維管束が茎器官の丈夫さに貢献することを証明

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今回、本学のFerjani Ali 准教授、産業技術総合研究所の光田展隆副研究部門長、東京大学の塚谷裕一教授、熊本大学の澤進一郎教授、INRAE Lyon の Hamant Olivier 教授らの研究グループは、茎における内部維管束組織の構造上の重要性について研究しました。まず光田副研究部門長らの大規模なスクリーニングの中から、茎に亀裂が生じる系統を新たに見出しました。そしてこの系統について、茎の内部組織の各細胞の形態の詳細な解析に取り組みました。その結果、茎内部における維管束の配置の重要性を新たに明示する証拠を得ました。今回の研究成果は、国際誌 Development 誌 2023年2月7日午前0:00時(グリニッジ標準時)付でオンライン版に掲載されました(Development 150, dev201156. doi:10.1242/dev.201156)。

【研究の背景及び今回の研究成果の概要】

今回の研究成果の土台となっている先行研究(Sakamoto et al., 2018)では、茎が倒れる異常を示すシロイヌナズナ系統(nst1 nst3 変異体)にランダムに転写因子遺伝子を導入し、茎が自立できるように回復する系統を探索する、という大規模スクリーニングが行なわれました。Ferjani 教授らはこのスクリーニングに用いられた系統の中から、茎に亀裂を示す系統がないか探索しました。その結果、転写抑制化ドメイン SRDX を付加した IDD9 遺伝子を、茎内部の繊維細胞に特異的に発現する pNST3:IDD9:SRDX 系統で、茎に亀裂が生じることを発見しました。この系統では、茎は成長当初は野生型系統(標準的な系統)のように伸長しましたが、次第に茎が倒れ始め、同時に茎に亀裂が生じることが分かりました。内部構造の観察の結果、この系統では茎内部の維管束やその周囲に存在する繊維細胞が過度に肥大し、そのため茎の外側に位置する表皮細胞が外側へと押しやられ、横方向に引き伸ばされてました。これらの結果から、茎の内部組織の成長の適切な制御が、茎の構造維持に必要であることが明らかになりました。

また、茎の亀裂部分では、維管束部分は変形しているものの壊れることなく保持されていたことから、茎内部のさまざまな細胞はそれぞれ、力学的ストレスへの耐性が異なると考えられました。そこで遺伝学的に茎内部の維管束の数を増加させてみたところ、一本の茎あたりに生じる亀裂が、多い場合では10箇所以上にも増加しました(pNST3:IDD9:SRDX clv3 系統)。一方で、一つ一つの亀裂は小さくなったことから、維管束の数が増えたことで茎器官における力学的状態に変化が生じたと考えられました。これは、維管束自体は丈夫な構造であるものの、その不適切な配置が起きると、茎器官内において強度の不均質さが増幅され、亀裂の生じやすい弱点となる箇所を生み出すということを示す画期的な発見です。

以上の私たちの研究成果によって、茎が堅固な通道組織としてその機能を発揮するためには、力学的な均衡を保つ成長制御が重要であることが明らかとなり、それに対する維管束組織の貢献も明確になりました。応用的には、丈夫で、かつ機能的な構造物を作るための手がかりとなることが期待されます。

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