学長室だより

「教員不足」ということ

今年、学校を取り巻くことで話題となったことに、教員不足がありました。この問題の解決を図るために、文科省は、「教員採用選考試験の在り方に関する関係協議会」を立ち上げ、議論を重ねています。この教員不足はわが国だけが直面している問題ではなく、欧米も同じような状況にあるということを伝える記事が新聞に出ていました(朝日新聞2022年12月3日朝刊)。記事の中では、フランス、イタリア、ドイツ、アメリカなどのことが書かれていましたが、特に、フランスのことが中心に取り上げられていました。フランスの教員不足は、今年だけの問題ではなく、2019年には、教員不在のため1割の授業が、実施できなかったそうです。今年は新学期が始まって2か月が過ぎた11月の時点で12,000時間の授業が実施されていないと言います。教員不足の原因としてまず挙げられていたのは、低賃金化です。フランスでは、1980年代には最低賃金の約2倍だった教員の初任給が、今では1.1倍しかないと言います。また、やりがいを失って中途退職する教員も多く、自己都合で退職した教員は、10年前と比べて4倍に増えていると言います。そうした背景として取り上げられていたのは、教員の社会的イメージの低下です。OECDが行った調査で、「教職は社会的に高く評価されている」と答えた中学校教員はフランスでは6.6%で、参加48か国の中で下から4番目だったと言います。「教師に対する生徒や保護者の尊敬も薄れてきたと感じる中で、強いストレスから疲労感や虚無感、やりがいの喪失などに襲われ」、中途退職した元教員の「教師を尊敬しなくなるのは社会全体の考えの反映だと思う」という意見が載っていました。

この社会的イメージの低下という問題は、残念ながら、わが国も似たような状況にあると言わざるを得ません。「教育現場の労働環境を改善して教員の社会的イメージを向上させない限り、教員不足の根本的な解決はできない」と言うフランスの教員の労働組合事務局長の意見も載せられていましたが、まったく同感です。

あらためて言うまでもなく、学校教育は、国にとってきわめて重要な事業です。そこで、教員不足というような事態が起きているというのは、由々しき事態です。本学では、すでに教員免許を持っているが、教壇に立つには学び直しが必要と思っている方や、教員免許を取得して教員へ転職したいと思っている方を対象とする「教員・教育支援人材育成リカレント事業」を令和3年度から行っています。これは、教員不足に対応する事業の一環と言えるものです。この他にも、教員不足という状況の改善に資することがあれば、当然協力したいと思っています。本学に事務局がある「日本教育大学協会」は、最初に述べた「教員採用選考試験の在り方に関する関係協議会」の構成メンバーとなっており、本学の理事、副学長が参加しています。

学長室だよりの中でも繰り返し言っておりますが、教員、教育支援者の養成とはやりがいのある仕事です。来年も引き続き我が国を代表する教員養成系大学にふさわしい活動をつづけていきたいと思います。今年もお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。