国立大学法人 東京学芸大学 平成20年度 専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム「実践的指導力育成を保証する評価指標の開発」 平成20年度 専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム「実践的指導力育成を保証する評価指標の開発」
ルーブリック

ルーブリックとは?

1)新しい評価方法の必要性 −「評価」場面における客観性と主観性−

いま、学力の評価をはじめ、カリキュラム(教育課程)や学校の評価というように、「評価」は様々な場面で話題となっています。
1990年前後までは、学力評価をはじめ教育評価という場合、「知識・理解」を中心に考えられてきました。体育や美術、技術の実技の評価も「3秒ルール」とか「遠近法」という「知識・理解」に置き換えて評価されてきたわけです。つまり、それまでの評価は、主に筆記によって評価する選択解答方式(客観テスト)や自由記述方式、あるいは作品や実技・完成品の評価によって行ってきました。これは、最終到達点や成果・結果によって評価することが適切で妥当な評価であるという考え方に立ったものといえます。
その後、生活科の発足(全面実施は2002年度)に前後して、このような「評価」についての位置づけや考え方が変わってきました。「知識・理解」とともに「興味・関心・意欲・態度」をも評価の対象とし、また、ある到達点に至る過程自体を評価対象とした「形成的評価」が重視されてきました。それは、結果のみでなく過程を、知識・理解だけでなく興味・関心や態度等を対象とし、その途中評価結果を生かして適切な指導をおこなうことを重視したものといえるでしょう。
「成果や結果」で評価することは、評価者の主観性をできるだけ排除しようという配慮でもあったわけですが、「知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や、自分で課題を見付け、自ら学び、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力等まで」を含めた「確かな学力」(中教審答申2003.10.7)を評価するとなると、その評価方法の工夫・開発が不可欠となったわけです。
このような、知識や技能を活用・応用して判断や行動をしたり、表現・伝達する場面を想定した評価の方法として注目されてきたのが、「パフォーマンスに基づく評価」(パフォーマンス評価)です。パフォーマンスとは、行為・行動・動作・技能・技術や目標達成機能のことを指していますが、その時に用いられるパフォーマンス評価は、児童や生徒らが実際に特定の活動を行い、それを評価者が観察し、学力・能力等がどう表現されているかを評価することになります。例を挙げれば、①完成作品の評価(エッセイ、論文、レポート、絵・図表、モデル、デザイン、VTR/録音テープ、②活動の断片的な評価(発問への応答、活動観察)、③実技の評価(朗読、ダンス、演奏、運動実技、コンピュータ操作、実験、実習、チームワーク)、等となるでしょう。
ここで課題となるのが、「エッセイ」や「演奏」「実技」等の善し悪し(評価)の判断基準をどうするか、その判断に一定の幅があることをどのように理解し説明したらよいか、またその後の指導にどう生かしていくのか、そして、その際にぬぐいきれない評価の主観性にどう対処していくかと言うことでした。
ところで、東京学芸大学の教職大学院で育成したい実践的指導力は、まさに、パフォーマンス評価で対象としている作品や実習、実技等で示される学力・技能・能力・力量であると考えられるわけです。そこで、本教職大学院では、パフォーマンス評価に着目し、その評価指標である「ルーブリック」の開発を手がけているわけです。

2)なぜルーブリックなのか、どういう指標なのか

さて、上記のような「評価」におけるジレンマとも言える課題をどう克服できるのか、対処するのか、が課題となってきます。
上記のように、「パフォーマンスの質を段階的に評価するための評価規準」をどう設定するかと言うことですが、そこで考え出されたのが、「ルーブリック評価指標」です。
それは「それぞれの尺度に見られるパフォーマンスの特徴を示した記述語(descriptor)」と「達成の度合いを示す数値的な尺度(scale)」で、評価指標を設定しようという考えです。「記述語」というのは、評価の視点、或いは観点にあたるものですし、「尺度」というのはレベル、段階的水準ともいえるものです。学校現場では、「評価規準」と「評価基準」という用語がよく使われていますが、その用語の使用法と似ているところがあります(高浦勝義『絶対評価とルーブリックの理論と実際』黎明書房)。また、OECD/PISA等の国際調査「生徒の学習到達度調査」や文部科学省/国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」等でも一部導入されているものです。