平成18年度竹早地区連携教育研究報告

−「主体性を育む幼・小・中連携の教育5年次」の取り組み−

01 竹早地区が目指すもの

国立大学の法人化に伴う大学改革の中で提唱された中期計画・中期目標は、平成16年度から平成21年度にわたる6ヶ年間をかけて実施されることになった。各附属学校には特色ある地区を作りあげるための研究が要求され、竹早地区では幼・小・中連携の研究が求められた。竹早地区では中期計画・中期目標に先立って平成14年度から連携委員会を立ち上げ、平成15年度からは「主体性を育む幼・小・中連携の教育」を主題に研究に取り組み、今年度で4年次を迎えた。

これまでの研究成果がまとめられていく中で、今後の研究を深化させていくためにあらためて確認したいことが明らかになってきた。

この連携研究において、現在の研究主題に3校園の学校目標に共通するキーワードとして「主体性」が位置づけられていることは、これまでに共通理解されてきた。しかし、幼・小・中が連携教育を通して何を目指しているのかということは、はっきりと確認される状況に至らなかった。竹早地区として連携教育を進めるのであるから、幼・小・中で竹早地区が目指すものを共有し、これが連携教育を支える指針としての役割を担うという認識を共通に持つべきである。

そうした考えから、竹早地区が連携教育を進めるにあたって、「主体的に学び続ける人として成長する園児・児童・生徒の育成」を目指していくことを改めて確認した。すなわち、私たちは連携教育という手段を用いて、竹早地区が目指す教育を実現するために必要な実践に取り組んでいくのである。

02 平成18年度の研究について

1.研究のねらい

「竹早地区が目指すもの」で述べた具体的なねらいを踏まえ、今年度は重点的に3つのねらいを定め、研究を進めてきた。それは、

(1)よりよい連携教育のための研究体制作り

昨年の研究課題を引き継ぎ、3分科会体制で取り組む。

(2)幼・小・中の新たな協力関係の構築

昨年度の反省を踏まえ、幼・小・中の新たな協力関係の構築に取り組む。

(3)子どもの成長を見通す指針、4ステージの追究と活用

11年間の成長過程を表した4ステージを事例研究や心理学的研究の側面からもさらに裏づけ、その活用に取り組む。

2.研究内容

(1) よりよい連携教育のための研究体制作りについては、3分科会体制で行う。その内容は、
  • 分科会Tは「主体性に関わる発達調査研究」に取り組む分科会とし、発達調査の継続及び調査方法の再検討を行う。
  • 分科会Uは「教科外における主体性を育む交流活動研究」に取り組む分科会とし、より主体性を発揮できる交流活動及び継続可能な指導体制の検討・実践を行う。
  • 分科会Vは「主体性を育む保育・活動・授業の実践研究」に取り組む分科会とし、幼・小・中に共通理解できうる学力観、授業観の検討及び全教科・活動に共通する主体性を育む連携カリキュラム作成のための視点を保育・活動・授業を通して提案する。
(2) 幼・小・中の新たな協力関係の構築
連携教育の活動をスムーズに進めるための、4月から「代表者打ち合わせ」「連携委員会」「連携研究会」という3つの組織それぞれに運営のためのルールを定め、それにそって進めた。今後は研究全体の動きに合わせ、さらに必要なシステム作りを推進しなければならない。
(3) 子どもの成長を見通す指針、4ステージの追究
事例研究及び心理学的研究の双方から4ステージの裏づけを明確にする。また、それらを受けて、学習場面、生活場面等の教育活動の中でどのような活用が可能か検討する。

3.「特別開発研究プロジェクト」及び「トップマネジメント予算」の認定を受けて

7月の連携研究会で報告され、承認を得た「特別開発研究プロジェクト」が大学より認定され、約60万円の予算がついた。初年度は口頭発表、次年度は研究報告書の作成が求められているプロジェクトである。本プロジェクトでは、竹早地区の連携研究が、分科会T〔調査研究〕では連携研究を支える各種調査、分科会U〔交流研究〕では主体性を育成するための園児・児童・生徒の教科外の交流活動、分科会V〔授業研究〕では主体性を育む保育・活動・授業の研究、から成り立つことを示している。2年間を通してこれら3項目にそれぞれの成果と課題を見出したい。

また、12月の連携研究会で報告され、承認を得た「トップマネジメント予算」が大学より認定され、約55万円の予算がついた。この予算は、本研究の発達研究の中で予定されている園児・児童・生徒の11年間に関する「データベース」化のための機器購入を目的に使われる。「データベース」化が、学習場面、生活場面等の教育活動の中で活用されるよう、来年度以降の研究に大きな期待を寄せている。

4.研究の進め方

(1)研究の経過
1研究主題の設定

「主体性を育む幼・小・中連携の教育4年次」

2取り組む内容(検証・仮説の設定・課題、等)の確認
1)分科会1
  • 主体性を育む連携研究を支えるための調査研究を行う。
2)分科会2
  • 中学校説明会・合同たけのこタイムなど、主体性を育む交流活動(教科外)の研究を行う。
3)分科会3
  • 幼・小・中教員間の授業観や学力観の共有を目指して、主体性を育む保育・活動・授業の研究を行う。
4)連携委員会4
  • 新たな協力関係の構築
  • 4ステージに関する研究
  • 来年度実施の公開研究会の準備
3前回の幼・小・中連携の研究に関する課題の確認と改善

昨年度作成された「研究集録」や「研究要項」、「年度末反省」等からの分析を行った。その改善への取り組みは、「平成18年度竹早地区連携教育研究報告」や「平成18年度会議運営事項」としてまとめた。

(2) 組織と研究の流れ図

組織と研究の流れ図

(3)研究構想図
(教育目標より)    
自ら学ぶ ともに学ぶ 生活を拓く 学年目標
   
(期待する子ども像)    
主体的に学び続ける人として成長する園児・児童・生徒 4つのステージ
   
(研究主題)    
主体性を育む幼・小・中連携の教育4年次    
   
(研究内容)    
  • 連携教育を支えるための調査研究
  • 主体性を育む交流活動の実践(教科/教科外)
  • 主体性を育むために必要な学力に関する研究
  • 主体性を育むために必要な教師の手だてに関する研究
  • 教員間の新たな協力関係の構築
   

03 各分科会の活動報告ついて

1.分科会(調査研究分科会)の活動報告

(1)発達段階
1ねらい
主体的な学びのために、「個の成長への寄与」「枠組みの再編成」を踏まえた調査・研究をする。
2内容
幼稚園4歳児が中学3年(14歳)になるまでの11年間の縦断調査研究
3活動内容
○対人関係
小2・4・6・中1・2・3年生を対象に「相互・独立」「自己観尺度」を実施した。
○自己認識
小1・3・5年生を対象に、HEART(道徳性)を実施した。
4課題
昨年度実施した「ポエム」と、「SLST」との類似性の検討を検討し、調査内容の見直しが必要 である。
抽出生徒
1ねらい
「どの時期に」、「何がきっかっけで」、「教師のどのような働きかけで」、「主体性が育まれたのか」「主体的に行動(生活)するようになったのか」を明らかにする。
2内容
中学3年生から小学校、幼稚園へと遡及し、主体性が顕在化した時期ときっかけを調査する。
3抽出生徒の視点
担任教師への質問の回答を、4つの視点「身体・運動」「学習・学び」「対人関係」「自己認識」からまとめ、グラフ化した。
(3)満足度  卒業する子ども、保護者の満足度
1ねらい
満足度調査を「学校力」注)という視点からとらえ、「育てたい子ども像」や「主体性」について振り返る。
注)小島弘道氏定義の「学校力」の各要因を参考にした。
2内容
卒業間近の小学6年生と中学3年生、及びその保護者に、竹早の教育に対する満足度を調査する。
3成果と課題
  • 「満足度調査」の質問項目からは、学力・経営力・指導力が重視されている。
  • 「主体性」の育成に関する質問項目が少ない。
  • 創り上げようとしている「学校力」を評価するための適切な質問事項を検討する必要がある。
  • 児童・生徒が「どう育ったか」をみるための質問事項を検討する必要がある。

2.分科会(交流活動分科会)の活動報告

(1)実践活動1「竹中を知ろう!」
1活動内容
中学校の生徒会が中心になり、小学6年生に「中学の生活・文化」を紹介する活動。
2ねらい
○小学生
  • 中学校の生活を知ることで、進学に対する不安を解消し、希望をもつ。
  • 中学生の自治的な活動に触れることで、中学校が「生徒主体」であるという文化を伝承する役割を担う。
  • 中学校の生徒会役員が中心に企画運営をする姿に、憧れをもつ。
○中学生
  • 小学生から憧れの対象となることで、生徒としての自覚と責任をもつ。
  • 小学生に自分たちの生活を紹介することで、自分の学校生活を改めて知り、竹早中学の生徒であることに誇りをもつ。
  • 会を自分たちで企画運営することで自信をもち、さらなる生徒会活動にも主体的に関わろうとする意欲をもつ。
3成果と課題
○成果
  • 子どもと教師双方とも省力化が図れた。
  • 中学生はやりがいをもって主体的に取り組むことができた。
  • 小学生は憧れをもつと同時に、不安はかなり解消された。
  • 小学校教員・児童にとっては、毎年の行事として定着しつつある。
○課題
  • 中学校生徒会の活動のひとつとして位置づける。
  • 「部活動紹介」は別の日を設ける可能性を探る。また、部活動毎に生徒が説明を行う方法の検討をする。
  • 広報紙の活用を検討する。
(2)実践活動2「小中合同たけのこタイム」
1活動内容
小学5年生と6年生が中学2年生と、同じ興味・関心のある活動を、企画・運営を含め自治的に取り組む交流活動。
2ねらい
  • 異年齢集団の中で、自分の位置・役割を知り、連帯意識を高める。
  • 小学生が中学生を慕い、中学生が小学生をいたわる人間関係を築いていく。
  • 小学生に中学生の行いを伝承する。
  • 中学生は、自分の興味・関心の高い活動を計画し、小学生と交流を深めることで、自分の成長を見つめることができる。
4次年度への提案
○提案内容
小中合同たけのこタイムについては、下記のように部活動と連携して形を変えて行う。
○具体的な形注)
  • 中学校の部活動に、小学生が参加する形をとる。
  • 中学生は2年生のみ(部員がいない、2年生のみの活動ができない部がある場合は、その対処を考えておく)小学生は5・6年生が参加する。
  • 活動の担当は、部活動の顧問。当日の安全管理として小学校教諭がつく。
  • 交流活動は複数回行う。
注)部活をただ体験するだけでなく、部活を通して異年齢交流ができる活動を期待する。
注)ねらいとして、
 ・異年齢集団の中で、自分の位置・役割を知る。(自己認識・帰属意識)
 ・小学生が中学生を慕い、中学生が小学生をいたわる人間関係がもてる。(人間関係)
 ・異学年で協力しながら、自分たちの生活を楽しくつくり上げる。(主体性・協力・自治力)
 ・さらに、「小学校と中学校の段差を軽減する。」ことを付け加える。
 【小学生にとって】
 ・中学生に対してあこがれをもち、活動を受け継ぎ、伝えていく。(文化の伝承・憧憬)
 【中学生にとって】
 ・小学生と交流を深めることで、自分の成長を見つめることができる。(自己認識)

3.分科会3(授業研究分科会)の活動報告

(1)目指していくこと

幼・小・中の教員間に於ける授業観や学力観注)の共有を目指して、主体性を育む保育・活動・授業の研究を行う。

注)授業観や学力観の根っこには、「子どもという存在をどのように観るのか。子どもの持っている 力をどのように観るのか。」という「子ども観」があるのではないか。

(2)研究の内容
1 一人ひとりの持っている授業観や学力観を出し合うことから始め、「子どもの育ち〜その成果と課題」について、共有化する。
2 1を受けて授業を提案し、子どもの学ぶ姿から、授業観や学力観の検討を行う。
3 提案された「4ステージ」に「この時期に求められる学習の経験とは」を付け加える注)

注)本年度の研究では、3まで実践できなかった。

(3)研究の成果と課題

「子どもが主体性を発揮して学ぶこと」を支えるために、以下の4つの観点から考えることを提言した。

1 「動機」「学び合い」「学んだこと」という3つの視点
2 この子、学級の「人間的な成長」を含めたねらいの設定
3 授業における子どもと教師の関係性の見直し
4 授業の記録から「子どもの事実」の把握
 

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