今月は、国立大学法人筑波大学附属駒場中・高等学校図書館を紹介します。紹介文を書いてくださったのは、図書メディア係の澤田英輔先生です。
筑波大附属駒場中・高等学校(「筑駒」)の図書館は、長い間、司書不在のままの「自習室」でした。ですが、昨年度から待望の司書が着任し、良い学校図書館をめざして頑張っているところです。(写真左上 入口からみた図書館 右上 授業風景 写真左下 インフォメーションボード 中下 雑誌コーナー 右下 展示コーナー )
司書が着任してまず手をつけたのが、蔵書構成の見直し。リクエスト受付のインフォメーションボードを設置して、これまでほとんどなかった柔らかめの小説やマンガをはじめ、生徒視線での購入を増やしました。また、雑誌も生徒のリクエスト投票をもとに一新。一方で、高校生たちの専門的な知的欲求にも応えるべく、筑波大学図書館の本を借りられるよう手続きをしました。
生徒が集まるようになってきて館内の雰囲気も徐々に明るく。時期や行事にあわせた展示コーナーも作られ、いっそう親しみやすくしてくれます。
写真 本森大賞 写真 他校との交流
生徒のモチベーションもあがり、図書委員会の活動も弾みがついてきました。推薦コーナーの設置、紀伊国屋での店頭選書、他校との交流会など、それまではほとんどなかった活動が新たに生まれてきています。昨年度末には「本森大賞」という、筑駒生が選ぶイチオシ本企画も実施されました。
写真 店頭選書 写真:図書委員会棚
図書館の変化を実感して、関心を持って下さる先生方も増えてきました。授業での図書館利用がはじまり、書棚には教員の推薦図書や授業用の図書コーナーも。今後も広がってほしいところです。去年の三学期には、中1の国語の授業で「新入生に推薦する本を紹介する」という図書館と連動した企画も行われました。
司書が着任して一年たった今年は、新入生を迎える準備にも着手。本校初の図書館オリエンテーションを実施しました。そのかいあって、一昨年年4月には120冊、昨年は218冊だった4月の貸出冊数が、今年はなんと738冊に!
筑駒の図書館が本当に充実してくるのはまだこれから。時には学習に、時には一人になるために…など、生徒たちにとって小さな手助けができる場所になれるよう、数字よりも、来館する生徒の姿を見て、一つ一つ成長していきたいと思っています。
写真:窓から見える筑駒図書館
記事を掲載するにあたり、筑駒の図書館に伺い、澤田英輔先生と司書の加藤志保さん、岩崎春子さんにお会いしてお話を伺いましたので、あわせて紹介させていただきます。
-司書の配置には、澤田先生ご自身がご尽力されたと伺っていますが、そもそもなぜ司書が必要と思われたのですか?
澤田:筑駒の卒業生でもある私が、教員として赴任したのは2006年のことなのですが、当時から図書館を何とかしたいと考えていました。2011年、担任をはずれ念願の図書館係になったので、張り切って選書もしました。でも、その時に国語教師として選書はできても、図書館の蔵書を作るという視点では、図書館のプロではない自分にはできないとわかったのです。やはり、これは司書をぜひ!とその時強く思いました。加藤さん、岩崎さんを迎えたことで、私は今、お二人が働きやすい環境をつくることに徹しています。
-教員とは違う司書の専門性は何だとお考えですか?
澤田:司書さんは選書を含めた空間のプロだと思います。図書館という空間をつくるには、やはり司書の存在は不可欠です。
-加藤さん、司書が不在だった筑駒の図書館を初めてご覧になった時の印象は?
加藤:ハード面は立派なのですが、本棚の本が私に語りかけてこない・・・そんな気がしたことを覚えています。
-2ヶ月ほど遅れて勤務された岩崎さんの印象はいかがですか?
岩崎:利用する生徒のほとんどが自習利用で驚いたこと、本の並び方がわかりづらくて本を探しにくいと感じたこと、でしょうか。
-最初に加藤さんがされたのがリクエストボード(現インフォメーションボード)の設置だと伺いましたが、それは何故ですか?
加藤:まずは、筑駒の生徒さんたちが何を希望しているのかを知りたかったからです。すぐに反応が返ってくるとはあまり期待せずに始めたのですが、1週間もたたないで、リクエストが来るようになりました。これは嬉しかったですね!
-リクエストで入った新着棚(写真左)を見ていると、やはり筑駒らしさがにじみ出ていますよね?
加藤:そうですね、ちょっと競って、いい本をリクエストしようとしているかもしれません。それと、隣にある先生の選んだ本なども、先生に負けまいと読んでいる生徒がいたりして、いかにも筑駒の生徒という感じがします。
-澤田先生は、どのような図書館であってほしいと考えていらっしゃるのですか?
澤田:図書館は自由な空間であってほしいです。そのためには、そこにいるのは教員じゃないほうがいい。評価をする教員は存在自体が、どうしても威圧感を感じさせてしまう気がします。隅々まで居心地のいい空間が学校の中にあることの意味は大きいと思うのです。お二人の司書さんたちには、二人が作りたい図書館をつくってもらいたいですね。
-授業での図書館活用に関してはどのようにお考えですか?
加藤:司書の私たちから先生に、ぜひ!という働きかけは実はしていません。この場所があまりに教育的な場所であってほしくない気もあり・・・。もちろんどのような授業が行われているかを司書の側でも知る努力はし、関連の本も積極的に購入はします。私はむしろ図書館は授業のすきまを埋める存在かなと思っているのです。それぞれの授業はコアで深かったりしますが、個々の学びをつなげるものは必要だと思うのです。その役目を果たせるのが並んだ本の背表紙であったり、図書館そのものなのでは。ただ、授業で利用されることによって生徒が足を運びやすくなるのは確かです。
-今後の課題はどのようなことでしょうか?
澤田:加藤さん、岩崎さんを迎え、今とてもいい状況で図書館が動き始めました。先月は校内研修会で、先生向けに、お二人による図書館の活用方法のプレゼンを行うこともできました。今回の司書配置は、高度情報化プロジェクトの一環で行っているので、その後をどうするかが、一番の課題です。
-わずか1年で、ここまで進化した図書館。プレゼンで紹介されていた生徒のつぶやき「なにげに充実してってね?」はまさに率直な感想でしょう。今回見学させていただき、筑駒の図書館は、筑駒らしさを体現していると感じました。先生方も生徒さんたちも、きっともう後戻りはしたくないはずです。ぜひ筑駒らしい活用のしかたを極め、このデータベースにも事例提供をお願いします!本日はありがとうございました。(写真右 お二人の司書さんたち)
文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子
続きを隠す<<