モンゴルプロジェクトフェーズ2/Mongolia Watching/モンゴルだよりVol.5

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Mongolia Watching/モンゴルだより インデクス

モンゴルだよりVol.5
幼いヒッチハイカー

高畑 弘

11月10日に成田を発って、翌11日はウランバートルから通訳のシュレーさん、ツルムーン君と運転手のバトサイハンさんの4人で350km離れたセレンゲ県スフバートル市へ移動。前日から降り始めた雪はウランバートル市内の交通状況を悪くして、市内を抜けるのに1時間もかかってしまったが、最初の予定通り、7時間でスフバートル市に着くことができた。私の宿泊所は第一学校の寄宿舎の中の客室で、モンゴルの規準で言えば、ほとんど迎賓館であった。シャワーはないものの、お湯の出る洗面台ときれいな水洗トイレが付いている。シングルベットが2台、それと応接セットが置いてある。暖房は少々温度が低いが、さほど苦にはならず、睡眠時はホッカイロを併用して熟睡できた。室内の写真を下に示す。

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翌12日から16日まで近隣の地域の教員約130名を集めて、研修会が開かれた。研修員たちは、ちょうど休暇に入って帰郷している寄宿生の部屋に宿泊することになっている。研修会のコーディネイターはモンゴル人で、私は3つの講演と、研修の中での作業についてコメントを与えたり、求められてサジェスチョンを与えたりするだけで、気楽な立場であった。実質的には15日で研修は終わり、16日は最終的な纏めと発表が行われた。
翌17日はウランバートルへ戻るだけである。朝食を済ませて、9:00ごろ出発。乗員は来た時と同じである。気温はマイナス15度程度で、さほど寒いとは思わない。また、車の中は暖房が利いているので問題はない。車種はトヨタのプラドである。350㎞の単調な道をまた戻るのかと思うといささかげんなりするが、やむを得ない。列車という手もあったが、夜行で10時間かかるということで御免こうむった。来る時とは異なり、スフバートルを出ると間もなく積雪が現れた。モンゴルの雪は気温が低いため風に吹き飛ばされて日本の豪雪地帯のように積もることはない。幹線道路もダワー(峠、丘陵)以外は黒いアスファルトがはっきりと見える。

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車は順調に進む。それでも時折、道端にあおむけに転がって、荷物をばらまいている車があるが運転手のバトサイハンさんは意に介さない。この道は、ウランバートルとイルクーツクを結ぶ幹線道路で、間にダルハン、スフバートル、そして国境の町アルタンブラークがある。
スフバートル市からダルハン市まで約100km、真っ白い雪原の中を一筋のアスファルトの曲線が伸びている。時折、乗せてくれと手を挙げている人たちがいるが、車は通りすぎる。ダルハン市まであと15kmぐらいのところで、右前方に、手を挙げている3つの小さな影が目に入った。バトサイハンさんが「子どもだ。乗せよう」と言って、車を止めた。2人の男の子と1人の女の子が後部座席に乗り込んできた。後部は3人座席であるが、小さいのでどうにか体を入れることができた。男の1人は座らずに立ったままだった。通訳のシュレーさんが「かわいそうに。手袋もしないで」と言ったので、女の子の手の甲を見ると、真っ赤に腫れていた。寒さのせいだろう。服装を見ると粗末な薄いダウン(?)のコートであった。聞いてみると、3人は兄弟妹で、上の男の子が4年生、下の2人はともに1年生だという。遊牧民の子どもたちで休暇が終わり、寄宿舎に帰るところだとのことである。外はマイナス15度以下、その中をすでに6kmぐらいは歩いてきたらしい。学校はダルハン市にある。外国人に会うのははじめてなのだろう、私の顔を用心深そうに見つめている。シュレーさんがしきりに話し掛ける。アメかチョコレートを持ち合わせていれば上げられたのだが、スフバートルですべて研修員たちに上げてきてしまったので、其れもできない。しかし、この3人の親はどういうつもりで彼らを送り出したのだろう。目的地ダルハン市までは20kmを超える。雪は降っていないものの吹き晒しのマイナス15度以下の幹線道路に送りだされた時の彼らの心情はどのようなものだったろう。すでに歩いた6㎞の途中、幾度となく手を挙げて、車を止めようとしたに違いない。体が温まってくるに従い、こちらのいろいろな質問に応えてくれるようになったが、用心深そうな目つきは変わらない。
ダルハン市に入って、年長の子供が、「あそこで下して」といったので、まもなく車が止まった。ドアを開けて降りるとき、シュレーさんが女の子に、「これを持っていきなさい」といってリンゴを一つ渡すと、「有難う」という言葉とともにはじめての笑顔が返ってきた。