同級生から学ぶ機会が失われてゆく:「わかる授業」の盲点(抜粋)

 近年の学校教育改革において推奨されている指導方法の多くは、学習活動の単位となる児童・生徒集団の少人数化を特徴としている。しかし、児童・生徒が同級生から学ぶことは多い。学習集団の少人数化は同級生からの学びを阻害する危険性をはらんでいる。

1 子ども集団の解体

 現在進行中の学校教育改革においては、学習活動の単位となる児童・生徒の集団を少人数化する指導方法が数多く推奨されている。たとえば、教師一人あたりの児童・生徒数の削減を図る少人数学級やティームティーチング、児童・生徒各自が各々異なる課題や異なるペースで学習する個別学習、関心を同じくする数人程度のグループごとに異なる課題に取り組むグループ学習、などである。

 学習集団の少人数化や学級集団・遊び仲間集団の軽視の結果として、児童・生徒の学力にも悪影響が及ぶことが懸念される。なぜならば、児童・生徒は教師と一対一で学習しているわけではなく、同級生の存在によって学習を持続・発展させることがあるからである。

2 学習過程における同級生の意義

 児童・生徒の学習過程における同級生の意義として、以下のようなものが挙げられる。

(1) 教え−教わり合い、学習意欲を持続させる

 児童・生徒にとって同級生は、しばしば重要な情報やヒントの提供者となる。

 また、特に傑出した能力の持ち主でなくても、同じ学習課題に取り組む同級生の存在は、学習意欲を持続させる上で有効である。

 学習集団の少人数化に伴って、このような教え−教わりの関係が成り立つ範囲は狭まることになる。特に、傑出した能力の持ち主からアドバイスを受けられるのは、彼(彼女)と同じグループの成員に限られ、グループ間の格差が拡大することになる。

(2) 同級生を観察して学習のヒントをつかむ

 同級生からの学びで、直接何かを教えてもらうこと以上に重要なのは、直接指導や激励を受けられなくても、同級生の活動を観察することで、自ら学び取ることである。このような「教えられなくても学ぶ(ぬすむ)」「我以外皆我が師なり」という態度は、現在の教育改革が育成を目指している「自ら学ぶ力」には不可欠である。なぜならば、生涯にわたる学習の過程においては常に適切な指導者を得られるわけではないし、時には誰も正解を知らない課題にも取り組まなければならないからである。

 現在、学習集団が少人数化することによって、児童・生徒が同級生を観察・模倣する機会は少なくなってきている。観察しうる同級生の人数が少なくなるだけでなく、学習課題が多岐にわたることに伴って、同級生の活動から自分の学習のためのヒントをつかむためには従来以上に高い力量が必要となってくる。その一方で教師一人あたりの児童・生徒数が削減されれば、児童・生徒は教師に逐一指導(支援)を要求するようになり、かえって自立的な学習の習慣を形成しにくくなることさえ起こりうる。

(3) 学習の成果を評価しあう

 同級生は、学習の過程においてお互いに評価者として振る舞うことがある。評価者となる同級生が多ければ、多様な観点からの評価が期待でき、児童・生徒は各自の学習の成果を多角的に振り返る機会に恵まれることになる。

 しかし、学習課題が多岐にわたり、学習が少人数グループや個人単位で行われるようになると、たとえ学級全体で学習の成果に関する批評会(発表会)を行なったとしても、児童・生徒はお互いの学習活動の内容が理解しにくくなり、肯定的であれ否定的であれ、適切な批評をすることが難しくなる。今でも児童・生徒はしばしば、「元気よく発表できたのがよかったと思います」といった表層的な相互評価をするが、学習単位の少人数化によってこのような傾向は助長されざるを得ない。

3 教室の「自習室」化

 学習集団の少人数化に伴う諸問題を、児童・生徒が自主的に克服することはほとんど期待できない。なぜならば、集団(社会)を形成、維持、発展させる子供たちの能力(社会力)が急速に衰えてきているからである。

 このような状況下にあっては、学級活動や学校行事に力を入れたとしても、学級を共同体化・自治集団化して同級生から学び合う関係を形成することは至難である。まして、特別活動が削減されつつある現在、教室は、図書館の自習室のような、バラバラの児童・生徒がたまたま一緒に過ごしている場所としての性格を強めつつある。そこから生じる問題は、児童・生徒の社会性の欠如にとどまらない。本稿で見てきたように、学習意欲の低下、逐一教師に教えてもらおうとする態度(自ら学ぶ力の欠如)、学力格差の拡大といった、教育改革の目標に反する結果さえ生じかねないのである。

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