「チーム学校」「地域学校協働活動」と教育支援・教育協働に関する理論

福祉教育による教育実践と福祉実践の邂逅をめざして

新崎 国広

1. はじめに― 教育と福祉における問題意識 ―

 近年、不登校・いじめ・いじめによる自死問題・児童生徒による暴力行為など学校教育現場には困難な問題が山積している。困難な問題に対して、マスコミの報道や市民の反応を見ていると、学校や教師の対応のまずさを糾弾し、一方的な非難に終始していることが少なくない。もちろん、学校側や教師の対症療法的に見える対応のまずさは非難されるべきであり、いじめのきっかけをつくった教師の存在は論外である。しかし、まったく自己批判なく外罰的に学校や教師をスケープゴートにして、一方的に非難し問題を安易に外在化するマスコミや社会のあり方は、今の学校におけるいじめの問題の構造と通底する。子どもたちを護り育むのは学校教育だけではない。
 大人社会に視点を移すと、家族や近隣との関係性の希薄化などの個別の課題に加え、雇用情勢の変化にともなう経済的格差の拡大とこれによる不安定な生活環境がある。これに加えて、2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災により、未曾有の被害と多くの犠牲者・行方不明者を出し、財政的にも非常に厳しい状況に陥っている。これらに加え、原発事故による深刻な放射能汚染の問題などにより、国民は現在の生活不安と将来への不安が高まり、国民全体が「生きづらさ」を痛感している状況がある。このような状況の中で、コミュニティ機能の脆弱化や「福祉の外在化(岡村重夫)」や福祉への無関心化が進行しており、社会的孤立による自死や孤立死、児童虐待などの問題が深刻化し、大きな今日的社会問題となっている。
2006 年に改正された教育基本法第 13 条では、「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚すると共に、相互の連携及び協力に努めるものとする」と、学校と家庭・地域の協働の必要性を明文化している。現在の教育現場の逼迫する危機的状況を考えると、「学校と家庭・地域が協働参画による実践活動」を行うことが求められる。
 このような課題の克服をめざすためには、教育と福祉が個々の課題に即時的対症療法的に対応するだけでなく、課題の社会的分析をふまえ、将来の市民である子どもたちの「共に生きる力」を育むための福祉教育・ボランティア学習実践が求められている。本章では、前述のような社会的状況を少しでも改善するために、現在取り組まれている学校と家庭・地域協働による教育と福祉の協働実践事例を紹介する。

2. 福祉教育の史的展開

 岡村重夫(1976)によると、福祉教育は「福祉専門教育」からはじまり、「福祉一般教育」に拡大した1)。「福祉一般教育」とは、一般市民の社会福祉に対する理解を高めるための福祉教育である。諸学校において展開されている「学校を中心とした福祉教育」と、地域の公民館(社会教育機関)・社会福祉市施設(社会福祉機関)や社会福祉協議会などにおいて行われる「地域を基盤とした福祉教育」に区分し整理できる(図表Ⅱ-4-1)。

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 岡村は、福祉教育の目的(福祉教育原理)として①福祉的人間観(社会的・全体的・主体的・現実的存在)の理解と体得、②現行制度の批判的評価、③新しい社会福祉援助方式(対等平等の個人が、全体的な自己実現の機会が提供される地域共同社会の相互援助体系)の発見をあげている3)
 福祉教育は、1970 年代から計画的・意図的に展開された。その背景には、1960 年代後半からの高度経済成長による地域社会や家庭の変化が大きな要因だといわれている4)。東京都社会福祉協議会福祉教育研究委員会(1971)では、福祉教育は、①基本的人権を守り、尊重するための人権感覚および意識の開発、② 現行社会福祉制度の理解および生活者としての知識、経験に基づいての問題、③ 問題解決のための実践意欲の涵養と実践方法の体得、といった 3 つの局面における探究が必要であると見解を示している。
 また、2005 年には全国社会福祉協議会福祉教育推進検討委員会が、「平和と人権を基盤にした市民社会の担い手として、社会福祉について協同で学び合い、地域における共生の文化を創造する総合的な活動」として、「地域福祉を推進するための福祉教育」を提唱し、学校や社会福祉協議会(以下、社協)を中心に福祉教育が展開されている。このように、福祉教育は、単に知識として福祉を学ぶだけではなく、人権意識や共生意識の醸成や、社会的課題に立ち向かう力を育成することで、「人間の尊厳」「コミュニティの中の一員としての責任感や連帯感や問題解決力の育成」「地域における共生の文化を創造」をめざすことが教育目標であるといえる。
 しかし、現在の学校教育における福祉教育実践は、前述の教育目標と乖離している内容も多く見られる。具体的に書くと、現在、学校で行われている福祉教育としては、「障がい・高齢疑似体験」「施設訪問」「手話・点字の技術講習」「障がい当事者の講話」などが、さかんに行われている傾向がある。筆者も関わった滋賀県福祉学習開発研究会が、2006 年に教育委員会の協力を得て滋賀県内の全小中高等学校対象に実施した「学校における福祉教育(福祉活動)の取り組みに関する調査」においても、同様の傾向が見られた5)

 これらの疑似体験は、障がい者や高齢者の生活を理解することなく「障がい」のネガティブな部分だけを取り出し、マイナスのイメージだけを子どもたちに学ばせ、子どもたちに「手助けをしてあげる」という一方的な意識を持たせてしまう危険性がある6)。たとえば、「障がい・高齢疑似体験」や「施設訪問」のみの実施では、子どもたちが「恐かった。不便だ、大変だ、かわいそう」から「私は、障がいがないことを本当に良かったと思いました。これからは、かわいそうな障がい者を見たら助けてあげたいと思います」といった感想を持つことも懸念される。また、「手話・点字の技術講習」においても、手話や点字の技術だけを教え込み、手話コーラスの発表会や自分の名前などを点字で打てるようになるといった技術習得のみで終わっている体験もある。極端な場合は、点字を正しく打つことができるかを試験で評価するケースも散見できる。これらはまさに、当事者不在の実践であるといえる。このような体験学習にとどまる福祉教育は、個人の経験による能力・技術の向上・習得に収斂されがちで、「人間としての尊厳(生命の大切さ、人間尊重)」を基盤とする本来の教育目標の達成に向けた実践と理論化が乏しかったという点が指摘できる。
 聴覚障がいや視覚障がいのある人々とのコミュニケーションの重要な手段としての手話や点字の意義について学習し、実際に障がい者とコミュニケーションしてみてこそ、当事者の視座に立って考え、現状の社会構造の矛盾に気づくといった本来の教育目的が達成する。
 もちろん、体験学習は重要性である。しかし、体験すること自体が目的化し省察を怠ると、「福祉の外在化」や「貧困なる福祉観の再生産」を引き起こす結果にもなりかねない。これでは「共に生きる力」を育むことは不可能である。

1) 岡村重夫(1976)「福祉教育の目的」伊藤隆二・上田 薫・和田重正編『福祉教育 福祉の思想入門講座 3』柏樹社、pp. 14-17
2) 原田正樹(2014)「福祉教育の三領域とは?」『新 福祉教育ハンドブック』全国社会福祉協議会、p. 25
3) 岡村重夫(1976)前掲書、p. 19
4) 原田正樹(2009)『共に生きること 学びあうこと―福祉教育が大切にしてきたメッセージ』大学図書出版、p. 19
5) 滋賀県社会福祉協議会「学校における福祉教育(福祉活動)の取り組みに関する調査」
『福祉学習プログラム開発研究会中間報告』2006 年 3 月、pp. 11-17、pp. 57-95
6) 冨永光昭(2011)「障がいを社会的問題としてとらえよう」『新しい障がい理解教育の創造』福村出版、p. 52

3. 地域で活動する教育支援人材の実際

 本節では筆者が関わっている「地域で活動する教育支援人材の実際」についての一部を紹介する。

(1) 滋賀県における学校と行政・社協・地域・企業の協働実践事例

 「しが学校支援センター(滋賀県教育委員会事務局生涯学習課内)」では、地域の力を学校教育に生かすしくみづくりを整え、社会全体で学校や子どもの体験活動を支援する取組や、地域とともにある学校づくりを推進している。豊富な知識や経験を持つ地域の人々や企業・団体・NPO などが学校を支援するしくみをいっそう活性化させるとともに、県内各学校の校務分掌に位置づけられている「学校と地域を結ぶコーディネート担当者7)」などに対し、生涯学習・社会教育の専門的知識の習得ならびにコーディネート能力の向上を図り、学校と地域を結ぶ指導的役割を担う教員を育成するために「学校と地域を結ぶコーディネート担当者新任研修・実務者研修」を定期的に実施している。本稿ではその活動の一部を紹介する。

(2) 社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカーが教育支援人材として活動する事例

 大阪府吹田市教会福祉協議会では、現在 12 名のコミュニティソーシャルワーカー8)(以下、CSW ではジャンパーを着ている女性)が、セルフネグレクトなどの新たな福祉課題への対応とともに、学校における福祉教育にも積極的に活動を展開している。従来の「車いす擬似体験」といった体験学習だけでなく、子どもたちが福祉に関心を深めることを目的として、社協と地域住民(子ども見守り隊活動者・民生委員など)と小中学校が協働して自分たちの未来のまちづくりについて「吹田のこれからを考える子ども地域懇談会(すいこれカフェ in 小・中学校)」を複数回実施している。本稿ではその活動の一部を紹介する。

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 また、2015 年には「地域福祉を推進する福祉教育」として、地縁型地域福祉活動と志縁型ボランティア活動・NPO 活動が協働し合えるしくみづくりの構築をめざした「ワールド・カフェ方式9)を用いた吹田のこれからを考える住民懇談会(以下、すいこれカフェ 2015)」を開催した。「すいこれカフェ」には、民生委員児童委員、さまざまな分野で活動するボランティア・NPO や社会福祉施設といった多様な人材が、リラックスした雰囲気の中で個々の想いを十分に語り合うことで、①公民協働による合意形成、②新しいアイデアの発見、③「相互の顔の見える関係づくり」による地域福祉活動者の支援ネットワーク形成や新たな地域福祉の担い手づくりに寄与すると考えたからである。「すいこれカフェ 2015」をきっかけに、PTA 協議会と不登校支援に取り組む NPO が協働して不登校予防の取組を行っている。

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(3) 大阪府教育委員会における「地域コーディネーター」の養成と活動事例

 大阪府教育委員会市町村教育室地域教育振興課では、2000 年度から、「地域教育協議会(すこやかネット)」を組織することを柱とした「総合的教育力活性化事業」を展開している。地域教育協議会は、中学校区単位で組織される協議会組織で、学校・家庭・地域の各団体・個人の参加のもと組織されているものである。活動内容は、各校区によってさまざまであるが、基本的には「(学校・家庭・地域の間の)連絡・調整」「地域教育活動の活性化」「学校教育活動への支援・協力」という 3 つの機能を果たすことか期待されている。「総合的教育力活性化事業」と連動する形で、2001 年度から 5 年計画で「地域コーディネーター養成講座」が実施された10)。大阪府教委の地域コーディネーターとは、「地域の子どもは地域で育てる」をモットーに地域社会がいったいとなった教育コミュニティの取組を推進するため学校と地域の「つなぎ役」としての役割を行う教育支援人材である。

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7) 市町立小学校・中学校、県立特別支援学校・中学校・高等学校において、「学校と地域をコーディネートする等」の校務分掌に新たに位置づけられている教員、またはそれに準ずる教員。
8) CSW(地域福祉コーディネーター)とは、制度の狭間や複数の福祉課題を抱えるなど、既存の福祉サービスだけでは対応困難な事案の解決に取り組むソーシャルワーカー。CSW は、要援護者に対する個別支援や住民活動のコーディネートを行う他、既存の福祉サービスだけでは対応しきれない課題に対しても、新たな解決システムの開発により、解決に取り組んでいる。
9) ワールド・カフェでは、リラックスした雰囲気の中、少人数に分けたテーブルで自由な対話を行い、ときどき他のテーブルのメンバーとシャッフルして対話を続けながら、参加する全員の意見や知識を集めることのできる会議手法(グループワーク)。アニータ・ブラウン、デイビッド・アイザックス、香取一昭・川口大輔訳(2007)『ワールド・カフェ
―カフェ的会話が未来を創る―』ヒューマンバリュー出版
10) 渥美公秀・諏訪晃一(2005)平成 16 年度大阪府教育委員会委託研究「教育コミュニティづくりの活性化に関する調査研究」大阪府教育委員会

(4) 宮崎県都城市社会福祉協議会と中学校の協働による取組

 宮崎県都城市社協では、2003 年度に都城市地域福祉計画・地区(中学校区) 活動計画区を策定した。その際、市内 15 中学校区で延べ 75 回の地区策定委員会を開催し、小中学生や教員が策定委員として参加した。まさに学校と地域との協働による地域福祉の推進とした福祉教育実践であった。2008〜2009 年度には、宮崎県社協の福祉教育推進事業の指定を受け、2010 年度からは社協ボランティアセンターを「都城市ボランティア・福祉共育おうえんセンター」と改称し、積極的に学校と地域をつなぐ福祉教育実践に取り組んできた。
 一方、教育サイドの動きとしては 2013 年度から学校を核として地域社会がいったいとなって子どもを育てる「コミュニティ・スクール(学校運営協議会)」を都城市内 54 校に設置した。平成 25 年度文部科学省指定研究推進モデル校の指定を受けた山田中学校では、同年度にネットワークづくりを推進するための基盤として、地域社会がいったいとなって教育活動を支える「学校支援地域本部事業(学校支援ボランティアの会)」を都城市ボランティア・福祉共育おうえんセンターと協働で立ち上げ、学校と地域をつなぐ教育支援人材が活躍している11)。本稿ではその活動の一部を紹介する。

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 都城市における中学校と社協・地域との協働実践のポイントは、学校経営の地域協働化ともいえる「コミュニティ・スクール」と、教育実践の地域協働化といえる「教育コミュニティづくり(学校支援地域本部)」の両方を学校教育に積極的に取り入れている点である。山田中学校では地域の特性を活かしつつ、BRIDGE Ⅰ(さまざまな生き方を学ぶ:擬似体験・施設訪問等)・BRIDGE Ⅱ(よのなか科:地域住民やゲスト講師との交流学習)・BRIDGE Ⅲ(他と共に生きる生き方を学ぶ:生徒・教師・地域住民による演劇創作)といった系統立てたカリキュラムに基づく、明確な教育目標(フォーマルエデュケーション)を持って積極的に学校・家庭・地域の三者による協働を模索している学校教育における福祉教育・ボランティア学習実践であるといえる。また、生徒と学校に関わる地域住民や学校支援ボランティアとの相互交流によるお互いの学びを創造する機能(ノンフォーマルエデュケーション)が強く働いていることがうかがえる。

4. おわりに

 筆者は、学校と家庭・地域協働による教育と福祉の協働実践モデル構築に関する実証的研究(アクション・リサーチ)に取り組んでいる。人間的情緒的相互交流が可能な「地域(コミュニティ)」を創造することによって、社会連帯意識を涵養し、地域の教育力・福祉力を形成することが、教育と福祉における通底する目的である。

 本稿では、筆者が関わっている「地域で活動する教育支援人材の実際」の一部について紹介してきた。子どもたちを護り育むのは学校教育だけではない。子どもたちの成長発達にとっては、家庭教育や地域教育も非常に重要な役割を持つ。教育と福祉の共通理念を明らかにし、教育と福祉が協働して今後の具体的な対応を模索していくことが、福祉教育実践者だけでなく、社会全体の責務である。今後も、教育と福祉の協働モデルの構築をめざした、福祉教育実践のアクションリサーチを行っていきたい。

※本研究は、平成 27 年度文部科学省日本科学研究費助成事業【基盤研究(C)】
(課題番号:15K03914:2015〜2017 年度)研究課題「貧困の連鎖を防止し学習支援に寄与する学校と地域協同による開発的福祉教育実践研究」の成果の一部をまとめた研究である。

11) 玉利勇二(2014)「山田中学校における教育コミュニティづくり」第 20 回日本福祉教育・ボランティア学習学会とうきょう大会、課題別研究実践発表資料より

12) 前掲書。資料提供は、玉利勇二元山田中学校校長

※著作権者の承諾を得て「Ⅱ-4章、松田恵示・大沢克美・加瀬進編『教育支援とチームアプローチ-社会と協働する学校と子ども支援-』、書肆クラルテ、朱鷺書房、2016」から再掲されたものである。