97年度巡検報告


上野原巡検

1997年7月13

 相模川中流域の山間部の河岸段丘は砂礫から構成されている。高位から鶴島面、中野U面、中野T面、葛原面、大沢面に分類される。中〜高位段丘は堆積段丘であるが、低位段丘は侵食段丘である。この地域の地形は、@上野原周辺は正断層型の盆地になっており、堆積物がたまりやすい構造になっている。A丹沢地域の古富士泥流などから供給された礫が多く堆積している。また湖成層と考えられる粘土層があることから湖となる環境が何度かあったと考えられる。B中〜高位面でOn-Pm-1が見られることから、最終氷期に堆積が始まったと考えられる(若林優子)。

 

等々力巡検

1997年6月29日

 等々力渓谷は谷沢川がM2・M3面を切り込んだ谷である。谷沢川沿いの露頭からは、多摩川の河岸段丘の構成層が確認できる。露頭観察をもとに段丘形成過程を議論した。上総層群が侵食されたところに下部東京層が堆積し、武蔵野期に礫層が堆積した。M2・M3面ともにHk-Tpが見られることから、多摩川がM2面を侵食しM3面を形成し始めたのは約6万年前であるということが分かる。更に立川期にM3面を侵食しTc2面が形成されるが、後氷期に海面が上昇し埋積されたため、この面は埋没段丘となっている(若林優子)。

 

渡良瀬巡検

1997年6月22日/10月25日

 栃木県立藤岡高等学校教諭で、遊水地の植生を十数年来調査されている大和田先生の案内で渡良瀬遊水池巡検が行われた。藤岡町の東部にひろがる渡良瀬遊水池は、かつては谷中村・赤麻沼・石川沼があった場所である。遊水地にはその性格上、おもに湿性植物が多種多様に生育しており、レッドデータブックに示されている「絶滅に瀕した植物」も28種類確認されている。渡良瀬遊水池は火入れ(ヨシ焼き)や土木工事など、人為的攪乱を頻繁に受けており、それにより遷移の進行が阻まれ、絶滅危惧種を含む湿性植物群落が維持されている可能性が大きい。全国各地で開発により湿地が極端に減少してしまっている現在、地性植物の宝庫として渡良瀬遊水池は貴重な場所といえるだろう(和田美貴代)。

 

小河内ダム巡検

1997年6月21日

 小河内ダム周辺でおきた地すべり災害地は現在は整備されており、そこで地すべりがあったとはすぐに分からなくなっていた。周辺の露頭で断層や岩盤の層理や節理の走行・傾斜の測定の仕方を学んだ。その後日ノ出町の大熊沢へ行ったが、ここでは珍しいタイプのモミ林を見ることができた。普通モミ林は山の尾根筋に見られるが、ここでは沢の横の高まりの上に見られる。この高まりは、昔の土石流の堆積物だと考えられる(若林優子)。

 

青梅巡検

1997年6月15日

 多摩川中流域では5面の河岸段丘面が発達している。最高位面の竹ノ屋面は拝島面相当であり、後関東ローム段丘である。これは後氷期(1万年前以降)の海面上昇中あるいは現在と同じ高さになった時期に形成された段丘だが、その形成要因については明らかにされていない。右岸側では谷側積載がみられる。高位面から低位面まで歩き、河岸段丘の形成過程について考えた一日であった(和知奈穂子)。

 

深大寺巡検

1997年4月26日

 深大寺は武蔵野面と立川面の境である国分寺崖線の谷頭部に位置し、境内やその周辺に湧水が見られる。深大寺付近には湧水を利用した神代植物公園があり、園内ではイヌコリヤナギやミツガシワなどの湿地を好む植物をはじめ、多種類の植物がある。国分寺崖線の露頭では、約6万年前に降下したと考えられる箱根起源のHk-Tpが明瞭に見られた。さらにカタクリの見られる斜面があった。北東から北向きの斜面の限られた場所にしか生息しない植物であるだけに貴重である(若林優子)。

 

野島断層巡検

1997年4月7〜9日

・参加者:目代,三島,前田,丸岡(7日のみ),藤田,千代(香川大3年/7日のみ)

 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震の際に活動した野島断層の現況を把握することが主目的であったが、木曽谷の阿寺断層巡検や阪神地区での博物館見学なども含めてのポイントの多いものとなった。なお、移動はすべて都内より自動車で行った。

 7日の午前中に淡路島に上陸し、中田ほか(1995)、太田ほか(1996)、吾妻(1997)などを参考に、江崎灯台から富島までの野島断層の諸地点の現状を検証した。農地(棚田等)では、断層の跡は整地で消滅したところが多かったが、ほとんどが休耕地となっている。また、地学雑誌の表紙等で知られる小倉地区では、断層の走った家屋が当時のまま残され、周辺では記念公園的整備が進められている。また、若干プレハブ家屋が見られたものの、本土よりは復旧が進んでいる様子が伺えた。午後は南淡の志筑断層付近の地形発達、淡路島唯一の鍾乳洞に関し、議論を進めた(神戸泊)。

 8日は六甲山頂で、藤田(1983)をもとに六甲山地の形成過程について検討、午後は前田氏の推薦で、大阪府立自然史博物館(長居公園内)を見学(坂下泊)。

 9日は午前中、阿寺断層の露頭や活動過程について、坂下駅周辺・加子母のオオスギ周辺・付知峡大橋で検討し、後に、三島氏の推薦で二ツ森山の山頂平坦面について検討した。

 今回は様々なポイントに恵まれたわけだが、本報告者が様々な粗相(@何度にも及ぶ道の間違い/地理学を専攻する者らしからぬ失態、A犬にあわてて車のターンを失敗して、淡路行きのフェリーを1本待たされる/しかも1台差で)を犯し、参加者に多大なる迷惑をかけた。誌上に公開して自戒を期すとともに、お詫び申し上げたい(藤田 晋)。



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