学長室だより

2023年を終えるにあたって

芸術とは、なかでもクラシック音楽とは、ほとんど無縁というべき当方ですが、唯一、当方にとっては親しみのあるロシアの楽団(サンクトペテルブルグ室内合奏団)のコンサートを新宿のオペラ・ハウスで聞くというのが、毎年の暮れの慣わしとなっていました。しかし、新型コロナ・ウィルス感染症のパンデミックによって楽団の来日が困難になり、さらに、コロナ禍が"明けて"からは、ロシアのウクライナ侵攻によって楽団の来日ができなくなり、当方の年末行事はこのところお預けとなっていました。ですが、同じ興行主からのDMにより、今年はウィーンの室内楽合奏団(ウィーン・アマデウス・ゾリステン)によって同様のコンサートが催されることを知り、聞きに出かけました。

最初の曲は、G線上のアリアでした。演奏への期待で会場が静まる中、曲が始まった時には、しばらくぶりに聞く生の演奏に、感動で心が震えました。このほか、3つのアヴェ・マリア、ヴィヴァルディの四季の冬、モーツァルトのハレルヤなど、この時期にふさわしいポピュラーなクラシックが演奏されました。曲目はサンクトペテルブルグ室内合奏団の時とほとんど同じで、当方にとっては、十分に満足の得られるものでした。

民族や国の異なるだれもが演奏でき、それを聞く人たちもまた同じように感動をおぼえることができるのは、当たり前のことですが、音楽、芸術が、同じ人間による営みだからです。

ペテルブルグの合奏団の来日を不可能にしたロシアのウクライナ侵攻は、もはや2年を越えました。そして、今、イスラエルとハマスの戦闘で、ガザ地区の市民は2か月にわたって追い詰められ、2万人を超える死者を出しています。同じ人間同士――音楽、芸術を解することのできる人間同士――で殺し合っているわけです。戦争の渦中にある人々がいる中で、2023年を終えるのは、まことに残念です。

が、しかし、同じ音楽・芸術に感動する人間であれば、そうした人間同士であれば、お互い理解し合えると考えたいと思います。停戦の望みをもちながら、人間同士必ずわかりあえるという希望をもちながら、新しい年を迎えたいと思います。今年もお世話になりました。よいお年をお迎えください。