学長室だより

「教員不足」問題の本質とこれからの需給推計モデル

1月19日(木)、本学の先端教育人材育成推進機構のシンポジウム"「教員不足」問題の本質とこれからの需給推計モデル"が開催されました。教育委員会の方々をはじめ、約120名ほどのみなさんがオンラインで参加してくれました。

各種報道もなされているように、「教師不足」や、教員採用試験の受験倍率の低下は、教育界で大きな問題となっています。これは、教育政策を担う文部科学省、教員の任命権者である教育委員会、教員養成を実際に行っている課程認定大学、いずれにとっても、きわめて大きな問題です。

本シンポジウムは、この問題に着目して、文部科学省の教員政策の動向、および、教員確保に努力している教育委員会の最新の状況や教員確保施策について理解を深めるとともに、客観的なデータに基づいて、「教師不足」問題の本質や真の要因を分析し、将来的な需給推計のモデルを構築していく第1歩とすることを狙って開催するものです。

文科省の小幡泰弘教育人材政策課長、2つの教育委員会―布施竜一東京都教育庁人事部選考課長と井原敏裕佐賀県教育庁教職員課長―からご報告を頂いた後、本学の佐々木理事・副学長が、本学の教員需給推計についての考え方を説明しました。その中で、2人の本学教員ー平田正吾准教授と山下雅代准教授―から、現在入手可能なデータに基づいた報告がなされました。

平田准教授からは、「教員採用試験受験者(新規学卒)の動向から」という報告がなされ、新卒の小学校免許取得者の受験率は、22歳人口動態との関係で見ると、低下傾向は認められず、一定水準を維持しており、小学校の"教員不足" は、新卒学生が少なくなったことによるのではなく、既卒者の"プール"が枯渇していることによることが示されました。ただ、中高免許取得者の受験率はやや低下傾向にあり、雇用動向(新卒求人倍率)との逆相関関係が示唆されるというものでした。

山下准教授からは、「労働条件の現状把握」という報告があり、教員の若年層離職率は一般企業に比べて低いこと、有給休暇の取得日数は民間に比べて同程度かやや多め、年収は、(5000人以上の事業所の男性との比較で)民間平均を上回ること、一方、1週間当たりの勤務時間は、民間より教員の方が長いというもので、教員は勤務時間こそ長いものの、取り巻く労働条件はブラックばかりではないということの一端が示されました。

われわれが問題にしようとしている教員の需給推計は、我が国の学校教育の未来にとって、きわめて重要なものです。しかし、これまで研究ベースで行われてきたものには、詳細な吟味に耐えるものはなく、これは真に残念な事態とかねてより思っておりました。

本学は、昨年3月に、文部科学大臣から「教員養成フラッグシップ大学」に指定されました。この「教員養成フラッグシップ大学」の役割には、我が国の教員養成を変革していく牽引役となるということがあります。このシンポジウムを開催した先端教育人材育成推進機構は、本学が「教員養成フラッグシップ大学」を推進していくエンジンとして設置したものです。我が国の学校教育の未来にとって、きわめて重要な教員需給の推計は、我が国の「教員養成フラッグシップ大学」が取り組むべき、まさにふさわしい課題であると思っています。われわれこそ、この課題に答えを出すという意気込みで取り組んでいきたいと思っています。さらに、われわれは、今回のシンポジウムを嚆矢として、今後、種々の教育課題に対し、エビデンスに基づく政策提言を行い、フラッグシップ大学として役割を果たしていきたいと思います。ご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。