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モンゴル国子どもの発達を支援する指導法改善プロジェクト

—第2年次(2007年度)2月3月試行授業実施指導業務報告—

[算数・数学担当] 高畑 弘
蒔苗直道

1.日程
○2月18日(月)
出国
○2月19日(火)
午前中、Setgemj学校で、試行教員と試行授業の内容について検討。
午後、45学校で、数学の試行教員と試行授業の内容について相談、指導。
○2月20日(水)
午前、45学校へ行き、算数のWGの一人と、指導書(案)について検討。
午後、97学校で数学の試行教員と指導書(案)について検討、指導。そのあと、算数の試行教員と指導書(案)について検討、指導。
○2月21日(木)
午前、数学教育センターで、数学のWGの二人を相手に教材の配列について講義。
午後、Setgemj学校で、数学の試行授業を参観、指導。
○2月22日(金)
午後、Setgemj学校で数学の試行授業を参観、指導。
○2月23日(土)
午前、数学教育センターに数学のWG、算数のWGの方々に対して、教材の配列について(特に図形)講義。
○2月24日(日)
Selengeへ移動。
○2月25日(月)
午前、第一学校で数学の試行授業を参観、指導。
午後、第一学校で算数の試行授業を参観、指導。
○2月26日(火)
午前、第四学校で算数の試行授業を参観、指導。
午後、第四学校で数学の試行授業を参観、指導。

数学の授業風景Selenge第4学校 (数学の授業風景)
「1次関数はむずかしいなあ。」

○2月27日(水)
Hushaat ソムへ向かう。
午前、2時間続きの算数の試行授業を参観、指導。帰途に就く。

算数の授業風景 Hushaatソムの学校 (算数の授業風景)
 「同じ問題でもいろいろな解き方があるんだね。」

○2月28日(木)
Ulaanbaatalへ戻る。
○2月29日(金)
午前、45学校で数学の試行授業を参観、指導。
午後、97学校で数学の試行授業を参観、指導。
○3月3日(月)
午前、DolnodのChoibalsan市へ移動。
午後、ハンウル小学校で、算数の試行授業を参観、指導。続いて、中学校で数学の試行授業を参観、指導。
○3月4日(火)
午前、第5学校で、算数の試行授業を参観、指導。
午後、第5学校で、数学の試行授業を参観、指導。

数学の授業風景 Dolnod第5学校  (数学の授業風景)
 「先生の説明は分り易い!!」

○3月5日(水)
午前、Ulaanbaatal市へ移動。
午後、Setgemj学校での授業後の検討会に出席、指導。
○3月6日(木)
午前、初等教育センターに算数のWGの皆さんに集まってもらい、今回の試行授業の意義について確認。
午後、算数と数学の試行授業の参観、指導。
○3月7日(金)
帰国


2.成果と所感
 1年目の指導書の課題は従来の「知識注入型」の授業から「双方向交流型」の授業への転換であった。授業形態は、ある意味で視覚的な部分もあって、モンゴルの教員たちにもその転換の意義が理解され、また受け入れやすく、指導書もその転換の方向で作成されたと言ってよい。しかし、その転換が「教材研究」や「つまずきの研究」という多くの地味な研究活動に裏打ちされていることを理解した上でのものであるかは甚だ心もとなかった。2年目の今年度の課題を「教材研究」と「つまずきへの対応」としたのは、指導法転換の実質的背景を充実していく必要があったからである。
 もちろん1年目の指導書作成の過程での試行授業計画のなかで、授業に工夫を加えようとして、モンゴルの教員たちは無意識のうちに「教材研究」らしきことを実践しているが、意識的な研究課題としての「教材研究」ではない。
 算数でいえば、ある試行授業のなかで「4つのタイヤの自動車が10台あります。全部でタイヤはいくつでしょう。式を立ててみて下さい。」という課題に対して、担当の教員ばかりではなく、市の指導主事までが、4×10でも10×4でもどちらでもかまわない、ということであった。
 また、数学でいえば、円に対する接線、内接円、外接円などの概念をまだ学んでいない生徒に三角形の内心や外心を教材として提示する試行授業もあった。 今回は、Ulaanbaatal市のモデル校より、地方の学校での試行授業を多く参観、指導する機会をもった。そこでは、昨年度の指導書の趣旨に沿った授業が行われていたし、教員たちは熱心に授業準備を行い、新しい指導法に意欲的に取り組んでいた。
 総じて、モンゴルの教員は指導法改善に熱心であるが、その熱意を阻む要因がいくつか考えられる。そのうち、二つだけ挙げておきたい。一つは、彼ら自身が受けてきた教育である。なかなか自分が受けてそれによって成長してきた教育の影響を否定することは困難である。もう一つは、教材研究とは縁遠い教科書である。三角形の内接円を学ぶ前の生徒に内心を提示する教科書を使用して、教材研究は無意味に近い。
 今回の業務の中で、算数と数学のWGの方々に対して、小学校・中学校を通して、教科書の中の教材の配列に関する話をした。例えば、小学校の図形の領域での教材の配列、量と測定の領域での教材の配列などについて、またそれらがスパイラル構造になっていることなどについて、である。WGの構成メンバーにはこれからのスタンダード改革に携わる方々が多く加わっている。小生の話が彼らの頭のどこかに存在し続けて、いつか「モンゴルの教科書改革」において花開くことを願ってやまない。

以上