2024年アーカイブ

「虎に翼」(原爆の日、終戦記念日は過ぎてしまいましたが...)

「虎に翼」を見ています。これはNHKの朝ドラですが、どんなドラマかというと、ネットでの紹介記事(ORICON NEWS)によれば、次のとおりです。「第110作目の連続テレビ小説となる本作は、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった女性を俳優・伊藤沙莉が演じ、彼女とその仲間たちが困難な時代に道なき道を切り開き、迷える子どもや追いつめられた女性たちを救っていく。日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ三淵嘉子さんの実話に基づく、リーガルエンターテインメントとなっている。」。物語は戦前から始まり、そうした時代にいかに女性が差別されていたか、その中で女性が法曹を目指すことがいかに困難であったかが描かれました。最近の放送では、戦後を舞台として、一応は男女平等の世が実現した中での出来事を描いています。

見ていて、ほーっ!と思ったのは、ドラマの中で、主人公の学生時代からの友人でありゲイの轟弁護士に、ゲイのカップルが法的に認められないことの不当さ、不自由を語らせ、また、主人公が、再婚するにあたって姓を変えねばならない不合理に悩む姿を描いたことです。朝ドラでこうした問題を扱ったことに、驚きました。この番組がきっかけで知ったのですが、女性の裁判官の旧姓使用が認められたのは、なんと平成292017)年9月と、つい最近であることに、これもまた、驚かされました。

また、8月最終週の放送では、原爆の被爆者たちが国を相手に賠償を求めた裁判のことが描かれていました。主人公を含む裁判官たちは、悩みに悩みながら、原告の賠償請求権は棄却せざるを得ないものの、原爆投下は、国際法に違反しているという判決を下します。こうした史実を、私は、寡聞にして知りませんでした。

同性婚や夫婦別姓などの現代的で意見の分かれる問題や、必ずしも知られているとは言えない原爆裁判を、多くの人が朝に見る番組で扱ったということは、とても意義深いことだと思います。

朝ドラは、出勤までの短い時間しか見ることができないのですが、第2次世界大戦と重なる時代を舞台とし、戦争の影響を取り上げているものが多いように思います。今回もまさしくそうで、登場人物の多くは、戦争の傷を負っています。主人公は、夫を戦病死で亡くしています。出征で見送ったのが最後の別れとなりました。主人公の幼馴染は、主人公の兄と結婚しましたが、やはり出征する夫を見送ったのが最後となりました。主人公と同居している主人公の母は、息子を亡くした母ということになりました。娘と孫を空襲で亡くし、幼い女の子を見ると、孫を思い出し、号泣してしまう弁護士も登場しました。前回の朝ドラ、笠置シヅ子がモデルの"ブギウギ"でも、主人公の弟が戦死し、その弟のために作られた楽曲を歌うというシーンがありました。そうした朝ドラの中で、私が、圧巻だったと思うのが、作曲家の古関裕而がモデルの"エール"(2020 3月から11月まで放映)で、主人公を音楽の道に導いた小学校の教師・藤堂先生が、戦死するシーンです。戦地に音楽家として慰問に行った主人公が、恩師とたまたま出会うのですが、恩師は主人公の目の前で銃弾に倒れ、彼に見守られながら亡くなるというものでした。それは、見ている者を粛然とさせるような内容でした。この回のことは、ネットでも随分と話題になったようです(例えば)。この回では、始まりのテーマ音楽もなし、また、朝ドラの後のNHKの番組 "朝イチ"で、司会の博多華丸・大吉さんとアナウンサーの鈴木奈穂子さんが朝ドラの感想を話し合ったりするのですが――"朝ドラ受け"というのだそうですが――、これもなしというものでした。

現在起こっている戦争のひとつ、ガザでのイスラエルの攻撃は、今もまだ続いています。250人と言われた人質を奪還するための、4万人というガザ側の死者。命の重さは数では測れないと重々知ってはいても、その不釣り合いには、愕然とします。イスラエルは、また、テロリストの隠れ家となっているという理由で、一般の人々も逃げ込んでいる病院や学校を空爆しています。そして、今、子どもたちを対象にポリオのワクチン接種が始まったと聞きました。ポリオ!!私は、特別支援の教員として、「肢体不自由の生理・心理・病理」の授業を担当してきましたが、弛緩性のマヒとはどういうものかを説明する時に取り上げてきたのが、ポリオです。ポリオは、ポリオウイルスによる感染症で、後遺症として、弛緩性マヒ(筋肉の緊張が消失するマヒ)という運動マヒを起こすことがあります。子どもの間で大流行することがあり、日本でも1960年に大流行し、ソ連から生ワクチン(弱毒化したウィルスを含むもの)を緊急輸入して凌ぎました。それは、私が小学校に入学する前後で、小学校の体育館でスプーン1杯のワクチンを飲まされたのを憶えています。子どもが飲みやすいよう、とても甘い液体でした。ポリオは、衛生環境の改善やワクチン接種の普及により、感染流行は過去のものになりました。実際、ポリオは、天然痘に次いで根絶まであと一歩と言われています(https://www.unicef.org/tokyo/stories/2019/Jan-31)。このことを、私は授業の中で必ず言ってきました。それが今、ガザでは、ワクチンを接種するような状況にあるというのです。ガザ地区の衛生状態はどうなっているのか...。ガザ地区は、人道「危機」の状況にあると、繰り返し言われてきました、「危機」とはどういう意味だったでしょうか...。暗澹たる思いにかられます。

「虎に翼」の原爆裁判の判決文では、次のように原爆投下を断じています。

「当時、広島市には、およそ33万人の一般市民が、長崎市には、およそ27万人の一般市民が住居を構えており、原子爆弾の投下が、仮に軍事目標のみをその攻撃対象としていたとしても、その破壊力から、無差別爆撃であることは明白であり、当時の国際法から見て、違法な戦闘行為である。」(https://mainichi.jp/articles/20240906/spp/sp0/006/098000c

10日、イスラエルは、みずから「人道エリア」として住民の退避先に指定した地域に、空爆を行ったというニュースが流れました。ガザの子どもたちが、一刻も早くこの苦しみから解放されることを心から願います。

本学卒業生の角田夏実さんが金メダル獲得!

角田夏実さんがパリ・オリンピック女子柔道48㎏級で優勝、金メダルを獲りました。私は、今回のオリンピックの日本の柔道で、金メダルがもっとも確実な選手と思っていましたが、はたしてその通りになりました。彼女の磨いてきた巴投げから関節技に、という技の流れは完璧で、準々決勝でフランスの選手と対戦した時に、実況のアナウンサーが、思わず"強い!"と叫んだのももっともです。このフランスの選手は、銅メダリストとなるほどの強さだったのですが、角田さんは、まったく技を出させず、赤子の手をひねるが如く、1分以内で勝負をきめました。ここに至るまでには、いかほどの精進・努力があったことかと思います。

強さも強さでしたが、試合場での態度もまったく立派で、優勝が決まった時の喜び方も実に抑制的で、人間的な成長を感じさせるものでした。しかし、それでいながら、その角田さんが、表彰式でハラハラと涙を流しているのを見たときは、こちらの目頭も熱くなりました。

角田さんには、世界選手権3連覇を祝して、本学の栄誉賞を授与しました。今回の金メダル獲得は、本学にとって、さらに誇らしい出来事です。学生や多くの方々の前で、これまでの経験を、お話いただくような機会をつくりたいと思います。

角田さんを本学で育て、今は早稲田大学にいらっしゃる射手矢岬先生が、カメラが観客席を向けた時、映っておられました。ああ、やはり現地に行っておられたと思いながら、角田さん、やりましたねとラインしたところ、感無量ですというお返事を頂きました。

【過去の学長室だより】
角田夏実さんのパリ・オリンピック柔道出場壮行会(4月13日)  (2024年5月15日掲載)
本学卒業生の角田夏実さんが世界柔道選手権(48kg級) 3連覇! (2023年5月23日掲載)
本学卒業生の角田夏実さんが柔道世界選手権(48kg級) 2連覇! (2022年10月21日掲載)
オリパラと本学。                      (2019年9月27日掲載)