カウンセラーの職業倫理について


N98-6128  橋詰典弘




一章  始めに・職業倫理について



 大学で授業を受け、実習に行くといわれることがある。「カウンセラーって守秘義務はどうなっているの?」「守秘義務なんてないんでしょ?」というような言葉である。実際に学んでいる者にとってはとても耳に痛い言葉だと思う。そのようなことを言われる度に私はそういったものの必要性を感じるようになった。そこでまずは具体的に職業倫理とは何かを勉強したく思い、ここにまとめようと思った。そこでまずは職業倫理とは何であるかを考えていきたい。

 職業倫理とは(金沢1998)によると「人権を尊重し、人々の福祉と健康のために専門知識・専門技術を用いることによって社会的な責任を果たすことという考えに基づいている。そしてそれは専門家の集団として目指す目標を定め、それに向かって邁進し、現在よりも高いレベルに専門家の行動を高めていくことを社会に向かって宣言するものである。これらの規定は、通常、専門家が最低限守るべきことを定めており、専門家はそうした規定に定められている以上の規準で自らの行動を図ることが求められる。」またカウンセリングにおける職業倫理として「第一にクライエントを守るためのものでありクライエントの人権や人格を守るためのものである。第二に職業倫理には、カウンセリングという分野が社会において占める立場を規定し社会の一員として果たす役割を明らかにする役目がある。第三に職業倫理によってクライエントを守ることにより、結果として、カウンセリングという分野を守る役目がある。」(金沢1998)と定義されている。つまり職業倫理とは最低限の基準であり、それによってクライエント・カウンセリングそのものを守るためのものだということが出来る。そして職業倫理の七原 則として以下のことを挙げることが出来る(金沢1998)。

第一原則  相手を傷つけない、傷つけるような恐れのあることをしない相手を見捨てない。同僚が非倫理的に行動した場合にその行動を改めさせること。

第二原則  十分な教育・訓練によって身につけた専門的な行動の範囲内で、相手の健康と福祉に寄与する

  効果について研究の十分な裏づけのある技法を用いる心理テストの施工方法を遵守し、たとえばテストを家に持ち帰って記入させるなどといったマニュアルから逸脱した使用方法を用いない。自分の能力の範囲内で行動し、常に研鑚を怠らない。カウンセラー自身の心身の状態が不充分なときにはカウンセリング活動を控える。専門技術やその結果として生じたもの(たとえば心理テストの結果)が悪用・誤用されないようにする。自分の専門知識・技術を誇張したり虚偽の宣伝をしない。専門的に認められた資格がない場合、必要とされている知識・技術・能力がない場合、その分野での規準に従わないケアや技術などの場合、等の際にはカウンセリングを行わず、他の専門家にリファーする等の処置をとる。

第三原則  相手を利己的に利用しない多重関係を避ける。

クライエントと物を売買しない。物々交換や身体的接触を避ける。勧誘をしないなど。

第四原則  1人1人を人間として尊重する

    冷たくあしらわない。カウンセラー自身の感情をある程度相手に伝える。相手を欺かないなど。

第五原則  秘密を守る

    限定つき秘密保持であり、秘密保持には限界がある。本人の承諾なしに専門化がクライエントの秘密を漏らす場合は、明確で差し迫った危険があり相手が特定されている場合、公衆の健康・安全・福祉のために必要な場合、虐待が疑われる場合、そのクライエントのケア等に直接関わっている専門家等のあいだで話し合う場合(クリニック内のケース・カンファレンス等)、等である。もっともいずれの場合も、出来るだけクライエントの承諾が得られるように、カウンセラーはまず努力しなければならない。また、記録を机の上に置いたままにしない、待合室などで他の人にクライエントの名前などが聞かれることのないようにする、といった現実的な配慮も忘れないようにする必要がある。なお他人に知らせることをクライエント本人が許可した場合は、守秘義務違反にはならない。

第六原則  インフォームドコンセントを得、相手の自己決定権を尊重する。

    十分に説明した上で本人が合意したことのみを行う。相手が拒否することは行わない(強制しない)。記録を本人が見ることの出来るようにするなど。

第七原則  全ての人を公平に扱い、社会的な正義と公平・平等の精神を具現する

    差別や嫌がらせを行わない。経済的なその他の理由でサービスを拒否しない。一人ひとりに合ったアセスメントや介入などを行う。社会的な問題への介入をおこ
なうなど。

以上のことを踏まえた上で、実際にどのように基準が設けられているかをアメリカを例として次の章で扱うことにする。


二章  アメリカの職業倫理



 アメリカではアメリカ心理学会(American Psychologist Association略称APA)が倫理基準をつくっており、これがカウンセラーの行動に関する指針として挙げられている。以下に1977年改訂版の要約を付記するが著作権などを考慮すると全文を載せることは出来ないと思われました。また資料が手に入らなかったため、最新のものである1992年のAPA倫理綱要は載せられなかった。以下よりも新しい倫理綱要が存在することをここに記しておきます。また要約ために言葉足らずで解釈が多用に取れてしまう可能性があります。そうならないよう参考文献を手に入れることを推奨します。

  以下APA倫理綱領要約

前文 
心理学者は、基本的人権の保護を重んずること。自分や人々の理解のための知識を蓄えたり活用する努力を重ね、またそれを援助すべき人や動物に対してあらゆ
る努力をすること。自分達の技術を第三者に濫用されることを黙認しないこと。これらの理想実現のために諸原則に従うこと。

第1原則  責任 1977年改訂


    心理学者は最高水準の職業的技術を維持すること、自分達のサービスに責任を持つこと。

(1) 適切な研究領域とそれにふさわしい方法を選ぶ責任があること。過ちの起こりにくい方法を選択し、なお十分な吟味を行うこと。未確認の事実もありのまま発表
し、自分が実際に行った研究のみを自分の研究業績とすること。

(2) 雇われている心理学者は機関から圧力がかかったときに、それを調停する義務があること。

(3) 組織・団体の一員でもある心理学者は個人としても職業水準を最高に保つ責任がある。

(4) 教師として心理学者は学習している者の援助を第一の義務とすること。

(5) 実践家として心理学者は社会的責任が重いことを認識すること。

(6) 心理学者は周囲の人に対して十分かつ適切な評価をすること。


第2原則  能力  1977年改訂


    すべての心理学者は高水準の職業的能力を保つ責任がある。自分の能力と技術の限界を知り、業務を行うこと。

(1) 心理学者は自分の経験を正確に表示すること。定められた機関からの学位のみを職業的資格とすること。

(2) 教師として心理学者は十分な準備をした上で業務を遂行すること。

(3) 常に研鑚する必要を自覚し、あらゆることに対して偏見をもたないこと。

(4) 個人や政策を決定する責任ある立場にある心理学者は教育的測定・妥当性検定等の知識をもつこと。

(5) 心理学者の側の精神障害は能力の妨げになることを自覚すること。それによってサービスが不充分になる恐れがあるときは有能な専門家の助言を得ること。


第3原則  道徳・法的基準  1977年改訂


    心理学者の道徳的基準は基本的には一般市民と同じく個人の問題である。このような基準を守ること・逸脱することによっておきる職業的サービス・同僚の能力
    への影響を自覚すること。

(1) 教師として心理学者は素材を提示するときには客観的に扱い、その当人に大しても受け入れ準備が出来る形で提供すること。

(2) 雇われている心理学者は法的・道徳的・倫理的基準に反する行為に加わるのを拒否すること。

(3) 心理学的サービスを提供する際には人々の権利を侵害し、減じるような行為を避けること。実践家として心理学者は、定められた行為基準に沿った行為をすること。現行規制の改正に関心を持つこと。

(4) 研究者として心理学者は定められた規則に従うこと。


第4原則  不正表示  (1)〜(4)は1972年増補


    心理学者は自分や機関の資格等の情報を不正に表示しないこと。

(1) 心理学者は自分の専門資格や施設との関係を不正に表示しないこと。専門的資格や所属の不正表示を発見した場合には訂正する責任ある。

(2) 心理学者は自分の所属するの不正表示を行わないこと。

(3) 心理学者は資格をアメリカ心理学会の目的に反して使用しないこと。

(4) 心理学者は自分の名前や協力関係の不正表示を許さないこと。


第5原則  公的発言  1977年改訂


    心理学者の公的行為は必要な情報を提供するという目的にかなったものであること。心理学的情報や、心理学的製品等については知識や技術の限界さあいまいさを十分考慮して行うこと。

(1) 職業的サービスの告示において質または独自性を論じないこと。認められた科学的証拠によるものでない限り、独自性を主張しないこと。

(2) 心理学的サービスや製品の有効性を告示するときに誤解されうる表現をしないこと。

(3) 成長グループの告示は、目的と種類を明確に述べること。たずさわる心理学者の経験を適切な形で明記すること。

(4) 商業的な販売を目的として、普及に関係する心理学者は、実際にもとづいた情報を提供するようあらゆる努力を払うこと。

(5) 心理学者は、個人的な利得のために、商業的告示には加わらないこと。

(6) 公衆に、解説する心理学者は、不誠実な解説を避け、資料を正確に提示する義務がある。またそれによる判断を選択できるように援助することを義務とすること。

(7) 教師として心理学者は、教育プログラムには、プログラム担当の心理学者の経験、受講料を表示し、対象を正確に表示すること。研究のために対象者をつのり、その研究の中で臨床的サービスを導入として行うことを公示するときには、与えられるサービスの特徴を明示すること。

(8) 心理学者は、不正に表示している他の心理学者の行為を発見したときは、これを正す義務がある。

(9) 診断・治療を目的とする心理学的サービスは、職業的治療関係においてのみ行うこと。


第6原則  秘密保持 1977年改訂


    心理学者が個人情報の秘密を守ることは、心理学者第1の義務である。そのような情報は基本的に他人には漏らさないこと。

(1) 個人情報は個人あるいは社会に明白かつ差し迫った危険があるときにのみ、適切な専門職の人々あるいは公的に権威ある人々にのみ明かされること。

(2) 得られた評価資料は、専門的な目的にのみ、明らかに関与した人々との間でのみ検討されること。個人の秘密を不当に侵害しないように、あらゆる努力が払われねばならないこと。

(3) 資料は、個人が特定不能に潤色した形でのみ用いること。

(4) 個人情報の秘密は保たれること。当事者や関係者が許可を与えたときにのみ、情報は関係する個人に示されること。心理学者は秘密の守られる範囲をクライエントに知らせる責任があること。

(5) 許可の後にのみ、研究対象は公表されること。氏名の公表の許可なし公表する場合は、個人を隠蔽する責任があること。

(6) 心理学者は、記録の秘密の漏洩を防ぎ秘密保持のための措置を講ずること。


第7原則  依頼者の福祉  1977年改訂


    心理学者は、誠実さを重んじる。クライエントと心理学者を雇っている施設との間の利害の対立がある場合には、すべての立場の人々に自分の立場を明確に伝え
ること。心理学者は、説明を十分に行うこと。また、心理学者は、対象者に参加および選択の自由を認めること。

(1) 心理学者は、信頼と依存を利用することを避けるために、クライエントに対して自分が本来強い立場にあることを常に認識すること。また好ましからぬ関係にならぬよう努力を払うこと。クライエントと性的な関係になることは非倫理的である。

(2) 心理学者に対する組織の要求が正当な条件を越えるときは、心理学者は利害の対立を認識すること。そのようなときは、自分の責任をすべての関係者に知らせること。

(3) 人の上に立つ者として行為するときには、心理学者は、自分の部下に対して、情報を与えられた上での選択の自由。

(4) 職業的な業務における金銭的な取り決めは、クライエントがはっきりと納得した職業的規準に従った物であること。心理学者は料金の支払いが困難でも、援助する責任がある。心理学者は、経済的見返りのない仕事にも自分たちのサービスを喜んで献じるものである。

(5) 利用者が利益を受けていないことが明白であるときは、関係を終結させること。サービスが被雇用者に利益にならない形で雇用者に利用されている場合契約の改正あるいは解約を申し出る責任がある。


第8原則  依頼者との関係  (1)〜(3)は1972年に増補


    心理学者は、訪れたクライエントに対して、以後の治療関係につながるか否かの重要な情報を与えること。

(1) 治療関係に入るか否かを決める際に影響を与える事項には、面接内容の記録、面接資料を使用することなどが含まれる。

(2) クライエントに状況の判断能力がない場合、クライエントに対して責任のとれる人物に、情報を与えること。

(3) 心理学者は、2重の関係によってその人の幸福をおびやかすおそれのある人とは、専門的治療関係を結ばないこと。
    

第9原則  公平なサービス  (1)は1972年増補


個人への心理療法的行為は、職業的な関係の範囲でのみ行うこと。

(1) 郵送法だけによって行ったテスト資料をもとにした人事レポートは、被検査者との深い面接でしか把握できないような潤色されたものであってはならない。またレポートは、企業の業務内容に関して心理学者が知っている範囲以上に、立ち入った勧告をしてはならない。また、レポートは企業がおこなうべきものを省略する目的で使ってはならないこと。


第10原則  サービスの告示  (1)〜(6)は1972年増補


    心理学者は、自分の行える専門的サービスを、公にするときには、職業的規準にしたがってこれを行うこと。

(1) 心理学者は、クライエントを直接勧誘しないこと。

(2) 電話帳の個人記載は、所定の内容のみに限られる。機関名の記載についても同様に控えめに行うこと。

(3) 個人開業について告示するときは、所定の内容に限ること。機関についての告示は、個人の場合と同じ規準に従って行い、機関の性格が明瞭にわかるようにすること。

(4) 非臨床的サービスを告示した個人または機関は、サービス内容を事実に即して具体的に述べたパンフレットを学校その他類似の団体に送付出来る。

(5) 利用者からの推薦状をパンフレットに載せることは認められない。勧誘目的の無料サービスは、サービスを過度に示す目的で行う場合には認められない。独自の技術や有効性が科学的に証明されたときにのみ許される。

(6) 心理学者は、サービスの効果を過度に吹聴してはならない。自分の行うサービスの有効性を主張する場合には、サービスの結果や主張を専門雑誌に公表し、吟味をすすんで受けることの出来る範囲内を越えてはならない。


第11原則  専門職間の関係  1977年改訂


心理学者は、専門分野の同僚の要望や能力や義務を尊重すること。参加している施設や組織の特権や義務を尊重すること。

(1) 心理学者は、関連職業のもつ能力を理解し、あらゆる資源を十分に活用すること。他の専門職従事者との公的な関係がないからといって、責任や援助をするための洞察や鋭敏な感覚を磨く努力を怠らないこと。

(2) 心理学者は、他の職種の伝統と業務内容を知り、考慮しつつ、このような人々とも協力すること。もし他の専門家からサービスを受けている場合には、利用者が混乱や対立することないよう、すでに係っている専門家にまず連絡をすること。

(3) 雇ったり監督する立場にある心理学者は、経験の機会などを与えて、一層の専門的成長を促すこと。

(4) 心理学的サービス組織の被雇用者、組織の中で独立した心理学者としてサービスを行う心理学者は、自分の属する組織を保全するように努めること。Clのために組織のプログラムに問題があると判断したとき、情報を外部にもらす前に、組織の中で改善を試みること。

(5) 研究を行うに当たって心理学者は、後援団体、所属施設、出版社筋に対しても、個々の研究対象に与えると同じく敬意を払い、情報を与えられた上での同意の機会を与えること。心理学者は、研究者となる人々に対する義務を自覚し、所属する施設の研究について十分な情報を与え、そこよりえた寄与に対し適切な謝辞を述べること。

(6) 出版に対する経緯は、貢献度に応じて貢献した人全てに与えられること。数人によって行われた場合、おもだった貢献には、その者を明らかにしその名を最初にあげた上で共著者とすること。わずかな貢献、広範囲にわたる事務的・非専門的な援助・その他の貢献には、脚注または序文のなかで感謝の意を表すこと。直接影響を与えた資料に対しては、特別に引用して謝意をあらわすこと。過去の資料を編集して出版する心理学者は、その資料を作ったグループ名で出版し、編集に当たった心理学者の名は委員長または編集者としてつけ、貢献したすべての名をあげること。

(7) ある心理学者が倫理規準に違反した場合、その行為を知った心理学者は、可能ならば正す努力をしなければならない。解決が出来なかった場合、適当な委員会に通告すること。

(8) 学会員は、正式な委員会に協力すること。とりわけ科学的・職業的倫理規準心理委員会からの問い合わせに対して、迅速かつ完全な回答を行うこと。問い合わせに回答が30日以上を要した場合、「適当な迅速さ」を示す義務を負う。学会員は、正式な州学会の倫理委員会および職業倫理規準心理委員会にも同様な責任がある。


第12原則  報酬  (1)〜(4)は1972年増補


    専門業務の経済的な取り決めは、専門的な規準にしたがうこと。

(1) 専門的なサービス料金を決める際には、負担能力があるか否か、また、他の類似の料金に比べて妥当か検討すること。心理学者は、全く見かえりのない仕事にも、自分のサービスを提供すること。

(2) 心理学者は、専門的サービスを行うために紹介によるいかなる報酬ももらったり、与えたりしないこと。

(3) 臨床的業務に従事する心理学者は、個人あるいは機関の利得のために、Clとの関係を利用してはならないこと。

(4) 心理学者は、組織等から自分のサービスを受けるよう義務付けられている人に対して、サービスによるいかなる報酬も受け取ってはならないこと。組織の方針で、心理学者に治療を行うための、規定を特に設けている場合は、関連する全てを十分に伝えなければならない。


第13原則  テストの保全  (1)〜(2)は1972年に増補


    評価方法の価値は、被験者の正直さにいくらか依存しているが、評価方法を、その価値を損なう形で、記述しないこと。このようなテストを扱う人々は、これらの利用を保護できる専門的関心をもっている人に限ること。

(1) 議論の対象となっているテスト項目に似せた見本項目を、一般的な雑誌などに掲載することは出来るが、実際のテスト項目は、専門的出版物以外には掲載できないこと。

(2) テストの特別な内容や基本原理を教えることによって価値が損なわれる場合、心理学者は、教育のために用いる心理テストを監督する責任があること。


第14原則  テストの解釈  (1)〜(3)は1972年増補


    テストの得点はそれらを適切に解釈し利用する資格のある人にのみ公開すること。

(1) 成績を両親に報告するための資料・自己評価の目的で作られた資料は、必要によっては、有資格の心理学者またはカウンセラーによって、十分な管理が行われること。

(2) 評価とか分類のために使われた評価資料は、誤解や誤用をされない形で適当な人々に伝えること。解釈を伝えるべきこと。

(3) テスト結果が、直接伝えられるときには、補助的説明十分つけること。


第15原則  テストの出版  1977年改訂


    心理学的評価技法の開発、出版、利用に際し、関連するアメリカ心理学会の規準を遵守すること。対象者には解釈を知り、適当な最終的判断が下された原資料をも知る権利がある。テストの利用者は、不必要な情報を伝えないこと。不利と思われる決定に対する釈明資料は、要請があればそれを提供すること。

(1) 心理学者は、テストを理解出来る言葉で説明する責任があり、またクライエントは説明をうける権利がある。ただし、事前に了解をとってこの権利に対して明らかな例外を設けた場合はこの限りではない。説明が心理学者以外の場合心理学者による十分な説明を行う処置をとること。

(2) あるテストが出版されたりまたは実験的に利用されている場合、妥当性および信頼性の証拠を詳しくのべた手引書を付けること。手引書は、目的、適用範囲、実施、適切な解釈に必要な資格を明示すること。手引書は、正常集団のテストの完全な情報を備えていることが必要である。

(3) テストの結果報告に際し心理学者は、テスト規準の不適切、状況により妥当性や信頼性に問題があると思うときには、その点を明らかにすること。心理学者は、情報が第3者によって濫用されないよう守る努力をすること。

(4) 心理学者は、テストに関する情報が対象者に不利に濫用されたりしないように、不要な情報は除去する責任がある。

(5) テストの採点・解釈を行う心理学者は、解釈に用いたプログラムと手続きの妥当性を証明出来ること。この仕事に携わる心理学者は、テストの報告が濫用されないよう努力を払うこと。


第16原則  研究に際してとるべき予防措置 1977年改訂


    研究実施の決定は、心理学や人間の幸福にいかなる貢献をなすかを個々の心理学者が熟考し行うこと。心理学者は研究参加者を尊重し、尊厳と幸福に関心をもって研究に従事すること。

(1) 研究を計画するに当り研究者は、人間研究に関する以下の原則を考慮に入れて、倫理的か否かを検討する責任がある。科学的、人道的見地からみて抵触すると思われるならば、倫理的助言を求め、権利を保護するために保護条項を遵守するという重大な義務を負わされること。

(2) 倫理的にかなった研究を実践し維持する責任は、常に研究者の側にある。研究者は、関係者が行う研究対象者に対する倫理性に責任を負うが、これら全ての人々の義務は同等である。

(3) 倫理的研究行為においては、対象者の研究参加への意思に影響する研究のすべての問題を対象者に説明し、問題のすべてを説明しなければならない。研究の全貌を明らかにしないということは、幸福と尊厳を守るという責任をさらに重くすることになる。

(4) 研究者と対象者の関係は、率直で素直なものであること。研究の方法上、研究意図を隠したり偽ることが必要な場合は、その手続きをとることの十分な弁明の事由を伝え、速やかに対象者の納得をえなければならない。

(5) 倫理的研究行為において研究者は、対象者の参加辞退・中断の自由を尊重しなければならない。この義務は、研究者が対象者に対して権威的な立場にあるときには、特別に注意しなければならない。

(6) 倫理的研究は、研究者と対象者のそれぞれの責任を明確にした公平な同意が双方にえられてはじめること。研究者はその契約と公約を守る義務がある。

(7) 倫理的研究者は、身体的精神的苦痛、危害、危険から対象者を守る。そのようなおそれのあるときは、その事実を知らせ、同意を得、障害を最小限にとどめる手段を講じなければならない。重篤で持続的な害を与えると思われる場合にはその手続きを用いてはならない。

(8) 研究資料をえた後、研究の性質について説明をし、誤解を解くよう配慮すること。科学的、人道的見地から説明を延期・留保した方がよい場合には、何ら悪影響にならいことを保証する責任がある。

(9) 研究中に個々の対象者に好ましからざる影響が生じた場合は、影響を明らかにし、除去または是正する責任がある。

(10)研究中にえられた資料は、予め同意をえていない限り公表出来ない。第三者がこれらの資料を入手しうるおそれのある場合は、このことを、説明を与えた上での同意をうる際に対象者に説明すること。

(11)研究に動物を使用する心理学者は、動物実験におけるアメリカ心理学会によって採択された動物に関する規則の条項を守ること。

(12)薬物を用いて人間を対象として行う研究は、対象者に適切な保護措置が行える場においてのみ行われねばならない。


第17原則  出版物に使用された資料提供者への謝辞  (1)〜(4)は1972年増補


    出版物の公表に当たって資料を提供した人々に対して払う敬意は、その貢献度合いに応じ全ての人々に対してのみ払われる。

(1) 何人かが参加した共通のプロジェクトの専門的性格を帯びた貢献は、人々を共著者にする。主だった貢献をした著者あるいは実験者名は第一番にのせる。

(2) 重要でない貢献、広汎な事務・類似の非専門的助力をした場合には、脚注あるいは序文の中で謝辞をのべること。

(3) 研究あるいは著書に直接影響を与えた公刊の資料および未公刊の資料は、特別に引用して謝辞をのべること。

(4) 他の人々が寄稿した出版物を編集し監修する心理学者は、編集者として自分の名前を出し、シンポジウムあるいは報告書を出版すること。


第18原則  組織に対する責任  (1)〜(2)は1972年増補


    心理学者は自分が所属する施設あるいは機関の権利と名誉を重んずること。

(1) 心理学者が所属する組織の指示によって日常業務として作成した資料はその組織の所有となる。その資料は組織が決める事情にしたがって、心理学者のための利用または出版のために公開される。

(2) 機関の援助によって偶然にえた資料で、個人的責任を負えるものは援助機関に関係なく発表できる。


第19原則  普及活動  この原則は1972年に追加


    商業販売の目的の製品の開発または普及に関係する心理学者は、そのような製品が専門的・実際的な方法で提供されることを保証する責任がある。

(1) 科学的に認められる証拠を示して、実施、あるいは結果の主張がされること。

(2) 心理学者は、心理学的製品の商業的開発のために専門誌を利用せず、また誤用のないよう監視すること。

(3) 心理学的製品の販売および利用に金銭的利害関係のある心理学者は、普及から生ずる利害関係の対立矛盾を敏感にさとり、専門的責任と目的を損なわないようにすること。


 以上のようになっている。これだけを見ても非常に多岐に渡っており一章で述べた目的のために最大限の注意を払っていることがわかる。また他にも人体実験や動物実験に関わる規準や子供を相手にした時の親との権利衝突に関する条項などが別に存在するなどさまざまなことが定められている。



三章  倫理を現場に用いる



 では職業倫理を現場に用いるとはどういうことか近年医療の場で問われるインフォームドコンセントをテーマに据えて考えてみたい。第一章で述べた原則6に関する内容である。

 そもそもインフォームドコンセントとはなんであろうか。(熊倉1994)によるとそれは同意を求める人と同意をする人の間の「共感」の上に成立するものである。両者の合意であるがゆえに単に、患者の自己決定権のみを意味するのではない。治療者・患者の間で信頼関係が結ばれることは重要であり、そのために治療者と患者が話し合うルールを定めたものと定義されている。またそのために知らせるべき情報として(金沢1998)は以下の11項目を挙げている先ほどのAPA原則でいうならば秘密保持や依頼者の福祉などが盛り込まれているのがわかる。

 1・治療内容、方法、形態、目的、目標

 2・治療の効果とリスク

 3・他に可能な方法とそのリスク

 4・秘密保持の限界

 5・費用とその支払方法

 6・治療の時間、場所、期間

 7・予約をキャンセルする場合や変更する場合について

 8・カウンセラーの訓練、資格、理論的立場、クリニックの方針

 9・苦情に際してどうするべきか

 10・質問・疑問があれば、それにいつも答えるということ

 11・治療はいつでも中止できるということ

そして重要視されるのが患者の同意能力・自己決定能力である。それによってインフォームドコンセントの相手が変わってくるからだ。またアメリカでは自己決定能力の判定に関して煩雑な手順を行っているがここでは手順を対象とせずに同意能力・自己決定能力の有無に内容を絞っておく。

 同意能力・自己決定能力として問われるのは相手の理解力・年齢である。理解力とは患者当人がカウンセラーの説明を理解できるか?という点で重要な問題である。当然年齢が低ければ理解は困難になる。これは先ほどのAPA原則では第8原則の(2)に関係していることである。また、法律で決まっているように日本では20歳で成人とし、それ以前の未成年の段階では「青年に達していない子は、父母の親権に属する」(民法818)「親権を行うものは、この監護及び教育する権利を有し、義務を負う」(民法820)とあり第8原則の(2)の「クライエントに対して責任のとれる人物」とは親権を有するものということになる。また付け加えるなら民法は未成年者を行為無能力者としている。これはどんなに高度の知的・精神能力レベルを有しようとも、年齢が未成年の域を出なければ無能力者とされるということになる。このような前提を踏まえた上で倫理的に考慮せねばならないこととは何か。参考文献が主として扱っていた問題は患者が未成年でありインフォームドコンセントの相手が親権を有する者になる場合である。

 この場合にはいくつかの考え方があるだろう。法的根拠に基づいて画一的に処理すべきだという考えもあるかもしれない。しかしその考えはAPA第2原則の(3)の「価値の長期的変化に対して偏見をもたないこと」という条項に抵触しているように思われる。(寺嶋)においても未成年者といっても今日の社会では子供の存在は多様性をしめしており一律な判断基準に融通を持たせる必要性を述べている。(松下1994)では児童の権利条約に関係する国連のワルシャワ会議での発表「子供は、自分の身体的および精神的な健康について、主要な決定のいかなるものにも参加できる必要がある」を引用して子の参加を認めている。(金沢1998)も成人の年齢に近づくにつれその未成年の能力は成人と同等のものとして扱う可能性が増加することを述べ、杓子定規に判断することによって未成年者当人の利益を損なう可能性を表している。 しかし具体的な年齢については一致した見解は無く、民法上の婚姻可能年齢としたり義務教育終了年齢としたり、海外の法律と合わせたりといったように多岐にわたっていた。




四章 まとめ


 まとめて記すほどの内容を調べられたという感は全く無いが、以上が学習した内容である。調べていて思ったことは、そもそも職業倫理について記してある論文が日本の心理学に関する学会において少ないということである。それが意識の低さから来ているのかどうかは私には知る由も無いが、この学習を通して職業倫理といったものの重要性は少なからず認識できたと思う。また同時に専門職者の条件として挙げられる、医学で言えば治療水準のような技術レベルを最先端にたもつということの重要性も感じた。そして不充分ながらも一つの形として体裁が整ったことを嬉しく思うとともに、この不充分さを戒めとしてよりいっそうの自分の能力・知識・経験に役立てたい。


五章  参孝文献

金沢吉展(1998) カウンセラー 専門家としての条件 誠心書房

熊倉伸宏(1994) 臨床人間学インフォームドコンセントと精神障害 新興医学出版社

松下正明・高柳功・広田和子・加藤伸勝・江畑敬介・高木俊介・下清水博明・植田孝一郎・新川詔夫・土田孝宏・松原三郎・片山義郎・仙波恒雄・中谷真樹・清水將之・
渡邊衡一郎・八木剛平・中島一憲・宮内勝・竹内尚子・斎藤正彦・中根文・白井泰子・松岡浩(1999)インフォームドコンセントガイダンス-精神科治療編- 先端医学社
小沢勲() <障害児>と薬物 児童精神医学とその近接領域Vol13,No4,19-23

佐藤より男・来栖瑛子(1982) 心理学者のための倫理規準・事例集 アメリカ心理学会(編) 

寺島生吾() <シンポジウム>「児童青年精神科医療」における倫理と人権問題 児童青年精神医学とその近接領域Vol,28No,2,13−19

豊原豊・石津すぐる・本田輝行・田中有史・中島豊爾・黒田重利(1998) 精神分裂病治療におけるインフォームドコンセントに関するアンケート調査 精神医学 
Vol40,No,11,1217-1223



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