互助への道は遠い


[1]パトロール始まる

現在住んでいる団地は、すでにその大半が、管理者の意向によって廃止が決定され、居住者もなくフェンスに囲まれ、廃墟と化している。
経費節減とやらで廃墟エリア(団地内では廃止地区と呼ぶ)の街灯も消されてしまい、アホか、不審者を呼び集めているようなもんだと思っていたら。
案の定出るわ出るわ、幼児連れ去り未遂、ごみの不法投棄、ぼや、ガラス割り、果ては排ガス自殺まで。
管理者の無策に業を煮やして、住民による管理組合がパトロールを開始することになった。
危機管理の三本柱、自助、互助、公助の、ようやく互助に手がついた感あり。団地内に反対も多いらしいが、ここは積極的に参加する一手だろう。廃止地区の治安悪化は、団地全体の治安悪化であり、周辺地域の治安悪化にも通じる。ここが荒れ放題になるのを防がなくては、団地丸ごと地域のお荷物になる。
10/14

[2]初手柄? たき火

パトロールが本格始動するまでに、少しでも何かしておこうと思い、巡回ルートの確認を兼ねて夕暮れの廃止地区を自転車で一周。
公園のかたすみに裸火発見。公園周囲の道路づたいに接近してみると高校生年配の男女4,5人がたき火をしている。
「複数の不審者を発見したら接触せず警察に通報を」が防犯協会のセオリーなのだが、姿を見られておいて声をかけなければ許したことになる。
「たき火してません? 煙のにおいがするんだけど」とジャブ。無言。しばしあって「どちらの方ですか? 警察の方ですか?」女の声だ。
念のために翻訳しよう。彼女はこう言おうとしている。

関係ないじゃん

「このへんの者だけど、まあ警察に来てもらってもいいやね」「火事とかあるから、火、ちゃんと消して帰ってね」蹴散らそうとしてもめるよりは、「許してないぞ」というメッセージだけ伝えて引き下がることにする。
「そろそろ帰りますから」と白っぽいスウェットの男。出前の「今出ました」と悪さの「もうやめます」はあてにならない。その足で交番へ。幸い警官は待機中。場所と事情を告げるとすぐ出動してくれた。その後のことは知らない。
初出動で初手柄。パトロール、歩留まりよすぎるぞ。
そこで提案。職場の帰途、住人がちょっと遠回りして廃止地区を自転車で流してから帰宅する。通行量が増えれば不審者への牽制になるし、不審な事態を大事に至る前に発見できる。
10/27

[3]順番決め

いよいよ我が家の属する居住者単位がパトロールを担当する週がやってきた。
しかしそれはあまりにも突然だった。「明日からの一週間で3回以上お願いします」って、それが大人の頼むことですか?
月番が奔走して各戸の都合を訊き、何とか一夜にして、週3回、毎回最低二人以上、というパトロール体制を組み上げたのだが。
3回のうち2回もパトロールを買って出てくれた世帯がある。その一方で「パトロール可能な日」の申告自体をしていない世帯がある。当然パトロールには加わらない。サボった者勝ち、バッくれた者勝ちである。
だからといって、担当週のパトロールを手薄にするわけにはいかない。互助の難しさを思い知らされる出来事ではある。
03/02

[4]パトロールに行ってきた

一晩だけパトロールに出動した。ホイッスルから懐中電灯から熊よけ鈴まで、うちにあり合わせのものを持って待ち合わせ場所である相方の家に行ったら、警察から貸与されたというセットの中に全部入っていた。蛍光色の帽子に腕章、反射材を縫いつけたベスト、赤い誘導灯。本格的だ。こんなものを貸与しているくらいだからどこの町内にも推奨していることなのだろう。
チェックポイントは違法駐車、不審者、ゴミの不法投棄の3点。圧倒的に多かったのは違法駐車。排ガス自殺でもされていてはかなわないので、一台ずつのぞき込んでみた。
ハンドルが小さい、あるいはナンバープレートに速度違反取締機逃れのフィルターがかぶせてある車。リアシートに荷物を満載したどこかの工務店が物置代わりに使っているらしい車。「人に優しい街作り」だのなんだの美辞麗句を並べ立てた政治ビラを満載した車もあった。どこかの革新政党だな。自分のルール違反はどうでもいいんかい。
人気のない廃墟の中でも通行人はいる。全員に「こんばんは」と声をかけて歩く。通行人が声をかけ合う街に空き巣は寄りつかない。前の勤務先の独身寮の共同浴場で、「こんばんは」と言って入り「お先に」と言って出る慣習を強引に作った実績はダテではない、か?
明らかに団地の住民とわかる家族連れが通りかかったが、パトロールのことは知っているはずなのに無言だった。同じ団地の住民だと知っているのに。いずれ自分にも番が回ってくるのに。自分の住環境を守るための活動なのに。
互助の道は遠い。
03/10

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