日本特別活動学会 第10回大会
課題研究1「学級・ホームルーム活動でどのような『力』が育つか」

学級・HR活動を可能にする「力」が問われるべきである
「どのような『力』が育つか」を問う前に(抜粋)



はじめに

 本発表において発表者は課題に即した考察は行なわず、敢えて「学級・HR活動でどのような「力」を育てるべきか」を論じる。結論を先に述べるならば、現在の学校教育においては、学級・HR活動において、学級・HR活動の実施を可能にする児童・生徒の「力」を育てる、という循環的な課題を見いだすことができる。もはや、児童・生徒が学級・HR活動に参加することを前提として活動を構想することはできないのである。

1 学級の一員であることを受け入れない児童・生徒が出現している

 教師がいかに学級・HR活動に工夫を凝らしても、もはや児童・生徒が学級集団の活動に
参加する保証はない。なぜならば、もはや児童・生徒が学級の一員として振る舞わなくなり、その結果、学級を単位とする活動への参加に義務感を感じなくなってきているからである。
 なお、後にも言及することになるが、児童・生徒の義務感に依存しない、自発的参加の意欲を高めるような学級活動には限界がある。なぜならば、意欲を高める活動は、子どもの購買意欲の喚起を主要な目的とした消費文化と競合せざるを得ないからである。その競合に勝って、なおかつ何らかの「力」を育成することは困難である。

2 学級システムに児童・生徒が適応することが前提である

 学習指導要領やその解説は、学級活動に際して児童・生徒の自主的・自発的な活動を推奨する。しかし、児童・生徒の自主的・自発的活動が学級集団を志向しないことは珍しくはない。例えば、好きでもない同級生よりも、幼なじみや去年までの同級生、あるいは地域のスポーツクラブのチームメイトなどと行動をともにしたいと欲する児童・生徒がいても不思議ではない。自主的・自発的活動によって学級活動が可能であるとすれば、それは、児童・生徒が学級活動として許容されない活動への興味・関心を一時自制しているか、すでにそのような活動に興味・関心を抱かないようになっている時、つまり、児童・生徒が学級システムに適応している時に限られる。そうでなければ、学校のそこかしこに、学級の枠をこえた自生的な友人グループを単位として児童・生徒がたむろする光景が展開するはずである。

3 適応しなければ参加しないが、参加しなければ適応しない

 児童・生徒の学級システムへの適応の過程では、まずは学級システムを前提とした諸活動に参加し、学級システムに応じた思考・行動様式を習慣化することが不可欠である。その過程で彼らは、理屈抜きに「そういうもの」として学級システムを受け入れなければならない。学級システムの利点に注目して、それを「よいシステム」と評価する児童・生徒が現れるとしても、それは理屈抜きに参加した後のことである。

 児童・生徒に、学級活動に先立って、どんな学級活動であってもとりあえず参加してみる、という習慣が形成されていることを期待することは困難である。教師は、児童・生徒の学級活動に参加する能力を、学級活動をはじめとする学校での諸活動によって、自分たちで育成しなければならない。

4 にもかかわらず学級活動が成り立っているのはなぜか

 この循環的な課題を達成するためのヒントは、学級活動を可能にする「力」を学級活動とは別の機会に培うことが困難な状況にもかかわらず、自治としての水準はともかくとして学級活動が成り立っている、という点にある。学級活動が辛くも成立している理由を、児童・生徒の自主的・自発的活動を尊重して学級活動を展開したことに求めるだけでは不十分である。なぜならば、そのような説明は、児童・生徒の自主的・自発的活動が学級集団を志向しない可能性を無視しているからである。発表者はむしろ以下のように考える方が妥当であると考える。学校教育の場には、児童・生徒が学級システムをいつの間にか受け入れてしまうような「仕掛け」がまだ残っていて、それらが有効に機能している、と。

おわりに

 学級システムへの適応を促す「仕掛け」の多くは、強制的なものであることが予想できる。そして、子どもの自主性・自発性を重んじる社会風潮の中にあって、学校生活の強制性を肯定的に再評価することには多大な困難が伴う。さらに、一般的に合意形成(説得−納得)を重んじる教師の思考様式をふまえるならば、教師自身が強制的な「仕掛け」の意義を認めるのをためらうことさえありうる。しかし、強制性はそれ自体で悪であるわけではない。それどころか、自主的・自発的活動を可能にする条件の一つでさえある。

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