現在では、特別な支援を必要とする子どもがすべての学校に在籍している。義務教育段階では発達障害の可能性のある子どもを含めれば10%以上になる。高校でも通級による指導が2018年度から開始された。
学校図書館として、計画的・継続的な基礎的環境整備と職種を超えた教職員との協力「チーム学校」がカギになる。学校図書館ガイドラインに基づき、職員の意識と理解の向上とさまざまなアクセシブル資料(点字資料・録音資料・拡大文学資料・LLブック・マルチメディアDAISYなど)の収集と提供や、読書補助具や機器の導入、施設・設備・サインのバリアフリー化の推進をし、さまざまな読書ニーズとスタイルに応えなければならない。2010年1月以降、著作権法第37条第3項の規定により、全ての学校図書館では視覚障害者等のために著作者に無許諾で音声化、デジタル化等の複製ができるようになっている。
各学校で図書館の現状分析を行い、できることから対応し、誰もが利用できる学校図書館の実現できる取り組みを進めていってほしい。
一方、日本語指導が必要な子どもがふえ、中には特別支援学級に入れられるなど適切な指導が受けられないでいる子どももいる。多文化サービスの実施にあたり、英語以外の資料が不足している。
研修では、野口先生からディスレクシアの子どもが本を読もうとするとどのように見えるか実際の画面も見せていただき、その後、受講者である市川市の学校司書から、DB事例A0292 特別支援学校小1小2『いっぽんのせんとマヌエル』の事例についてお話を伺った。また、特別支援学校で働かれている先生から実情を伺った。
●子どもを取り巻く現状~子どもの貧困を中心に~
教科書レベルの文章を読んで理解できない中高生が少なくない。低い読解力の要因として家庭の貧困との関連が指摘されている。現在の貧困は、一見物質的豊かさによって粉飾され、本人が周囲に貧困を隠している「見えざる貧困」である。貧困を断ち切るのは、経済的支援だけではなく、学習支援がカギである。学校の授業以外での学習サポートが不可欠であり、同時に義務教育以上の学校教育をいかに保障していくかが課題である。
子どもの家庭環境に左右されずに読書や学びに親しめる環境を、身近なところにいかに整備充実するかが重要である。読書に関しては学校図書館がセーフティーネットになっている子どもがいる。学校図書館に何ができるか考えて頂きたい。
【4-A図書館情報技術論】
●研修動画をアップしてみよう
講師: 橋本 健志
ネットの現状・著作権や個人情報への配慮の話をきき、実際に動画制作の方法を教えてもらった。
動画制作の方法はYouTubeでPCやipadを使って自分で編集してアップロードをする。アップロードするにはGメールのアカンウトを習得しておく。ポイントとしてポピュラーな形式で作る。講義後参加者から動画利用の有効性の実践を聞くことができた。
午前の野口先生の講義のうち、アクセシブル資料や読書補助具の紹介部分の動画を見るには
ここ をクリックしてください。
(文責 東京学芸大学附属竹早小中学校 岡島 玲子)
2日目
□平成 30 年7月31日(火)10 時~16 時
□東京学芸大学附属世田谷小学校 メディアルーム(参加者 34 名)
□プログラム
【5-A、5-B 学校図書館連携・協働論】 ●「国語教育の現場から ①国語×メディアルーム~おもしろいこと考えよう~」講師:東京学芸大学附属世田谷小学校国語科教諭 清水 良
「今回私に求められているものは国語の教師としてメディアを活用した実践事例を面白く紹介していくことなのでは」とご自身が取り組んで来られた授業の実践事例を多数ご紹介いただいた。学年も多岐にわたり、教科も国語科だけでなく社会科の事例も挙げてくださった。
例えば3年国語「白い花びら」では「ファンタジーの入り口」を切り口に様々なファンタジー作品を提示し、ファンタジー世界が展開される「入り口」を探る授業。6年「伝記」の授業では伝記作品を複数読み比べることで見えてくる解釈の違いや人物像の精査、「作者」にフォーカスを当てる授業としても適していることをお話いただいた。6年卒業単元「マイブック」は3学期という最終学期に自分とメディアルームの関わりを振り返り1冊の本の制作を行ったもので、それぞれの本や作品との関わりが目に見えた形になる素晴らしい実践だった。
清水先生の授業実践の中では国語という教科とメディアの関わりを常に重視していることが窺えた。教科書の単元の中であっても単純に文学を読み込むだけではなく、様々なメディアを活用し、子どもたちにメディアは本だけ、それもひとつだけではないことを常に伝えており、情報の正否・取捨選択の必要性、それによって自らの言葉を獲得していく力を養う授業が展開されているのがどの実践事例からも伝わってきた。
●「国語教育の現場から
②国語の授業と学校図書館の協働-情報空間としての学校図書館-」 講師:東京学芸大学附属世田谷中学校国語科教諭 渡邉 裕
学級(クラス・教室)が学校生活の中心である小学校とは異なり、教科によって教室を移動する中学・高校にとって学校図書館の「場所」としての役割の大切さ、その上で中学生にとっての学校図書館が日常の学校生活の中で「当たり前」に利用できる空間となるような授業実践をお話いただいた。
学校図書館という「情報空間」の充実を図るためには学校図書館が単に本を読むところではなく、「主体的な読書・情報センター」であるための授業と学校図書館の協働について、附属世田谷中学校で行われている授業実践を多数挙げ、学校図書館が情報活用能力の育成に寄与していることを提示していただいた。渡邉先生はこのことを示すことができると国語科だけで閉じる、つまり学校図書館を利用するのは国語科くらいだろうという考え方ではなく、どの教科でも活用でき、更には実生活にも活かしていけるのだと自らの実践を振り返りお話された。
附属世田谷中の実践を司書が自分の学校に持ち帰り、自校に還元する際に適切な裏付けがあることが「うちでもやってみよう」と思える原動力になる、と 2020 年より実施される新学習指導要領を見据えて様々な資料の中からも実践に活かせる視点を多くご提示いただいた。
【 3-A 教育方法論】 ●「国語科において学校図書館の果たす役割-新学習指導要領を踏まえて-」講師:東京学芸大学准教授 中村 和弘
2020年から順次実施される新学習指導要領と現行の学習指導要領を読み比べ、何が変わるのか、そして新学習指導要領をもとに今後国語科の授業にどのように学校図書館が関わっていくのかを具体的にご提示いただいた。
まず新学習指導要領の実施にあたり重要なポイントの一つとして挙げられている「カリキュラム・マネジメント」、その中でも「教育内容と教育活動に必要な人的・物的資源等」を活用していくという内容に触れ、新しい内容の中でも今ある物的資源=学校図書館、人的資源=司書に注目した。
また、「読書」に関する指導事項については小学1~6年に読書に親しむこと、中学1~3年では自分の考えを広げ、深めていくことで人生が豊かになるような読書活動を指導していくことを提示していることに着目し、学校図書館に何ができるかをお話いただいた。この「読書」に関する指導事項について受講者同士が話し合う時間も持ちながら、これまでの実践が今後どのように活かせるのかを共有した。国語科に充てられた授業時間が小学6年間と中学で大きく異なることを挙げ、その中で各学年に示された指導事項がどの学年が欠けても成り立たず、実践を積み重ねることの重要さを確認した。
最後に中村先生より「読書・学校図書館活用をめぐる課題」について3点ご提案いただいた。1つ目に本を「読ませる」ことはできるが「読書の意義」に気付かせる、理解させるにはどうしたら良いのか、という「読書意義」の扱い。2つ目に「読む」ことや「情報を得る・活用する」などをどう指導するか、そのための資料・本の整備や提供方法、利用にかなう学校図書館として何をどのように備えておけば良いのか、という「情報活用、言語活動と学校図書館」のあり方。そして3つ目として語彙指導の改善・充実を図る、語彙を豊かにする指導、様々な本を読んで色々な言葉の使い方や思いを表す「言葉と出会う学校図書館」。
単に本が読めるのではなく、本を読むことで想像力を膨らませ、豊かな言葉や感性が育まれるような国語科の指導に学校図書館としてできることは何か、どのような仕掛け作りができるか、という課題がお話をうかがいながら探っていくことができる講義だった。
(文責・東京学芸大学附属小金井小学校 司書 松岡みどり)
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