目次

一.課題

二.問題意識

三.研究手続き

四.規範意識のカテゴリー

五.標榜されない「学校文化」

六.「学校文化」と「よい授業」

七.総括と今後の課題
 本稿の成果を再確認すれば以下の通りである。今回分析対象とした授業に関する限りでは、授業場面に即してのみ表明された規範意識は「学校文化」の再生産を志向するものであり、一方「よい授業」として表明された規範は授業者自身の裁量の余地が相対的に広いものであった。あえて卑近な表現をすれば、授業者は「本人にその気がなければ志向しなくてもすむこと」を標榜し、「たとえその気がなくても志向せずにはおれないこと」は授業場面に即して語るにとどまったのである。しかし「よい授業」に含まれる規範には「学校文化」の再生産に寄与するものが含まれており、授業中の臨機的判断の際にも「学校文化」は「よい授業」に優先されていた。授業者自身が標榜している諸規範は、授業者が志向している規範のすべてでないのみならず、最優先の規範でさえなかったのである。
 この成果をふまえ、筆者はここで、今後の授業研究において着目に値する具体的な事項を一つ指摘したい。その事項とは、教師が複数の規範を同時並行的に志向することから何が派生するか、である。
 教師が「学校文化」の再生産に従事しつつ「よい授業」の実現を試みているのなら、授業過程において教師は二つ以上の規範を同時並行的に志向していることになる。その結果、一つの規範を志向する教授行動が他の規範に反する事態が生じる。今回の授業者においては「よい授業」と「学校文化」の間に際立った矛盾は見つからなかったが、それでも「よい授業」と「学校文化」が必ずしも両立可能でないことは、前節に示した時間割への配慮の例からも明らかである。そして規範間の葛藤の意図せざる効果(unintended effect)として、教師が意図しなかった伝承が行われる可能性がある。
 従来の学校教育の見直しが行われている現在、教師が「学校文化」とは対照的な授業像を標榜して授業を行なう機会はこれまで以上に増えると予想できる。しかし教師の授業像のいかんにかかわらず「学校文化」を完全に無視することは不可能である。したがって今後は、「学校文化」と「よい授業」の間の葛藤がこれまで以上に頻繁に生じ、その葛藤がより深刻なものになることが懸念される。それゆえ筆者は、教師が複数の規範を同時並行的に志向することに伴う副次的結果の追究を、現在進行中の教育改革の過程における必須課題の一つであると考えるのである。(未完)

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