2021年アーカイブ

「ビジョンハッカー~世界をアップデートする若者たち~」

というタイトルのNHKの番組(NHKスペシャル)を16日の日曜の夜に見ました。「ビジョンハッカー」とは、番組の中で明確な定義はなされませんでしたが、言われていたことをまとめるなら、社会の問題を、自分のビジョンをSNSなどで訴えて仲間を募り、それを実現していくような若者たちということのようです。何人かの世界の若者が紹介されていましたが、みな立派で大いに感心しました。その中のひとり、李炯植(りひょんしぎ)さん、30歳は、子どもの教育に関わる活動でしたので、こちらの関心にも近く、特別に興味深く見ました。

今や日本では子どもの7人に一人が貧困状態(平均所得の半分以下の所得)の家庭に育っているそうですが、そうした状況にいる子どもに、無償の学習支援を行い、安心できる居場所づくりを行っているNPО法人Learning For Allを運営しているのが、彼でした。

彼は、自分自身が尼ケ崎の貧しい地域で生まれ育ちましたが、小学校6年生の時の担任が彼の優秀さに気づき、家の人を説得してくれたおかげで、家庭教師をつけて勉強することができ、私立の中高一貫校から東大に進学することができました。その一方で、小学校の同級生たちは、高校を中退したり、若くして妊娠したりして、彼とは随分と違った生活環境に身を置くことになっていました。このようなことを東大の同級生に話しても、彼らには家庭環境のせいで学びの機会が失われているという発想がなく、「それは自分のせいじゃないか」というような受け止め方をされるのが嫌だったと言います。そうした中で、彼は、貧困の連鎖を生まない社会システムを実現したい、困窮世帯の子どもたちから社会の在り方を変えていきたいと思い、Learning For Allを立ち上げたということでした。まことに見上げた志で、心打たれました。

彼の法人の運営資金は寄付によっているということで、その1つがゴールドマン・サックス社で、億単位(!)の寄付をもらっているということでした。番組では彼が新たな事業を日本法人の社長に説明に行くところを撮っており、緊張すると言いながらも1対1で社長にプレゼンをしていました。その後、社長が、番組スタッフに、彼のことを、「この若さでこの構想、実行力、完成度!」と誇るように言っていたのが、とても印象的でした。その手腕・才覚には驚かされるところです。

番組には、彼らの活動を支援している人物としてビル・ゲイツ氏も登場して、「若い人が未来を見据え、世界を見渡し、社会の大きな不公平に立ち向かうことは本当にすばらしい。」と言っていました。まったく同感です。

本学では、教員だけでなく、李さんのように学校・地域の子どもを支える人材を養成する教育支援課程を、平成27年に全国に先駆けて設置しました。教育支援課程の学生たちは、授業の中で、またボランティアとして、厳しい状況にある学校・地域の子どもたちの学習支援に入っています。頼もしい限りです。今年で、3回目の卒業生を出しました。本学での学びを糧として、李さん同様、種々の困難を抱え困っている子どもたちの支援に奮闘していることだろうと思いました。
(NHKのホーム・ページに番組の簡単な案内が出ています。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/WJYXP8W6P9/

3度目の緊急事態宣言を受けて

本学学生、教職員のみなさん

新学期が始まり、授業も7割を対面で行うこととして、幾分か平常の大学らしくなってきたところで、東京は、また、緊急事態宣言が出されるという感染状況となってしまいました。昨年来、感染防止対策をとる中で、経験的にも学び、学内での感染を防ぐことができていたところではありましたが、今回の緊急事態宣言発出に際しては、本学では、授業実施体制について、1週間休講とした上で、5月6日から5月26日までは遠隔方式で行うことを基本とするという強いとも言える措置をとることにしました。

4月23日に発した大学名でのそうした通知に対して、4月26日には説明の通知を出したところですが、あらためて、私からもこうした措置をとりました理由について説明いたします。

まず、首都圏での感染者数の長期にわたる増加を背景に、さらに急激に感染者が増加する可能性があるということです。そして、この感染の広がりには、これまでのウィルスとは違う変異型ウイルスも入り込んでいるとされており、この変異型ウイルスは、感染性が高く、重症化しやすいとされています。とすると、これまでの感染防止対策(直近の緊急事態宣言に際しての対応)に一層増しての対応が必要と考えました。

さらに、また、本学における学生の感染者は、学内活動への影響こそないものの、この4月、それも4月2週目から特に増加してきており、そして、この現在の都内の感染者の増加の中では、本学学生が感染した場合でも即座に必要な医療的措置を受けられないことも十分に考えられます。この点は、学生を預かる教育機関としては特に重視しました。この他、東京都からの「オンライン活用」の要請(4月12日)も考慮し、7割の授業を対面で行っていたところでしたが、遠隔を基本とすることにいたしました。

また、1週間の臨時休講措置をとりましたが、それは、対面から遠隔への授業実施方法の変更を周知し、遠隔授業に対応してもらうのには、一定の時間が必要と考えたからです。また、遠隔方式の授業実施を、26日までの3週間としたのは、授業の計画的な実施のためには、遠隔による授業を2〜3回分は見込む必要があると思われたこと、また、連休明け後の感染状況を確認し、以降の判断をするまでには、一定の時間が必要で、また、変更するとしても周知するのには一定の時間が必要と考えたからです。

今回の緊急事態宣言は、延長もあり得るのではないかと早くも言われており、先の見通しについては、なんとも予断を許さないところです。が、大学としては、感染状況が収束に向かっていると判断できれば即座に4月当初の状態に復したいと思っています。先にも記しましたように、変異型ウイルスは、感染性が高く、また、重症化しやすいとも言われています。我慢を強いられること早一年ともなり、限界に近付いてきてはいますが、また、もっと何とかならなかったのかという思いもありますが、しかし、ウイルスが相手という点では致し方のないこととも思われます。感染防止に一層留意しながら、一刻も早く平常に戻れるよう、力を合わせていきましょう。

なお、学生のみなさんには、担当の濵田副学長からも授業の他、課外活動、学生生活全般に係るメッセージが届くと思います。それに従った行動をお願いします。

令和3年4月30日
東京学芸大学長  國分 充