国大会 (於:岡山理科大)

高橋 修・真山茂樹・湯浅智子:河川とその流域を題材にした環境変化の学習プログラム


2004年8月4日-6日 第6回日本進化学会 (於:東京大学)

湯浅智子・高橋修・真山茂樹・本多大輔・松岡篤・Kjell.R.B.:分子解析から示される原生生物放散虫類の系統関係

放散虫類(Radio1aria)は,浮遊性原生生物で,熱帯から極海までの海域に広く分布しており,従来,Acantharea綱,Po1ycystinea綱,Phaeodarea綱の3綱に分類されてきた.近年,“放散虫"の18SrDNA領域を用いた分子系統解析から,Acantharea綱とPo1ycystinea綱は姉妹群を形成するが,Phaeodarea綱は,これら2綱とは異なるグループであるCercozoaの内で単系統になると報告されている(Amara1 Zett1er et a1., 1997; Po1eteta1., 2004).

本研究では,新たにPo1ycystinea綱9種およびPhaeodarea綱3種の18SrDNA領域の塩基配列解析を試みた.その結果,Po1et et a1.(2004)で指摘されたように,Phaeodarea綱はCercozoaの内で単系統になり,Po1ycystinea綱はAcantharea綱と姉妹群を形成した.さらに,Po1ycystinea綱内部では目レベルでこれまでの見解とは異なった結果が得られた.


2004年6月25-27日 日本古生物学会2004年年会 (於:北九州市立自然史・歴史博物館)

湯浅智子・高橋修・本多大輔・真山茂樹・K.R.Bjorklund:分子系統解析から示される放散虫の分類に関する新展開

Acantharea、Po1ycystinea および Phaeodarea は浮遊性原生生物で、熱帯から極海までの広い海域に分布している.Meyen (1834)によるPo1ycystineaの最初の報告以来、これら3綱の分類学的・系統学的研究は、現生種や化石の骨殻形態や生層序に基づいて行われており、この3綱、あるいはAcanthareaを除いた2綱に対して“放散虫”という総称が用いられている.Haecke1(1887)など、初期に提案された“放散虫”は、Acantharia、Spume11aria、Nasse11aria、そしてPhaeodariaの四つの分類群に用いられていた.この分類体系は幾度も再構築され、例えば、Riede1 (1967)や Anderson (1983)などは、殻の構成物質に基づき、SiO2の殻を持つ Po1ycystinea とPhaeodarea を“放散虫”として認め、SrSO4の殻を持つAcanthareaは“放散虫”に含めていない.一方、原生生物全体を視野に入れた生物学的な分類では、これら3綱は収斂進化の結果であって、Levine et a1. (1980)などは、“放散虫”という用語自体を認めていない.このように“放散虫"という用語の示す範疇は暖昧なままである.

近年、この``放散虫"の18SrDNA領域を用いた分子系統解析が進んでいる.これまでに Acantharea 8種 (Amara1 Zett1er et a1. 1997)、 Po1ycystinea 14種 (Amara1 Zett1er et a1., 1997; Yuasa et a1.,2003; Takahashi et a1.,2004)、Phaeodarea 3種 (Po1et et a1., 2004) の塩基配列が報告されており、それらの結果、Acantharea と Po1ycystinea は単系統を形成するが、 Phaeodareaは、これら2綱とは異なるグループである Cercozoa の内で単系統になった.さらに、Po1ycystineaの内では、Spume11arida の群体性の種は、Nasse11ar1daと近縁になり、Spume11arida は側系統になることが示唆された.このように、18SrDNAのデータは、現在用いられている“放散虫"の分類体系とは大きく異なる結果を示した.形態と分子系統を統合した分類体系の再検討が必要であると考える.


2004年3月28日 日本藻類学会第28回大会(於:北海道大学)

渡辺剛・真山茂樹:東京湾三番瀬における珪藻群落の解析;1m離れると珪藻群落は変化するのか?

東京湾三番瀬において,波打ち際から陸に向かって1mおきにAからEの5地点を設け,珪藻を採集し,珪藻群落を調査した。得られた試料を硫酸処理によりクリーニングし,プレパラートを作成後,出現珪藻が500殻以上になるまで計数,同定を行った。その結果,それぞれ約500殻中,Aでは18属71種,Bでは22属64種,Cでは21属71種,Dでは21属73種,Eでは17属41種が確認された。また,三番瀬では合計36属122種が出現し,非常に多くの属と種類により群落が構成されていることが明らかになった。

 出現した属の中ではAmphoraが26種で最も多く,以下順にNavicula(12種),Planothidium(12種),Nitzshia(10種),Achnanchidium(7種) ,Cocconeis(7種)であった。各地点のShannon-WienerのH’(nat)は0.66-2.88で,各地点の合計から算出した三番瀬のH’は3.61となった。三番瀬のH’は淡水の湿地である宮床湿原(1.15-2.97)や北海道の三つの干潟(2.72-3.96)の調査結果と比較すると前者より高く,後者とは同程度であった。各地点間のMorishitaの類似度Cλは0.137-0.938となり,三番瀬と北海道の三つの干潟とのCλは0.001-0.002となった。以上より,三番瀬における珪藻の群落構造は地点間でよく一致し,珪藻群落は干潟ごとに異なることが明らかになった。


2004年3月28日 日本藻類学会第28回大会(於:北海道大学)

真山茂樹・加藤和弘・大森宏・清野聡子:珪藻による水質判定シミュレーションソフトSimRiverを用いた中等・高等教育プログラム−河川の水質指標生物を生物教育の中でどのように活用するか−

 演者らは河川の流域環境と水質と珪藻の関係を学ぶ学習教材ソフトSimRiverを開発し,昨年度の日本藻類学会大会でその概要を報告した。その後,中学,高校,大学で授業研究を重ね,授業結果に基づき,指導プログラムおよびアプリケーションソフトの改良を行ってきた。

当初,本教材を用いた授業は,学習者自身が作った流域環境から生じる水質を珪藻から知るという,バーチャルな水質判定体験実習という要素が強かった。授業後の調査からは,学習者が興味を持って実習をおこなったこと,アプリケーションソフトの完成度の高いことが伺われた。一方,学習者が最も強く印象づけられていたことは,コンピュータ利用そのものや,ソフトの操作そのものであることも明らかとなった。そこで,高校生物の生態を学ぶ大単元の流れの中で,本教材が有効に使えるよう,指導方法とソフトの改良をおこなった。生物の社会性の学習,環境と生物の作用・反作用の学習,生理的最適地および生態的最適地についての学習などと関連を持ちながら授業を展開する指導案を作成し実践した。また,大学生に対しては,環境と群落内の多様性の関係を本教材を用いて実習させる授業をおこなった。その結果,より生物教育の内容を教授できる授業の実践ができたので,今回それを紹介する。


2004年3月28日 日本藻類学会第28回大会(於:北海道大学)

高橋ゆう子・○真山茂樹:殻の基本構造が異なる羽状珪藻Cylindrotheca3種のsil1-like DNA塩基配列

 Cylindrotheca nannoporosa sp. nov.,C. fusiformisおよびC. closteriumは円筒形の被殻,管状縦溝,糸状の多数の帯片,2枚の色素体という共有形質をもつ珪藻である。これらは18S rDNAによる系統解析では単系統群を構成するが,殻の基本構造は種間で大きく異なっている。すなわち,C. fusiformisは縦溝脇の中肋の部分と,縦溝上を跨ぐ半円形の小骨の部分のみ珪化した殻をもち,通常の珪藻が条線を存在させる領域に珪化した構造が存在しない。C. closteriumC. fusiformis同様の縦溝中肋および小骨をもつが,条線のある殻面を有する種である。しかし,胞紋はなく,非常に弱く珪化した基本層の上に脆弱した糸状の間条線が斜めに密に(120本/10mm)配列する。C. nannoporosaC. closteriumに類似する殻の基本構造をもつが,条線構造は無く,直径約40nmほどの小孔が殻面上に不規則に散在する。

SilaffinはC. fusiformisで報告されたシリカ沈着に直接関わるタンパク質として知られる。プライマーを用いCylindrotheca3種のsil1-like DNA塩基配列を決定し,比較をおこなった結果,本配列は高度に保存されたものであることが判明した。従って,3種の示す殻の基本構造の違いは,シリカ沈着そのものによって決定されるのではなく,他の形態形成機構の相違によると考えるのが妥当であろう。


2004年1月24日 日本生物教育学会第76回全国大会 (於:鳴門教育大学)

真山茂樹・加藤和弘・国生田かおり・大森 宏・清野聡子・大崎博之:河川の生態環境を学び考えるためのIT教材を用いた授業:実践と評価そして改善へ向けて

 演者らは河川の流域環境とそこに出現する珪藻を用い,水質判定を体験できるシミュレーションソフト「SimRiver」を昨年度開発した.本ソフトは流域環境を生徒自身が自由に設定でき,その設定条件から予想されるCOD値に呼応する珪藻群集のプレパラートが表示され,それを利用して水質判定を行うものである.(本ソフトの一部は以下で公開中 http://library.u-gakugei.ac.jp/diatom/)

 SimRiverを使用した授業を中高生を対象に4回実施し,アンケートを採った.感想文に対し,分類型多変量解析の一つであるTWINSPANで解析を行った.回答文をセンテンスに分け,そこに含まれるキーワードとともに解析した結果,297件の回答は「学習の手法や難易度,意欲に関する回答」と「学習の対象に関する回答」に大別され,さらに8型に分けられた.結果からコンピュータとソフトウェアの使用は,学習者の興味を喚起する上で効果的であり,負の効果はほとんど無かったと推定された.ソフトウェアが未完成の時期には,わかりにくい,使いにくいといった不満が多かったことを考えると,この結果は,コンピュータの採用の妥当性のみならず,使用したソフトの完成度が相当に高かったことを意味するものと思われる.また,自ら条件設定を行うことについて多くの回答者が言及していることは,水質予測モデルとの組み合わせが成功であったことを示すと同時に,学習者の能動的な行為が学習意欲や学習後の意識に強く関与していることを示すものである.しかし,今回の授業では,学習の主たる対象である珪藻や河川環境に対して強く印象づけられたと思われる回答者は2割程であり,コンピュータを使うことそれ自体に興味が向いてしまったと思われる学習者がその3倍以上いた.授業内容自体に強い興味を持たせるには,実習前に授業内容に対する強い学習意欲をもたせておく工夫が必要である.現在,大単元の流れの中でSimRiverの実習ができるよう,新たな指導案を開発中である.


2004年1月24日 日本生物教育学会第76回全国大会 (於:鳴門教育大学)

真山茂樹・真山なぎさ・加藤和弘・大森 宏・清野聡子・大崎博之:河川の生態環境を学び考えるためのIT教材を用いた授業:ビデオ「珪藻の採集と観察」の作成とその効果

 演者らは河川の主たる生産者である珪藻を用いたマルチメディア教材を開発し,その中に3本のビデオを含めた.そのビデオを用いた授業の効果について報告する.本ビデオは,珪藻の簡単な紹介に始まり,河川での採集方法,生細胞の観察像,殻観察のための細胞処理の方法,プレパラート作成方法,殻の顕微鏡観察,河川の汚濁と出現する珪藻種の関係,珪藻の出現する水域の紹介を,順を追って3つのパートに分けて紹介したものである.

 ビデオを大学1年生53名を対象に,生物実験の授業中で鑑賞させ調査を行った.感想文からは,珪藻が多様な水圏環境に生育していること,種類数が大変多いこと,環境に応じて異なる種類が生育していること,植物であること,殻がきれいであること,身近なところに生育していることなどに驚きを感じたことが読み取れた.ビデオを鑑賞させた後,実際に珪藻の採集,試料調製を行わせたところ,何ら問題なく作業を遂行した.また,作成したプレパラートの観察スケッチは,ビデオを見る前に描いたものと比べ細部まで明瞭に観察されたものとなっていた.ビデオ観賞後,アンケート調査を授業1ヶ月後に行った.その結果,珪藻は種の多様性が高いこと,運動性があっても光合成を行う植物であること,異なる水域や水質においても出現すること,珪藻などの生物を用いて水質判定を行うことができることを理解させ,知識として定着させるために,本教材を用いた授業は効果的であることが示された.しかし,珪藻の色が黄色であることについては,一時的に知識を与えることはできても,それを定着させることは難しいということが示された.本ビデオは以下で配信中である. http://library.u-gakugei.ac.jp/diatom/


2003年11月9日 日本珪藻学会第23回研究集会 (於:東京海洋大学)

真山茂樹・加藤和弘・大森 宏・清野聡子:珪藻を用いた学習教材SimRiverの改良と評価

 演者らは河川流域環境と水質との関係を珪藻を通じて理解する教育用シミュレーターSimRiverの開発を行っている。今回、教材の基本骨格となるシミュレーションプログラムの学術面における評価を行った。

 上流から下流まで5地点につき、本プログラムを使用して採集し、得られた珪藻に基づき多様性、均一性指数を求めそれらを比較した。次に、それぞれの地点で春夏秋冬に採集したデータをDCAで分析した。結果はプログラムにより作り出される種組成や多様性が、水質汚濁や季節変化に対し、実情に近い形で表示されてることを示し、本教材の学術的正当性が確認された。

また、昨年度実施した、本教材を用いた授業のアンケート調査結果の解析を行った。文章による自由回答についてはTWINSPAN分析を行った。その結果、自らが条件設定を行えることが、学習者の意欲や学習後の意識に強く関与していることが示された。しかし、本来の学習対象である珪藻や河川環境よりも、コンピュータとソフトを使うこと自体に強い興味が向いていることも判明した。今後は、授業本来の目的に意識を仕向けるため、単元を通した有効な授業案の開発が必要であると考えられる。


2003年9月8日 Tenth meeting of the International Association of Radiolarian Palaeontologists (in Lausanne)

Yuasa, T., Takahashi, O. and Mayama, S.: Molecular phylogeny of the solitary shell-bearing Polycystinea

 Polycystine Radiolaria (Subphylum Sarcodia; Class Polycystinea) are holoplanktonic protists, occurring exclusively in modern open ocean environments. They have a rich fossil record due to the presence of skeletal material comprised of silica which is preserved in marine sediments. Since Meyens (1834) first report on polycystine Radiolaria, many studies of Radiolaria have been published during" the past approximate seventeen decades (Radiolaria sensu lato includes Class Acantharea. Class Polycystinea, and Class Phaeodarea). Until recently, the application of molecular analysis to the study of Radiolaria was delayed. Because of the difficulty of the radiolarian reproduction in laboratory cultures, it is not easy to obtain a sufficient amount of DNA for molecular analysis.

The phylogeny of the solitary polycystinean Radiolaria with skeletons of opaline silica, was examined hereusing 18S rDNA (small-subunit rDNA) gene sequence analysis. Three types of tree construction methods, namely neighbor joining (NJ), maximum parsimony (MP), and maximum likelihood (ML), were used to elucidate the phylogenetic relationships among the solitary shell-bearing Polycystinea, the colonial and skeletonless Polycystinea, and the Acantharea (Radiolaria with strontium sulfate skeletons).

The 18S rDNA molecular phylogeny among Radiolaria suggested that the Polycystinea was divided into at least two distinct lineages consisting of the following taxa: (1) the shell-bearing solitary Polycystinea including the Pterocorythidae and the colonial and skeletonless Polycystinea including the Collospaeridae, Sphaerozoldae, and Thalassicollidae; and (2) the shell-bearing solitary Polycystinea including the Spongodiscidae. The Polycystinea thus clearly shows a paraphyly among Haeckels Radiolaria. Moreover, the monophyly of the clade including the Acantharea and the Spongodiscidae was supported by relatively high bootstrap values in the NJ, MP, and ML analyses accompanied by the Kishino-Hasegawa (KH) test. This lineage is characterized by having mineralized radiate skeletons though there is a difference in the chemical components between SiO2 and SrS04.

Until now, although the Acantharea and the solitary shell-bearing Polycystinea have not been categorized into as one group, if a new taxonomic group among Radiolaria will be established based on the monophyly of the both clades, it may claim to find out other taxonomic criteria which could be latent in these organisms. The results thus suggested that the currently used taxonomic system in Radiolaria may need serious revision.


2003年6月29日 第1回日本進化原生生物学研究会 (於:金沢大学)

湯浅智子・高橋 修・本多大輔・真山茂樹:有殻単体性放散虫の分子系統樹


2003年6月29日 第1回日本進化原生生物研究会 (於:金沢大学)

真山茂樹・高橋修・湯浅智子:放散虫および有孔虫に細胞内共生する藻類


2003年5月18日 日本珪藻学会第24回大会 (於:大阪医科大学)

真山茂樹・平松勝晃:北海道東部3干潟の珪藻群集

 北海道東部において、比較的近隣に位置する浜中、温根沼および風蓮湖春国岱の干潟における珪藻群集を調査した。得られた試料を硫酸処理によりクリーニングし、プレパラートを作成後、出現珪藻が500殻以上になるまで計数、同定を行った。同定は計数した約半数の個体を撮影し、それに基づいて行い、正確を期するよう心がけた。その結果、それぞれ約500殻中、浜中では21属57種、温根沼では16属48種、風蓮湖春国岱では35属97種が確認された。また、3干潟での合計は41属144種であり、非常に多くの属と種類数により群集が構成されていることが明らかとなった。

 出現した属の中ではNaviculaが32種で最も多く、以下は順にAmphora (13種)、Nitzschia (13種)、Fallacia (10種)であった。それぞれの試料で最も優先的に出現した珪藻は、浜中ではPlanothidium haukiana (22.58%)、温根沼ではEunotogramma aff. marinum (37.57%)、風蓮湖春国岱ではP. haukiana (9.44%)であった。各地点のShannon-WienerのH' (nat) は3.00, 2.72, 3.96であった。この値は同じ湿地であっても淡水の宮床湿原での調査結果 (1.15-2.97) と比べると高いものであり、干潟の珪藻植生の多様性の豊かさが示された。


2003年3月29日 日本藻類学会第27回大会 (於:三重大学)

真山茂樹・押方和広・加藤和弘・大森宏・清野聡子:珪藻を用いて河川環境を理解するコンピューター教材の開発とその実践

 識別珪藻群法は演者の一人真山と小林が開発した河川の水質汚濁判定法で、20年に渡り実用されている。今回、Visual Basicを使用し、水質予測プログラムと珪藻写真表示プログラムとを合体させ、識別珪藻群法により河川の水質判定を仮想体験するコンピュータ教材ソフトを作成した。

 本ソフトでは、学習者が画面上で5つに分割された流域の土地利用条件、人口、下水処理場の有無、季節を選択し、珪藻の採集地点を決定すると、その地点のCOD値が予測され、その値に出現する珪藻群集のプレパラート観察像がモニターに表示される。次ぎにプレパラート像の横に表示される図鑑を利用して、珪藻の同定と計数を行い、識別珪藻群法により水質判定を行う。条件設定は繰り返し行うことができ、表示される珪藻群集は、乱数表によりその都度異なったものが作成される。また、レベル設定により難易度を変化させることができるため、中学生から大学生・社会人まで、さまざまな習熟度の学習者に適用することができる。本ソフトには93種の珪藻写真を図鑑として用意したが、初心者でも同定が容易に行え、その答え合わせができるよう工夫を施した。また、中高生には楽しく学習ができるよう、流域地図や土地利用条件および人口を示すイラストにおいては質の高いものを目指した。教材を使用し中高生計105人を対象に計4回の授業を行った。最も易しいレベル1は、使用法の説明を含め20分以内に実習が行われ、引き続き行ったレベル3でも30分に何に実習を行えた。事後調査の結果、教材に対する興味、実習への意欲、授業内容への関心のいずれもが良好と判断された。


2003年3月28日 日本藻類学会第27回大会 (於:三重大学)

栗山あすか・○真山茂樹:18S rDNAに基づく羽状珪藻Eunotiaの系統

 羽状珪藻 Eunotia Ehrenb. は他の縦溝珪藻と比べ縦溝が著しく短いことから、縦溝珪藻の中で最も原始的であると古くから考えられてきた。しかし、化石的証拠は必ずしもこれを支持するものでなく、本属の系統学的位置に関しては未だ解明されていない点が残っている。また、Eunotiaに近縁とされるDesmogoniumの帰属についても、定説となるような確固たる形質は知られていない。

 本研究ではDesmogonium rabenhorstianum (=Eunotia rabenhorstiana) を含むEunotia10種(E. tropica, E. serra, E. arcus, E. bidens, E. rabenhorstiana, E. monodon var. asiatica, E. flexuosa, E. curvata var. linearis, E. pectinalis, E. formica var. smatrana)について18S rDNAの塩基配列に基づく系統樹を構築して系統解析を試みた。その結果、これら10種は単系統を構成し、その中に"Desmogonium"も含まれることが判明した。系統樹のEunotia属内トポロジーに対するブートストラップ信頼値は低いものが多いが、高いものとしては次の姉妹種があった(括弧内は姉妹群を特徴付ける形質)。E. tropicaE. serra(殻背側の波打ち)、E. bidensE. rabenhorstiana(多数の円盤型葉緑体)、E. pectinalisE. formica var. smatrana(特徴付ける共有形質は特に見あたらない)。Eunotia属全体の単系統性を示すブーツストラップ値はあまり高くなく、OTUの数により数値はかなり左右される。これは本属に近い他属の塩基配列情報が欠落していることも一員と考えられる。今後、他属の珪藻についても分子的解析を行い、データを蓄積することが必要である。


2003年3月28日 日本藻類学会第27回大会 (於:三重大学)

湯浅智子・真山茂樹・高橋 修・本多大輔:共生藻を持つ放散虫の分子系統

 放散虫は海洋に生息する浮遊性の原生生物で,棘針綱(Acantharea),多泡綱(Polycystinea),濃彩綱(Phaeodarea)の3綱に分類される(Levine et al. 1980)。Polycystineaの一部を除き,一般に珪酸質ないし硫酸ストロンチウムの骨格,あるいは殻をもち,現生種,化石種を問わず,古くはHaeckel(1908)から,骨格,殻の形態,あるいは生体内部構造などの形態的特徴に基づく系統学的研究が行われてきた。これら放散虫のうちPolycystineaは,一般に,細胞内部に共生体として藻類を宿しており,これまで,電子顕微鏡観察により,渦鞭毛藻・プラシノ藻・黄金色藻が(Anderson 1983),また,分子解析により渦鞭毛藻・プラシノ藻が(Gast and Caron 1996),共生体として報告されている。しかし,Polycystineaによる共生藻類の選択が,種特異的なものなのか,それとも,柔軟性があるものなのかは,いまだ明らかにされていない。本研究では,まず,18S rDNAの塩基配列を用い,宿主放散虫と共生藻相方の分子系統における位置を探ることを目的とした。  

 解析には,沖縄県瀬底島沖合で採集されたPolycystineaに属するDictyocoryne truncatum (Ehrenberg),Spongaster tetras Ehrenbergの2種を用いた。生細胞では共生藻の有無の確認が困難であるが,演者らによる落射蛍光顕微鏡を用いた観察で,UV励起により藻類の共生が確認されている。これらを単離後,物理的に宿主と共生藻を分け,それぞれについてPCR法およびクローニングを経て,18S rDNAの塩基配列解析を試みた。決定したPolycystineaの2種の塩基配列と国際塩基配列データベースから得た既知の放散虫の塩基配列に基づき,近隣結合法,最大節約法,および最尤法を用いて系統樹を構築したところ,この2 種は,Polycystineaの内群ではなく,Acanthareaの姉妹群として位置づけられた。今後,それらの共生藻の18S rDNAを解析することにより,放散虫と藻類の共生関係の解明の糸口になるものと考える。


2003年1月26日 日本古生物学会第152回例会 (於:横浜国立大学)

湯浅智子・高橋 修・本多大輔・真山茂樹:有殻単体性放散虫Spongodiscidae科数種の分子系統解析

 放散虫類(Radiolaria)は,従来,棘針綱(Acantharea),多泡綱(Polycystinea),濃彩綱(Phaeodarea)の3綱に分類されてきた.これらの綱は,形態的特徴に基づいて定義されているが,各綱間の系統関係は,化石による古生物学的な証拠からだけでは,十分に類推することができないのが現状である.近年,多くの生物群で,DNAの塩基配列に基づく系統解析が行われ,形態学的特徴とDNA塩基配列の,双方からのアプローチによる系統関係類推の有効性が示されている.しかし,放散虫類における分子系統の研究はあまり進んでいない.これまで,PolycystineaとAcanthareaの数種について,いくつかの分子系統解析の結果が報告されてきた.それらの中で,Zettler et al.(1997)とLopez-Garcia et al.(2002)は,PolycystineaとAcanthareaの2綱の系統関係について論議を行っている.しかし,彼らによって解析されたPolycystineaは,群体性もしくは殻を持たないSpumellaria目の種のみであり,化石においても現生においても多産する珪質の殻を持つ単体性の種は,いまだ解析されていない.

 本研究では,有殻単体性のSpumellaria目に属する放散虫の分子系統解析を行うことを目的とし,沖縄県瀬底島沖合にて採集した試料を用い,PCR法およびクローニングを経て,塩基配列解析を試みた.その結果,Spongodiscidae科に属するDictyocoryne profunda Ehrenberg,Dictyocoryne truncatum (Ehrenberg),Spongaster tetras Ehrenbergの18S rDNAの塩基配列を決定することができた.これらの塩基配列と国際塩基配列データベースから得た既知の放散虫の塩基配列に基づき,近隣結合法,最大節約法,および最尤法を用いて系統樹を構築し,その系統学的位置について考察を行った.


2003年1月12日 日本生物教育学会第74回全国大会 (於:山形大学

真山茂樹・加藤和弘・大森 宏・清野聡子・押方和広:河川の生態環境を学び考えるためのIT教材の開発

 河川は身近な環境の一つであり、その生態系にはさまざまな生物が成育する。このため、河川は環境教育や生物教育の場として良好な条件を潜在的に備えていると考えられるが、実際に授業で扱うとなると、野外へ出ることにはしばしば困難がつきまとう。このような状況に対し、ITを利用した教材は有効な解決手段となりうるものである。演者らは、河川生態系における主要な生産者である珪藻に主眼を置き、生徒が河川の生態環境を学び考えるためのIT教材の開発を行った。

開発した教材はHTML形式のインターフェイスに双方向性型教材ユニット群と映像教材ユニット群を統合したもので、前者には人間活動〜河川水質〜珪藻群集間の関係を理解するためのプログラムソフト「SimRiver」と、多様な生物が生息するためには多様な環境が必要であることを理解するためのソフト「SimDiversity」が、後者には珪藻の基礎知識および採集と観察に関する3本の「ビデオ」、静止画像を主体とした情報を提供する「ビジュアルナレッジ」、および文章と図を主体としたデータベース「珪藻百科」が含まれる。

 「SimRiver」では、学習者が上流から下流までの流域環境(土地利用[山林・農耕地・住宅地]、人口密度[0〜10000人]、汚水処理場[有・無])および季節を自由に設定することにより、5地点での水質がプログラムにより予測され、採集地点の水質に対応する珪藻群集の顕微鏡プレパラート画像が作成される。このプレパラートの珪藻を同定・計数することで水質判定を行うが、プレパラート画像に示される珪藻の各個体は、その種が掲載された図鑑のページとリンクされている。図鑑写真の配置は、必ずしも分類体系に沿ったものでなく、生徒が見間違えやすい種類毎にまとめて配置した。さらに、プレパラート写真と図鑑写真を連続して右クリックすることで同定の正誤の確認ができるため、初心者でも容易に作業を行うことができる。水質判定後、環境条件を変更してシミュレーションすることが可能であり、環境悪化・改善の結果の水質状態を珪藻群集の変化を通じて理解することができる。本教材を使用し、中・高生に授業を実施後、質問紙を用いて教材の有効性の検証を行った。


2002年11月17日 日本珪藻学会第22回研究集会 (於:三浦「まほろばマインズ」)

真山茂樹:近年におけるAchnanthidium convergensAchnanthidium pyrenaicumの分布変化

 Achnanthidium convergens (H. Kobayasi) H. Kobayasiは1965年に埼玉県荒川の上流域からAchnanthesとして最初に記載された珪藻である。殻は狭楕円形で縦溝殻の条線が殻端部で収斂することを特徴としている。本種は日本各地で比較的きれいな河川にしばしば優占的に出現するが、世界的には韓国から報告があるのみで、他の地域からの報告はない。

 Achnanthidium pyrenaicum (Hust.) H. Kobayasiはピレネー地方から原記載された種で、殻はやや不相称の皮針形で、殻端はくさび形、縦溝殻の条線は殻端部では緩く放射状となる。1992年に多摩川上流部の和田橋で記録されるまで、本種の本邦における出現記録は存在しない。しかし、その後本種は多摩川水系の比較的きれいな水域全体に広がり、A. convergensに替わって優占的に出現するようになってきた。本年の調査では、A. convergensのタイプロカリティーである荒川でも、圧倒的な多さでA. pyrenaicumが出現していた。A. pyrenaicumは員弁川、長良川、天竜川、千曲川でも記録されており、今後、生態系および種の保全、並びに環境問題の観点から、伝搬の経路、優占的に増殖する理由、A. convergensとの遺伝的関係に注目し、全国的な調査をすることが必要であると考えられる。


2002年11月16日 日本珪藻学会第22回研究集会 (於:三浦「まほろばマインズ」)

真山茂樹・加藤和弘・大森 宏・清野聡子・押方和広:中学理科・高校生物における珪藻を用いた授業について

 珪藻は多様性の観点からも、また、水圏生態系の重要な生産者としても、教育において重要な生物であり、従来は、中学・高校の理科・生物の教科書に必ず登場していた生物である。しかし、今回の学習指導要領の改訂に伴い、珪藻を授業で扱うことは、従前にもまして難しくなった。一方、新たに登場した総合的な学習では、河川の環境教育が各地で行われるようになってきた。河川の自然環境を扱う以上、珪藻は多かれ少なかれ何らかの形で授業内容に関わりをもつはずである。しかし、珪藻は小さく、扱いや観察が中学・高校では容易でない。また、珪藻に関する教員の知識もあまり深くないのが現状である。

演者らは中・高生の授業で用いることのできる、ITを用いた珪藻教材を開発し、授業実践を通して改良を続けている。本教材はビデオと河川流域環境と水質の関係を珪藻を通じて学び理解するソフト、およびデータベースを1つのインターフェイスに結合したものである。今回は、その教材内容と授業実施結果の一部を紹介する。 


2002年11月16日 日本珪藻学会第22回研究集会 (於:三浦「まほろばマインズ」)

高橋ゆう子・真山茂樹:羽状縦溝珪藻数種におけるsil1様DNA断片の塩基配列の決定と18S rDNAに基づく系統

 近年、KorgerらによりCylindrotheca fusiformisの細胞壁から、in vitroにおいて高いシリカ沈澱能力を持つsilaffinというタンパク質が単離された。このsilaffinのうち、1ペプチドのアミノ酸配列と、そのcDNA配列(sil1)がすでに決定されている。しかし、他種の珪藻では、このsil1配列が発見されていないため、本研究では、Cylindrotheca fusiformis以外の種で、sil1様配列の探索を試みた。その結果、nested PCRにより、羽状縦溝珪藻4種(Cylindrotheca closterium, Cylindrotheca sp., Nitzschia palea, Eunotia tropica )のゲノムDNAからsil1様DNA断片を増幅することができた。このDNA断片はsil1とかなり高い相同性を示したため、羽状縦溝珪藻以外の珪藻や珪藻以外の近縁生物においても保存されていることが予想され、将来、珪藻に関する分子系統解析において使用される新しい遺伝子種と成り得ることが期待される。また、これら4種およびC. fusiformisの18S rDNAによる系統解析を行った結果、Cylindrotheca属3種が単系統性を示した。Cylindrotheca属の形態はNitzschia属のものと高い類似性を示すが、本結果は、これら2属の分離の妥当性の一端を示すものと考えられる。


2002年11月16日 日本珪藻学会第22回研究集会 (於:三浦「まほろばマインズ」)

柴田さやか・真山茂樹:数種類の珪藻における分子系統学的解析

 Punctstriata linearis Williams & Roundは無縦溝珪藻であり、かつてはFragilaria属の種と同定され、本邦でもしばしば報告されていた。しかし本種は条線構造がFragilariaとは異なることが今日では判明している。Berkelaya rutilans (Roth) Grunowは顕著に短い縦溝をもつ珪藻であり、その伸長した中心節領域は無縦溝珪藻の形態をも彷彿とさせる。しかし真山・中島が日本植物学会第66回大会で発表したように、本種の中心節領域の殻の形成様式と、無縦溝珪藻の形成様式との間に関連性はみられない。Diploneis papula (A. Schmidt) Cleveは縦溝珪藻のなかでも特に複雑な殻の構造(多層構造)をしており、その系統的位置の詳細は未だ不明である。

これらの3種の18S rDNAの塩基配列を解析し、国際塩基配列データベースから得た他種の配列とともに、NJ法による分子系統樹を構築した。その結果、P. linearisFragilariaとは単系統を形成せず、Diatoma と単系統を形成した。一方FragilariaThalassionemaと単系統を形成しており、P. linearisFragilariaと系統的に離れていることが示唆された。しかしBerkeleyaDiploneisではこれらを含むトポロジーのブーツストラップ値が低く、信頼性のある系統学的位置は決定できなかった。       


2002年9月22日 日本植物学会第66回大会 (於:京都大学)

真山茂樹・中島直子:羽状縦溝珪藻 Berkeleya rutilans の殻の形成過程と系統

 従来,縦溝珪藻の縦溝は,無縦溝珪藻の唇状突起が伸長することにより進化したものと考えられてきた。演者は昨年度の日本植物学会で無縦溝珪藻Fragilariaの殻の形成様式を報告したが,それは縦溝珪藻における形成様式とは異なり,形成初期段階では,むしろ中心珪藻の形成様式に類似しているものであった。

 羽状縦溝珪藻であるBerkeleya rutilansは,軸域に沿って2本の短い縦溝枝をもち,その著しく伸長した中心節領域の形態は無縦溝珪藻に似た様相を示す。今回B. rutilansの形成中の殻を電子顕微鏡で観察した.観察された最も初期の殻は細い帯状で幅約90nm,完成殻の中心節長よりやや長く,長さ10μm前後で完成殻のほぼ1/2であった。その後,この帯状の構造は伸長し,完成殻の縦溝中肋の長さに等しい一次側中肋を形成し,さらに縦溝中肋の2次側の発達を開始した。この段階では中心節領域の一次側のみに未発達な横枝(virgae)が形成されていた。その後,縦溝中肋の2次側が伸長し,縦溝を形成した。この過程で縦溝領域の横枝も発達を開始した。縦溝の形成後,横枝はさらに伸長し,その後,中肋側から横枝間の仕切(vimen)が発達し胞紋が形成された。結果は,本種の形成過程が通常の縦溝珪藻の一変異であることを示しており,本種と無縦溝珪藻との殻形成過程における関係は見られなかった。


2002年8月27日 17th International Diatom Symposium (in Ottawa) 

Shigeki Mayama:Vavle ontogeny of Fragilaria mesolepta reflecting the phylogenetic relationship between the centric and the araphid pennate diatoms

Many of the araphid pennate diatoms show bilateral symmetry and have labiate processes as well as apical pore fields. As the first character is shared with raphid pennate diatoms and the other two with centric diatoms, the phylogenetic position of the araphid pennate diatoms has been morphologically assigned between the centrics and the raphid pennates. This idea has been supported by fossil records and also by recent genetic analyses.

In the centrics the pattern center of a valve is a silicified ring called annulus, while it is a linear costa called sternum in the pennates. Mann (1984) hypothesized evolutional transition from a simple sternum to a raphe sternum and also variations of raphe sternum. Mayama and Kobayasi (1989) demonstrated the transition from the valve with raphe to the valve without raphe in the the monoraphid Achnanthidium saprophilum (as Achnanthes minutissma var. saprophila) through the observations of sequential valve development. However, there has been no ontogenetic observation yet, which indicates evolution from the centrics to the araphid pennates.

A cell of Fragilaria mesolepta Rabenhorst collected from the Tama River in Tokyo was cultivated in BBM medium. Colonial cells, which divided synchronously, were obtained by treatment of three days continuous dark followed by light. After harvest, the cells were gently boiled in sulfuric acid and then rinsed with distilled water. The cleaned samples were placed on formvar-coated grids or metal stubs followed by Au-Pd coating, then observed with JEOL 100CX-II and JEOL F-15.

F. mesolepta has a narrow linear sternum in the mature valve. However, a single silicified chain composed of several rings appeared in the earlier developmental stage. This chain was associated with laterally developing short virgae, which were aligned radially at one pole with bifurcation. The chain was short in the early stage, but gradually became elongated in the middle stage and fused to make a linear sternum. Ultimately the delimitation of areolae by the frets arising between virage completed the mature valve. The labiate process was also formed in this later stage.

The sternum, which has been described, was a linear costa even in the early stage, and any drastic change of pattern center such as observed in this study has not been reported. The morphology of the early stage leads us to imagine that the early development of F. mesolepta is homologous to that of the centrics, which commence from the annulus followed by the radial development of the virgae with bifurcation. The middle stage of F. mesolepta was somewhat resembled the middle stage of Eunotia I observed. The valve ontogeny from the early to middle stages may reflect the phylogenetic relationship between the higher ranks of taxa.


2002年8月29日 17th International Diatom Symposium (in Ottawa) 

Asuka Kuriyama and Shigeki Mayama:Resting valves of Eunotia Rabenhorstiana and its phylogeny

Most resting cells of diatoms have valves different from those of the normal cells in shape and thickness. Though many of the resting cells are generated in centric genera inhabiting the marine coastal zone, some fresh water pennates are also known to form them. In the genus Eunotia, which has prominently short raphe branches, the resting cells have been reported in E. soleirolii (Kutz.) Rabenh.

The cells of E. rabenhorstiana (Grunow) Hust. collected from a small pond, Kooridono-ike, in central Japan, were joined longitudinally with mucilage pad to form a zigzag colony, and have many oblong plastids. In this colony we sometimes found a series of cells developed laterally along the pervalvar axis accompanied with inner valves. After cleaning of the cells, the specimens were observed using a scanning electron microscope (JSM-5800, JEOL). Some of the living cells were isolated for cultivation allowing us to make phylogenetic analyses based on the sequence of 18S rDNA.

In the normal vegetative cell, the outer surface of the valves had regularly aligned spinules on the valve face and mantle juncture. However, in the cells forming lateral series, two types of valve with different morphology were observed. One was a valve without raphe but with distal bifurcated (Y-shaped) linking spines on the valve face and mantle juncture. The sibling valves were tightly connected by these spines. The other was a valve without raphe, linking spines and areolae. These anomalous valves were formed between the normal vegetative valves, and their raphe slits and areolae were filled in by excessive silica, so that they seemed to be the valves of a resting cell, though a physiological experiment was not done. In E. soleirolii, a resting valve without raphe and areolae was also observed (Stosch and Fecher 1979). However, the valve with Y-shaped linking spines, as seen in our specimen, has not been reported in Eunotia nor also in any other raphid genera. As the Y-shaped linking spines are observed in some centric and araphid pennate genera, e.g. Aulacoseira, Cymatosira and Fragilaria, they are considered an ancestral characteristic in diatoms. Our finding of the linking spine in Eunotia suggests the close relationship between this genus and primitive genera.

E. rabenhorstiana was originally described as Desmogonium but the phylogenetic analyses showed that this taxon formed a monophyly together with the other Eunotia taxa. Our phylogenetic tree also indicated that a monophyletic group composed of the Eunotia and other raphid genera was derived from araphid diatoms, and Eunotia was the first branched genus among the raphid genera. This is morphologically supported by the fact that the resting valve of E. rabenhorstiana has the Y-shaped linking spines and the fact that labiate processes are shared among the Eunotia, the centric and the araphid pennates as it is already known.


2002年5月18日 日本珪藻学会第23回大会 (於:京都市健康保険組合保養所「きよみず」)

真山茂樹・伊藤洋介・南雲 保:Pinnularia viridiformis の増大胞子外被に見られる微細構造

 1993年6月にP. viridiformis Krammerを東京学芸大学構内で採集し、試験管内でクローン培養したところ、1999年3月に増大胞子を形成した。寒天質に包まれた2個の配偶子母細胞間で接合が起こり、伸長した増大胞子は配偶子母細胞の2〜2.5倍の長さに達した。接合直後の若い増大胞子は、表面が多数の鱗片で覆われていた。両極付近の鱗片は円形で周囲に放射する多数の切れ込み模様をもっていたが、中央部では楕円形の断片化したバンド状の鱗片となっていた。増大胞子の伸長につれて、この鱗片層の内部に、ペリゾニウムの横走帯が逐次形成された。中央に位置する一次横送帯は幅が広く、その両側へ付加されていく二次横走帯の約3倍の幅があった。横走帯中央には等間隔で配列するスリットの列が存在した。横走帯の長軸方向に沿った歪みのある部位の内側には、縦走帯が認められた。縦走帯では、短軸方向に筵のようなスリット状の孔模様が認められた。伸長した増大胞子では、鱗片層は両端に極帽として残存した。鱗片層に見られた断片化したバンド状の鱗片は、ペリゾニウムの横走帯への移行形とも考えられるが、横送帯に見られるスリット模様が存在しないため、2者の発生的相同性を論じることはできなかった。 


2001年10月21日 日本珪藻学会第21回研究集会 (於:東京学芸大学)

真山茂樹:ITを活用した珪藻を基礎とする河川環境教育

 2002年以降実施される文部科学省新学習指導要領では学校教育でのコンピュータや情報通信ネットワーク等の積極的活用が謳われている。しかし、教育現場で有用な優良コンテンツは、それほど多くない。また、同じく新指導要領で導入される、総合的な学習の時間では、環境教育が一つのコアをなすと言われているが、生物環境を扱う教材の数は未だもって多くはない。

 珪藻を用いた河川水質の評価は、精度の高い方法として実用化されている。今回、この評価方法をコンピュータを使って体験できる教材ソフトを作成した。本教材では珪藻写真のデータがデジタル化しているため繰り返し使用しても教材に劣化がおきない、ホームページ上に公開することにより時と場所を選ばず誰もが利用できる、HTMLのフレーム機能を使用し一画面上にモデルプレパラートと図鑑を納めたためコンパクトに使用できる等の利点を持つ。また、珪藻の名前は、図鑑の写真をクリックすることにより表示され、さらに、名前を覚えなくとも珪藻に与えられた番号を使用して、同定と計数の処理ができるよう工夫をした。計数後は識別珪藻群法を用いて河川の汚濁指数を算出した。この教材ソフトとビデオ教材、野外実習および室内観察と組合せて、河川環境教育の指導を行ったところ、良好な結果を得ることができた。なお、本教材は次のホームページで公開している。
http://www.u-gakugei.ac.jp/~mayama/fureai/model_P/model.htm


2001年10月20日 日本珪藻学会第21回研究集会 (於:東京学芸大学)

真山茂樹:殻の形態形成の過程からみた珪藻の系統進化

(公開シンポジウム:珪藻の系統進化と多様性)


2001年10月26〜29日 日本植物学会第65回大会 (於:東京 東大教養学部)

真山茂樹:鉱物性細胞外皮の多様性とその形成過程 

(シンポジウム:ゲノム時代の細胞外被研究の方向性を探る)

 鉱物性細胞外被は藻類を含むさまざまな原生生物で見られるものである。多細胞性の海藻では炭酸カルシウムを細胞間隙等に沈着するものが、また、単細胞性生物では炭酸カルシウムの他、珪酸を用いてロリカ、鱗片、被殻を形成するものが知られている。

 珪藻は珪酸質の細胞外被である被殻を持つが、そこにはナノ〜ミクロのレベルの繊細で規則的な構造が存在する。この形成は細胞質分裂後、細胞膜直下に生じる小さな珪酸沈着小胞の形成に始まる。珪酸沈着小胞の内部で鉱物化がおき、珪酸沈着小胞は時間と共に分裂面全体から細胞側部へと伸展し、それに伴い鉱物化した外被も面積を広げる。これらの過程は従来、細胞の切片を観察することにより研究されてきたが、演者は被殻全体の形成過程に注目し、系統的に離れた幾つかの種を用いて研究を行った。その結果、どの種もパターンセンターから被殻の形成が開始し、その後、種類毎に一定の時期に、一定の部位を漸次形成していくことがわかった。また、単縦溝珪藻は形成過程の中頃まで双縦溝珪藻様の形態を、原始縦溝珪藻は無縦溝様の形態を、無縦溝珪藻は形成の初期に中心珪藻様の形態を示し、被殻形成過程が系統を反映することが示唆された。珪酸の鉱物化に関するタンパクとしてはsilaffin, HEP, frustulin等が近年発見されたが、分子レベルでの解析はまだ始まったばかりであり、今後、形態と分子の分野での一層のコラボレーションが期待される。


2001年5月20日 日本珪藻学会第22回大会 (於:上林温泉 塵表閣)

栗山あすか・真山茂樹:粘液により長軸方向に群体を形成する Eunotia sp.について

 Desmogonium Ehrenbergは、Eunotiaに類似する殻形の細胞が、粘液により長軸方向につながる群体を形成する珪藻である。本属を認める研究者は少なく、現在は多くの研究者がEunotiaのシノニムとして扱っている。今回、新潟県郡殿池から採取された試料中にDesmogoniumの特徴を持つ珪藻を見いだした。

 本珪藻の殻形はやや弓形に曲がった線形で、殻端部はわずかに膨らみ、殻面殻套接合域には小針が存在した。殻長107〜144μm、殻幅6.5〜7.5μm、条線の密度は17〜19本/10μmで、円盤状の葉緑体を多数持っていた。唇状突起は多くのEunotiaにおいて、一方の殻端にのみ観察されるが、本種の正常な栄養細胞においては、両方の殻端に観察された。また、内生殻と思われる縦溝を欠く殻を持つ細胞も、群体中に観察された。これらの殻には2形が存在した。すなわち、一つは殻面殻套接合域に先広の頑強な連結針が存在し、姉妹殻同士が強固に咬み合うものであり、もう一つは、連結針は存在しないが、全ての胞紋が珪酸質によって埋められてしまったものである。従来、Eunotiaの内生殻の微細構造についてはvon Stosch & Fecher(1979)による写真が2枚程示されているにすぎず、また、今回観察されたような連結針はEunotiaの内生殻からも、通常の栄養殻にからも報告例がない。

 今後は、本珪藻の系統学的位置を分子的手法を用いて明らかにする予定である。


2001年5月21日 日本珪藻学会第22回大会 (於:上林温泉 塵表閣)

出井雅彦・真山茂樹:極端な環境に出現するPinnularia属の2新種,Pinnularia acidojaponicaPinnularia valdetoleransについて


2001年3月28日 日本藻類学会第25回大会(於:日本歯科大学)

真山茂樹・坂井加奈子:羽状縦溝珪藻 Luticola goeppertiana の被殻形成様式

 Luticola属の種は,従来Navicula属の一部として分類されていたが,中肋や胞紋,帯片,葉緑体などの構造に相違が見られることなどから,近年,独立の属に分類されるようになった。本研究では Luticola goeppertiana (Bleisch) D. G. Mann の培養細胞を用い,その被殻形成過程の解明を行った。

形成中の被殻を効率よく採取するため,初めに葉緑体分裂の様式を明らかにした。本種の葉緑体は1枚で,上下両殻面の下にそれぞれ伸展するH型の部分が,細胞中央で橋梁部により連続している。分裂時に橋梁部が分裂軸方向に伸長し,中央部で切れ,そこに姉妹細胞の新殻が形成される。このため,橋梁部が切断された後の細胞を多く含む個体群を採取し,酸処理後,観察に呈した。

 殻形成においては,初めに一次側と二次側の縦溝中肋が形成されたが,両側で顕著な厚みの違いは見られなかった。次ぎに縦溝中肋から先広の横走枝 (virga) が伸長し,殻縁まで発達した。続いて,その先端の手前で各横送枝の両側から1列の縦走枝 (vimen) が発達し融合により殻面周縁を取り囲み,将来の殻面殻套接合域を形成した。この段階で条線域は長胞状の構造を示した。胞紋は最初,将来の横帯部分に形成された後,横帯の両側から殻端方向へ,また同時に殻面殻套接合部から縦溝中肋方向へと形成されていった。この間,最初に胞紋が形成された領域では,胞紋が珪酸質によって埋まり横帯が形成された。

 観察された殻の形成過程は,Navicula における形成過程と様式がまったく異なっており,Luticola Navicula からの独立を支持するものである。


2000年10月29日 日本珪藻学会第20回研究集会(特別講演)(於:紀伊見荘)

真山茂樹:珪藻研究の始まりと発展


2000年9月18日 Interrad 2000 -Ninth Meeting of the International Association of Radiolarian Paleontologists (in Blairsden, CL)

Osamu Takahashi, Asuka Kuriyama and Shigeki Mayama: Endosymbiotic diatom in radiolaria

We report the first occurrence of endosymbiotic diatoms in radiolarian individuals from the East China Sea near Sesoko Island, Okinawa, Japan.

Radiolarian samples were collected from surface seawater on July 23, 24, 1998 and October 8, 9, 12, 14, 1998, at a location approximately 1 to 5km from the western shore of Sesoko Island (ca. 260 37'N, 1270 50'E). Twenty-nine radiolarian species were recognized under light microscopic observation. Among them, Sphaerozoum fuscum Meyen, a colonial radiolanan without a siliceous hard shell but with spicules, is characterized by a small, spheroidal cell body, about 50 um in diameter and surrounded by a thick hyaline gelatinous layer. It characteristically possesses many small algal symbionts. We have observed two types of small yellow-green to yellow-brown algal symbionts, about 4-8 um and 15-18 um in diameter, respectively, in the extracapsular cytoplasm of the species.

In the laboratory, S. fuscum was put on a slide and the cytoplasm was extracted. Then, under an inverted microscope with Pasteur pipette, we isolated a protoplast like symbiont alga from the species and cultured it. Subsequently, the cultured symbionts advanced to frustule formation and were recognized as diatoms. The cells were cylindrical with one plastid, 1.6-4.4 um in diameter, 3-6 p. along parvalver axis. The valves were observed in detail with electron microscopy (TEM/SEM). We identified this diatom as Minutocellus polymorphus (Hargr. et Guil.) Haste et al.


2000年8月29日 16th International Diatom Symposium (in Athens and Agean Islands)

Shigeki Mayama and Yuko Moriuchi: When does Navicula become Navicula?: The valve ontogeny of the genus Navicula sensu stricto

One of the well known characteristics in Navicula sensu stricto is the prominently thickened primary side of the raphe sternum, which extends over towards the secondary side except at the center and the poles. Such a raphe sternum is vary rare and only seen in Navicula sensu stricto and a few other genera, e.g., Pseudogomphonema, Seminavis and Rhoikoneis, which all bear fine valve structures similar to N. sensu stricto but show differences in frustule symmetry. Hyppodonta and Fogedia are naviculoid diatoms and show the same frustule symmetry as N. seusu stricto. The fine structures of their valves resemble N. sensu stricto quite closely; however, they are rather similar to other raphid genera in the fact that the primary side does not show more development than the secondary side. We were interested in whether the thickness of N. sensu stricto occurs at an earlier stage of valve formation or at a later one; because if it is the latter, a hypothesis can easily be made that N. sensu stricto was derived from a Hyppodonta-like ancestor. In this study, sequential valve development occurring after cell division was examined in N. sensu stricto.

In a clone culture of marine epilithic Navicula sp., synchronized cell division was induced by a silica starved, continuous dark condition followed by transfer to a normal culture condition. The cells were cleaned with sulfuric acid with potassium permanganate. After being washed in distilled water, they were observed with transmission electron microscopy (TEM).

The process of valve formation in Navicula sp. was basically similar to that in Mayamaea atomus (Chappino and Volcani 1977, as Navicula pelliculosa) and in the raphid valve of Achnanthidium saprophilum (Mayama and Kobayasi 1989, as Achnanthes minutissima var. saprophila). Namely, at the beginning, the primary side of the raphe sternum was completed with the secondary side having very short arms. After the arms in the secondary side fused, interstriae elongated laterally toward the valve margin. In the past studies, differences in thickness between the primary and the secondary side were not observed in the raphe sternum during valve formation. However, in Navicula sp., even in the earliest stage when the secondary arms were not yet fused, the difference was already apparent. In this stage, though the sternum formed was very narrow like a string on both sides, the TEM image of the sternum in the primary side was clearly darker than that of the secondary side, as silica had accumulated more in the primary side.

The results could not explain the phylogenic relationship between Navicula and Hyppodonta, but also it does not mean that the relationship is denied. In fact, a close relationship still remains in common characteristics, and further investigations are expected.


2000年5月20日 日本珪藻学会第21回大会 (於:日本工学院)

真山茂樹・栗山あすか・南雲 保:浮遊性および底生の有孔虫から単離培養した数種の共生珪藻

 原生動物である有孔虫に内共生する珪藻は、宿主細胞内にいるときは被殻をもたないプロトプラスト状の球体であるが、単離培養することにより被殻を形成することが知られている。本研究では浮遊性有孔虫Globigerina sp. および底生の有孔虫Sorites orbiculusの細胞内から共生藻を単離培養したところ、合計4種の珪藻が被殻を形成し増殖した。細胞はいずれも長径で10μm以下と大変小さく、走査型電子顕微鏡を用いてのみ、詳細な形態が観察できるものであった。

 Globigerina sp.に内共生していた珪藻はAmphora roettgeri Lee & Reimer に類似するもので、胞紋内部は穿孔を多数持つ薄皮によって閉ざされていた。またこの薄皮の上に重なる数本の小さな棒状の枝が幾つかの胞紋で観察された。帯片はどれもが、胞紋列をもち、本種がHaloamphora節に属することを特徴づけていた。なお、浮遊性有孔虫において共生珪藻が認められたのは初めてのことである。

 S. orbiculus では、単一の個体からNitzschia sp., Nanofrustulum shiloi (Lee et al.) Round et al., Entomoneis sp.の3種が共生珪藻として認められた。Nanofrustulumは連結針により群体を形成するとされる属であるが、観察の結果、それらは実際には咬み合わないことがわかった。これらの針は有機物質により連結した群体の安定化のために働いくものと思われる。    


2000年5月20日 日本珪藻学会第21回大会 (於:日本工学院)

野島秀香・真山茂樹Gomphonema pseudaugurの葉緑体

 従来珪藻の葉緑体核様体は、葉緑体を縁取るように分布するリング型であるといわれていたが、演者らのグループはPinnulariaCymbella, Encyonemaでは、それが分散型であることを見いだしてきた。本研究ではGophomema pseudaugurおよびG. acminatumの葉緑体を観察し、若干の知見を得たので、これを報告する。

 Gpomphonemaは狭義のCymbella同様に、殻端に粘液孔域をもち、粘液柄を生じる珪藻である。葉緑体は殻面でH型を呈するものが、片側の帯面で結合した形態をとっている。この結合した部分には大きなピレノイドが1つ存在し、それと向き合う位置には核が存在する。DNAに特異的に結合する試薬である、ピコグリーンで染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、葉緑体中に多数分散するDNA含有ドットの存在が明らかになった。しかし、葉緑体縁辺部にリング状に配列する核様体は確認されなかった。

 また、G. pseudaugurの細胞を樹脂包埋し、超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察したところ、葉緑体周縁のガードルラメラ直下までチラコイド膜の層が入り込み、核様体の部分である"genophore"は観察されなかった。また、チラコイド層の所々に大きな隙間が観察された。

Gomphonemaは被殻や葉緑体の形態から、しばしばCymbellaとの系統的近縁性が論じられているが、本研究の結果は核様体の観点からもそれを支持するものである。


2000年3月29日 日本藻類学会第24回大会(於:長崎大学)

成田貴子・真山茂樹・河地正伸:浮遊性有孔虫から単離・培養したペラゴ藻の分類

 原生動物である有孔虫の細胞には,紅藻,緑藻,渦鞭毛藻など多様な藻類が共生することが知られている。演者らは,沖縄県瀬底島沖から採集した直径約300μmの浮遊性有孔虫Globigerina sp.から共生藻を単離し,培養後,その分類を試みた。

培養細胞は単細胞性で,直径1.5〜3μmの球形もしくは楕円形であり,緑がかった黄褐色の杯状葉緑体を1枚もっていた。葉緑体とミトコンドリアの微細構造は,不等毛植物に共通の特徴をもっていた。さらに,鞭毛を欠くこと,細胞膜の内側に並ぶ楕円形構造体が存在すること,ピレノイドを欠き,核様体と推定される部位が葉緑体内に散在していること,細胞膜の周りに繊維状の物質が放出され,成熟したものでは2層の外被を形成することがわかった。これらの形質は,鞭毛をもたないペラゴ藻Pelagococcus subviridisのものとよく類似している。しかし18S rDNAの塩基配列により構築した系統樹では,いずれの方法(近隣結合法,最尤法,最大節約法)においても,鞭毛をもつペラゴ藻Pelagomonas calceolataの姉妹種となった。

 今後は,1)他の分子種を用いて系統学的解析を行うこと,2)培養条件を変化させることにより鞭毛細胞が発現するかどうかを確認すること,3)無鞭毛でありながら18S rDNAの塩基配列がPelagomonas calceolataのものと同一であるCCMP1145株 (GenBank U40928) の微細構造を観察することなどにより,本共生藻の正しい系統学上の位置を決定したい。


2000年3月29日 日本藻類学会第24回大会(於:長崎大学)

栗山あすか・真山茂樹・高橋 修・南雲 保・藤原祥子・都筑幹夫:放散虫から単離した共生珪藻Minutocellus polymorphusの形態および分子による系統学的解析

原生動物である放散虫には,渦鞭毛藻,ハプト藻,プラシノ藻,黄金色藻が共生していることが知られている。また,同じ有毛根足虫門に属する有孔虫の細胞内には珪藻も共生するが,それらは宿主内では珪藻の特徴である被殻を形成せず,宿主から単離し培養することにより,初めて被殻を形成する(Lee et al. 1979)。

演者らは沖縄県瀬底島沖にて放散虫を採集し,細胞内に共生する藻類の単離,培養を行った。その結果,Sphaerozoum fuscum Meyenから単離した藻が被殻を形成した。被殻は円筒形で,殻直径1.5〜4.4μm,貫殻軸長3〜6μm,2枚の葉緑体を持っていた。培養した個体はたいへん矮小化していたが,電子顕微鏡観察により,胞紋が輪形師板で覆われること,退化した眼域と思われる構造があること,異殻性の管状突起を持つことなどがわかり,本種を中心珪藻のMinutocellus polymorphus(Hargr. et Guil.) Hastle et al. (1983)と同定した。彼女らは被殻の形態によりMinutocellus他数属をCymatosira科へ帰属させているが,本研究では18S rDNAの解析により,この妥当性を検討した。得られた分子系統樹ではMinutocellus, Cymatosira, Papiliocellulusは単系統群をなしており,本種のCymatosira科への帰属は分子からも支持された。


1999年10月30日 日本珪藻学会第19回研究集会(於:徳島大学)

真山茂樹:識別珪藻群AおよびBの種の名称変更について

 識別珪藻群法は,BODに対する耐性および出現特性により3群に分けられた珪藻を用いて,河川の有機汚濁の程度を判定する方法である。識別珪藻群Aには10分類群,Bには64分類群が割り当てられている。

 90年代の珪藻の分類では,従来の属の再分割が活発に行われた。識別珪藻群AとBの種類について適合する新学名を検討したところ,Navicula molestiformis Hust.を含め,両群で32分類群の名称変更が必要であることがわかった。

 新名称の使用については,様々な意見がある。しかし,それらが生物学的に正しい階級と位置を持つのであれば,新名称を採用することが妥当である。これは,学名が使用している二名法の性質から導かれる,属は類縁を持つものだけで構成すべきものであるという理由に基づく。新名称の属は,いずれもその属を定義づける形質を,多かれ少なかれ所持していることは事実である。しかし,その形質の量と程度には差が見られるのも事実である。すべての属において殻の形態だけでなく,オルガネラや生命活動そのものについても研究されることが望ましいが,被殻形態以外の情報を伴って定義されている属はわずかしかない。情報量の乏しい属に対し,さまざまな観点からの情報を提供することが,その属の真の評価につながるはずである。本研究では幾つかの分類群において,被殻構造,葉緑体数,ピレノイドに基づく考察をおこなった。


1999年10月7日 日本植物学会第63回大会(於:秋田大学)

真山茂樹・森内裕子:フナガタケイソウ(Navicula Bory)の殻の形態形成

 Navicula属は珪藻綱における最大の属である。近年,走査型電子顕微鏡による被殻構造の詳細な観察が多く行われるようになり,広義のNaviculaに対し,20以上の属が新設ならびに復活された。これらの属についての評価は必ずしも一定していないが,演者らは「できあがった」形態を比較するだけでなく,その「でき方」を注目することにより,その解決の糸口が見いだせるものと考えている。本研究では狭義のNavicula種(Navicula sp.)を同調培養し,その形成中の殻と帯片を電顕を用いて観察した。

 観察された最も初期の殻は,縦溝中肋の1次側が糸状に形成され,2次側は殻中央から殻端側に1/2ほどの長さが形成されたものであった。この時点で,すでに1次側中肋の肥厚が観察されたが,このような初期段階での縦溝中肋の肥厚は,報告例のある他属の珪藻では知られていない。その後の形成過程は,胞紋閉塞の位置を除き,基本的に他属のものと同様であった。狭義のNavicula属は縦溝中肋が大きく肥厚し,2次側に被さっていることを特徴の1つとするが,この特徴が形成の初期段階ですでに発現していたことは系統学上興味深い。

 今日まで,珪藻の帯片の形成過程に関する詳細な報告はない。本研究では形成中の帯片の表出部に,貫殻軸方向に規則的な配列をするスリットが観察された。しかし,これらのスリットは帯片の形成後半に珪酸質で埋められてしまうことが明らかとなった。


1999年5月16日 日本珪藻学会第20回大会(於:京都教育大学)

栗山あすか・高橋修・南雲保・真山茂樹:放散虫の細胞内に共生する珪藻の単離培養と形態観察

原生動物の放散虫の細胞内には、しばしば共生藻が存在することが知られている。演者らは1998年10月、沖縄県瀬底島沖で放散虫を採集した。共生藻の存在が認められた放散虫は25属28種であった。それらを顕微鏡下においてカミソリ刃で切断し、共生藻を単離後、滅菌海水で培養を試みた。培養開始後約1ヶ月で増殖が認められた共生藻については、培養液をf/2培地に変更し、さらに培養を続けた。これらの内、Spumellaria目のSphaerozoum fuscum Meyenから単離した共生藻は非常によく増殖するものであった。この微細藻は大きさが数μm程度で、光学顕微鏡による詳細な観察は困難であったが、電子顕微鏡を用いて観察したところ、珪藻であることが判明した。

 この珪藻の被殻は円筒形で、直径1.5〜4.4μm、貫殻軸長約3〜6μm。胞紋は輪形師板で閉塞され、殻面中央部に管状突起を1個もつ。また、帯片には1列の胞紋がある。多くの個体は殻面周縁部に眼域をもたなかったが、数個体にその痕跡を確認できた。このため本種をMinutocellus polymorphus (Harg. & Guil.) Hasle et al.と同定した。また、走査型電子顕微鏡観察中に本種の若い増大胞子を数個体観察したが、それらは側立型であった。


1999年3月29日 日本藻類学会第23回大会(於:山形大学)

中山重之・真山茂樹:Cymbella aspera のミトコンドリアと葉緑体核様体の分布

 従来,珪藻における葉緑体核様体の分布様式は“リング型”であると言われてきた。しかし,Mayama & Shihira-Ishikawa(1994)はリング型核様体と,葉緑体全域に分散するDNA含有顆粒を併せ持つPinnulariaを報告している。

 Cymbella aspera (Ehr.)Perag.をDAPIとPicogreenで染色したところ,どちらにおいても葉緑体全域に多数散在する蛍光ドットが観察された。テクノビット樹脂に包埋した細胞切片をDAPI染色した結果,葉緑体内部に蛍光を放つドットが観察されたほか,葉緑体外部にも小さなドットが観察された。そこで細胞をRhodamine 123とDAPIで二重染色したところ,糸状のミトコンドリア内部に微弱なDAPI蛍光ドットが観察された。これらのミトコンドリアは葉緑体と殻の間に存在していた。さらに,透過型電顕観察により,細胞の中央部以外ではミトコンドリアは葉緑体と殻の間(葉緑体の外側)だけに存在し,細胞の中央部では葉緑体の外側の他,内側にも存在していることがわかった。確証のため葉緑体を単離しDAPI染色したところ,葉緑体全域に散在する蛍光ドットが観察された。

 本種において“リング型”の葉緑体核様体は観察されておらず,葉緑体全域に散在するDAPI蛍光ドットの部位が,核様体であると思われる。


1999年3月28-30日 日本藻類学会第23回大会(於:山形大学)

真山茂樹・森内裕子:海産羽状珪藻 Navicula sp.の葉緑体分裂と同調分裂誘発

 横須賀市長者ヶ崎のタイドプールより得た,Navicula sp.を単離,培養した。本種の殻は皮針形で殻長約20μm,殻幅約5μm。条線は10μmあたり16, 17本で,殻面全域において平行であることを特徴とする。

 本種の葉緑体分裂の挙動と形態を観察した。間期の細胞において葉緑体は2枚で殻面両側の殻套部に位置していた。中央部に小さな切れ目が生じると葉緑体は90度回転し,殻面全体に広がった。次いで殻面中央部で細胞の短軸面に沿って2分裂した。この後,面積を増大しながら捻れるように殻套部へ移動したが,この間に細胞分裂が生じていた。

 細胞の同調分裂誘発を試みた。本種は絶対付着性のため懸濁培養が不可能であり,経時的な株の細胞密度測定が困難であった。そこで,葉緑体分裂における配置と形態を指標とし,細胞の分裂時期を判定した。同調分裂誘発に先立ち7日間連続照射培養し,分裂の周期性を消失させた。次に培地をシリカ欠乏培地と交換,暗黒下で3日間培養した。その後シリカ含有培地に換え,明暗周期12:12(時間)で培養し同調分裂を誘発した。誘発後2日目まではほとんど分裂は見られなかったが,3日目(誘発開始後57.5時間)に顕著な同調分裂が起きた。同調培養系の確立は分裂機構や被殻の形態形成の解明に欠かせないものである。今後,本研究で培った技術を応用し研究をおこないたい。


1998年11月7日 日本珪藻学会第18回研究集会(於:三浦まほろばマインズ) 

真山茂樹・高 亜輝:河川産珪藻の細胞体積

 東京近郊河川から得られた198試料中に出現した215分類群について,それぞれの平均細胞長をもつ細胞の分裂直後に相当する体積を算出した。体積は原則としてスキャナーで殻面の面積を読みとり,これにSEMで測定した殻套高の2倍を細胞高の近似とし,それらを掛け合わせることにより求めた。得られた細胞体積のうち87%の種類は102〜104μm3の範囲にあり,60%は102〜103μm3の範囲にあった。

 全種類の細胞体積と殻長および殻套高の関係を分散図に描くと,Aulacoseira,MelosiraAmphora,Rhopalodiaの4属の種類は他属の種類と異なるクラスターを作った。前2属は殻套高が大きいばかりでなく,分裂に伴う直径の減少に対し殻套高が増加するという点でも他属の珪藻と性質が異っていた。後2属は殻套高の測定が不可能なため,細胞全体を1/4楕円体とみなし体積を算出したことによるものと思われる。これら4属を除いた珪藻の体積(Lμm)と殻套高(Mμm)および殻長(Lμm)の回帰式は次のようである。
  LogV = 0.4714M + 1.7631 (r=0.8034, n=202)
  LogV = 0.0193L + 1.9913 (r=0.7422, n=202)


1998年9月29日 15th International Diatom Symposium (in Perth)

Shigeki Mayama, Nagisa Mayama & Ikuko Shihira-Ishikawa: Rod-shaped pyrenoids with chloroplast DNA arranged along both sides in Nitzschia sigmoidea

Rod-shaped or narrow rectangular structures are scattered throughout the chloroplasts of Nitzschia sigmoidea (Nitzsch) W. Smith. Since Geitler (1937) found them, these unique structures have been called pyrenoids. We observed the chloroplast structure of this species collected from some rivers. In living cells, these unique structures were hardly observed with light microscopy, however, they were detected easily in the cells stained with carmine after ferric propionate treatment (Rosowski and Hoshaw 1970). Using epifluorescent microscopy, the cells stained with DAPI (4'6-diamidino-2-phenylindole) showed linear localization of chloroplast DNA along both sides of each rod-shaped structure. Transmission electron microscopy showed that these structures were lenticular in cross section, and one thylakoid was inserted in each structure. Such a structure is well known as a typical pyrenoid in various diatoms, and it has been examined by many investigators. The structures observed in N. sigmoidea had translucent areas on both sides, and they seem to correspond with the areas containing chloroplast DNA.

In many algae a pyrenoid is known as an area in which ribulose-1,5-biphosphate carboxylase/oxygenase (Rubisco) is highly concentrated. To confirm that the rod-shaped structures in N. sigmoidea are not only morphological but also physiological pyrenoids, localization of Rubisco was examined by immunocytochemical method. The cells were embedded in Technovit 7100 resin, then made into thin sections; these sections were incubated with anti-Rubisco antibody and then allowed to react with fluorescein isothiocyanate (FITC) conjugated mouse anti-rabbit IgG. The epifluorescent microscopy showed several sites in which specific FITC fluorescence was visible. Additional staining with DAPI in the same section indicated the presence of DNA on both sides of these sites. Moreover, immunogold electron microscopy indicated that Rubisco was concentrated in the lenticular structure.

The results indicate that the rod-shaped structures are pyrenoid by fitting its current, general definition. We could not detect DNA arranged along the edges of chloroplasts using DAPI staining, so that the DAN arranged along both sides of the pyrenoids seems to function as chloroplast nucleoid in this species.


1998年5月16日  日本珪藻学会第19回大会 (於:四日市大学)

中山重之・真山茂樹:Cymbella aspera (Ehrenb.) H. Perag. の葉緑体核様体の分布様式  

 従来、珪藻における葉緑体核様体は、葉緑体を縁どるように分布すると言われていた。しかしPinnulariaではこれとは異なる核様体の分布様式も明らかにされ得た(Mayama & Shihira-Isikawa 1994)。今回、新潟県妙高高原いもり池より単離培養したCymbella asperaにおいて葉緑体核様体の分布状態を観察した。

 本種の細胞をDAPI染色し、落射蛍光顕微鏡で観察をおこなったところ、葉緑体全体に散在するDAPI蛍光を放つドットが多数観察された。さらにPicogreen染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡 (OLYMPUS FLUOVIEW IX-ARKR)で観察すると、大小さまざまで不均一に散在する蛍光ドットが明瞭に認められた。DAPIはDNAのA-T塩基対と、Picogreenは2重鎖のDNAと特異的に結合する染色試薬であることから、本種において観察された蛍光ドットはDNAであることが強く示唆される。またテクノビット樹脂に包埋した細胞の切片をDAPI染色し、落射蛍光顕微鏡で観察した結果、葉緑体中にDAPI蛍光を放つドットが確認された。よってこのドットが葉緑体核様体である可能性は極めて高い。


1998年5月16日 日本珪藻学会第16回大会(於:四日市大学) 

真山茂樹・高 亜輝:河川産付着珪藻の殻套長と細胞体積

 珪藻細胞の貫殻軸方向の長さは細胞周期を通じ、約2倍変化する。しかし、上半被殻に限れば1回の細胞周期あたり、その長さは変化しない。貫殻軸方向の長さの正しい理解と計測は、細胞体積を算出する上で重要である。今回、河川産付着珪藻数種の殻套長と殻長の関係をSEMを用いて調べた。

 いずれの種でも、観察した個体の殻長は最大値と最小値で、ほぼ倍の差があった。しかし、殻套長は殻長の変化には影響されず常に安定した値を示した。例えば Planothidium lanceolatum: 殻長14.0-25.2μm、殻套長1.0-1.3μm [Ave.=1.13μm、SD=0.075、n=12]、Fragilaria vaucheriae: 殻長9.5-27.5μm、殻套長1.3-1.9μm [Ave.=1.6μm、SD=0.139、n=19]、Encyonema minutum: 殻長16.0-36.0μm、殻套長(殻端より殻長1/4の背側の部位で計測) 2.4-2.8μm [Ave.=2.65μm、SD=0.178、n=10]であった。分裂直後など細胞周期の特定の時期を限定すれば、生活環を通じて起きる細胞体積の変化は殻面の面積の変化によって引き起こされていることが明らかとなった。


1998年3月26日 日本藻類学会第22回大会

高 亜輝・真山茂樹:水質汚濁指標珪藻のバイオボリューム

 今日まで,珪藻によるさまざまな河川の水質汚濁判定法が考案されてきた。それらでは各珪藻細胞の体積は無視され,出現した種類数,あるいは,その出現頻度(細胞数%)を用いて水質の評価がおこなわれる。演者らは河川産珪藻118種類のモデル体積を算出したところ,サイズの小さな種と大きな種では103のオーダーの違いがあること,さらに1群集中の珪藻種の構成比を,細胞数%と細胞体積%で比較すると,大きな違いが生じる場合があることを見いだし,それを昨年の日本珪藻学会第18回大会で報告した。Kobayasi & Mayama (1989)は,BODに対する細胞数%の関係より,珪藻種の汚濁に対する出現様式を3つに類型化し,これに基づく識別珪藻群法を考案した。しかし,これを細胞体積%に置き換えた場合,種によっては出現様式が変化する可能性も考えられる。

 東京都内の各種汚濁河川から採取した180試料における細胞数%と細胞体積%のBODに対する関係を種類毎にグラフに描き比較した。その結果,それぞれの種類における2枚のグラフ間に、出現様式の大きな変化は見られなかった。このことは,識別珪藻群法で用いた3つの出現様式の示す指標性が,バイオボリュームに影響されないことを示唆するものである。


1997年11月23日 日本珪藻学会第17回研究集会 (特別講演)

真山茂樹:近年設立された幾つかの珪藻の新属および復活された属について

 近年、大量の珪藻属が新設されている、1996年と1997年の半ば過ぎまでの約1年半で、35もの新属が設立されており、97年暮れまでにはおそらく40近い属が作られるものと思われる。これらのうち約8割が現生珪藻であり、その多くは淡水産の属である。Round et al.(1990)は "The diatoms" の中でAchnanthidiumを復活させ、Achnanthesとの運いを主張した。近年RoundらはAchnanthidiumをさらに分割する新属を発表した(Lemnicola, Karayevia, Kolbesia, Psamothidium, Rossithidiumなど)。また"The diatoms"では狭義のNaviculaとは異なる広義のNavicula種が幾つかの新属に移動されたが、そこでまだ取り残されていた広義のNavicula種が近年Lange-Bertalotらにより新属に移された(Chamaepinnularia, Fistulifera, Fogedia, Frankophila, Geissleria, Hippodonta, Kobayasia, Mayamaea, Naviculadictaなど)。また、Krammerは本年Cymbellaを新属(Encyonema, Encyoneopsis, Navicella, Pseudoencyonema)によって分割している。今回は、AchnanthesNaviculaに関係する幾つかの属の特徴を紹介すると共に、これらをどのように扱うか、命名規約上と生物学上の観点から解説をおこなう。


1997年11月22日 日本珪藻学会第17回研究集会 

Yahui Gao and Shigeki Mayama: A review: marine nanoplanktonic diatom studies in China

Nanoplanktonic diatom (or so-called nanodiatom, 2-20μm in cell size) has been found to be an important component of the marine nanoplankton assemblages which have been reported to highly contribute to phytoplankton biomass and many coastal waters. However, because of production in their small size, nanodiatom cells have been overlooked frequently under a light microscope (LM). In recent years, electron microscopy (EM) has been well applied in China for nanodiatom studies. The results showed that nanodiatom which may be up to 10 4-lO 6 cells/1 m sea waters, plays an important role in natural diatom assemblages. The percentage contribution of nanodiatoms to diatom assemblages may be up to 50-lOO%. The dormant nanodiatom genera include Thalassiosira, Skeletonema, Cyclotella, Chaetoceros, Minidiscus, Nitzschia and Navicula, among which Minidiscus was a new record of diatom genera in China. The identification of nanodiatom species by TEM and SEM m recent years has greatly contributed to new records of marine diatom species in China.


1997年9月18日 日本植物学会第61回大会

高亜輝・真山茂樹:河川産付着珪藻の体積に基づく生物量

 浮遊性珪藻のバイオボリュームを求めるために、コールターカウンターやフローサイトメーターは有用な計測器機である。しかし、これらを付着性珪藻へ適用した場合、付着種のほとんどが扁平なため測定値は正確さを欠く。このため、河川産珪藻のバイオボリュームを求めるためには、光学顕微鏡の微動焦点操作により細胞高を求める方法が用いられてきたが、この方法では出現する全ての種類を同定することが困難である。また、便法的に殻幅を細胞高とみなし、直方体の体積を求めることも行われるが、この場合の算出値は誤差が大きい。

 本研究では南浅川産の69付着試料を酸処理し、出現した118種においてSEMを用い殻套長を実測した。この結果3μm以下のものは全体の90%(内2μm以下のものは71%)で、大変扁平であることがわかった(118分類群の平均殻長は30μm)。つぎに、プルーラックスで封入したプレパラート中の個体の殻面面積をスキャナーで実測後、全種のモデル体積を算出し、さらにStrathmann (1967)の式を用い、これを炭素量に換算した。各種の体積(Vμm)、炭素量(Cμg)と、殻套長(Mμm)、殻長(Lμm)の関係は次式で表される。

logV = 0.395M + 1.857, logC = 0.299M + 1.829 (n = 110);

logV = 0.021L + 1.934, logC = 0.015L + 1.888 (n = 110).

3月における17試料の生物量の解析では、最小は3.5x10μgC/cm (1.4x10cells/cm)で、最大は2.4x10μgC/cm (2.1x10cells/cm)であった。特筆すべきことは、Navicula subminuscula(平均殻長9.7μm)やNitzschia frustulum(平均殻長16μm)のような微小種の生物量が豊富な群集(40%以上)がしばしば見いだされたことである。本研究により、河川産珪藻においても海産浮遊珪藻同様にナノサイズの付着珪藻が生物量に大きく貢献している場合があることがわかった。


1997年6月14日 日本珪藻学会第18回大会

高 亜輝・真山茂樹: 細胞体積に基づく南浅川産付着珪藻群集の解析

 付着珪藻の生物量を表すために、クロロフィル量と細胞数がしばしば用いられる。しかし、クロロフィルの定量では個々の種の生物量を測定できないという欠点がある。また細胞数は、種によって異なる珪藻の大きさを反映できないという欠点をもつ。本研究では119分類群の珪藻細胞の体積を測定し、それを用いて付着珪藻群集の解析を試みた。

 解析にあたり、平均的サイズをもつ個体の殻面面積の実測と、SEMによる殻套長の実測により個々の種類のモデル体積を求めた。最小と最大体積の差は著しく10のオーダーの違いがあり、最小はNavicula saprophilaにおける8.1μm、最大はCymbella tumida7867.2μmであった。南浅川産の付着珪藻群集69試料において解析を行ったところ、個々の種類の細胞数(%)と体積(%)の一致しないものが多くの試料中に見いだされた。細胞数(%)が体積(%)より著しく大きくなりがちなものにはNitzschia frustulumNavicula atomusなどがあり、反対に小さくなりがちなものには Nitzschia palea Cocconeis placentulaなどがあった。細胞体積による生物量は一次生産を反映しており、付着珪藻群集のよりよい理解のために重要であると考えられる。


1997年3月28日 日本藻類学会第21回大会

真山なぎさ・真山茂樹・石川依久子:羽状珪藻Nitzschia sigmoidea における両側にCh-DNAを伴う短冊形ピレノイド

 Nitzschia sigmoideaの葉緑体には特異な短冊形の構造体が多数存在するが, これは従来ピレノイドと呼ばれてきた。野外から得られた試料を用い,本種の葉緑体の構造を観察した。生細胞の光学顕微鏡観察では,葉緑体内の短冊形の構造体はほとんど明瞭に観察できなかったが,プロピオンカーミン染色によりそれを認めることができた。また,この構造体の両側にはDNAが線状に配置していることが,DAPI染色した細胞の落射蛍光顕微鏡観察から明らかになった。この構造体の切片は透過型電子顕微鏡観察ではレンズ型をしており,一般の珪藻に見られるピレノイドと同様の形態を示した。また,その両側にはDNAを含有すると思われる部位が観察された。テクノビット樹脂に細胞を包埋し,キュウリの RuBisCO 抗血清を用いた間接蛍光抗体法による観察を行ったところ,葉緑体中でFITC蛍光を特異的に発する部位が認められた。同切片をDAPI染色観察すると,先のFITC蛍光を発する部位の両側にDAPI蛍光が認められた。同抗血清を用いた免疫電顕法による観察では,ピレノイド領域に金粒子が特異的に認められ,RuBisCOの含有が示唆された。


 

1996年9月7日 14th International Diatom Symposium

Mayama, S. & Shihira-Ishikawa, I.: CONFIGURATIONS OF CHLOROPLAST NUCLEOIDS IN PINNULARIA (BACILLARIOPHYCEAE)

Geitler (1937) described sieve-like perforations in the chloroplasts of Pinnularia nobilis (Ehr.) Ehr. However, they were not perforations but the globules containing DNA which were scattered throughout the chloroplasts. They could be detected by the epifluorescence microscopic observation of the cells stained by DNA specific fluorochrome DAPI and confirmed by DNase treatment (Mayama & Shihira-Ishikawa 1994). A series of DAPI-fluorescent dots corresponding with "ring type" chloroplast nucleoid (ct-nucleoid) hitherto known in diatoms was also observed along the edge of the chloroplasts in this species. Nucleoid is known to be a complex of DNA and protein. In order to examine the nature of the scattered globules, the chloroplasts were isolated at first in buffer S using micro-knife, tapered plastic fiber and micro-pipette under a light microscope, and lysed by non-ionic detergent Nonidet P-40. The isolated globules were confirmed to be the complex of DNA and protein by proteinase K treatment. Therefore, the scattered globules in the chloroplasts of P. nobilis are considered to be the ct-nucleoids. The same experiment was carried out in Pinnularia viridlformis Krammer with similar globules scattered throughout the chloroplasts, indicating that these globules are also complex of DNA and protein. The configuration of the ct-nucleoid was examined in 21 Pinnularia species by DAPI staining. The following 11 species had only "ring type" ct-nucleoid: P. bogotensis (Grun.) Cleve, P. aff. brauniana (Grun.) Mills, P. divergens W. Smith var. divergens, P. hertleyana Grev., P. macilenta (Ehr.) Ehr., P. mesolepta (Ehr.) W. Smith, P. microstauron (Ehr.) Cleve, P. rupestris Hantzsch, P. schoenfelderi Krammer, P. subgibba Krammer and P. transvelsa (A. Schimdt) Mayer. However, the following species had not only "ring type" ct-nucleoid but also "scattered type" ct-nucleoids: P. divergens var. bacillaris (M. Perag.) Mills, P. divergens var. elliptica (Grun.) Cleve, P. gentilis, P. major (Ktitz.) Rabenh., P. nobilis (Ehr.) Ehr., P. sundaensis Hust., P. viridis (Nitzsch) Ehr., P. sp. 1 and P. sp. 2. Moreover P. viridifornas Krammer had only "scattered type" ct nucleoids. All species with "scattered type" ct-nucleoids we examined are classified into Pinnularia sect. Pinnularia or Pinnularia sect. Divergentes, and this indicates that the configurations of ct-nucleoids are useful for the taxonomy of the genus Pinnularia.


1996年9月7日 14th International Diatom Symposium

Kazama, M.O, Wanami, K, Hirai S., Hori, Y. & Mayama, S.: THE USE OF DIATOMS FOR DETECTING AND MONITORING CHANGES IN RIVER WATER QUALITY IN TOKYO

Water Quality Protection Division of Tokyo Metropolitan Government (WQPD) has detected and monitored the change of the river water quality in Tokyo by chemical and physical methods for many years. WQPD has also monitored it by biological indicators in 42 points (Fig. 1) since 1980. The organisms used as the indicator are diatoms, benthos and fishes.

Epilithic diatoms were taken from the surface of the flat stones or ceramic plates and boiled with sulfuric acid. The cleaned diatoms were identified and counted to calculate the relative abundance of each species under a light microscope. About 190 species of diatoms were observed every year but over 400 species were recorded in total during last 15 years.

Using these data, WQPD has estimated river water qualities in Tokyo by means of the differentiating diatom groups proposed by Kobayasi and Mayama (1989). The results indicate the gradual improvement of the water quality in most of the metropolitan rivers during 15 years, and this corresponds well with the change of BOD and NH4-N. Here-after, we are planning to classify the diatoms with low abundance, which could not be taken account by Kobayasi & Mayama (1989), into the differentiating diatom groups to increase the accuracy of the estimation.


1996年9月6日 14th International Diatom Symposium

Takahashi, O., Ishii, A., and Mayama, S.: LATEST CRETACEOUS DIATOMS FROM CENTRAL JAPAN

This is the first report of Latest Cretaceous diatoms from eastern Asia. Rock samples were taken from the Shoya Formation which exposed in the northwestern Kanto Mountains, located at 100 km northwest of Tokyo, central Japan. The Shoya Formation consists of marine sedimentary rocks about 500 meters thick. The upper part of the formation is mainly composed of alternating beds of sandstone and mudstone or siliceous mudstone. Diatom fossils were obtained from the dark gray siliceous mudstone. Age constraint on the floral assemblage is based on accompanying radiolarian fossils which gives late Campanian to early Maastrichtian in age (Takahashi & Ishii 1993). Nearly all specimens are preserved as recrystallized quartz steinkerns and delicate features are poorly preserved. Thus, it is difficult to identify each species. Some of them, however, can be barely classified into several morphologic-types as follows on the basis of their valve shapes and preserved ornamentations. Type-A is tablet-like in a whole valve view. The valves are large and have a variable degree of convexity without distinct, central area. Type-A looks like the Genus Coscinodiscus. Type-B is dish-like in a whole valve view. The valves have concave center and pentagonal or square raised ridge with a projection at each comer. Type-C is triangular in shape with weakly protruding angles as in the Genus Triceratium. The valves have a central circular dome with a depressed center. Type-D is questionably classified into diatom. The frustules are arcuate in shape with an elevation at the center and two massive short projections in the valve ends. Takahashi & Ishii (1993) described that the radiolarians obtained from the same sample in which these diatoms occurred probably indicate high-latitude water-masses or conditions. Therefore, this floral assemblage may be also useful for an indicator of the Northern Pacific Intermediate Water Mass in the Latest Cretaceous.


1996年9月4日 14th International Diatom Symposium

Terao, K., Mayama, S. & Kobayasi, H.: OBSERVATIONS ON CYMBELLA AMOYENSIS VOIGT AND ENCYONEMA PROSTRATA (BERK.) RALFS WITH SPECIAL REFERENCE TO THE BAND STRUCTURE

Cymbella amoyensis and Encyonema prostrata were taken from Sampoji-ike (Sampoji pond), Tokyo, Japan. Valve and band structure of both species were observed with a scanning electron microscope (SEM). C. amoyensis we collected secreted a mucilaginous stalk from one apex. In SEM observation, apical pore fields were observed in both apices. Externally, the raphe fissure of C. amoyensis turned towards the dorsal margin in the valve ends. We sometimes have observed Encyonema prostrata dwelling in mucilaginous tube, however, the specimens we collected were solitary. SEM observations revealed that E. prostrata had the outer fissure of the raphe which curved towards the ventral margin at the valve ends without apical pore field. Above mentioned structures in these species correspond well with the generic characteristics of Cymbella and Encyonema reviewed by Round et al. (1990).

Careful preparations are especially necessary for the observation of the band construction, because the bands are easily loosened by strong acid or other chemical treatments. Thus the cells, in this study, were cleaned with only distilled water to keep the band construction intact. In SEM observations, C. amoyensis and E. prostrata were quite similar in the band structure. The cingulum of both species consists of four open bands, with the open and closed ends arranged alternately (Fig. 1). The length of each band is almost the same. Each band surrounds whole circumference of the girdle region except one pole. From the viewpoint of the band orientation, the epi- and hypocingulum are not symmetric with respect to the median valvar plane. Namely, the open ends of epi- and hypovalvocopulae are located in different poles each other. The girdle structure observed in these species is different from that of Cymbella mexicana (Terao et al. 1993) and those shown by Krammer (1981).


1996年5月11日 日本珪藻学会第17回大会

寺尾和明・真山茂樹・小林弘:Cymbella prostrata (Berk.) Cleveの微細構造

 1993年6月に石神井公園三宝寺池のコンクリート壁面よりCymbella prostrata (Berk.) Cleveを採取した。SEM観察によると殼外面で、胞紋の外部開口は細い線状であった。縦溝は中心末端で直線状で、中心孔はすり鉢状であり、その殻端末端は腹側に曲がるEncyonemaタイプのものであった。またapical pore fieldは存在していなかった。殼内面では、縦溝は中心側末端部で鉤状に背側に曲がり、殻端末端で蝸牛舌を形成していた。中心域に遊離点は観察されなかった。これらの観察結果はKrammer (1982)の報告したC. prostrataの殻の微細構造とよく一致した。しかし、演者らが観察した成熟した半殼帯(cingulum)は長さのほぼ等しい4枚のバンドからなり、その4枚のバンドは、オープンバンドが交互に組み合わさった構成となっていた。すなわち、この点において、Krammer (1981)は「この種のvalvocopulaは2枚のsegmentから構成されている」と述べているが、演者らの観察した個体群では、Krammerの見解と異なる結果となった。


1996年3月28日 日本藻類学会第20回大会

真山なぎさ・真山茂樹・石川依久子:特異な葉緑体核様体分布を持つ羽状珪藻 Nitzschia sigmoidea の殻微細構造

 これまで演者らは,Nitzschia sigmoidea (Nitzsch) W.Smith の葉緑体核様体が短い平行線状をなして葉緑体全体に散在していることを報告してきた。今回,本種の殻微細構造を詳細に観察し若干の知見を得たのでこれを報告する。 本種の殻面は直線状,殻長217-307μm,殻幅8.5-10μm,条線の密度は24-25本/10μmである。条線を構成する胞紋列は,殻外表面で閉塞しており,内側は細い溝の中に開口している。縦溝管が接する殻套はもう一方よりも深い。縦溝管の両外側からはcanopy が伸張する。縦溝管には発達した間板がある。縦溝には中心節が無い。半殻帯はそれぞれ胞紋列を持つ5枚のopenバンドから構成されている。 本種は殻の微細構造において,Kobayasi and Kobori (1990)の報告したNitzschia linearisグループの種類と類似を示す。しかし,葉緑体核様体の分布様式においては,リング型を示すN. linearisと全く異なっている。すなわちN. sigmoideaN. linearisでは従来の殻形態による分類と葉緑体核様体の分布様式が一致していない。今後,新しい角度からの系統解析が期待される。