前の回で、ソビエトのお店での店員さんの愛想のわるさのことを書きましたが、2002年、ソビエトが崩壊してからの新生ロシアを、心理学関係の国際会議があって、やはり恩師と訪れる機会がありました。買い物は、もはや前回記したようなシステムではなく、日本と同様で、日本と同様のスーパーもできていました。が、そうしたところで買い物をする中でだんだん気づいてきたことは、やはり店員さんの愛想がまったくないことでした。ソビエト時代は、仕事が面白くないからなのかーソビエトでは物をつくる仕事が尊重され、物を売るなどのサービス業は軽んじられているようでしたのでーと思っていましたが、体制が変わってもとなると、そうしたことではないようだと気付きました。
なぜ愛想がないと感じるかというと、彼らは笑わないのです。ソビエトに留学経験もあった私の恩師は、彼らは仕事中に笑うのは不真面目だと思っているらしいと教えてくれました。そう聞いて、彼らどうしが仕事で話をしているらしい場面をよくよく観察してみると、確かに笑っていないのです。また目を見て話すのがあちらの礼儀ということで、ビシッとしたスーツを着たいかにもロシア人という体格のいい男性どうしが話をしているところなどをみると、ニコリともせず、またお互い目をそらさず至近距離で対峙しているのですから、これから何か勃発するのではないかという緊張感をはらんだマフィアの話し合いのような迫力がありました。ロシア人は笑わないということは、実は、ロシアに詳しい人には、よく知られていることで、ロシア語の入門書や旅行記などにも結構書かれていることは、あとから知りました。
この笑わないということに相俟って、小銭を用意するのは、買う側というのがあちらの商道徳らしく ―― ツムというモスクワを代表するかなり大きなデパートの大きな垂れ幕には"小銭を用意するのは客の責任"と書いてあるということを(私はロシア語が読めませんので)、実際その垂れ幕を見ながら、我々に同行してくれたガイドさんが含み笑いしながら(ま、仕方ないわねというニュアンスで)教えてくれました ―― 支払いで大きなお金を出すと、"ニェット!!("だめ!!")"と、こちらの目を射抜くようにしてジッと見て、笑わずに言われると、こちらは大いに怯み、財布の中をガサガサ探すということになるのでした。モスクワ大学の中の生協のような売店では、舌打ちもされたように思いましたが(店員さんは学生風の若い女性でした)、それは怯えも頂点となっていたからでしょうか...。モスクワ大学には、お店の開店直後の時間に行ったのですが、実際レジをのぞき込んでみると(そんなことをしたから舌打ちされたのでしょうか...)、スカスカの状態で、よくもこうした状態で営業を開始するものだと、呆れるというよりもはや感心しました。
というわけで、新生ロシアでの買い物も、だんだんと苦痛になってくるのでした。(この記事さらに続く...)
下の写真の1枚目は、雀が丘というところにある新しいモスクワ大学で、何たる威容!と思いますが(建物の真ん中が大学本体で、左右が学生寮になっているとのことでした)、これは、スターリン・ゴシックとも言われる、スターリン時代に建てられた7つの巨大なゴシック様式のような建物のうちのひとつです。上で記したのはここの売店でのことです。学内では、「青木造園」と荷台に書かれたトラックが職員の人を乗せて行ったり来たりして落ち葉を片付けていました。日本の中古車がロシアではよく走っているとのことでした。2枚目は、街のなかにある昔からあるモスクワ大学です。
前回のクイズ(ресторан)の答えは、"レストラン"です。前回記しましたようにロシア語のрはr、сはsで、нはnです。また、ロシア語ではвがvで、уがu、хがhで、さらにNとRの鏡映文字であるИとЯもあります。つまり、英語のアルファベットを知っていると、その知識がロシア文字の読みに干渉して読みを妨害するということが起こるということで、そんなこんなで私はロシア語をはやばや諦めました。では、英語ができたかというと、そうでもないというのは真に残念です...。