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プレート沈み込み域における地震発生サイクルの視覚化の試み

−有限要素法を用いたコンピュータシミュレーションによる変形及び応力の時間変化の様子−


はじめに

  日本はいわゆる地震国であり,日本及びその周辺では,大きな被害を伴うような大〜巨大地震を含む様々な規模の地震が数多く発生している. 日本とその周辺で地震が多いのは,日本がプレートが多く集まるプレート境界域に位置しているからであり,これらのプレートがお互いに影響 を及ぼし合っているためである.図1は,1964年〜2000年 に日本とその周辺域で発生した地震の震央分布(震源の深さ別に震央のシンボルを変えてあることに注意)とプレート配置を平面的に示したもの (宇津(2001)に加筆)である.また,図2は,日本付近のプレート 配置を立体的に示したものである(地震調査研究推進本部地震調査委員会(1997)の資料より).これらの図に見られるように,日本の周辺には, 陸側のプレートの他,太平洋プレート及びフィリピン海プレートと呼ばれる2つの海洋プレートがある.なお,陸側のプレートについては,日本列島 の大部分がユーラシアプレートと呼ばれるプレートに含まれるという考え方や,東北日本は北アメリカプレート(またはオホーツクプレート)に, 西南日本はユーラシアプレート(または,アムールプレート)にそれぞれ属するという考え方がある(両プレートの境界は図2で破線で示されている).
  さて,図1から,日本とその周辺域では地震が非常に多く発生していること,そして,それらの地震は空間的に一様に 発生しているのではないことがわかる.すなわち,平面的に見ると,日本列島及びその太平洋側沖合に地震が集中していて日本海ではあまり発生 しておらず,震央がプレートの境界に沿って帯状に並んでいること,さらに,震源の深さ変化に着目して立体的に見てみると,地震が太平洋側から 日本海側に向かって傾き下がるような面状に発生していることなどがわかる.そして,このような震源の面的な分布から,図2に見られるような 太平洋プレートやフィリピン海プレートの地球内部への沈み込みにともなって,地震が発生していることが推測できる.
  では,なぜ,太平洋プレートやフィリピン海プレートのような海洋プレートが地球内部へ沈み込むのにともなって地震が発生するのであろうか. 図3は,その理由を単純化して模式的に示したものである (学校図書(1996)に基づく).海洋プレートが陸のプレートの下(地球内部)へと沈み込んでいく際に,陸のプレートの先端部分を下の方へ引きずり 込む(したがって,この時には陸のプレートの先端部分は沈降する).なおもこのような引きずり込みが進行すると,陸のプレートの先端部分には大きな 歪み(及び応力)が蓄積し,やがて元に戻ろうとするような急激な運動(跳ね上がり)が起こる(この時には陸のプレートの先端部分は隆起する). これが,すなわち陸のプレートと海洋プレートの境界で発生する,いわゆる海溝型と呼ばれるタイプの地震である.
  なお,地震には,このようなプレートとプレートの境界で起こる地震の他に,陸のプレートや海洋プレートそれぞれの内部で起こる地震もある.また, マグマの活動にともなって,火山地域で発生するいわゆる火山性の地震というのもある.


日本付近のプレート配置や震源分布,海洋プレートの沈み込みに伴って起こる地震の発生様式などについての
理解を助けるために作製した,中学生向けのいくつかの立体模型

  前項で述べたような,日本とその周辺域の震源分布,日本とその周辺域の立体的なプレート配置,及び,海洋プレートの沈み込みに伴う 海溝型地震の発生様式について,その理解を助けるための中学生向けの立体模型をいくつか作製したので,それらについて紹介する.
  まず,日本付近の震源分布の立体的な様子を示す模型を写真1に 示す.これは,日本付近で実際に起きた地震約530個の震源分布を,40cm(縦)X40cm(横)X15cm(高さ)の大きさの透明アクリル箱の中に張った 釣り糸に震源の深さとマグニチュード別に色と大きさを変えたビーズを取り付けることによって表したものである.
  次に,日本付近のプレート配置の立体模型を写真2に示す.この 模型は,日本列島が3〜4つのプレートが集まる場所にあって,それらの相互作用によって地震が起こることを理解させようとするものである. 震源分布模型と同じく40cm(縦)X40cm(横)X15cm(高さ)の大きさの透明アクリル箱に,発泡スチロールで作って着色した日本付近の太平洋プレート, フィリピン海プレート及び陸のプレートとそれぞれの下のマントル部分に対応するブロックを入れたものである.
  最後に,海洋プレートの沈み込みに伴って起こる海溝型地震の発生様式を模擬的に演示するための模型を 写真3に示す.この模型は,海と陸のプレートを,それぞれ厚さ3cmの 低密度ポリエチレン製弾性板で表し,ハンドル操作によって海洋プレートに対応する弾性板が斜め下に動きながら陸のプレートに対応する弾性板 を引きずり込み,やがてそれが跳ね上がって海溝型地震が起きる様子を模擬的に示せるようにしたものである.


シミュレーションに用いた有限要素モデル (2次元; X = 0〜800km,Y = 0〜200kmの範囲)

  海洋プレートの沈み込みにともなって海溝型地震が発生する様子を,数値シミュレーションによって仮想的にコンピュータ上で再現し, 連続的にビジュアライズ(アニメーション化)した.シミュレーションは全て2次元有限要素法を用いて行い,陸側ブロックに対応する 2つの有限要素モデル(モデル1及びモデル2)を作成して行った.
  まず,モデル1は,沈み込む海洋プレート の境界面を直線で近似し,陸側の地下構造として一様な厚さ(30km)のプレートとその下の上部マントルからなる2層構造を仮定したものであり, かなりの単純化をしたモデルである.プレートは完全弾性体,上部マントルは粘弾性体とした.
  次に,モデル2はより現実的なモデルであり, 海洋プレートの境界面を実際の震源分布から推定されている形状に合わせ,また,陸側の地下構造もより現実的な上部地殻,下部地殻及び上部 マントルからなる3層構造とした.なお,コンラッド面(上部地殻と下部地殻の境界面)やモホ面(下部地殻と上部マントルの境界面)の深さ分布 は,地震学的な研究によって推定されているものに基づいて決めた.このモデルにおいては,上部地殻は完全弾性体,下部地殻と上部マントルは 粘弾性体と仮定した.


モデル1:周期101年の地震発生サイクルに伴う陸側プレート及びマントルの変形と応力(最大剪断応力)の時間変化
[沈み込む海洋プレートによって陸側プレートが年間3cmの割合で斜め下方にドラッグされ,101年毎に地震が発生
するものとして計算.0〜1020年の期間について,5年刻みでのスナップショットをもとにアニメーション化したもの.]

※海洋プレートの沈み込みにともなって陸側プレートが斜め下方にドラッグされ,地震発生と同時に瞬間的に跳ね上がる
  様子がわかる.しかし,最初のうちは陸側プレートの跳ね上がり方はあまり大きくないため,地震前にドラッグされた分
  を全て回復することができず,結果として陸側プレートの先端部分は徐々に沈降していく.時間が経つにつれて,陸側プ
  レート先端部の沈降量は一定の量に収束し,やがて定常的なドラッグ−跳ね返りというプロセスがくりかえされるように
  なる.また,全体的に陸側プレートの跳ね上がり(=地震発生)の際に瞬間的に応力が減少する様子や,時間の経過に
  つれて,弾性体と仮定している陸側プレート全体に応力が蓄積していく様子もわかる.


モデル2:地震発生前後5年間における陸側プレート及びマントル内の応力(最大剪断応力)の時間変化
[沈み込む海洋プレートによって陸側プレートが時刻0から年間3cmの割合で斜め下方にドラッグされ,3090.00年目
に地震が発生したとして計算.3089.80〜3095.00年の期間について,0.05年刻みまたは0.1年刻みでのスナップショット
をもとにアニメーション化したもの.]

※海洋プレートの沈み込み開始から3000年以上も経過した時点での応力分布であるので,モデル1の場合と同様に弾性体
  と仮定している上部地殻の応力が極めて大きくなっていることがわかる.そして,3090.00年目の地震発生と同時に,全体
  的に応力が瞬間的に減少し,その後も応力が徐々に減少していく様子がわかる(特に上部マントル内において顕著であ
  る).ここでは示してないが,その後再び海洋プレートによるドラッグが始まれば,また全体的に応力が増大していき,
  やがて再び地震発生に至るであろう.そして,それ以後においても,同様のプロセスが繰り返される.


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