空気抵抗は,なぜ速度に比例するの?

 

空気抵抗による力は,読んで字のごとく空気中を進む物体が空気から受ける力のことです.それは,物体の速度が遅いときは大ざっぱに言って速度に比例します.皆さんは,自転車に乗ったとき,スピードを出すほど空気からの抵抗力が強くなっていくことを感じたことはありませんか.

空気は,窒素分子をはじめとして様々な分子からなっています.そして,その分子は,たとえ風のない静かな部屋の中でも,平均として音速(だいたい300m/sec)以上のすごいスピードで飛び回っているのです.そんなすごいスピードのものが私たちに当たっても痛くないのは,分子の質量がとんでもなく軽いからです.そんなとんでもなく軽い分子でも,とんでもなくたくさんの数で当たってくると,大きな力になります.台風のときなど,吹き飛ばされそうになりますよね.

空気中を動いている物体が空気から抵抗力を受けるのも,たくさんの分子が当たってくることによるものです.

もう少し具体的に見ていきましょう.ボールが空気中を速度Vで進んでいるとします.また,空気分子の平均的な速さを­とします.ボールは空気分子の速さよりずっと遅く進んでいると仮定します.

 

 

 

 

もし,ボールが静止していたら,空気分子が衝突することによってボールが受ける力は平均するとゼロになります.しかし,ボールは進んでいるので,そうはならないのです.そのことを見るために,上のボールと一緒のスピードで動く座標から,ボールとその周囲の空気分子を眺めてみましょう.図(b)です.ボールが止まって見える代わりに,空気分子はボールの速度をベクトルとして加えた速度で進むように見えます.電車に乗っているとすべての景色が後ろ流れていくように,前後の分子の速度には−Vが加わるのです.

ボールでもいいのですが,もっと単純化した板で考えてみましょう.空気分子も,板に対して真っ直ぐ衝突してくるものだけを代表として考えましょう.

 

(c)のように,板の前と後ろから速度−­と­で分子が衝突してきます.それを,板が止まって見える座標から見たのが図(d)です.

前から当たる分子の速度は−­−V=−(+V )に,後ろからのは­―Vになるわけです.これらの分子が板に衝突して跳ね返ると,分子に比べて板の質量は無限大にも思えるくらい大きいですから,分子の速度は大きさはそのままで向きが反転します.(このことは,運動量保存則を使って衝突後の速度を求めてから,板の質量が分子に比べてはるかに大きいとすると,簡単に示せます.やってごらん.)したがって,分子が当たって跳ね返ることにより板が受け取る運動量は,

(後ろから当たった分子の運動量変化)

         (1)

(前から当たった分子の運動量変化)

        (2)

となります.

 板が空気分子から受ける力を求めるには,ですから,単位時間当たりに前から当たる分子の数を,後ろからのをとして,求める空気抵抗の力は,

                    (3)

です.では,を求めましょう.空気の密度は一様とし,それをρとおきます.板の面積をの間に進行方向に沿って内の分子が板に衝突するとすると,の間に前方から板に衝突する分子の総数はです.これをで割って,単位時間当たりに前方から衝突する分子数

                     (4)

と求まります.ここでですから

                     (5)

同様に,今度は後ろから衝突する分子数を考えて

                     (6)

と求まります.(確かめてください.)

 

(1)(2)(5)(6)式を(3)式に代入すると,

となる.つまり,空気抵抗の力Fは,物体の速さVに比例することが示されました.