モンゴルプロジェクトフェーズ2/Action in Mongolia

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about Mongolia Project

モンゴル国子どもの発達を支援する指導法改善プロジェクト(フェーズ2)
業務報告(福地昭輝 2012年8月21日~9月4日)

今回の業務内容

 ドルノド県教員研修会における講義
 セレンゲ県教員研修会における講義
 モンゴル授業分析

1.今回の業務

フェーズ2最終年度にあたり、モンゴル全土に広めるためモデル県および拠点校研修プログラム支援を
することが主な業務であった。
派遣期間 2012.08.21~09.4 15日間

【日程】

8/21日(火)移動日(成田→インチョン→ウランバートル)
 22日(水)移動日(国内線でドルノド県チョイバルサン市へ)
 23日(木)研修会 第1日目 3名による「授業研究」「板書」「評価」についての日本の実態(資料1)
 24日(金)研修会 第2日目 分科会 算数部会 理科部会に参加  移動 ウランバートル
 25日(土)フィールド研修(市内)
 26日(日)移動日(車でセレンゲ県スフバートル市へ)早朝 副校長2名 帰国
 27日(月)午前:セレンゲ県教員会議(全体会)教育改革の概要
     午後:校長・教頭対象の研修会にて、学力評価について日本の現状を報告する。
 28日(火)午前:学力評価について日本の現状を報告する。分科会に参加(小学校5年部会)
      午後:フィールド研修
 29日(水)(スフバートル市からウランバートルに向かう)移動日         
 30日(木)午前:プロジェクト研修9/13,14 モンゴル日本センターで開催のプログラム作成会議
          オブザーバーとして参加(参考1) 
   午後:モンゴル版授業研究・研修教材「授業分析用のビデオ」授業記録の分析のための        
         観点案の検討(資料2)
 31日(金)午前:45学校訪問 ナムジルドルジ校長と面会(プロジェクト研修会9/14の説明)
   午後:97学校訪問(協力隊員 清水教諭と内あわせ)   
9/ 1日(土)入学式参加(UB第45学校)
 2日(日)資料整理  
 3日(月)編集作業および 就学前教育(幼稚園見学)ウランバートル市公立2園を見学した。
     帰国準備 移動日(UB→インチョン) 
 4日(火)インチョン空港待機 移動(インチョン→成田)

2.業務内容

 2-1 ドルノド県・セレンゲ県教員会議
今回は、例年新学期直前に各県で行われている教員会議全体会および教科領域別研修会に、特別参加の形で、業務を進めることになった。
ケンブリッジカリキュラムスタンダードの実施に向けた研修の感が強いが、本プロジェクトの日本研修、インドネシア研修の報告もなされた。現場では教育政策の革新の目玉として新政府民主党政権でもケンブリッジによるカリキュラム試行が進んでいくことを実感できた。
 ドルノド県では、二人の副校長も分担した。藤田(世小主にフェーズ1での訪問校)「授業研究(校内研究)の大切さ」を板書や協議会での様子で展開 関田 (金小 主にフェーズ2での訪問校)「教員の指導能力」を板書の大切さを強調して教育実習生の事例で展開 福地は「学力と評価」―日本の学力観・評価観の実際―として展開した。
セレンゲ県では、新学期を控えての教員大会の様相で、優秀教員を輩出した県として意気軒昂の感である。幼児教育を盛んに強調していた背景は、優秀園長が出たことのようです。私一人でしたので、「学力と評価」のみのプレゼンテーションであった。

(1)ドルノド教員会議
[研修会第1日目]
 市内各学校及び周辺校より集まった教員に対する新学期に向けての全体会において、附属小副校長(附属世田谷小 藤田・附属小金井小 関田)福地の3名によるプレゼンテーションを行った。(資料1) 

[研修会第2日目]
 教員研修分科会形式で新指導法研修が実施されていた。特に注目したのは、研修教材としてケンブリッジ教材として、内容にどのようにアプローチするかの議論をしていたことである。理科の場合は光合成についての発達的な表し方が1枚の画面に表現されていた。小学校段階は、主に葉の表面で緑色の 色素ででんぷんが作られていること、中学校段階では、でんぷんの検出を実験的に確かめることや6H2O+CO2=C6H12O6+O2の化学式、高校段階では、カルビン回路について(図はウィキペディアより引用)
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 発達段階で自然の事物・現象をとらえる。カリキュラムの一貫性を見て取ることができる。教育現場はJICAプロジェクトで教員研修を進めてきた中で、当初政策的な意図でケンブリッジカリキュラム研修がにわかに起こり、二重の負担を感じていたようであるが、JICA試行授業教員は、指導法改善のおかげでケンブリッジも受け入れやすくなったと感じている声をよく聞く。
そのことをふまえて、担当プレゼンテーション時に、二角並行したプログラムでなく、融合するものであることを強調した。古いスタンダードで指導法改善を実施してきたので、ケンブリッジカリキュラムの導入は、JICAプロジェクトにおいても大いに歓迎できるものと考えてよいものである。

2)セレンゲ教員会議
第1日目
全体会開幕に当たりセレモニーとして、県知事が冒頭あいさつ、新政府の発足に合わせここ数年で進めようとしている教育政策の大きな項目を強調していた。
 次いで教育局長は、さらに詳細にわたる予算の裏付けをデータで示しながら、教員たちへの理解を促した。また、優秀教員として表彰された幼児教育者の存在を上げ、セレンゲ県における幼児教育の一層の充実をはかり、健康教育にも力を入れて給食の充実を図ることも強調した。
 午後については、第2学校体育館を会場として、県内校長教頭クラス分科会を実施した。そこでは、インドネシア研修、日本研修の報告がなされた。
 そのあとに「学力と評価」についてのプレゼンテーションおよび日本研修における茅野市玉川小学校のDVD映像(今回参加所属県に1枚ずつ用意)で日本の授業研究や学校の1日をダイジェストで紹介した。

第2日目
 午前は、一般教員を対象に、「学力と評価」のプレゼンテーション
 午後は、分科会形式(第2学校会場)に参加。2008より始まった6歳児入学児が第五学年にあたるので、指導方法やカリキュラム(年間指導計画立案)を教科ごとのグループで検討する状況を見学した。

  2-2 モンゴル教員授業の録画DVDによる授業分析観点の検討
  これまでにも、鈴木・アマルタイバン・福地の三者で、録画ビデオのプロコルおよび総括コメントを付加する資料を作成してきた。今後、授業分析による授業評価を研修教材とすることにより、授業の見方を形成し、ライブ「授業研究」やそのあと行う協議会における参加者の授業評価観点を形成すること、指導法改善研修に効果を上げることと思われる。現段階で、授業分析評価の観点案を検討した結果、資料2に示す案となった。今後さらに付加する観点を増やすことと、その観点についてのモンゴル側の共通理解を得たいと思う。

資料1 プレゼンテーション 

  • 3名でプレゼンテーションを行う前に序として
  • 冒頭に述べた説明内容(口語体です)
  • 授業研究はJICAプロジェクト「子どもの発達を支援する指導法改善するために皆さんが授業を変え  るため、すなわちその方法を身に着けるために有効な方法として導入した方法です。「授業研究」は、どうして有効であると思いますか? 
  • 指導法を変えると、子どもが変わることを実感されていますか?
  • 指導法を変えると、子どもの学力が向上しますか?
  • 子どもの学力は世界中で、そんなに差があるのでしょうか?
  • 答えは、日本の子どもの学力が高いのは、先生が子どもの学習成果に責任を感じているということ
  • なのです。そのために、自分の責任で授業をもっと良くしようと思っているからです。
  •   例えば
  • ・先生の質問に子どもは何と答えるか。(こどもの思考から判断する)  
  • ・作ったりする作業では、どんな思いで作っているか(発達理解)
  • ・できなかったことができるようになる。(自己効力感の確認)
  • ・地域のちがいや身のまわりの環境のちがいで経験もちがってくること(学びの対象をどのように
  • とらえているかの把握)
  • ・学習上の困難度「つまずき」は、内容が高度になるにつれ増えてくる。(認識能力の実態と概念発達
  •  の理解
  • ・発問のタイミング・板書・前提学力の把握など(上記を踏まえた教授スキル) 

資料2
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参考1 
計画立案会議参加者
ガンバット  物理  ガンバートル   数学  ニャムゲレル   化学  ナランチェチェチェグ 総合学習   サインビレグ   化学  パグマスレン   初等理科 
ムンフサイハン  物理 ユミチマ   総合理科  エンフチェチェグ 算数  ムンフトーヤ   IT(欠席)JICA側スタッフ ヒシゲ ハナシマ バスカ
研修参加予定者  UB 20名 ドルノド 3 ホブド7 バヤンウルギー3 アルハンガイ5  18名

                                 以 上

「こども中心の授業」は、世界的な流れである。教師中心だったモンゴル教師の「指導法を改善する」目標達成に向け2006より始められたJICAプロジェクトは、日本の「授業研究」をモデルとし、技術移転をし、全土の普及させる難事業であった。現在はフェーズ2にあたり、モデル県及びモデル校がセンター的な存在役割を担って、教員研修を通して全国展開を図っている。教員研修プログラムとして、日本でどの学校でも行っている「授業研究」=「校内研究」を取り入れて、現職研修の効率化を図ってきた。
 「授業研究」とは何かを技術移転するに当たっては、「こども中心とはどういうものか」通常の授業で追及する教師にとって、「授業研究」におけるメインテーマは、こどもの考えをいかにして取り上げながら授業を作っていくかの生のプロセスを対象として、教師の協同で授業(=教師の指導能力)向上を図ることに他ならない。
 「授業研究」に欠かせないこどもの考え=理科では「素朴概念」をいかにして「科学概念」に至らしめるか。それを指導法や教材開発で作り上げていく。概念化には、概念の本質をしっかりとらえて、「教材研究」することであり、教授技術としての「板書」「発問の検討」である。この点これまで、各地域での授業研究会における試行授業のうち、「総合理科」=「人間と自然」では、理科教師が専門領域外を授業することになるので、ミスコンセプションが顕在化する。一例として、物理や地学領域におけるミスコンセプションが目立ち、専門的な知識を再研修する必要を感じていた。フェーズ1から引き続いて先行している試行モデル県ドルノド・セレンゲ両県では、指導法のみならず、このミスコンセプションの改善を、教師の専門学力の再研修の必要性について教育局の年次計画でも強調していた。
 技術移転の難しさはいくつかあるが、その一つ、歴史や文化の異なる国に果たしてそのままの技術移転が可能かということ。そのことは、言葉の問題でもある。用語の「授業研究」「教材研究」の定義は何かを、どうしても求められる。教えることに専念してきた教師が、なぜ、「授業」を研究する必要があるのか。これらに「型」はあるのか。枚挙にいとまがない。物であれば、使い方さえマスターすれば可能であるが、教育(その具体的場面としての授業)は、まさに言語を通した文化の伝達と創造であるから、民族(国家)間の相互理解をしながら、進めていかなければならないものである。一例をあげると、日本の学校は、芸術や体育系の行事に見られる集大成としての学校行事や特別活動に力を入れ、全人的な教育活動で人間形成を図っている。モンゴルは、特に身体運動を、施設や伝統的な点で学校、教育の場では行っていない。草原で、馬に乗り、放牧で羊を追い、生きるために水を運ぶ生活で鍛えられる。「生きる力」を掲げるわが国の子どもとモンゴルの子どもとは、身につくものが歴然と違う。学校教育に「生きる力」を掲げる必要がある国とない国では、根本的な人間形成=教育の考え方は、異なるものである。
 二つ目は、教授スキルである「板書」に見られる、言わば部分的なテクニックととられがちな問題であろう。わが国の「授業研究」では、こどもの考えをどのように取り上げどのようにまとめていくかに欠かせない「板書」であり、「発問の工夫」ととらえていて、協議会では、そのことを分析視点にとらえているので、「授業研究」の重要な要素ととらえている。
 三つ目は、「教材研究」である。用語が先行し、その本質は未だ十分に理解されているとは思われない。これもまた、「授業研究」において、その重要な前提であり、授業の評価において
その質の高さを示すものとして「教材研究」が位置づけられなければならない。教科による「教材」の持つ特質性を十分に踏まえた共通理解を図らねばならないであろう。議論すべきは、一般論としての「教材」ではなく、授業における教材の持つ意味と多様性である。
 以前より、わが国では教材・教具と称して、通常教室内で使われる黒板やそのたのAV機器(かつてはスライド映写機やOHP現在はプロジェクターなど)主にハード的なものを教具として取り扱ってきた。一方、「教材」は、あくまでも授業内容に関連させたものでなければ、意味をなさないものである。いわば、「教具」上で展開される内容そのものを学習対象としていることに「教材」はその価値を持つ。
 理科の場合、実験器具は、どちらの範疇に入るか?これについては、何にでも汎用性のある、温度計やビーカーフラスコなどの容器、電気のメーター類は、「教具」とみなせるものかもしれないが、内容に関連して開発された器具類やモデルは、むしろ、教材である。また、実験や観察を伴う際よく作成されるワークシートや学習上に必要なデータなども、「教材」と位置づけるものであろう。
 先に述べた、「ミスコンセプション」も、「教材研究」と不可分である。授業のための事前に教材を準備する作業は、「教材研究」の大きな部分である。試行授業で、協同で教師グループが行う教材の吟味は、「発問の工夫」や「板書」の中身を検討することとも不可分である。
以上、本プロジェクトで、進められてきた三つのキーワード「授業研究」「教材研究」「こどもの発達」について、その本質理解の努力をモンゴルの教師一人一人に求め続けなければならないことを痛感した次第である。