クロソイド曲線(clothoid)
J類 教育情報科学科
J−967029 仲田博宣
1:クロソイド曲線とは、いったいどういう曲線なのだろうか。
車が、直線上を一定速度で直進して走行しているとする。車が、下図の点Pに到達したところで、速度一定のままハンドルを一定の割合で、ゆっくり左に回し続けたときにできる走行軌跡が、クロソイド曲線である。
2:クロソイド曲線の原理
上図からも分かるように、車がハンドルを一定の角度ずつ回していき、一定の速度で進むことにより、この曲線が描かれる。ここでは、これを数学的に表してみることにする。
曲線の曲がり具合は曲率と呼ばれ、半径rの逆数で与えられる。
(これは、曲率k=が曲率半径より)今、右図のよう
に曲率半径rの孤の方向に微小距離ds進んだとき、中心となす
角をdθとするとrdθ=ds より
が成り立つ。これでは理解しにくいことが予想されるため単純に、幾何学で学んだ曲率の計算で求める。
曲率半径rのときの曲率
f(θ)=(r cosθ,r sinθ)
f(a)からf(θ)までの弧長を s とすると
で表される。
したがって
θ 単調増加で s 単調増加より s の関数と見ることができる。
(接ベクトル)
これにより、以後の計算で で微分することにより、進む長さを一定に保つことができる。
(法ベクトル)
よって とは直交しているより、と表される。
(曲率)となる。
より、左辺は曲率を表し、ハンドルを一定の角速度で切っていくにつれ、一定の割合で増加する、これは、前の図より曲率半径が徐々に小さくなっていくことから明らかである。一定速度でコーナーに進入するとき、単位微小時間に進む距離
ds は一定になる。したがって曲率を一定の割合で変化させていったときの微小角度
dθ を計算し、随時 ds ずつ進めたときのx,y 成分 dx,dy を計算すると軌跡を描くことができる。曲率の変化率が一定より、
この変化率を α として、どのようにして書かれていくのか次の図に示す。
この曲線の一般形は
で表される。
例として
と
すると次のようなグラフになる。
ちなみに
より
このグラフは、2点に収束する螺旋になる。
参考のために、このクロソイド曲線の曲率を求めてみる。
よって曲率 k=πt となる。
この他にも、一般形の n に 1 を代入し、a=1 のグラフが有名だが、
これもほぼ同じ形となるが、
巻き込む点がとなる。
次に、クロソイド曲線が実際にどのような形で利用されているのかを身近な所から考えていき、クロソイドの有用性を検証してみたい。
ある参考書を読んでいてジェットコースターにクロソイド曲線が用いられていることを知り、コースターを普段私たちが考えているような形で走らせるといかに危険かを数学的、物理的に考えてみる。
次の図は、分かりやすいように高さ からスタートさせ、ループの頂点で無重力状態になるようにしている。(摩擦や空気抵抗は考えないものとする)
ここで、グラフ上の角通過地点において、乗客にかかる力が、何Gになっているかをグラフにしてみた。
地点 a b c d e f g h i
G 1 0 5 1 6 3 0 3 1
例として、e地点でかかる力を計算してみる。
始めの位置エネルギーは
これが運動エネルギーに変えられると
運動エネルギーは となる。
したがって である。
ここで、e地点でかかる遠心力(向心力)は
となる。
これに、もともとかかる力 を加える。
すると つまり Gとわかる。
ちなみに、g地点では、重力と遠心力がつり合う状態になっているため、0G
g地点での位置エネルギーと運動エネルギーの保存により
となりつり合っている。
確かに、P、Q地点を除いては、かかるGはなだらかに変化している。しかし、P点とQ点に注目してほしい。PQ間は、直線であるため、遠心力は働かない。よってかかる力は通常の1Gである。ところが、この地点の前後では次のようなGの変化がある。
P地点では、5Gから1Gへ、Q地点では、1Gから6Gへ(逆もあり)変化する。{なぜP点では5Gで、Q点では6Gなのかというと、はっきりとは計算していないが、スタート地点から点Pまではクロソイド曲線をいつの間にか使っていたと仮定して計算しているため、円よりも出入り口の曲率の変化が少ないためにこのような結果になった。}
これが表しているのは、瞬間的に、体重が50kgの人ならば、P地点で250kgから50kgへ、Q地点では50kgから300kgへと、受ける力が変化する。この変化が私たちの体に与えるダメージは想像を絶するものがあり、一歩間違えば人が死んでしまう可能性もあるのだ。またコースター自体にもかなりの負担がかかるために事故や故障の原因にもなってしまう。
これらのことがあり、どこのジェットコースターにしても、クロソイド曲線の連続で構成されているわけである。すると、体にかかるGは徐々に変化し、その変化量がたとえ大きかったとしても負担が小さく、乗り心地や安全性が保証されるわけである。
またこのような考え方は高速道路の出入り口などにも利用されている。私は高速道路の出入り口は、円軌道に違いないと考えていた。確かに円軌道の方が、カーブが緩やかなので一見ハンドル操作が容易なように思われがちだが、実は違うのだ。直線から円へ、そしてまた、円から直線へと変化する瞬間に急ハンドルを切らなくてはならない。実に危険である。一方クロソイド曲線を用いた軌道にすると、見たところカーブが急に見えるのだが、入り口から少しずつハンドルを回し続けていき、折り返し地点から出口にかけては、逆に少しずつ戻していけば、無理なハンドル操作をしないで済むというわけだ。
この他にも、クロソイド曲線は、コイルばねにも応用されているほか、自然界でも、花などが、このクロソイド曲線に似た形で花開いているとの話もある。これは、上で取り上げた、応力との関係に加え、この曲線の特性でもある「見た目に美しく、心地よい形状」といった別の一面を見ることができる。
ここからは、Mathematicaを用いてのクロソイド曲線の作成の過程や、曲率の求め方などを載せておく。また、途中円とクロソイドでのかかる力の違いについてふれたが、どうやら曲率半径と関係しているようである。この曲率半径の変化を図的にとらえるために、クロソイド曲線とその縮閉線を同時に描いてみた。
縮閉線とは、曲線A:(a,b)に対し、曲線Aとその上の曲率半径を求めたい点で接し、さらにその点での曲率が互いに等しいような円Cが存在するとき、その円の中心pを、曲線Aの曲率の中心という。このことから、曲線Aと垂直に交わる点pから接点への線分Lが存在し、その長さが、求める曲率半径となる。この曲率の中心の軌跡を曲線Aの縮閉線と呼ぶ。
ここで、先ほどのクロソイドと円の曲率半径の話に戻ろう。まずは円の縮閉線だが、これは、当然その円の中心の一点のなることは明らかである。したがって円における曲率半径は一定で、その円の半径であることが分かる。次に、クロソイド曲線の場合だが、後の図を見ていただければ理解できると思うが、同じ条件下において、コースターを下りきったところでの曲率半径は、円の時に比べて長い。つまり、これが意味するのは、先にも述べているが、曲率は曲率半径に反比例することが分かっている。よって、曲率半径の長いクロソイド曲線のほうが、人がうける遠心力を小さくすることが出来るということである。
参考文献