本ポータルサイトの趣旨

本ポータルサイトの趣旨

 「学び」という言葉があります。新しいことやモノや人に出会うことで、これまでの経験が揺さぶられ、そのことから始まる意味深い体験を通じて、新たに経験が再構成され自己変容が起こり、それがまた新たな社会関係や世界への肯定的な態度を形作っていく、概して言えばこのようなことだと思います。それゆえに、「学び」はまた、とても主体的で協働的な営みです。

 この「学び」を支える行為や仕組み全般を「教育」とここでは呼んでおきたいと思います。そうすると、「学校教育」ではこの「学び」が全ての子どもたちのものになるように、そして当該の社会との関係からこの「学び」が公のものとして支えられるように努めます。同様に、家庭では「家庭教育」が、地域では「社会教育」が、「学び」を支えるその仕方の違いやそれぞれの特徴を持って営まれます。また、近年はこの三者の教育作用が、連携や協働することも多くなってきています。社会の変化に応じて、子どもに関わる教育課題が複雑化、多様化するとともに、三者それぞれの教育作用の関係性の変化や、そうした変化に応じて期待される役割の変容、あるいはそうした変化がもたらすそれぞれの教育の場での歪みや軋みを改善するために「チーム学校」や「地域学校協働本部(活動)」といった政策も進められています。もちろんここには、教育だけではなく、福祉の側面からの連携や協働が大きな役割を持って含まれ、社会全体で子どもの「学び」を支えていくことが目指されています。

 ただ、こうした「学び」を支える動きは、そもそも子どもの「学び」を支えようとするときに、「さまざまな立場の人が『チーム』を組んで支える」という「チームアプローチ」が基本となります。しかしながら、これまで教育の営みや、とりわけ学校教育を中心的に営む「教師」という職業においては、むしろ「一人でできてこそ一人前」という価値観が土台にあり、いわば「ソロアプローチ」に慣れているために、「チームアプローチ」というものがなかなか浸透しにくい現状があります。

 「学び」を支えるチームを、特に学校教育に焦点を当てて考えた場合、このチームには大きく「教員」と「教育支援員」が含まれます。「教育支援員」とは、例えば学校の事務職員の方々、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの子どもを支える専門の支援職の方々、図書館、博物館、行政などで働く社会教育の専門職の方々、ICT支援、外国語学習支援、部活動支援の方々、さらには企業や地域から教育を支援する方々などが広く含まれます。これからの教育は、こうした「チームアプローチ」が基本となる「教員」と「教育支援員」に支えられることになります。

 本サイトでは、このような「チームアプローチ」に基づいた「教員」や「教育支援員」になるための「学び」を支えたり、またそのための「教育」を支えたりするために作成されたものです。国立大学法人東京学芸大学では、平成27年度から全国に先駆けて、教育学部の中に「教育支援課程」を設置し、「教育支援員」の養成と、チームアプローチに基づいた「教員」の養成に取り組み始めました。また遡って平成24年度より、北海道教育大学、愛知教育大学、大阪教育大学と本学の4大学にて、通称「HATOプロジェクト」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げ、その中においてもチームアプローチに基づく教員養成、並びに教育支援員(職)養成のあり方について研究と各大学の改組、教育課程の改善化などに取り組んできました。

 またこのような経緯の中で、平成29年度からは、HATOプロジェクトの他3大学にもご協力をいただき、学校・地域が両者一体となった次世代型教育のための「教育支援協働学」の構築と教育支援人材養成の高度化ならびに教員養成における「拡張型カリキュラム」のモデル開発研究に取り組んできました。本サイトは、この取り組みの成果に基づいて作成されたものであり、「チームアプローチ」に基づいた「教員」や「教育支援員」になるための「学び」を支えたり、またそのための「教育」を支えたりするために、全国の多くの教員・教育支援員の養成や研修の現場で活用いただくことを目的としています。

 「Society5.0」という新しい社会像が提示され、他方で臨床的な教育課題が複雑多様に広がる中で、本サイトが新しい教育人材の育成に少しでも役立つものになることを願うとともに、多くの方々からのご意見をいただき、さらに「チームアプローチ」に基づく教育現場の質の保証と高まりに資する「ポータルサイト」として発展させていくことができればと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

東京学芸大学 副学長 松田恵示