学長室だより

本の背表紙を見るということ

名著"分裂病と人類"(東京大学出版会、UP選書)の著者、精神医学の泰斗にして翻訳家の中井久夫氏の書棚には、本が背表紙が見えないように裏返しに差さっていると言います。その理由を尋ねられて中井氏は、背表紙が見えるとあの本にはこう書いてあった、この本にはこう書いてあったといろいろ浮かんできてうるさいのでこうしていると答えたと言います。これは、希代の読書家の中井氏にして、初めて言い得る境地だと思いますが、私のようなものでも、書棚の前に立つと、見るともなく、背表紙のタイトルをひと渡り見てしまいますし、大体どんな本があるか、それなりに理解します。書棚の前に立つということは立派な読書経験だと思います。

コロナ禍を契機とした取組として「学芸大デジタル書架ギャラリー」を本学附属図書館で公開しています。これは、本学図書館の中の書架の画像、つまり、背表紙画像を提供するものです。「何のために本の背表紙の画像を?」と思われるかもしれませんが、アンダーコロナで、図書館の書架の前に立って、ざっと本を眺める(ブラウジング)ということが十分にできない現在、それに代わるものを提供しようとするものです。何ということのないもののように思われますが、図書館の機能というものをよくよく理解している人でないと考えつかないものだと思います。本学学術情報課の高橋菜奈子課長の発案によるもので、本学の職員ながら、感心しました。本学のHPのpick upのコーナーからもアクセスすることができますので、是非ご覧下さい。また、デジタル書架ギャラリーのページには、東京学芸大Explayground推進機構とともに開発した「3D書架」もリンクされています。マウス操作だけでも十分に楽しめるものです。こちらもご覧いただければと思います。

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