第7回 12月16日 導線内の電荷の運動・・・電流とオームの法則 |
導線内の電荷の運動
電気抵抗の原因
電子(もしくは電荷)が金属のような固体内を運動する場合,(6.3)式で表されるような等加速度運動を続けることは不可能である.なぜなら,原子との衝突が避けられないからである.電場がかけられた金属内を電子が進むと,加速されればされるほど,原子と衝突回数も多くなり,それによる減速も大きくなる.そのため,電子は平均的に一定の速度で進むようになる.原子との衝突が,金属中の電気抵抗の主な原因なのである.下の図は,金属内の電子の運動をシミュレーションしたものである.(格子の原子は,実際には熱振動しているので跳ね返る位置がずれて見えている.)
実際の金属内の電子の運動を正しく説明するには量子力学が必要となるが,ここでは古典力学を用いて,電気抵抗を理解しよう.
原子との衝突で「跳ね返る」,つまり,散乱されるというプロセスは,古典力学といえどもそう簡単にモデル化できない.しかし,散乱のため,結果的に電子は空気抵抗のように速度に比例する抵抗力をうけると考えるならば,問題は簡単にあつかえる.なぜ速度に比例するかというと,上に述べたように,スピードが速くなればなるほど,原子との衝突する頻度が高くなるため,速度の方向が変化する可能性も増え,結果的に抵抗力が増加してみえることになるからである.
電荷(通常は電子を考えるが,ここでは一般的に電荷としておく)の受ける力を
(6.9)
と表すと,
(6.10)
と書けるので,電荷の運動方程式は
(6.11)
となる.
(6.11) 式は,「力の科学」の授業の「雨粒の落下」で解いた方程式
と全く同じなので,ここでは解法を繰り返さない.
(6.11)式によると,電荷は時間が経つとF=0となり,加速度がゼロ,すなわち一定速度で運動し始めることになる.その速度は,
(6.12)
より,
(6.13)
となる.この速度vdを,ドリフト速度という.また,緩和時間τを
(6.14)
で導入した.緩和時間は,速度がほぼ一定の速度vdに落ち着くまでの目安を与える時間である.
電流
さて,ここで,電流の定義を述べておこう.
電流とは,単位時間当たりにある面を通過する電荷量のこと
である.つまり,
(6.15)
ここに,ある電線の断面積をS,その中を流れる電荷q (通常は電子でq=-e)の数密度をnとし,電荷は皆平均的に等しい速さvdで運動しているとする.Δt の間に電荷がΔLだけ進んだとすると,断面を通過した電荷の総数は
(6.16)
となる.これを電流の定義式(6.15)に代入すると,
(6.17)
を得る.ただし,「距離=速さ×時間」の関係
を用いた.
オームの法則
では,話を(6.13)に戻そう.(6.13)式を(6.17)式に代入すると,
(6.18)
となる.今考えている導体の長さがdであるとすると,その両端に加わる電圧はV=Edであるから((6.5)式参照のこと),これを代入して
(6.19)
を得る.ここで,この導体の電気抵抗Rを
(6.20)
で定義すると,
(6.21)
を得る.これは,中学校で習ったOhmの法則に他ならない.
Ohmの法則の根本にあるのは,(6.13)式である.ミクロに見たOhmの法則は,電場(電圧に対応)とドリフト速度(電流に対応)の比例関係であり,衝突頻度に電気抵抗は対応しているわけである.
(6.20)より,電気抵抗は,導体の断面積Sに反比例し,長さd に比例することがわかる.このような,物質のサイズによる部分を省いて,電気伝導度を
(6.22)
で定義すると物質固有の量になるので便利である.(ここで,電荷をqから電子の電荷-eに直した.) 電気伝導度は物質固有の量なので,理科年表などにも載っている.電気伝導度を用いて電気抵抗を表すと
(6.23)
となる.(なお,電気伝導度の逆数を,電気抵抗率という.)
(6.13)式を,電気伝導率を用いて表してみよう.両辺にqn (ここでもq=-eとする)を書けると,
(6.24)
を得るが,(6.17)式を見てみると,左辺は,単位面積当たりの電流I/Sになっている.これを,電流密度という.
(6.25)
電流密度を用いて(6.24)式を表すと,
を得る.これも,Ohmの法則と呼ばれることがある.