「チーム学校」時代の教員・教育支援職の養成・研修のための講義支援

教員・教育支援職養成のカリキュラム②教材

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古家 眞

1 はじめに

 本学教育支援系2年生必修の教育支援演習の授業について、学生のリアクションペーパーを読むと、「話し合う中で、いろいろな専攻の人が自分と違う意見を積極的に述べていて勉強になった」「プレゼンを聞いていると、自分が考え付かなかったようなことを発表する人がいて興味深かった」といった省察が多い。このことから分かるように、様々な専攻の学生自身が習得している課程の専門性を発揮しながら意見交換ができる点に授業の価値を見出しているのである。
本稿では、教育支援を大学で学ぶにあたり、学校を外部からどのように支援できるかということについて多様なものの見方・考え方ができる教材とその活用について述べる。

2 多様なアプローチができる教材

 私が授業で活用しているのは、ある地方自治体教育委員会が作成したリーフレット「児童生徒の体力向上推進事業」である。主な取組を3種取り上げており、「簡単に取り組める10数種の運動:短縄跳び、ボール投げ等」「教科体育の授業改善:外部講師による習熟度別指導、少人数指導等」「家庭と連携しながら運動の日常化を図る:業間時を活用した短時間でできる運動事例」を紹介している。
このプロジェクトを教材として活用するために、該当教育委員会の許諾を得てスタートし4年が経過(事業開始は2015年度)しているが、その間教育委員会による評価が行われており、教材として配付している文書にも年度ごとの実施状況が記載されている。その評価内容は、予算措置の状況、児童生徒の体力の変容、児童生徒・教員意識調査等多岐に渡っている。私も新たな評価が加わったリーフレットを毎年度当初に入手し、教材とするとともに、学生には4年間の取組の推移を教育委員会の評価を基にして説明することにしている。
 学生は、配付された資料を読み進めて行くうちに、「もしも私が生徒だったら」とか「運動嫌いな子にこの取組は有効だろうか」といった自身の運動経験や現在の体力の状況をもとにした様々な思考を展開させたり、教育委員会が実施した児童生徒や教員を対象とした意識調査の結果を分析したりして意見を述べている。
 また、全体の約5分の一を占める生涯スポーツ専攻の学生は幼少期より競技スポーツにつながる運動に親しんできているが、それ以外は運動が苦手だったり体力を高めることの必要性を感じて来なかったりしている学生である。そういった学生が生涯学習、多文化共生、情報教育、表現教育等を専攻し、その専門性から考えを拡げ、積極的に意見を述べているのである。
 このように、教育支援演習で準備する教材は学生の思考が画一的なものにならずに、多面的な方向からアプローチできるようなものが望ましいと考える。

3 教材の活用について

 授業開始当初、学生には「この授業を進める際にActive LearningとCritical Thinkingを重視する」と強調している。特にCritical Thinkingについては、上記体力推進事業をただ単に批判するのではなく、「皆さん一人一人が、自分のもっている能力や可能性を発揮し、物事を多面的に見ながら、積極的に学ぼうとしているかが大切です。専攻しているコースの専門性を生かしてください」と伝えている。
具体的には、「このプロジェクトを配付した文書や該当自治体の実施状況をウェブサイト等で調べて、『この取組を実施した際の予想されるつまずきや課題、期待されるよさや可能性』を考え、他者と意見を交換する中で『この取組を成功させる(よりよくする)ために自分(たち)なら何ができるか、他の方法はないか』を考え発表する」という課題を与えている。
 学生は、それぞれが専攻しているコースの専門性を発揮して積極的に意見を述べている。例えば表現教育の学生は、「中学生という発達の段階になると、例示されているような運動では飽きが来るのではないか」と考え、簡易な動きを取り入れたダンスを考案して学習集団内で多くの支持を得た。また、情報教育の学生は、「生徒自身の体力の状況をビッグデータを基にAIに分析させて一人一人の生徒の実態に合った運動メニューを作成できないか」と提案した。
 さらに、興味深い取組としては、該当自治体は生徒への技術的なアドバイスをする中高保健体育科免許所有者をスタッフとして配置しているが、このスタッフへの「児童生徒理解」といった心理面からのアドバイスをする人材が必要と提案する学生がいた。
 このように、多様な思考や実践に対してグループ内で自由な意見交換が行われる。他者からの異なる考えに対して共感し「なるほど」という声が挙がるとは限らない。様々な思考が入り乱れる学習集団は、時に明確な意見の相違も生まれるが、基本的には他者の考えを否定せずに一つの考え方として受け入れながらグループとしてのプレゼンを発表するように助言している。
 最終的には、より効果的な体力向上プロジェクトとして、「運動嫌いな子が楽しく取り組める〇〇」「体型が気になる女子中学生のための〇〇」「自己肯定感が高まる体力向上〇〇」といったテーマのプレゼンが出来上がる。
 時として現在の予算措置状況では実現が難しいアイデアや、より高度なICT技術革新が実現してから達成しそうな提案がされることもあるが、可能性がゼロではない限りプレゼンとして認める範囲は広く設定している。

動画

【学校教育と教育支援】 木原俊行(大阪教育大学)×松田恵示(東京学芸大学)
※平成28年に収録

【チームアプローチ力とは何か】 松田恵示(東京学芸大学)×木原俊行(大阪教育大学)×大澤克美(東京学芸大学)
※平成28年に収録

【チームアプローチ時代の学校教員】 大澤克美(東京学芸大学)×松田恵示(東京学芸大学)
※平成28年に収録

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