学長室だより

「ビジョンハッカー~世界をアップデートする若者たち~」

というタイトルのNHKの番組(NHKスペシャル)を16日の日曜の夜に見ました。「ビジョンハッカー」とは、番組の中で明確な定義はなされませんでしたが、言われていたことをまとめるなら、社会の問題を、自分のビジョンをSNSなどで訴えて仲間を募り、それを実現していくような若者たちということのようです。何人かの世界の若者が紹介されていましたが、みな立派で大いに感心しました。その中のひとり、李炯植(りひょんしぎ)さん、30歳は、子どもの教育に関わる活動でしたので、こちらの関心にも近く、特別に興味深く見ました。

今や日本では子どもの7人に一人が貧困状態(平均所得の半分以下の所得)の家庭に育っているそうですが、そうした状況にいる子どもに、無償の学習支援を行い、安心できる居場所づくりを行っているNPО法人Learning For Allを運営しているのが、彼でした。

彼は、自分自身が尼ケ崎の貧しい地域で生まれ育ちましたが、小学校6年生の時の担任が彼の優秀さに気づき、家の人を説得してくれたおかげで、家庭教師をつけて勉強することができ、私立の中高一貫校から東大に進学することができました。その一方で、小学校の同級生たちは、高校を中退したり、若くして妊娠したりして、彼とは随分と違った生活環境に身を置くことになっていました。このようなことを東大の同級生に話しても、彼らには家庭環境のせいで学びの機会が失われているという発想がなく、「それは自分のせいじゃないか」というような受け止め方をされるのが嫌だったと言います。そうした中で、彼は、貧困の連鎖を生まない社会システムを実現したい、困窮世帯の子どもたちから社会の在り方を変えていきたいと思い、Learning For Allを立ち上げたということでした。まことに見上げた志で、心打たれました。

彼の法人の運営資金は寄付によっているということで、その1つがゴールドマン・サックス社で、億単位(!)の寄付をもらっているということでした。番組では彼が新たな事業を日本法人の社長に説明に行くところを撮っており、緊張すると言いながらも1対1で社長にプレゼンをしていました。その後、社長が、番組スタッフに、彼のことを、「この若さでこの構想、実行力、完成度!」と誇るように言っていたのが、とても印象的でした。その手腕・才覚には驚かされるところです。

番組には、彼らの活動を支援している人物としてビル・ゲイツ氏も登場して、「若い人が未来を見据え、世界を見渡し、社会の大きな不公平に立ち向かうことは本当にすばらしい。」と言っていました。まったく同感です。

本学では、教員だけでなく、李さんのように学校・地域の子どもを支える人材を養成する教育支援課程を、平成27年に全国に先駆けて設置しました。教育支援課程の学生たちは、授業の中で、またボランティアとして、厳しい状況にある学校・地域の子どもたちの学習支援に入っています。頼もしい限りです。今年で、3回目の卒業生を出しました。本学での学びを糧として、李さん同様、種々の困難を抱え困っている子どもたちの支援に奮闘していることだろうと思いました。
(NHKのホーム・ページに番組の簡単な案内が出ています。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/WJYXP8W6P9/