東京学芸大学による教員・教育支援職におけるチームアプローチ力の養成・研修に関する取り組み

東京学芸大学による教員・教育支援職におけるチームアプローチ力の養成・研修に関する取り組み

次世代型育成教育の実現に向けた大学のチャレンジ-個の取り組みから育成システムへ―

加瀬 進

1. ホップ

 社会福祉や臨床心理、生涯学習や生涯スポーツ等々に対する興味・関心・基礎知識を持ち、学校に閉じない教員。学校の文化や規範、教師の仕事や子どもの現実を知り、自らの専門性と価値観を教員と協働して活かす力をもった教育支援職。そんなハイブリッドな教員、教育支援職を育成したい。なぜなら子どもは家庭・学校・地域のトライアングル・サポートの中で、24時間365日の時空間の中で、人として育っていく存在だから。

 しかしながら、教員免許取得に課せられている「介護等体験」の内容は限定的であり、教育支援職になるための「教育等体験」はカリキュラムに位置づけられておらず、教員や学生の個別的取組に委ねられているという現状がある。どうすればよいのだろうか。このような問題意識のもと、筆者が教員・養護教諭・臨床心理士・外国人支援・特別支援教育・教育学研究者を目指す学生たちと「つながるプロジェクト」という自主ゼミを始めたのが2014年度のことであった。

 例えば不登校に関するドキュメント映画『さなぎ~学校に行きたくない(三浦順子監督)』を見て、何をすべきか、何ができるかを話し合う。

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三浦順子監督作品『さなぎ~学校に行きたくない』公式HPより

 例えばスクールソーシャルワーカーをお招きして、今、学校でおきていること、その対応にどのようなチームアプローチが求められているのかを学ぶ。

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スクールソーシャルワーカー宮下佳子さんのレクチャーを受ける学生たち

 例えば老人ホームや障害福祉サービス事業所を訪ね、利用者と時を重ねあう。

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のどかな山を臨む老人ホームの食堂から
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カリキュラムにない「介護等体験」をするゼミ生

小さいが確かな手ごたえを得た。ハイブリッドな教員・教育支援者育成は可能である。学生は掛け値なしに、次のような言葉を残して巣立っていった。

  • 今の自分なりの立場でやれることがある、という実感を得ました。
  • 「一人ひとりの将来を見据えて」今、目の前にいる子どもを支援する必要性・大切さに気づいた。
  • 専攻の違いによる価値観や気づきの差異に対する驚き、躊躇、認め合いながらもエビデンスベースで自分の立場から意見を言うことの難しさにぶつかった。

2. ステップ

 この手ごたえを大学としての取り組みにするために「専門職の連携・協働」を整理し、「専門職連携教育プログラム」開発を構想し、着手していった。これが2015年度のことである。

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併せて東京学芸大学では従来の教養系学部組織を再編し、2016年4月から「教育を支援するスペシャリスト」を養成するための7コース4サブコースからなる「教育支援課程」を立ち上げた。2020年3月、第二期の卒業生を輩出するとともに、この流れは大阪教育大学「教育協働学科」、愛知教育大学「教育支援専門職養成課程」へとひろがっている。

東京学芸大学教育支援課程
大阪教育大学教育協働学科
愛知教育大学教育支援専門職課程

3 ジャンプへ向けて

 教員養成課程にも新たな視点が入ろうとしてきている。例えば大澤は「学力から見た子どもの多様性に配慮した教育活動を充実・発展させることに重点をおいた教員養成と教員研修」の課題を次のように整理している。

① 学ぶ力の未熟な子への配慮の必要性を実感できる多様な機会の設定
② 特別支援教育や日本語教育、社会福祉を学ぶ学生との大学の授業における交流
③ ②に関わって多分野協働を実践している関係者に学ぶ機会の設定
④ 「多職種との協働・支えあいができて1人前」という意識の醸成
⑤ 子どもの多様性に応じた学習指導案づくり、指導技術の向上を導く授業保障
⑥ 子どもの多様性に対する多角的評価の意義・方法・利活用を学べる教職実践演習の展開

(松田恵示・大澤克美・加瀬進編著『教育支援とチームアプローチ』書肆クラルテ、2016より)

 一方、東京学芸大学では2015年度より「子どもの貧困」問題にチーム学校という観点からどのように取組めばよいか、というテーマに迫るべく「パッケージ型支援プロジェクト」を展開してきたが、その一つの柱が「チームアプローチ」理解をどのように教員・教育支援者養成カリキュラムに組み込むかという問題であった(詳しくは、東京学芸大学児童・生徒支援連携センター編『子どもの貧困とチームアプローチ』近刊を参照)。

東京学芸大学パッケージ型支援プロジェクト

 表1は東京学芸大学2019年度カリキュラムの中から、「子どもの貧困」と「チームアプローチ」理解を意図的に組み込んだ授業を整理したものである。

表1:「子どもの貧困」とチームアプローチ関連中心科目
学校教育系 教育支援系
1年春期 教育支援概論A(必修)
1年秋期 教職入門(必修) 教育支援概論B(必修)
2年春期 教育ネットワーク演習(選択)
教育支援演習A(必修) 
2年秋期 教育マネジメント演習(選択)
教育支援演習B(必修)  
3年春期 教育コラボレーション演習(選択)
教育相談の理論と方法(必修)
生徒指導・進路指導の理論と方法(必修)
3年秋期 教育相談の理論と方法(必修)
生徒指導・進路指導の理論と方法(必修)
4年春期 教育支援コラボレーション演習(選択必修)
4年秋期 教職実践演習(必修)

 表中の科目のうち、「教育ネットワーク演習」「教育マネジメント演習」「教育コラボレーション演習」は学校教育系・教育支援系対象の共通科目群(選択)に新設した<二つの学系をつなぐブリッジ科目>である。この3科目は教員を目指す学生と教育支援者をめざす学生が学系を越え、授業における協働的学びを通じてチームアプローチの意義や楽しさ、そして課題を深く体感することをねらいに据えている。

 「教育ネットワーク演習」「教育マネジメント演習」は遠隔授業の方法を取り入れて、経済的に厳しい家庭の子どもたちを対象とした学習支援を行うサービスラーニングであり、教育コラボレーション演習は海外在住の日本人の子どもたちの学び(学校における学び・学校外における学び)の態様について、タイ王国バンコクにおけるフィールドワーク(日本人学校、現地校、日系企業等)に基づくグループワークを通じて実践的に学ぶ科目である。

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A区の教育センターで学ぶ子どもたち
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東京学芸大学の教室から子どもたちの学習支援を行う学生たち
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双方向のパネル画面

 なお、こうした取り組みと並行して行われた大学院修士課程の再編により、2019年度から教育AI研究・臨床心理学・教育協働研究という3つのプロラムからなる「教育支援協働実践開発専攻」をスタートさせた。

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 その特長的な授業が3つのプログラムを貫く専攻基盤科目「教育支援協働学概論」「教育コラボレーションと現代社会」「教員の社会的役割とキャリア形成」である。「教育支援協働学概論」では3プログラムの学生によるグループワークを中心に「教育支援協働」とは何かを追求し、「教育コラボレーションと現代社会」では多彩なゲストスピーカー(文科省・学習支援・コミュニティスクール・フリースクール・情報教育・技術革新・医療的ケア児等)による講義を通して、学生たちのウィングを可能な限り広げようとする。そして教職大学院科目「教員の社会的役割とキャリア形成」を必修とすることで教員理解を深めるのである。 

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「教育コラボレーションと現代社会」の一コマ

 以上、東京学芸大学の取り組みを中心に次世代型育成の問題意識と育成にかかる基本的なフレームワークを概観してきた。ご覧の通り、それはまだ「産声」をあげた段階ではある。だからこそ本ポータルサイトが発信源となり、次世代型育成にむけて多様な協働を広めていきたいと強く願う次第である。