HOME > Opinion > プログラミング教育2.0への挑戦

プログラミング教育2.0への挑戦

 
Spheroをいじる

先進的なつくば市の実践

先日、つくば市の「2020年代の学びを変える先進的ICT教育研究大会」に行ってきました。いくつかの発表と、立派な冊子で、つくば市で行われているプログラミング教育の概要を知ることができました。凄いです。2017年の段階で、自治体単位でここまで出来ているところがあるのかと驚きました。
 
小中9年間を通じての核となるコアカリキュラムがあり、それに各校独自のオリジナルカリキュラムがあります。それらがまとめられた冊子の充実ぶりも見事で、本屋で平積みにされているあの本やあの本より、よほど充実していますし、参考になります。生の授業を見ることはできませんでしたが、プログラミング教育1.0が実現されているな、と感じられるものでした。
 
ただ、これをもってプログラミング教育を実現するためのカリキュラムマネジメントの完成形とするわけにはいかないでしょう。つくば市の先生方とも少しお話しさせていただきましたが、そこは自覚されていて「コアカリキュラムの更新を進める」とおっしゃっていました。
 
小5まではPC内で完結するもの(小1はプログラミン、小2からScratch)、小6からは外部機器との接続もある(Java Script ブロックエディター等)という流れは、異論もあるかもしれませんが一つの見識だと思います。しかし、小1で国語「スイミー」、小2で生活「町探検」、小3で音楽「作曲(和音)」…という学年を越えた教科間、教材間に関連付けは認められませんでした。
 
 

学年を越えた教科間、教材間の関連付け

学年を越えた教科間、教材間の関連付けとは何を指しているのか、書いておきましょう。それは前のページで書いた「既存の教科で育成してきた論理的思考力とプログラミング的思考のすり合わせ」と関わるものです。
 
例えば国語。低学年の物語教材の指導では、「繰り返し」の構造を学ぶことが重要なポイントの一つです。代表的なものが小1の「大きなかぶ」でしょう。登場人物が一人ずつ増えていき、かぶをひっぱる。言ってしまえばそれだけの話なわけですが、繰り返しがもたらす物語のリズムに子どもたちは引き込まれ、「やっと、かぶはぬけました」という最後の一文で何とも言えない満足感を味わいます。
 
他方、生活では2年生で野菜を育てます。その過程で子どもたちは何度も同じことを繰り返していることに気づきます。
 
「毎日、畑に行って、毎日、水をやって、毎日、雑草を抜いて、毎日、実の大きさを観察して…」
 
国語の「繰り返し構造」の学びは2年生でも起こります。たとえば「きつねのおきゃくさま」は代表的な繰り返し構造の物語でしょう。生活での繰り返しも、考えてみたら1年生の最初に行ったアサガオの時からあったものでした。
 
こうした学習をふり返り、子どもたちが学んできた「繰り返し」を意識したところで、例えばScratch Jr で「繰り返しのある物語」を作る、というのはどうでしょう。これならプログラミング教育が無理なく教科の中に位置づけられると共に、教科で育成してきた論理的思考力からプログラミング的思考へと進むこともスムーズにいくのではないでしょうか。
 
 

カリキュラムマネジメントはなぜ必要か

こうした「学年を越えた教科間、教材間の関連付け」がきちんと設計されていること、無理なく各教科の中で低学年からプログラミング教育が位置づけられていることは、プログラミング教育を進めていく上で必須のことであると考えられます。
 
なぜか。逆の場合を考えてみましょう。もし、そのようになっていなかったら、各学年で行われるプログラミング教育の授業はどうなるでしょうか。前の学年からの積み重ねが期待できませんから、一つ一つが単発のものとなり、結局その学年でやりたいプログラミング教育の授業をするために、その教科の授業とは別枠でリテラシー的な教育を行う羽目に陥るでしょう。
 
例えば6年の理科「電気」でプログラミング教育を取り入れたいとします。ところがそれまでが単発の授業しかされていないと、子どもの方は「Scratchでプログラムしろと言われても…Scratchってなんだったっけ?」といったことになりかねません。そうすると結局、「じゃあ理科の前に総合で少しScratchをいじらせて」となりがちですが、今度はそこに英語が入ってきます。そもそも「理科を教えるために、その前に総合でコンピュータに触れさせる必要がある」というのもなんだかおかしいですよね。
 
ですから、「学年を越えた教科間、教材間の関連付け」がなされたカリキュラムマネジメントがプログラミング教育には必要であろうと思うのです。その実現を、プログラミング教育2.0と言いたいと考えます。我々はそこを目指したいのです。
 
と言っても、道のりは険しいです。自治体によって、学校によって環境も違いますから、どこでも同じカリキュラムマネジメントができるわけではありません。そんな中で、いったい何を積み重ねていけばいいのか。どんなことを発信していけばいいのか。プログラミング教育2.0への挑戦は始まったばかりなのです。

 
鈴木秀樹

研究代表 鈴木 秀樹

東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾幼稚舎教諭、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究センター勤務を経て2016年より現職。日本サウンドスケープ協会理事、日本感性教育学会理事。他に日本教育工学会、CIEC(コンピュータ利用教育学会)、日本国語教育学会等に所属。マイクロソフト認定教育イノベーター。普段は、教科におけるICT活用やプログラミング教育を研究しているが、ライフワークは「ICTで支える感性教育」。