♪今月の学校図書館♪
東京学芸大学附属世田谷中学校の巻
~本から「一行」を取り出すという試み~
附属世田谷中学校では、1年生の3学期にスピーチコンテストを行いました。そのお題が「ワタシの一行との出会い」です。好きな本を1冊図書館で選び、お気に入りの一行を使ってスピーチをする、という取り組みをしました。左の写真は、多目的室で行われたクラス代表者12人によるコンテストの優勝者を表彰しているところです。当日は、本校の校長をはじめ1年担当の教員に加え、附属小中学校司書・そして新潮社の「ワタシの一行」事業担当者の方も審査に加わっていただきました。 今回は、そこに至るまでの図書館を利用した授業事例の紹介をしたいと思います。
①新潮文庫の「ワタシの一行」大賞応募にむけて
長い夏休みを利用して、新潮文庫が選ぶ中高生のための30冊の中から、1冊読んでお気に入りの一行を投稿しようという企画に応募しました。160人の生徒が選んだそれぞれの一行を、本ごとに区分けして図書館の前に掲示しました。自分の読んでいない本を読みたくなるようなポップ的な役割を果たすものとして一行が機能しました。また、同じ本を読んだのに違う一行を選んだ人がいるということも一目で分かり、本の内容に話が発展する様子も見られました。一行を選ぶというのは難しいことではありますが、自由読書の記録も1学期から付けていて、本ごとに心に残った一行を抜き出す活動もしているので発表の場として良い刺激になったと思います。
新潮文庫ワタシの一行 大賞
②スピーチコンテスト~「ワタシの一行」との出会い~
3学期には、スピーチコンテストが学年行事として行われました。そこで好きな本を1冊図書館で借り、そこから一行を使ってスピーチをするという課題を設定しました。図書館との連携が欠かせない授業でした。司書の方に全面的にサポートしてもらっています。
まず最初に、2学期終わりごろに自分の読書をふり返り、次に読んでみたい本はどんなジャンルのものか簡単なアンケートをとっておきました。そして図書館で実際に本を選ぶ時間を1時間とり、教員と司書があらかじめ、本棚から読んでほしい本を8つのジャンルに分けて並べておきました。もちろん、それ以外の本を棚から選ぶことも可としました。本選びにはそれほど時間はかからず、とりあえず読みたい本を冬休み前に全員が手に取ることができました。授業の前半は、本を探す時間にあて、残りの時間を選んだ本を読むことにしたのですが、後半の時間は、ページをめくる音だけが響き、普段のにぎやかな図書館とは違った雰囲気に満ちていました。
休みの間に読んで印象に残った一行を選んでくるところまでは宿題とし、3学期に入ってから3時間かけて国語の授業で原稿書きとスピーチ練習を行いました。選んだ一行が自分のスピーチの主張を説得力あるものにしてくれるという効果があったように思います。どこまで自分の言葉で気持ちを伝えるか、それにいかに本の一行が関わるか、原稿の工夫がスピーチの結果に大きく関わっていました。
コンテストを終えると、一行をシールにして本に貼り、図書館でコーナーを作っていただきました。スピーチは単なる本の紹介ではなく自分の主張を伝えるものでしたが、その本を読んでみたいと思う不思議な効果もあり、さらにスピーチとは関係なく図書館に来た生徒がコーナーから本を選んでくれる様子が見られました。生徒同士の本の交流は間接的に一行を通して行われているのです。誰かが読んだお勧めの本、そのちょっとした見出しが本を読んでみようかなという誘いになってくれるのでしょう。図書館を利用した授業が、このように普段の読書にもつながる良い機会になっていくことを期待して今後もたくさん活用していきたいと考えています。
尚、授業の詳細については、データベースにアップ予定です。
東京学芸大学附属世田谷中学校 国語科教諭 扇田浩水
続きを隠す<<