防犯グッズ『九らしの手帖』


やっぱり出ましたね。さすまたと催涙ガスの学校配備、あるいは公立学校への警備員配置。「最寄り駅で駅員が撃たれた」とか「銀行強盗が校庭に逃げ込んで拳銃で自殺」とか、以前から物騒な事件が起こっていた自治体の反応が早いようです。

とっくの昔に指摘しておきましたが、さすまたはおすすめしません。知人の勤務校に納品されたというので使い勝手を訊いてみたところ、長いし重いし、壁に掛けてはあるがいざというときにそれを持ち出す知恵は回らないだろうとのことでした。

催涙ガスもおすすめしません。理由は下記の通り。いずれも私が購入またはカタログ検討した範囲での個人的な結論です。ここ数年で性能が向上している可能性もあります。あくまでも参考意見として。
  1. スプレーは噴射のスタイルにより2タイプに分けられるが、霧状に噴射するものは風に弱く、また室内では使えない。水鉄砲状に噴射するものはこれらの欠点を克服しているが、正確に顔面に噴射できる保証がない。なお、じょうろのように放射状にガスを噴射する製品があるらしいが、国内で販売ルートを確認していない。※2006年7月、ジェル状の薬液を噴射するタイプの市販を確認。風の問題はひとまずクリア。
  2. 射程距離が短い。常時携行できる小型のものは射程距離2メートル前後。寝屋川の事件で、警察が駆けつけた時に被疑者と素手で対峙していたバス運転手と被疑者の距離は5メートル程度だったらしい。刃物を持った相手と対峙する際にこれ以上近づくのが難しいとすると、スプレーをまいても届かず、室内をガスだらけにしてしまうおそれがある。
  3. ガスは原材料によって2タイプに分けられるが、一方の宣伝文句には「副作用なし」、他方には「麻薬中毒者、泥酔者にも効果あり」と書いてある。一方は「麻薬中毒者、泥酔者には効果なし」で、他方は「副作用のおそれあり」と考えるのが合理的推論。過不足ない効果を与えられる保証がない。
  4. 保管と廃棄が難しい。万一の暴発や加熱による破裂で児童や教職員に被害が出る可能性もある。廃棄時に内容物をすべて噴射するのも一苦労。それ以前に、メーカーによっては使用期限前後に容器が腐食して中身が漏れ出すことがある。
常時携行でなく大きなものを職員室などに備えるのであれば、消火器を催涙ガスの代わりに使うことが可能ですし、多用途に使えて経済的です。どうしても防犯スプレーを備え付けるのであれば、泡状の染料を噴射して被疑者に目印をつけるタイプ(逃走後の追跡を容易にする)のものがよいと思います。顔面にあたれば目つぶし効果もありますし、刺激性でないので万一の暴発にも安心です。目印をつけるだけなら、金融機関にあるカラーペイントボールも検討に値します。

とにかく、第一発見者が一刻も早く大声を出して周囲に緊急事態を報せること、そして周囲の教職員は必ず駆けつけて手伝うことを徹底することが重要かと思います。教職員の日常的な人間関係が重要でしょう。「人は堀 人は石垣 人は城」です。チームワークを向上させるのに役立つある種のゲーム類の方が、武道や格闘技よりよほど有効な護身術でしょう。久しぶりに「今日教わったら明日使える護身術」を工夫してみましたが、考えれば考えるほどそんなものはなさそうです。

何かあったら全校教職員一丸となって対応する、と、対「校内暴力」同様の体制であたるしかないように思います。もっとも、出勤時には覚悟が決まっている、今そこにある「校内暴力」と比べれば、いつ来襲するかわからない暴漢への備えはどうしても集中力を欠くことになるでしょうが。

「校内暴力」といえば、実際に修羅場をくぐり抜けてきたベテラン教師に、刺されて死なないためのノウハウをうかがいました。当時、生徒に匕首で刺されたが軽傷で済んだ同僚がいるという、コンバットブルーヴンなノウハウです。

腹と背中に厚手の中綴じ雑誌を巻いておく

具体的にいえば『週刊現代』とか『週刊ポスト』とかですね。

手芸・工芸用品店で、厚手の革を買って腹に巻いておいてもよいかと思います。もちろん事前に刃物で突いて、貫通しないことを確認してからにしてください。もはやヤクザ映画や西部劇の世界ですね。

学校は本来物理的には危険な場所でしたが、かつては「学校を襲うなんてとんでもない」という漠然とした社会的合意によって安全が保たれていました。その合意が崩れた今、警備員の一人や二人で安全は保証できません。「教員の手に負える事態ではない。警備員の配置を」という気持ちも理解できるつもりですが、示威効果によって「学校ならどこでもいい」手合いをよその学校に追いやることはできても、寝屋川のように母校をピンポイントに狙うケースでは、最初の犠牲者が教員でなく警備員になるだけ、といった事態も懸念されます。警備員も人間ですし、総じて最前線の警備員は年配者です。

残酷な話ではありますが、「交通事故より確率は低い(某管理職)」「運が悪くなければ死なない(自称戦場経験者)」とでも腹をくくるしかないようです。「常在戦場」であります。

地域を防犯という観点から組織してゆく、互助(共助)の成否が、学校の安全を大きく左右すると思われますが、それはまた機会をあらためて。

Copyright (c) 2005 YAMADA Masahiko All rights reserved.
当ページの内容の複製、改変、転載は、著作権法に
定められた例外を除いて、法律で禁じられています。

危機管理小論集に戻る