「チーム学校」「地域学校協働活動」と教育支援・教育協働に関する理論

心理と福祉と教育の協働をめざして

下村 美刈・岩満 賢次

1. はじめに

 愛知教育大学では、現代学芸課程臨床福祉心理コースにおいて、心理学と社会福祉学を一体的に学習し、カウンセラーやソーシャルワーカーを養成してきている(図表Ⅵ-4-1)。
 教育現場においては、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーのような学校教育を支える教育支援人材としての実践を学ぶために、教育支援活動を推奨している。自主的なゼミナールとして、学生と教員とでその活動を振り返る中で、教育支援人材の特性が明らかになった事例を最初に述べたい。
 次に、子ども支援の現場との連携による教育活動を、カウンセリングとソーシャルワークの融合した現場を学ぶために行っており、その活動の 1 つである、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーを招いた授業実践について述べる。

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2. 自主ゼミナールの中での学生の教育支援活動の振り返り

 参加者は、臨床福祉心理コースの 3 年生 7 名と教員 2 名(心理学を専門とする教員と社会福祉学を専門とする教員)であり、教員は指導的な役割ではなく、学生の話の聞き役であり、学生のグループの中での教育支援活動の体験の振り返りをファシリテートする役割を取った。

(1) 学生が行っている教育支援活動

①学校内での外国人児童の学習支援活動
主に南米、ブラジル系の低学年児童に、1 クラス 5 人程度のグループで 1 カ月に 1 回教員の作成した指導案に基づき授業をサポートする。
②学校外での外国人児童の学習支援活動
ⅰ)主に南米、ブラジル系の児童・生徒 10 人前後に、団地の公共で利用する
部屋で、小学生児童には 60 分、中学生生徒には 90 分の個別学習支援を、週 3 回行う。
ⅱ)主にペルー系の中学 3 年生 4 人に、団地の 1 室で、週 1 回 90 分、受験勉強の支援を行う。
③障がい児への学習支援活動
放課後などデイサービスにおいて、主に発達障がいの子どもたちの宿題の学習支援を週 1 回 60 分行う。
④児童養護施設での学習支援活動
児童養護施設において、入所児童、主に中学生の宿題の学習支援を、60 分、週 2 回行う。

(2) 教育支援活動の振り返りについて学生の感想

①活動を行って、良かったことの内容
・子どもとの時間が楽しいと感じた。人と関わることの楽しさや子どもとの接し方の勉強になった。
・小学生との関わりを持つきっかけとなった。子どもと接する心構えがわかった。地域の外国人の問題に関心を持つようになった。学習支援の多様性がわかった。
・児童福祉に関心があった。子どもの背景に関心を持つようになった。学習の必要性を感じた。心を開いた時、伝えたい想いを考えるようになった。
・家族の環境の影響を感じた。別の支援(生活の支援)があって学習支援が成り立つと思った。
・外国人児童のイメージはなかったが、関心を持つようになった。困ったこと、話したいこと、寂しさ、抱えていることがわかるようになった。
・あたりの強い子に関わり続けていくことの意味がわかった。関わり方が見えてくるようになった。
②困ったことの内容
・なかなか座ってくれない、会話能力と学力とのギャップ、生徒同士の関係性。
・継続的な支援の困難性(短期間で移動、帰国する家族)、複雑な家庭事情。
・学生スタッフへのあたりが強い子、学習に取り組めず、教材を隠して(見えないようにして)学習する子ども、勉強の教え方がわからない。
・子どもが勉強する気のない時、機嫌の悪い時
・子どもとの距離はなかなか縮まらない。勉強面では時間が足りない。

(3) 教育支援活動の振り返りの中で明らかになったこと

 学生たちは、振り返りの中で、各々の体験を話しながら、困ったことについては共感して頷いたり、良かったことについては、お互い体験している学習支援の場や内容に対して関心を持ち、質問したり、自分の体験している場や内容と比較したりしていた。振り返りの中で、教員養成ではない教育支援人材養成としての特性が出ている。つまり、児童生徒の学力のみならず、子どもの心理状態とその背景の生活や家庭の問題に着眼している点である。この点は、子どもを心理的な側面と生活の側面から理解しようとするものであり、臨床福祉心理コースが目標としている教育成果の一端を示していると考えられた。今後は、教員養成の学生も含めてグループワークを行い、お互いの異なる視点を理解できるような授業実践が必要であろう。

3. 子ども支援の現場との連携による教育活動

 カウンセリングとソーシャルワークの融合した現場を学ぶことを目的に、市町の子ども若者総合相談窓口による現場見学を、1 年次の初年次演習から実施しており、早い段階で現場を知り、現場感覚を養成する教育を行っている。
 ここでは、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーを招いた授業実践について述べる。
 本コースでは、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの連携を軸としていることから、この両者を軸に、心理と福祉と教育の協働をめざした支援ができる人材養成を目的とした授業実践を行っている。
 学校現場で働いているスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの連携をテーマにしたシンポジウムを開催し、学んだ知識を現場の専門職の話を聞くことで実践とつなげる橋渡しとして効果がある。
 学生、大学教職員、学外の現場の教員、教育委員会職員、児童相談センター職員などの市町の子ども支援に関わる専門職とともに討論を行った。シンポジストのスクールカウンセラーの方の話の内容は、学校の中でのスクールカウンセラーの位置づけとスクールカウンセラーの関わりの特徴および、連携の課題についてであった。一方スクールソーシャルワーカーの方の話は、実際の支援活動の中で、どのように教員と協働していったかという内容であった。専門職や学校現場の教員のみならず、学生も積極的に質問や意見を述べていた。学生の意見や感想は、共通している点が多く、代表的なものとして、次のような内容があげられていた。
・問題があるとされる子どもには、子どもが抱える問題やその背景にある家庭や地域の問題などさまざまな問題があると思う。多面的な問題を支援していくためには多職種が連携していくことが必要不可欠であると実感した。
・チーム学校は、子どものためというよりも、学校に持ち込まれる問題の複雑化により教師の対応が厳しくなってきたことへの解決策として考えられたという印象がある。将来問題を抱える子どもたちが、多面的な視点でとらえられることで、問題を解決できる体制が整えられるよう自分たちも考えていくべきだと思った。
・学校とスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの両方の視点から現状と課題を聞くことができ理解が深まった。それぞれの視点から子どもやその家族、背景をどのように理解しているかという見立てをすり合わせることが必要ということがよくわかった。
・連携が単なる情報交換にならないよう、子どもたちをさまざまな面からとらえていくために、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、教員が協働していく必要があることがわかった。
・教員は、多職種チームにおけるチームワークを学ぶ機会が少ないと思うので、学部のうちからこのような授業を受けることは必要だと感じた。

4. 心理と福祉と教育の協働をめざして

 学校現場のカウンセラーやソーシャルワーカーは、基本的に常勤職は珍しく、「非常勤」「週に一度」などの構造的特徴があり、深くコミットすることが難しいという側面がある。
 現時点では、そのような前提の上で、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーと教員の協働をめざすことを考えなければならない。そういった現状の課題を知ることは、学生にとって、現場に出て働く際に、大学で学んだ理論と現実とのギャップに悩むことが少なくなるだろうし、それをふまえて現場で活躍できるチームを育てるにはどのようなことが必要であるかを考え出すだろう。
 医療において、多職種専門職によるチームへの要求が高まり、国策としてチーム医療が推進されたように、教育においてもチーム学校が推進される中で、本コースの学生は専門職として学校現場に携わる限り、チームにおいて機能することが基本的技能として求められるのである。それには、先述した学生の感想にあるように、多職種チームにおけるチームワークを実践的に学ぶことが必要である。
 West(2012)は、産業組織心理学の立場から、チームワークは 5 つの要素から成ると説明している。それらは、リーダーシップ・適応力・相互モニタリング・バックアップ行動・チームの方向性である。リーダーはチームに必要であり、優れたリーダーシップがあるとチームが成功する可能性が高まる。また、各メンバーに適応力があればあるほど、外的変化に柔軟に対応し、不確実な条件下でも機能できる。相互モニタリングは、メンバー同士がお互いの行動を評価し、時には助言を行うことも重要である。バックアップ行動は、あるメンバーの行動や試みが機能しない際にカバーする行動であり、チームワークに欠かすことができない。そしてチームの各メンバーにチームの方向性が共有されていることが必要である。
 さらに、これらの要素によって成るチームワークが機能するための基礎として 3 つの要件をあげている。メンタルモデルと Closed‒Loop communication および相互信頼である。メンタルモデルとは、各メンバーに共有されるチームワークにおけるそれぞれの役 割、動 き、全体の方向性の心的イメージであ る。Closed‒Loop communication は、言いっぱなし、やりっぱなしの一方向的なコミュニケーションと異なり、やりとり、言葉や行動の送り手と受け手の双方向性のコミュニケーションであり、相互信頼は、各メンバーがお互いを信頼していることであり、チームワークの基礎である。
 学校現場に携わろうとする学生に対して、このようなチームワークについての理論を学び、実践していく作業を積み重ねていけるような授業実践が必要となる。

[引用・参考文献]
・West M. (2012) Effective Teamwork : Practical Lessons from Organizational Research
(3rd. edition) Wiley‒Blackwell.

※ 著作権者の承諾を得て「Ⅵ-4章、松田恵示・大沢克美・加瀬進編『教育支援とチームアプローチ-社会と協働する学校と子ども支援-』、書肆クラルテ、朱鷺書房、2016」から再掲されたものである。