保護者はフォーメーションを組めてなかった

 前回フォーメーションについて書いたおり、思い出したことがあります。いわゆる「酒鬼薔薇事件」の被疑者が逮捕される前の、事件現場周辺での集団登下校のことです。

 母親と思われる付き添いの大人たちは、それぞれが我が子と思われる子どもの手をしっかりと握って歩いていました。怯える子どもを安心させること以外、この付き添いに意味があったとは思えません。万一犯人(当時はまだ中学生であることは判明していませんでした)が襲撃してきたら、そしてその時に備えて保護者は付き添っているはずでしたが、彼らは子どもを抱きかかえて逃げない限り子どものスピードでしか逃げることができず、そして子どもを抱きかかえようとすればしばしその場にしゃがみ込まざるを得ず、結局なすすべなく犯人の餌食になるほかないように見えました。

 大人がいることで襲撃を抑止する効果も、それほど高いとは思えませんでした。当時通り魔事件が頻発して、親子連れが殺傷されるような事件も発生していたからです。

 子どもより先に襲撃者を発見する、襲撃を妨害し、子どもを安全な場所に誘導する、という3点が付き添いの目的だと想定すると、そして私は付き添いはそのようなものであるべきだと思いましたが、保護者は次のようなフォーメーションを組むべきであろうと思われました。

    1.親子関係の有無にかかわりなく、集団の前後左右に各1人。または前後に各二人。各自が120°ずつ分担して周囲を警戒。90°でないのは死角をなくすため。3人しか確保できなければ一人180°。その場合、後方確認の困難さを考慮して前一人後二人。
    2.中央に一人。この一人は子どもの話し相手になり、子どもが警戒役に話しかけて注意をそらすことを防止する。
    3.警戒役の4人(3人)は襲撃を防ぐための盾になりそうなものを持ち、万一の襲撃に際して襲撃者と子どもたちの間に割って入って防壁を作る。同時に大声を上げ(または警笛を吹鳴したり電池式のアラームを作動させたりして)、周辺で警戒に当たっているはずの警官に通報する。
    4.この間、子どもの話し相手になっていた保護者は子どもを襲撃者と反対方向に誘導する。

 こんな話を真顔で学生にして、奇異の目で見られたものでしたが、再び同様の事件が発生したら、私は性懲りもなくこの話をすることでしょう。幸か不幸か、格闘技等の経験のない人々にとりうるこれ以外のフォーメーションを、私はまだ思いついていません。

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