第2回 10月28日(火) |
電気の基本は,第1回で「根本的事実」とした「原子の存在」にある.
全ての物質は,原子からできている.原子は,プラスの原子核とマイナスの電子からできていて,通常は全体として中性である.すなわち,プラスの数とマイナスの数は等しい. |
原子のサイズ:
だいたい1Å(オングストローム)程度.1Å=10-8cm.
水素原子の半径(正確には,Bohr半径)は0.529 Å.
電子の電荷と陽子の電荷の大きさは等しい.その大きさを電気素量と言い,eで表す.
e=1.602×10-19C (2.1)
電子の電荷量=-e,陽子の電荷量=+e.
原子核には,電子と同じ数だけの陽子がある.
ものすごく狭い範囲に反発しあう陽子を閉じ込めるために,中性子が大体陽子と同じ数くらい存在する.
中性子は電気的に中性だが陽子との間に(極々近距離でのみ)「強い力」を及ぼしあい,それにより,原子核内に陽子を閉じ込めている.
静電誘導の生じる理由:
なぜ,摩擦電気などにより帯電した物体に近づくと,物質は引き付けられるのか.
それは,不導体の場合は原子が分極するからである.
しかし,分極したからといって,なぜ,引き付けられるのか?
図において,分極のマイナス部分は引力を受けるが,プラス部分は反発力を受ける.
したがって,結局,プラスとマイナスで打ち消しあう力しか帯電物質から受けないのではないか.
引き付けられる理由のキーポイントは,「電気力の距離依存性」である.
図をよく見てみよう.矢印の長さから分かるように,分極のマイナス部分の方が,プラス部分より帯電物質に近い.
もし,電気力が距離が近いほど強いならば,マイナスの引力の方がプラスの斥力よりも強くなり,引き付けられることが説明できる.
実際,電荷の間に働く力は,次のCoulombの法則で与えられるように,距離の自乗に反比例している.
問 上の図で,もし帯電体がマイナスに帯電していたら,どうなるだろうか.
注:原子の分極
プラスの電荷が近づいたとき. 電子雲は+電荷に引き付けられる. 相対的に原子核は反対側に寄って見えるので,プラスとマイナスを端に持つようになる.(磁力で喩えるなら,棒磁石のような状態になる.) マイナスの電荷が近づいたとき. 電子雲は−電荷に反発される. 相対的に原子核はマイナスの電荷側に寄って見える.
Coulombの法則
電荷量がQ1,Q2,距離がRである2つの点電荷の間に働く力の大きさは
(2.2)
で与えられる.力の方向は,2つの電荷を結ぶ直線上にあり,Q1とQ2
が同符号の場合(プラスとプラス,マイナスとマイナス)は斥力で,異符号の場合(プラスとマイナス)は引力となる.
ベクトルとしてCoulomb力を表してみよう.Q1の位置ベクトルをr1,Q2
の位置ベクトルをr2とすると,Q2がQ1に及ぼす力Fは,
(2.3)
で与えられる.
なお,比例定数kはSI単位系で(つまり,普通に使われている単位系で)
(2.4)
である.ここに,ε0=8.8541×10-12[C2/Nm2]は真空の誘電率と呼ばれる量である.
(なぜ,わざわざk=1/(4πε0)などと比例定数を複雑な形におきかえなければならないのか?
これは,かなり先で分かってくる深遠な理由があって,驚くべきことにε0は光速と結びついていくのである.)
分極した原子と電荷の間の静電気力
授業では,一般的な位置に電荷がある場合を考えた.ここでは,より簡単な場合で考えよう.
図のように,同一直線上に電荷+q(座標-d/2)と-q(座標d/2)と電荷Q(座標z)がある場合を考える.
電荷+qと電荷-qは,距離dだけ離れた双極子である.
電荷+qと電荷Qの間に働く力は,(2.2)式より
(2.5)
同様に,電荷−qと電荷Qの間に働く力は
(2.6)
ただし,力の向きは右方向を正にとった.
Qにはたらく合力は
(2.7)
となる.分母を比較すれば,F<0 すなわちQは引力を受けることが分かるであろう.
特にの場合を考える.dの2次以上を無視する近似を使う.まず
を用いると(2.7)は
となる.次に,等比級数の公式(「高校数学落穂拾い」参照のこと)
を用いると
となるから,
(2.8)
を得る.
この結果のポイントは,Fがzの3乗に逆比例していることである.Coulombの法則では力は距離の2乗に逆比例していた.
すなわち,プラスとマイナスの電荷のペアがつくる双極子の電気力は常に引力となるが,それは距離が大きくなると,Coulomb力より遥かに急激に小さくなっていく.dはせいぜい1Åであるから,仮に1cm離れたところにる物体に対して分極による電気力がはたらくとすると,その力はCoulomb力よりd/z=10-8だけ小さい.つまり,原子の分極による力は,マクロなスケールにおいては,とても小さいものになるわけである.